第61話・3rdプロローグ
09/07…『剣修練Lv100』⇒『応用剣術Lv18』に変更
『看破Lv43』⇒『看破Lv11』に変更
「出直して来い!ニンゲン」
魔人ラ-ス―――八人目最後の魔王であるサタンの腹心。
三つのフルパーティで構成されたレイドで挑むも、HPゲージを八分の一まで削った所で、唐突の禁呪発動により前衛が壊滅する。
そして、彼のこの一言で半ば強制的に戦闘が終了した。
◆◆◆
六人目の魔王レヴィアタン、七人目の魔王アスモデウスと立て続けに討伐し、プレイヤーの間で調子付いていた。
魔王は討伐されると次の魔王が強化される仕組みと判明していた為、今回のレイドメンバーは、レベル100付近を中心に構成されていた。
中には、短命種族のみ可能な限界突破を果たしたプレイヤーも何人か含まれていたにも関わらず敗北したと言う訳だ。
戦闘不能は死に戻り、生存者は退却し、討伐組の拠点であるフィラシェット王国王都シドレードに戻ってきていた。
今回の敗北の原因と今後の活動をどうするのかを議題に反省会をしていたのだが、俺を含み皆の士気はないに等しく大した議論もなく解散する。
まぁ、当然だ。
俺達は魔王サタンならまだしも腹心のラースに敗北したのだ。
特に壊滅した前衛組の士気は、反省会に参加しない者までいた程低下していた。
「まぁ、仕方ないわね。じゃ、パーティ解散するわよ」
パーティを組んでいたプレイヤーの上部にHPゲージが可視化されていたのが、解散した事により消滅する。
『深緑』は、メンバー全員が参加したとしてもフルパーティには届かない為、他クランから余剰メンバーを借りていた形だ。
「おつかれー」
「乙でーす」
「次は頑張ろう!」
各々励ましあいながら自分達のクランに戻っていった。
まぁ、それはさておき本来なら役割毎にパーティ分けをするのがベストなのだが、今回のレイドメンバーというかクラン間にそこまでの親交はない。
魔王サタン討伐の為に結成された急造のレイドだからだ。
多分、今回の敗北の原因が人数不足以外にあったとするならば、その辺が原因なのだろうと思う。
意思疎通・連携などが機能していたとは言い難い。
いや、指揮系統が統一されていなかったと言った方が適切だろうか。
確かレヴィアタンを倒したのは、通称”ガチムチ連合”と呼ばれる『脳筋傭兵団』を中心とした急造ではないレイドだと聞いている。
アスモデウスを倒したのも、どこかの騎士団を中心とした騎士だけで構成されたレイドだった筈だ。
で、今回はフィラシェット王国で活動している『神盾騎士団』がレイド相手を呼び掛け、ロードグリアードの『龍咆傭兵団』、サウスアルカディアの『深緑の傭兵団』が応えた形となる。
サウスアルカディア王国を拠点にする俺達『深緑』が遠方の地であるフィラシェット大陸で活動するのは不自然ではあるが、王都アルカードにはフィラシェット王国へ向かう飛行船の直通便がある。
運賃は高いが傭兵には端金なので乗れば数日で着く。
そして、ロードグリアードにも飛行船の発着場があるので『龍咆』も同じだろう。
しかし、今回の事でこの三つのクランのみで勝てないという事が分かった。
いや、三つのパーティでは……と言うべきだろうか。
勿論、参加クラン・プレイヤーを募集も必要だろうけど、『神盾』と『龍咆』の余剰メンバーから新たにパーティを作る必要があるかも知れない。
余剰メンバーなので、三つのパーティに比べて戦力は落ちるだろうが仕方ない。
「じゃ、私達も戻りましょうか」
「ん」
俺達『深緑』は、フィラシェット王国滞在時の拠点となっている宿屋兼酒場『海犬亭』へ向かう。
『深緑』は、クラン戦後に加わったメンバー以降一人も増えていない状態だ。
クラン戦で一時的に話題に上がっただけで所詮は、零細弱小クラン、目立った活動をしていないので当然と言える。
ぶっちゃけ、今時一つのパーティをフルメンバーに出来ないクランは珍しいのかも知れない。
まぁ、その分メンバーの平均レベルは高く、意思の疎通もアイコンタクトで出来るまでになっている。
全部が全部アイコンタクトで済ますつもりはないが、大体のやりたい事が分かるというのはプレイしやすいものだ。
◆◆◆
『海犬亭』に戻ると酒場で二つの卓を独占し、今後どういう方針で行くかを決める事になった。
当然、魔王サタンに再挑戦は当たり前として今の議題は『深緑』の方針だ。
新たに加わったメンバーとも大分親しくなり、初期メンバーとほぼ変わらないほど遠慮なく何でも言い合える仲になっているだ。
現在も色々な案が出ており、これはそう簡単に話が纏まりそうにない。
さて、クラン戦後から現在まで俺自身は大分成長した。
◆種族スキル⇒『ヒューマLv108』
◆血族スキル⇒『成長+』『限定解除』『封神具修練』『封神具召喚(瞬時)』『アームズ適性+』
◆才能スキル⇒『剣術の才能』『限界突破』
◆属性スキル⇒『無Lv1』『火Lv35』『水Lv1』『風Lv1』『雷Lv1』『地Lv1』『光Lv44』『闇Lv1』
◆流派スキル⇒『月守夢想流居合剣術Lv45』《縮地法Lv8》《鎌鼬Lv10(MAX)》
⇒『富田流徒手空拳術Lv12』《白刃取りLv1》《後の先Lv2》
◆ノーマルスキル⇒『応用剣術Lv18』『構え直しLv78』『回避Lv98』『受け流しLv82』『武器防御Lv38』
『看破Lv11』『気配遮断Lv82』『軽鎧修練Lv91』『神術』『格闘Lv42』//『魔術Lv42』『サバイバルLv44』
まぁ、それは当然でゲーム内時間がoβから数えて約3年経っている。
そして、短命種族特有の成長の早さとオラクルクエストのお陰もあるだろう。
才能スキルに追加されている『限界突破』は、短命種族かつ種族スキルがLv100になった時に受ける事が出来るクエストをクリアすると習得出来る。
つまり、キャラの成長限界を100から120にしてくれるスキルだ。
ちなみに、カンストしてもスキルレベルの表向きの合計値(歴代)だけ種族スキルレベルに影響している為、スキルの成長・交換・削除・昇華などを自由に出来る。
限界があるのは、スキルで上がったステータスだけだ。
大きく変わったのは流派スキルだろう。
『秋月夢想流居合剣術』『アルカディア皇国剣術』の両流派がなくなり、『月守夢想流居合剣術』と『富田流徒手空拳術』が追加された。
旧二流派がMAXまで成長したので、自流派を創設し『月守夢想流居合剣術』となった。
余った一枠は、イスカ王国で『富田流徒手空拳術』を教わった感じだ。
この流派は、対武器装備者に特化している上に待ちが基本となる特殊なノーマル流派だ。
上記の事もあり使い難いので、ノーマル流派の癖して習得者がほとんどいない。
ぶっちゃけ、自流派を創設出来たので残り一枠は何でも良かった。
ノーマルスキルだが、熟練度がかなり高くなっている以外ラインナップにはほとんど変わりはない。
新たに加わったのは『応用剣術』と『看破』だ。
『応用剣術』は、単純に『剣修練』の上位互換で、上がりづらい分ステータス上昇値が非常に高い。
『看破』は、『気配察知』の上位互換で気配を察知するだけでなく、ステルス状態や暗闇同化なども無効化できる優れたスキルだ。
ただし、気配察知という面での変化はない。
そして、当初幼さが残っていたアキラの容姿も残念ながら大分大人びた姿となってしまった。
それに合わせて服装や装備も変えている。
十九歳や二十歳になろうかというキャラにギャルゲーに出て来そうな制服もどきを着せたくはない。
で、着物あたりを着せようかとイスカ王国に行くと、運悪く”ヤツ(・・)……そう、ユーゴ=アップル”に出会ってしまった。
コスト・性能的にヤツに任せるのは吝かではないが、ヤツ特有のアレンジが加えられるのは避けようがなかった。
まぁ、モデルという名のオモチャになるという条件で、何とか制服もどきは回避でき着物もどきにして貰える事にはなった。
最近は気分次第で色々試しているが、現在の髪型は着物に合いそうなポニーテイルとなっている。
武器の方も現在のレベルに相応した物を選んでいる。
『封神具』の方は、全ての属性を計八本入手している状態だ。
八本目を入手したと同時に『封神具召喚』が『封神具召喚(瞬時)』に変化した。
これは、脳内でイメージするだけで最終形態で『封神具』が手元に現れる(もしくは交換・格納出来る)というスキルだ。
もちろん、最終形態が使えない場面では、その環境にあった形態で召喚されるが、瞬時というのは結構役に立つ。
さて、俺自身の事はこんなものだろう。
「やはり、メンバーを増やした方が良いのでは?」
俺が考え込んでいる間には様々な意見が出ていた。
話の流れから察するとメンバーというのは、レイドメンバーではなくてクランメンバーの方だろうな。
「それは無理だろう。今から私達と同レベルに動ける者などいるとは思えない」
キャラレベルやプレイヤースキルの事ではないと思う。
先ほども言ったが俺達はアイコンタクトで意思疎通できるほどにまでなっている。
しかし、今から入ったプレイヤーがアイコンタクトだけで動けるとは到底思えない。
「じゃぁ、どうする?」
「……」
「ん」
会話が一瞬止まり意見も出尽くした感があった。
考え事で一言も意見を言っていなかったので俺の考えを話そうと手を挙げる。
「アキラ?」
「個人の能力を強化した方が良いと思う。量では他のクランに劣るから質で何とかするしかない」
「それもそうね」
「うむ」
「……となりますと、狩場は限定されますね」
俺を含む短命種族プレイヤーは、『限界突破』によりレベルが100を超えている。
アヤカ達長寿種族プレイヤーは、短命種族よりも成長が遅い為、大体レベル80後半ぐらいだ。
長寿種族の中でも廃人と称されるプレイヤー達は、大体レベル95前後なので、低いレベルという訳でもない。
とまぁ、結構なレベルまで上がっているので、適正レベル帯のダンジョンやフィールドが限定されてしまう訳だ。
「ヴィルヘルムさん的にお勧めの狩場はある?」
ただ、ヴィルヘルムさんが把握しているダンジョンの中には俺達の知らない所も多々ある。
彼の知識量は、三年前もおかしい量であったが現在の知識量も相当なものだ。
で、その全てがスキルに縛られないリアルの知識だという事で記憶量に限りがない。
弱小クランにも関わらず『深緑』は、ヴィルヘルムさんの知識や助言のお陰で効率よく狩場の選択を出来ている。
それだけでなく、ほぼ全てのMobの生息地域・特性・行動パターンや弱点なども完璧に暗記しており、非戦闘員ながら戦闘の要に成りつつある。
つまり、司令塔だ。
しかし、今回の魔王討伐ではヴィルヘルムさんは戦力外で戦闘には参加していない。
親交が深くはない他クランが、非戦闘員をパーティに加えるのを良しとする筈がない。
今回は、他のクランに遠慮していたがヴィルヘルムさんの参加を推した方が良いのかも知れないと今更ながら思う。
「そうですね。
限界突破組は、霊峰グレイブルー。
それ以外の者は、タスマンドラ原生林辺りでしょうか」
ヴィルヘルムさんは、少しの間考えた後、聞いた事のない地名を言った。
霊峰グレイブルーというのは、大体予想が出来る。
霊峰・霊山・神域など名の付く場所は、限界突破者用に用意されたダンジョンで各地に点在している。
簡単に説明しているが、はっきり言って無茶苦茶危険な場所だ。
霊山には大体二つのルートが用意され、頂上方面が限界突破クエストのルートでもう一方が限界突破者のルートだ。
限界突破者用ルートなんて分岐点の入り口付近にいるMobですら、すでにレベル100前後と云われている。
ただ、場所によって少しだけ特性が違う為、フィラシェットの霊山はどういった所だろうか。
「タスマンドラ原生林?」
もう一方は、俺だけでなく皆も知らなかった様でアヤカが代表で聞き返した。
まぁ、原生林っていうぐらいだからジャングルみたいな所かな?
「独自の生態系を持ったMobが、多く生息する樹海といった感じでしょうか?」
「どういう独自なの?」
「タスマンドラ原生林には、二十メートルから三十メートルの巨木が生い茂っています。
ですので、滅多に日光が地面に届かないらしいです。
昼は薄暗く夜は月明かりさえ届かない暗闇らしく、生息するほとんどのMobの視覚が退化しているらしいですよ」
「それだけ聞くと大した事がないように思えるけど?」
俺も同意見だ。
二十メートルから三十メートルの巨木程度なら他の地域にもある。
薄暗いと言っても程度はあるが、視覚が退化しているというのは珍しいな。
「滅相もない。
視覚に頼らないという事は、それ以外の感覚がより発達しているという事ですよ?
E/O的に言えば、プレイヤーの気配察知や気配遮断は役に立たない可能性がある上に、Mobは心眼や第六感の様なスキルを持っているという事です。
それに奥地には、瘴気の溜り場があるらしく、BOSS級のMobもいるかも知れませんよ」
「まぁ、仮にタスマンドラ原生林に行くとして、前もって受けておくべきクエストとかあるの?」
通称、隠しダンジョンと呼ばれている所は、何かしらの前提条件を満たさなければならない。
ほとんどの場合、前提クエストが用意されている。
「私の知る限りはありませんね。
人里離れた場所なので、NPCの噂にも挙がって来ていないですし……」
何かしらの情報を持っているNPCは、キーワードとなる単語を聞くとそれに対応した情報をくれる場合がある。
その情報を持っていなかった場合、何の反応も返ってこない。
つまり、ヴィルヘルムさんは、NPCに『タスマンドラ原生林』というキーワードを尋ねたのだろう。
しかも、一人二人程度ではない結構な人数に……。
「ん??
じゃ、ヴェルヘルムは、どうやって知ったんだ?」
誰しも思った疑問で、代表してエミリアさんが聞く。
というか、何故右手にワインボトルが握られている!?
「古い文献ですよ。
今日、皆さんがサタン討伐に行っている間、王立図書館で読みましてね……」
「結局、腹心にも勝てなかったけどなぁ~。んぐんぐ、ぷっは」
E/Oにある全ての書物には、ちゃんと内容があるらしい。
NPCの日記だろうが帳簿だろうが何から何まで作り込まれている。
魔術書なども必要な所はごく一部だが、実はよく読めば起源だったり詠唱文の意味合いなどが書かれている様だ。
やりすぎ感が否めないが、そういう物が好きなマニアもいる。
情報屋の情報元にもなっているらしいので、不必要という訳でもないだろう。
ちなみに、エミリアさんは『深緑』で唯一全滅した前衛の中に含まれていた。
その所為もあっての自棄酒なのだろうな。
「じゃあ、私達長寿組はタスマンドラ原生林、アキラ達短命組は霊峰グレイブルーで良いわね」
『了解』
「んぐっ…ぷっはっ。りょ~か~い」
※フルパーティ=20名
※フルレイド=10パーティ
※本編では、ステータス表記していませんが、実際にはあります。
上昇したスキルによって増加するステータスが異なります。
※上位互換のスキルは一律レベル30がMAX。下位スキルがLv100が習得条件で上位スキルLv1=下位スキルLv100は同じ意味となる。
現『深緑の傭兵団』構成メンバー
《アヤカ=ツキカゲ》♀ ⇒ クランマスター、第一期、ハイエルフ(長寿)
《ヘンリック=アイスラー》♂ ⇒ サブクランマスター、第一期、ハイエルフ(長寿)
《ヴィルヘルム=トーラス》♂ ⇒ サブクランマスター、第三期、ハイエルフ(長寿)
《エミリア=フェルト》♀ ⇒ 第一期、ハイエルフ(長寿)
《アイリス=ブルクハルト》♀ ⇒ 第一期、ハイエルフ(長寿)
《エレナ=ヒューミル》♀ ⇒ 第一期、ハイエルフ(長寿)
《アレキサンダー=アームストロング》♂ ⇒ 第一期、ハーフリング(長寿)
《アキラ=ツキモリ》♀ ⇒ 第二期、ヒューマ(短命)
《クロイツ=フェアフィールド》♂ ⇒ 第二期、ヒューマ(短命)
《ジナ=ニーチェ》♀⇒第三期、コボルト(短命)
《ベアトリス=ブラッドショー》♀ ⇒ 第三期、ヴァンパイア(長寿)
《モニカ=ノルシュトレーム》♀ ⇒ 第三期、アマゾネス(短命)
《マティアス=ノルシュトレーム》♂ ⇒ 第三期、アキレウス(短命)




