第62話・E&M
クロイツ不憫回です。
まだ、ストーリーは進みません。
09/08…ジナの身長を百二十センチから八十センチに変更
…ジナ=ニーチェの名前がジルになっていたのを修正
霊峰グレイブルーに出発する前日、宿屋の自室前でクロイツに呼び止められ、現在彼の部屋にいる。
そして―――
「アキラ。俺と結婚してくr……下さい」
俺をベッドに座らせ、クロイツは正面で肩膝を着き『指輪』を差し出しながらそう言った。
とうとう来たか……と一発目に思った。
六人目の魔王アスモデウスが討伐された事により、結婚システムが実装された。
そして、実装直後からゲーム内時間1年は結婚がブームとなり、その時にもクロイツに結婚してくれと軽いノリで言われたのだが、躊躇なく断ってやった。
実際、このブームに乗れば俺が「はい」と言ってくれると打算的に思っていたらしい。
何故かと聞き返してきたので「みんながやってるから俺も私も……」というノリが嫌いだと説明した。
だから、「そのうち……ね。今は考えさせて」と言い話しを切った。
で、あれから1年経ちクロイツの中での「そのうち」が来たのだろう。
まぁ……俺としても何時までも断り続ける事は出来ないと思っていた。
と言うより、そろそろ結婚も考えないといけない時期に来ていた。
つまり、八人目の魔王を討伐=時代進行だからだ。
普通の時代進行では、短命種族でも中には世代交代しなくても良い場合があるが、今回は違う。
oβから正式へ移行に限り、全短命種族は世代交代をしなければならない。
短命種族にとって時代進行と世代交代は大きな意味を持つ。
それが『血の記憶』システムだ。
単純に言えばこのシステムは、現行キャラ(と結婚相手)のステータス・スキルの一部と特徴を引き継ぎ、自流派の全てを次代のキャラに引き継ぐ為のシステムという事だ。
結婚相手のステータスやらも引き継ぐのがミソで、プレイヤーとNPCでは引き継げる値が段違いなのだ。
NPC=いないよりマシ程度と言ったところで、中途半端にしか育っていないプレイヤーキャラよりも劣っている。
とどのつまり、短命種族は、長寿種族と違い高ステータスの長期維持が出来ない代わりに結婚と世代交代を繰り返してより優れたキャラを作り上げていくという事だ。
だから、自分は勿論より良い血を持つ結婚相手が必要な訳だ。
という事もあり、他に相手もいない訳だし、クロイツと結婚も吝かではない。
まかり間違ってもNPCと結婚なんて勿体無い事はしないつもりだ。
「はぁ~~。良いよ」
「え?」
「だから、結婚しても良いよ」
何回も言わせんな恥ずかしい。
喜びが隠せないのかクロイツの肩と言わず身体全体がぷるぷる震える。
「よっs…「ただし、結婚式とかやらないからね」…ぁあ、うん」
爆発寸前の喜びは、俺の一言でプシュンと息を潜める。
結婚ブームがあった際、街の教会でひっきりなしで結婚式が行われていた。
ぶっちゃけ、俺にとって結婚とは『血の記憶』に関わる行為の一つに過ぎないので、何であそこまで喜べるのかが分からない。
実際、ゲームシステム的にも『血の記憶』関連に重点が置かれている。
別に結婚したからと言って所有アイテムの共有もないし、夫婦専用スキルもないし、一緒に住まなければならないという事もない。
そういう事は本人達で勝手にやってくれ、だそうだ。
ちなみに、指輪の交換だけで結婚が成立するが、子供キャラを作る為には、一晩を同じベッドで過ごさないといけない。
当然、十八歳以上しかプレイできないこのゲームでは、一晩共に寝た”だけ”では子供キャラは出来ない。
双方、下着姿もしくは裸という条件が付いている。
そして、了承の下に実際にあの行為も出来るのだが、必須ではない。
まぁ、子供キャラに関してはもっと後でも良いだろう。
時代進行直前でも全く問題ない。
時代進行後の子供キャラは、作った時期に関わらず一律十五歳から開始だった筈だ。
「それ……」
「え?」
「だから、結婚するんだよね?
指輪の交換しないと出来ないでしょうが」
「あ、ああ。ごめん」
俺が結婚を了承しただけで満足したらしくクロイツからは気が抜けていた。
クロイツの右手に握られた二つの指輪を俺が指差してやっと気づいた様だ。
ちなみに、E/Oではエンゲージリングとマリッジリングは同じアイテムとして扱われている。
クロイツは、片方の指輪を俺に渡した。
人前でエンゲージリングの交換なんてしてやるものかってんだ。
まずは、クロイツが差し出した俺の左薬指に指輪をはめる。
「私、クロイツ=フェアフィールドは、アキラ=ツキモリを妻とし愛し続けます」
エンゲージリングから一瞬魔方陣が浮かび上がり、クロイツの言葉と共に文字が魔方陣に刻まれ最後の言葉で光と共に指輪に収まる。
続いて、俺は差し出されたクロイツの左薬指に指輪をはめる。
「私、アキラ=ツキモリは、クロイツ=フェアフィールドを夫とし愛し続けます」
エンゲージリングは先ほどと同じ現象が起こる。
指輪の交換と共に先ほどの言葉の交換が必要な訳で、人前なんて到底無理な話だろ?
「「……」」
「これで……これで俺達は夫婦だな」
「さてと……」
クロイツの話も終わった事だし、そろそろ出るか。
俺は腰掛けていたベッドから立ち上がり、クロイツの横を通り出口へ向かう。
「へっ?」
「ん?」
クロイツはこの後一緒に過ごすものだと思っていたのだろうが、俺は無視してドアノブを掴む。
「ちょ、え? これだけ?」
「ん、なに?」
「……」
俺はクロイツの方に視線を移しながら右手を振って部屋を出る。
そして、扉を閉めてから自身のステータス見て、名前が『アキラ=フェアフィールド』に変わっている事を確認する。
そのまま扉に身体を預けながら俺は間違いなく結婚していると実感した。
何時かは周りに気付かれるだろうが、今は黙っておこう。
バレたらアヤカ達が結婚式をしろとか言いかねない。
何故なら、まだ『深緑』の間では、俺達以外に結婚した者がいないからだ。
クロイツも俺と結婚したと言いふらす様な奴ではないし、そこは安心している。
◆◆◆
さて、気持ちを切り替えよう。
ヴィルヘルムさんの話では、霊峰グレイブルーに出現するMobの属性は八属性全てあるらしい。
どれか属性に絞るという訳には行きそうにない。
ただ、若干ではあるが光と闇属性が多いというのだが、はてさてどうするべきか。
俺の手元にある現行レベルで問題のない武器は全部で三本、『神刀・朧月夜』『名刀・桜吹雪・嵐山』『名剣・サン・ヴァンジャンス』
――『神刀・朧月夜』は、光属性の居合刀。
――『名刀・桜吹雪・嵐山』は、無属性の打刀。
――『名剣・サン・ヴァンジャンス』は、闇属性の騎士剣。
持って行くだけなら三本とも可能なのだが、武器切り替えで装備できるのは二本のみ……悩む所だ。
属性武器は、鎌鼬に追加効果として属性が乗る。
火属性なら炎波、水属性なら水刃、風属性なら風刃、雷属性なら雷鞭、地属性なら土槍、光属性なら光波、闇属性なら闇霧とそれぞれ乗る事が分かっている。
ただ、鎌鼬同様素直に真っ直ぐ飛ぶので無属性の鎌鼬よりも分かり易い為、慣れられると簡単に避ける事が出来る欠点があるが、まぁMob相手なら大概問題はないだろう。
実は無属性にも不可視という利点があるのだが、上記の通り属性が乗ると可視となるのが残念なところだ。
まぁ…三本とも持っていくか……。
光属性と闇属性の二本でも十分なのだが、『名刀・桜吹雪・嵐山』は非常に雅で戦っているだけでも非常に気持ち良い。
確かに無属性なのは間違いないのだが、振るう毎に桜吹雪が舞うという特殊効果が付いており、鎌鼬と合わさる事で丸で桜が舞う中で戦っている様に見える。
しかも、桜の花びら一枚毎にエフェクトダメージがあり見た目だけではない。
持って行く事を決め一段落したところで、コンコンと軽く戸を叩く音がした。
聞こえてきたのが扉の下方なので、恐らく扉の前にいるのはジナだろう。
「入って良いよ」
「……失礼、主殿」
扉を開きコボルトの八十センチほどしかない小さな体躯をしたジナが入室する。
チョコチョコと歩くその姿は相変わらず愛らしい。
黒装束を着ていない普段着の今は、特に歩くぬいぐるみに見えて仕方がない。
「どうしたの?」
ジナは当然とばかりに俺の前に立つと背中を向けて、俺の太股の上にチョコンと飛び乗った。
「我、武器新調、望」
俺の太股に座りながら上目遣いで言う。
「つまり、一緒に買い物したいって事?」
「……」
彼女は無言で頷く。
そんな目で見られると断れないな……。
「いいよ」
その言葉を待ってましたとばかり、俺の太股から飛び降り俺の手を引く。
俺は彼女に引っ張られ扉へ向かう。
そして、普通に考えるとどうやっても届く事のないドアノブに向かって、ジナは器用に飛んで回す。
再び、俺の手と繋ぎ外へ出る。
すると、何時からいたのか分からないが扉の前にクロイツがいた。
「あ、アキ「邪魔」……」
クロイツが何かを言いかけたが、ジナの一言で遮断される。
どうも、クロイツを見ていると普段の押しの強さがない。
何時もなら人前であっても隙あらば「結婚しよう」なんて言っていたにも関わらずだ。
先ほども強引に引き止めれば考えない事もなかった。
ま、過ぎた事はどうでもいい。
今はジナと買い物だ。
とはいえ、ここフィラシェット大陸ではジナの扱う武器はほとんど売られていないだろう。
何を新調するのだろうか。
「遊人、露店、有」
俺の疑問を察してか彼女は、イスカ王国の行商人プレイヤーが来ている事を告げる。
恐らくは、魔王討伐に来ている俺らレイドメンバーを対象とした露店なんだろう。
そういった行商人プレイヤーやフィラシェットの商人プレイヤーが最近多くなってきていたのは実感している。
ただ、今までイスカ王国のアイテムを扱った店はなかった。
ん?待てよ……となると、もしかしたら居合刀などを扱っている可能性もあるという事だな。
「よし、行こ!」
「?」
◆◆◆
なかなかの品揃えだった。
結構そそられるラインナップだったのだが、俺には少々物足りないものばかりだった。
いや、良いのは確かなのだが、俺の持っている三本の刀剣に後一歩足らなかったので残念だ。
ただ、俺の知らない『桜吹雪』シリーズがあったのは、本当に良かったと思っている。
物足りない・残念と言いながら俺はちゃっかりそれを買っていたりするけどね。
フブキ=サクラの作る『桜吹雪』シリーズは、俺のお気に入りと言っても過言ではない。
彼女の初期作品『名刀・桜吹雪』を始め『嵐山』と今回のを含めて計五本ほどある。
現在に至るまで彼女は、計九種類の『桜吹雪』を打っているが、かなり評判がよくまだ全種類集め切れていない。
ちなみに『名刀・桜吹雪・嵐山』は、彼女の最高傑作で世界に一本しか存在しない。
これを手に入れた時は、俺は拝み倒した上で今まで稼いだ金のほぼ八割を使い売らないと言った彼女から強引に買ったものだ。
マイホームが六軒ほど豪邸も一軒ぐらい余裕で買える金額であるが、彼女のファンと言っても差し付けない俺は満足している。
ジナの方は、『名刀・闇払』『名刀・闇牢』と言う光属性と闇属性の忍者刀を購入していた。
俺はあまり聞いた事のないプレイヤーの作品だった。
ジナも知っている程度らしくファンでも何でもないらしい。
しかし、良い物は造った者が誰であろうと拘らないとの事だ。
まぁ、俺もそれには同意する。
彼女が言うには、その二本は特殊な効果があまりないが属性効果が高く弱点属性を突いた際の効果が非常に高いとの事だ。
まぁ、武器自体はどれも変わらないのでエフェクトのダメージ量が高いのだろう。
俺とジナは各々買った武器を愛でる為、それぞれの自室へ向かい分かれた。
やっぱりと言うか何と言うか自室の前にクロイツがまだいたが、俺は『桜吹雪』で忙しいので気付かないフリをして部屋に入った。
クロイツは何かを言おうとしたが気にしない。
《Name》神刀・朧月夜
《User》アキラ=フェアフィールド
《Rank》Rare
《Level》応用剣術Lv15
《Base》居合刀
《Effect》抜刀術攻撃速度+150%、抜刀術攻撃力+50%、光属性付与
《Detail》プレイヤーであるカゲマル=オボロ(朧影丸)の傑作。
『朧月』シリーズの一振で光属性の居合刀。
抜刀術を使うと闇に溶け込むように刀身が見えなくなるという特殊効果がある。また、消えている状態で攻撃が当たると攻撃力が増す効果もある。
《Name》名刀・桜吹雪・嵐山
《User》アキラ=フェアフィールド
《Rank》Rare
《Level》応用剣術Lv13
《Base》打刀
《Effect》抜刀術攻撃速度+130%、エフェクトダメージ有り(花弁一枚に付き武器攻撃力の5%)、魅力+50%
《Detail》プレイヤーであるフブキ=サクラの最高傑作。
フブキ=サクラが手掛ける『桜吹雪』シリーズ最後の作品。
ランクはRareであるが、効果はUnique級・Epic級にも劣らない。
刀身が桃色に淡く光を放ち、振るうと桜が舞い散る。
見た目が非常に雅であるが、桜の花弁一枚一枚にエフェクトダメージがある為、非常に恐ろしいダメージを叩き出す。
しかも、相手の防御力を無視し尚且つ無属性である為、属性防御も利かない。
《Name》名剣・サン・ヴァンジャンス
《User》アキラ=フェアフィールド
《Rank》Unique
《Level》応用剣術Lv16
《Base》騎士剣
《Effect》闇属性付与、エフェクトダメージあり、対人防御力無視、出血確率+30%、大出血確率+10%、魅力-100%
《Detail》対人に特化した闇属性の騎士剣。
余りにも禍々しい見た目故、装備者の魅力が0となる。
ただし、呪いの類や装備者が暴走する様な事がない為、使い勝手はかなり良い。
エフェクトにも出血などの状態異常が乗る為、かなり強力と言える。
第三回闘技会の個人戦優勝賞品。




