第57話・女神のサプライズ
前話から結構空いてしまいました。申し訳ない
6/15…叢雲⇒天叢雲へとアイテム命修正
…一部、セラフィムの所をネフィリムと表記していたのを修正
ノイズが終わると早速異変が起きた。
まずは、俺達が入場する際に使用した魔法陣が会場から消えた。
そして、閉会式の際に会場から姿を消した筈のファナティックカラミティドラゴンが再び姿を現す。
しかも、微妙にサイズと姿が変化した状態で……。
俺達の存在に気付いている訳ではないが、魔法陣がなくなっており会場から出られない事と観客席と試合フィールドを隔絶していた結界がない事で一気に会場内が大混乱に陥る。
ドラゴン再出現とほぼ同時だったろうか……、すっかり聞きなれた電子音が響いた。
しかも、2回だ。
まずは1件目。
『℃бЦ㌘め+Па燈!!§ПЯい∽ё唐УёПЧ$.』
ふむ。
本文はなし、タイトルのみ、しかも文字化けしてて読む事が出来ない。
そして、誰からのだが……まぁ、今までの経緯から推測すると四神(超AI)の1つであるヴィーナスからだと分る。
他の四神からの告知だという可能性も捨てきれないが、今までが今までだからな。
そして、2件目。
★オラクルクエスト『女神の干渉Ⅱ』
【内容】
突如、クラン戦会場に出現したディア・カラミティドラゴンの討伐。
ヴィーナスの干渉により能力が強化しているのは間違いない為、注意されたし。
また、外部からの援軍は不可能である為、内部にいる者でのみ対処する事。
尚、討伐には『義体』解除、『封神具』使用を許可するものとし対象を抹消せよ。
【報酬】
全所持スキルの熟練度+50
勿論、オラクルクエストだ。
タイトル通りならヴィーナスの仕業に間違いはないだろう。
もう何時もの流れなので慣れたものである。
いや、むしろ、熟練度稼ぎのボーナスクエストという認識でも良いぐらいだ。
ただ、今回の違う所は、周りにプレイヤーとNPCだらけの状況だという事な。
どうしたものか……。
あと、1件目の告知はプレイヤー全員が受け取った様で会場内の様々な所で「何これ?」とか「誰だよ。こんな文字化け送った奴は…」などの声が聞こえる。
アヤカ達も例外ではなく、怪訝な表情を見せながらメールを読んでいた。
「何やこr」
《ギャオオオアアアアアアアアアァァァァァォ》
アイリスさんが、何か呟いた時に被せる様にドラゴンの咆哮で掻き消される。
どうもディア・カラミティドラゴンがこちらに気付いた様で、会場全体に響き渡る程の咆哮と共にどでかい翼を羽ばたかせてこちらへ向かってくる。
時間はあまりないようだ。
この咆哮によって会場内の混乱は一層高まる。
特にNPCのパニック状態は手の付け様がない状態だ。
この会場からログアウト出来ない事を忘れているのだろうか、ログアウトで逃れ様とするプレイヤーもいる。
出来ないと知るとプレイヤーの間でも動揺が走る。
その動揺は伝染し冷静だったプレイヤーにも少なからず影響が出ている。
混乱が極まったプレイヤーとNPCが会場で一番安全な場所へ殺到していた。
安全といってもドラゴンの前では無意味に近いだろうけど。
まぁ、最悪ここで死んでも強制ログアウトとデスペナぐらいの弊害しかないだろう。
その混乱と人の流れで『深緑』のメンバーともはぐれてしまった。
ある意味好機と見て良いのだろうか……。
オラクルクエストを受諾しようとした時、観客席の方で何かが発光し純白の翼を持ったセレスティアプレイヤーが飛び発った。
この会場内には俺以外にもセレスティア系のプレイヤーがいたのはビックリだ。
セレスティアの存在に気付いた何人かのプレイヤーが姿の見える位置へ戻ってくる。
その気持ち分らない事もない。
俺がもしそっちの立場ならデスペナと天秤にかけてでも、セレスティアの戦闘を見に行っていただろう。
それにしても完全に出遅れた感があるな。
俺はクエストを受諾し、会場内の片隅へ移動した後『義体』を解除する。
余裕のない者以外の注目は、あのセレスティアに集まっているので誰にも姿を見られずに済んだ。
そして、次は『封神具召喚』で武器を呼び出す。
今回は、この前入手した村雲を呼び出そうと思う。
『封神具召喚』
異空間から出現したのは入手した時と変わらない錆び付いた太刀だ。
これだけ見るとこれが『封神具』だと誰も思わないだろう。
『封神具・村雲最終申請』
『…承認…』
『封神具形態変化解除、第一から第四を解除』
『…承認…』
錆び付いていた刀身が光の粒子と共に真新しい状態になる。
見る角度によって多少だが色の変化が見られる。
柄に巻きついている柄糸も痛んで所々切れていたが一新され新品同様になる。
柄頭の金属が錆び付いて黒く変色していたが、神々しく輝く銀色の金属へと変化する。
『村雲性能更新・第一から第四を更新』
『…許可…』
柄頭から刃先へ魔法陣が通過した事により古刀・村雲から神刀・叢雲へ、そして最終形態の神刀・天叢雲へと更新か完了した。
ここだけの話、パニッシャーの様な大きな変化はなく普通の太刀の様な見た目だ。
ただ、刀身には不可思議な文様が浮かんでおり、それと同じ文様がエフェクトとしても時折明滅していた。
無属性である叢雲なのにエフェクトがあるのは、ある意味不気味である。
◆◆◆
俺が到着する頃にはすでに戦闘になっており、先に来ていたセレスティアによる凄まじい攻撃がドラゴンに命中しているところだった。
しかし、攻撃で消滅した部位はほぼ一瞬で再生している。
「ほう、もう1人いたのか……。
来て早々悪いが加勢を頼む」
俺の存在に驚く事なく気付き横目で見ながら話し掛けて来た。
良く見るとセレスティアではなく、セラフィムだった。
確か、種族報告スレにエルフの耳をしたセレスティアがいるという書き込みがあった。
俺の種族と同じ境遇だとするとセラフィムは古代エルフとセレスティアのハーフ種族かな?
輝いて見える程に美しい髪をしており、短く切り揃えられているが端正な顔立ちから女性に見えない事もない。
しかし、身長は高く胸がなく筋肉質な事や声色は高いが喋り方からも男性で間違いないだろう。
彼の持つ武器は、間違いなく封神具で形から想像すると戦矛か戦斧あたりか。
特徴的な所は、刃の中心に何の為にあるのか分らない吸引口だろうか……。
豪奢な装飾をしているのはパニッシャーによく似ている。
「ん。そうした方が良いみたいだね」
「有り難い」
《ギアァァァァァァオオオォォォ》
間近でのドラゴンの咆哮は凄まじい音量で耳を劈く。
しかも、それとほぼ同時にパリンとガラスが割れる様な音がした。
『多重結界』の1枚が割れた様だ。
「ああ、言っておくのを忘れていた。
こいつは今までと桁が違う」
咆哮だけで『多重結界』の1枚が割れた事から何となく分っている。
そして、ドラゴンが鎌首を一瞬上げた時、厭な予感がした為そこから一気に飛び退いた。
やはりと言うべきだろうか、ドラゴンブレスの予備動作で先ほどまでいた所を魔力を帯びたブレスが通過する。
ちなみに、カラミティドラゴンは、火・水・雷・風・地の計5属性を含んだドラゴンブレスを吐く。
何かに着弾するとその属性の上位魔術とほぼ同等の魔力が暴れる上に巻き込まれると高確率で状態異常となる。
さらに言えば女神の祝福効果で他の属性も付いている可能性も否定できない。
元々カラミティドラゴンは、反則級の強さを誇るドラゴンであるがそこへ女神の祝福を受け強化された状態だ。
単純な強さだけで言えば、俺達が使う『封神具』の方が上回っているだろう。
ただ『封神具』の属性は多くて2属性までで、流石に全属性を網羅したモノはない。
まぁ、カラミティドラゴンには弱点属性がない為、属性が有ろうと無かろうとあまり意味はなのだが……。
元々凶悪だったので強化された際の上がり幅もかなり大きい様で強化され驚異的な再生能力を手に入れている。
『封神具』による彼の攻撃を一瞬で全快させている事からもそれが分る。
分断され様が消滅され様が再生するのだから性質が悪い。
が、しかしだ。
単純明快であるがその再生能力を上回る攻撃で畳み掛けるのが最善の方法だろう。
いや、唯一の方法と言った方が良いかも知れないな。
「それでだ……。
共同で事にあたりたいのだが……。
どうも、俺の武器は範囲攻撃がデフォルトの様でな。
君を巻き込むかも知れない」
「ん、分った。
巻き込まれない様にするよ」
多少、掠ったところで『多重結界』が防いでくれる筈だ……と思いたい。
「情報も共有したいので、しばらくパーティを組まないか?」
「ん。良いよ」
「ヴィルヘルムだ。よろしく」
ヴィルヘルムは、左手を差し出しパーティの申請を申し出る。
その申し出に断る理由もないので握手で返した。
「アキラ…。よろしく」
「では、俺はこいつ惹き付けておく。
君は俺の攻撃に合わせる感じで戦ってくれ」
「ん」
俺は頷くとドラゴンの背後に回り、ドラゴンを間に挟んで彼と対面する形で武器を構えた。




