第59話・はじめての共鳴詠唱
ヴィルヘルムさんの攻撃で木っ端微塵になったのも束の間、すでにドラゴンは再生を始めていた。
流石『超再生』と言うべきか凄まじいスピードだ。
すでに骨格はドラゴンの形を有しており、全てが再生するまでそう長くは無いという事が分る。
各部位に合わせて肉片も固まりだしているので、骨格と合体する前に止めねばならない。
俺は現在地から一番近い肉塊に向けて飛び、天叢雲で一閃する。
『超再生』が無くなり急激に再生能力が落ちたのを確認し切り刻む。
次の肉塊へ飛ぶ間に後ろへ視線を向けると、ヴィルヘルムさんが「すまない」と口パクで俺に答えた。
どうも、最大火力モードのクールタイムにより待機状態になっている様だ。
次の肉塊も同じ様に切り刻んでいくが、大分骨格と融合し元の形に形成していっている。
俺一人では完全に再生を食い止める事が出来ない。
ただ、少し気になる所がある皮膚・鱗の再生がまだ始まっていない所だ。
尾などは完全に肉付きが終り、残るは皮膚・鱗だけの筈なのだが再生する兆しがなかった。
もしかしたら、天叢雲で斬られた箇所はヴィルヘルムさんの攻撃で完全に消滅したのかも知れない。
何個か固まりを切り刻み再生出来なくしていたが、やはり完全には食い止める事が出来ず復活を許してしまう。
しかし、復活したドラゴンは元の姿ではなかった。
見た目は、まるでアンデッドドラゴンと言った感じだろうか。
皮膚や鱗はなく肉や筋肉を直視出来る。
また、俺が切り刻んだと思われる肉塊があったであろう場所がぽっかりと開いており骨と内臓が見えている。
そして、頭部には眼球がなくこちらもぽっかりと開いており中には何もない。
おまけに心臓の鼓動に合わせて血液が開いた場所から漏れていた。
『超再生』がなければ放っておいても死ぬだろう。
《ギャゴォォォォォァァァァァ》
復活からすでに満身創痍なドラゴンが咆哮すると口から血液がドバドバと漏れる。
俺が切り刻んだ肉塊の中に内臓も含まれていたのかも知れない。
動かない体を与えられたアルゴリズムで無理やり動かそうとしているのが分る。
それが怨念や意思の様に感じられるのは、ここがリアルに感じる所為だろうか。
AIとは言え、このままにするのは可哀想なので止めを差してやろう。
だが、天叢雲では時間が掛かり過ぎる上に面倒だ。
ヴィルヘルムさんの戦斧は……、まだクールタイム中の様だ。
恐らく通常モードでの使用は出来るだろうけど、それでは意味がない。
「ヴィルヘルムさん」
「ああ、分っている。
しかし、まだ最大火力モードは使えないんだ」
ヴィルヘルムさんは、溜息をつきながら手に持っている戦矛を異次元へと収納した。
「そこで提案だ。
神術の『共鳴詠唱』などはどうだろう?」
「『共鳴詠唱』……って、何でしたっけ?」
普段使っていないスキルは忘れてしまう。
カリーネさんに教えて貰った気がしないでもないけど思い出せない。
「同じ魔法を同時に詠唱させ威力や効果を倍増させるスキルだ。
UO2時代の戦争でもよく使われていたよ」
さーせん、脳筋なもんで……。
最前線に突っ走って目の前の敵をひたすら殺しまくるプレイをしていたので魔法には一切触れていない。
何かで後ろでやっているな……魔法うぜーぐらいの認識しかしていない。
「さて、詠唱する神術だが……、う~ん、そうだな。
『フォーラインリヒト』なんてどうだろう」
『フォーラインリヒト』……えーと、どんなのだろう。
魔法のリストを呼び出し検索すると神術リストの上から四番目に表示された。
という事は、神術の中で比較的下位に相当する魔法って事なのだが、これで大丈夫なのだろうか。
「本当にこれで良いの?」
「ああ、そうだが……。
もしかして、使った事がないのか?」
「まぁ……」
「派手さはないが純粋な力として見れば十分過ぎるぐらいだよ」
やってみれば分るか……。
リストで『フォーラインリヒト』を選択し、画面上部右に詠唱文を表示させる。
下位という事もあって詠唱文は長くない。
ま、短縮するから長かろうが別に問題はないのだけどな。
「では、行くぞ。
君がメインで俺がサブだ。
俺が共鳴させるから普段どおり詠唱してくれ」
「ん」
『我等が主神ガ……』
「ってコラッ、短縮させちゃダメだろう」
「へっ?」
あ、そうなの?
はじめに言ってよね。
全文詠唱するとなると結構長いので舌を噛まないか少し心配だ。
大きく深呼吸し詠唱を開始する。
「神なる息吹、『天なる鼓動、聖なる御手。主神ガディウスの名の下に、我が信奉はさらなる高みを望む。
我が欲するは、聖なる御手……、滅びを誘う光は純粋なる御力と為る『フォーラインリヒト』』」
詠唱者である俺の頭上に光り輝く魔法弾が段々と収束される。
『共鳴詠唱』中は、メイン詠唱者の魔法陣とサブ詠唱者の魔法陣が一体化する様だ。
そして、『共鳴詠唱』によりその肥大速度・サイズともに倍増されている。
詠唱が終わる頃には、魔法弾の大きさが直径10mぐらいにまでなっていた。
これが下位の神術というのだから驚きだ。
腕を振り上げ標的をドラゴンへ固定する。
そして、振り下げると同時に魔法弾はドラゴンへ向けて放たれた。
身動き出来ないドラゴンの中心に魔法弾は着弾し、光のエフェクトを撒き散らしながら大爆発を起こした。
ドラゴンは着弾箇所から少しずつ消滅し霧散していく。
その神々しい光景にしばし心を奪われた。
光がドラゴンを全て覆い尽くし消えた時には、肉片が一つも残っていなかった。
濃密な光により肉片一欠片分の隙間もなく、『超再生』が発動しなかったのだろう。
「ふぅ、上手く言って良かった」
「ですね」
さて、ここで一つの疑問が湧いたかも知れない。
初めから神術使えよと……。
まぁ、その辺の理由は一応ある。
全てのドラゴンの皮膚・鱗は対魔耐性・対物耐性に優れているという特徴がある。
さらにカラミティドラゴンは、レイドを組んでも勝てない様なMobでその亜種がベースとなっている。
それだけでなく『女神の祝福』によりチート強化もされている上に『超再生』もある。
俺達セレスティア系が使う神術も魔法には変わりないので力押しだけでは勝てない。
だから、まずは対魔耐性を削ってやったという訳だ。
まぁ、これは俺が考えた事ではないが……。
ちなみに、ヴィルヘルムさんの戦矛最大火力モードは、ドラゴンの対物耐性などお構いなしにダメージを与える事が出来るのだが残念な事に攻撃密度はそう高くない上に衝撃力が強い。
つまり、肉片が残る隙間がある上に衝撃で飛び散り完全に消滅させる事が不可能だったという訳だ。
しばらくして、いつもの電子音が鳴りオラクルクエストが終了した事を知らせた。
◆◆◆
「お疲れ様」
「おつかれ」
「さて、私はおいとまさせて貰おうかな。
会場から出られるだろうし……」
ヴィルヘルムさんは、地面に着地した後『義体』を発動させエルフの姿へと戻った。
俺も追う様に『義体』を発動させ、いつもの姿へと戻る。
「ヴィルヘルムさん」
その場を立ち去り掛けたヴィルヘルムさんを呼び止めた。
「なんだい?」
ヴィルヘルムさんは、優しい表情で振り返る。
「良かったらフレンドになりませんか?」
「はは、良いだろう」
次話2ndエピローグです。




