第60話・2ndエピローグ
クラン戦ヴィーナス介入事件(仮称)の話題が冷めぬまま、ゲーム内時間僅か二日ほどで新たな話題が上る。
それは五番目となる魔王討伐の話題だ。
強欲の魔王『マモン』の討伐により、とうとうPKを含んだ犯罪行為と賞金首制度が解禁されたのだ。
今まで燻っていたPK予備軍達が一斉にPKを開始し、一時期街・フィールド問わずPKが横行しカオス状態だった。
中には名も無き町のPC・NPCを全員殺して無人にまでしたPKクランも存在している。
百ちゃんねるでも成りを潜めていたクランメンバー募集板が一時期PKクランに埋まっていたほどだ。
日本だけこれだけのクランがあるのだから世界だとどのぐらいのPKクランがあるのだろうと戦慄した。
まぁ、PKクランに混じって盗み専門クランや海賊・山賊クランもあったが少数派だった。
とはいえ、何もマイナス要素だけ追加された訳ではない。
マイクエスト……いわば、プレイヤーがクエスト(依頼)を出せるようになるシステムと経済の追加だ。
今までNPCにいくらアイテムを売ろうと買値や売値の変動がなかったが、今回の解禁でNPCが所有出来る在庫数の上限や所持金などが追加され売買を拒否する様になった。
また、同アイテムでも地域・国が変われば価値が変わるなど交易が追加された。
これにより商人クランや行商人プレイヤーが一層活性化する。
今まで行商人プレイをしていたプレイヤーは、漸く自己満足から商売にシフトする事が出来たのだから喜んでいた。
しかし、ここで行商の障害となるのが犯罪者クランの存在だ。
実際、NPCの商隊が盗賊プレイのクランにより襲われたと聞いている。
とはいえ、これにも対抗手段が用意されている。
それが、まぉ……マイクエストな訳だ。
例えば、商人プレイヤーが商隊護衛のマイクエストを出し、傭兵プレイヤーが応募するという形だな。
これがなかなか緊張感があって楽しい。
実際、俺達『深緑の傭兵団』は、商人クランが出したクエストを受け隣国であるノースアルカディア王国へ来ている訳で、これからカルディアとロードグリアード・ゴリアテを経由しイスカ王国へ行く予定だ。
イスカ王国は、日本をベースに設定された国家なので美味しい日本料理がある事を願っている。
というか、想像しただけで涎が出そうだ。
「アキラちゃん、ヨダレ垂れてるわよ?」
「え!?」
失敬。
実際、出てしまっていた様だ。
俺は、右腕で涎を拭き取った。
「一応、クエストなんだからしっかりしてよね」
「はいはい」
現在、俺とアヤカとエレナさんを含む5人は、休憩中で荷馬車に揺られながら次の目的地へ向かっている最中だ。
実は、あのクラン戦後に新たなクランメンバーが増えていたりする。
クラン戦の動画が公式や動画投稿サイトに挙がっており、それを見た何人かが加入した。
それはクラン戦から五日後の話だ。
「其、有」
「うぇ!?」
片言で訳の分からない反応をしているのが新人のジナ=ニーチェさんだ。
黒装束を纏ったコボルトの女性で忍者プレイに徹している。
実際の容姿は見た事がないので割愛する。
どうも、クラン戦での俺の戦い方を見て惚れたらしい。
あくまでも戦い方であって俺に惚れた訳ではない様だ。
それに俺を呼ぶ時は「主殿」と呼ぶ。
何故その呼び方なのか聞いたら「忠義、成」と言っていた。
……つまり、慕ってるって事で良いのかな?
ちなみに、彼女は俺の膝の上に座っている。
軽いから問題ないのだけど少し恥ずかしい。
というか、忠義と良いながら膝の上に乗るってどういう事よ?
まぁ、良いけどさ。
で、戦い方は正に忍者だなのだが、正統派ではなく欧米的解釈がされたアクロバティック忍者だ。
ただし、ちみっこいので必死に動いている姿が非常に愛らしく、動きに合わせて揺れる尻尾がそれを際立たせている。
残る同乗人なのだが実は、ヴィルヘルムさんだったりする。
護衛クエストをすると決まった後、どこのクランにも所属していなかったヴィルヘルムさんを誘った。
はじめはやんわりと断られたのだけど、何回か会っている内に自然と入団した感じだ。
ただし、非戦闘員としての参加で、俺達のクランに入る為にわざわざ傭兵になった。
実際、セラフィムとしてのスキル以外は、戦闘向きのスキルが一切ない様だ。
あと、エルフの場合、自動的に習得しているスキルが何個かあるだけだ。
戦闘スキルはないが趣味として生産スキル『調剤』と『書写』を習得している。
ヴィルヘルムさん曰く、リアルで出来ない普通の生活をE/Oで楽しんでいるらしい。
つまり、仕事が忙しくて普通の生活をしていないのか、自由に身動き出来ない何らかの障害を負っているのか。
恐らくは……後者だろう。
HMDは元々医療用に開発されていた経緯があるだけに、あながち間違いではないと思っている。
情報屋プレイ以外で一般人として遊んでいる人は、結構いたりするのだろうか。
それはさておき、ヴィルヘルムさんの知識量が半端なく凄い領域だ。
E/O内は勿論リアルの知識も凄まじく、まるで歩く百科事典だ。
暇さえあれば本を読んでいる所を見ると大袈裟でも何でもないと思える。
しばらく、進んでいるとガタッと荷馬車が止まった。
盗賊の襲撃……ではなく、小休憩および護衛役の交代だろう。
案の定、クロイツが後方に顔を出し、「交代だ」と告げた。
ヴィルヘルムさんを除いた四人が外に出て、護衛役から4人交代で荷馬車へ入る。
その内の一人にこれまた新人がいる。
ベアトリス=ブラッドショー、真っ黒なゴスロリ服を纏ったヴァンパイアの女性だ。
昼はステータス低下が激しいらしいが、人手不足の『深緑』では関係なく働いて貰っている。
実際に昼ごろの彼女は、あまり動かなくて済む銃を日傘に仕込み使っている。
逆に夜になると昼間の彼女からは想像できないほど活発になり、残る新人二人分の働きをしてくれる。
夜は、銃から両手斧の二刀流へ武器をチェンジし、別ゲーかと思うほどの動きをしていた。
ちなみに、彼女は誰かに憧れて入団した訳ではなく、ソロでの活動に限界を感じたらしい。
そして、大手に入って有象無象になるぐらいならと少人数の『深緑』を選んだようだ。
「はぁ~、やっっとですわ」
非常に気だるそうに荷馬車へ入っていく。
「早く入らんか!ビーツー」
「うっさいジジイですわね」
エーツーさんと背丈がほとんど同じ事やイニシャルが二人とも同じ文字の連続である為か非常に仲が悪い。
それなのに、二人は何故か隣もしくは向かい合わせで席に着くという何とも微笑ましい光景が見える。
「はいはい。喧嘩はもうエエから早く入ってぇな」
アイリスさんの仲裁が入った為、エーツーさんは黙って荷馬車へ入る。
席に着くなりまたビーツーさんと口喧嘩を始めるが聞き流す。
商人クランの面々は、適当に休憩しながら荷馬車の積荷チェックを行っている。
そして、俺達が寝泊りする荷馬車の近くには、新人二人を含む残るメンバーがいた。
つまり、三交代制(一組休憩・二組護衛)で商隊を護衛している形となる。
さて、残る二人の新人は、彼らの設定上双子となっている。
最初E/Oを始める際、苗字を揃えて開始したというだけで、システム上血縁関係はない。
モニカ=ノルシュトレームさんがアマゾネスで、マティアス=ノルシュトレームさんがアキレウスだ。
種族設定が戦闘のエキスパートなのだが、別にプレイヤーがそれに従わないといけないという事はない。
しかし、この二人は間違いなく戦闘狂だ。
現在、小休憩にも関わらず素振りなどをして暇を潰している。
でだ。素振りではスキルの上昇はないという事を考えれば彼らの戦闘狂いにも頷けるだろう。
「「うっす。姐さん、お疲れ様です」」
お前らの方がお疲れだよね?……と口には出さないでおこう。
「だから、姐さんって呼ばないでって言ってるでしょ?」
どうも、アヤカはクランマスターという事もあり、二人からそう呼ばれている様だ。
色黒かつ長身で眼光の鋭い二人が頭を下げていきなり挨拶するものだから、最初の頃すごく嫌がっていた。
というより、怖かった様だが、これはそういう事なのだと半ば諦め気味に理解し、最近は気にも止めていない。
ジナが俺の事を「主殿」と呼ぶのと同じ事なんだろう。
◆◆◆
小休憩も終わりいざ出発という時、ジナが複数の敵対する気配を察知した。
気配察知は、現状一番高いジナに任せており、こういう情報は彼女から報告される事になっている。
というより、彼女のスキルは気配察知の上位互換スキル『看破』なので高レベルの『気配遮断』だろうがお構いなしなのだ。
「人数は?」
「敵性、二十」
「結構、多いわね。申し訳ないけどアキラ、休憩組を呼んできて貰える?」
「了解だ」
俺は荷馬車後方へ向かう。
そして、幕を少し開け中のメンバーへ声を掛ける。
「敵さんのお出ましだ」
「「「了解」」」
「ええ~!?……(折角、休めると思ったのに)……ですわ」
ベアトリスさんは露骨に嫌そうな反応と表情をするが、手は日傘のトリガーに指を掛けていた。
彼らが席を立ったのを確認した後、俺はアヤカの下へ戻った。
アヤカはヘンリックさんと作戦を考えていた様だが、全員が集まっているのを確認すると前を向いた。
「作戦はいつも通りよ。
アキラとクロイツくんとジナちゃんが撹乱、モニカさんとマティアスくんはインターセプト、私とアイリスさんが援護、残りのメンバーが荷馬車の防衛よ」
「「了解」」
中には「応」や「了解しました。姐さん」やら変なのが混じっていたが……、 アヤカとヴィルヘルムさんを除いた十一人が了解の返事をする。
さて、撹乱の為に俺達三人は、野営地を出る。
というか、何故盗賊共が休憩中に襲って来なかったかと言うと、野営地では宿屋の中同様で戦闘行為が出来ない為だ。
だから、奴等は商隊が野営地を出たタイミングで襲う予定だった。
しかし、ジナが反応してしまった為、奇襲は失敗した事になる。
「さて、行こうか」
「滅」
「分かった」
盗賊どもが潜伏している森へ俺達は足を踏み入れる。
「取り残して良いっすよ」
「むしろ、取り逃がして下さ~い」
それと同時にインターセプト役の二人が後ろから声を投げてきたが無視をした。
さて、敵さんはと……。
はは、驚いてる驚いてる。
まぁ、それは置いておいて覚悟して貰おうか。
対人クランではないが、俺達はそんなに甘くはない。
『壱式抜刀術・凪』
取り合えず、前方の茂みで息を潜めていた盗賊の一人を俺は一刀の下に斬り殺した。
さて、最後にまさかの新キャラ追加でした。
これにて第二章終了となります。
全体改稿をしつつ、第三章を考えて行きたいと思います。
もう、しばらく?お待ちください。




