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E/O  作者: たま。
oβ・フレンド
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第56話・○からVへ

クラン戦の決勝戦が今から始まろうとしている。

と言っても俺達は、客席からの観戦しているだけなのだが……。

実の所、3回戦で敗退している。

2回戦もギリ勝てた様なもので、俺がソロで行動している事は1回戦の結果からしっかりと対策がされていた。

ただ、相手クランは対策をしているという違う意味での油断から俺個人の能力を計算に入れず、何とかフラッグを奪って勝利出来た。

しかし、3回戦は対策されていた事はもちろんあるが、地力で単純に劣っていた事が敗因と思える。

相手クランは、最大参加人数の20人で参加しており『深緑』が8人という少人数なので物量で負けた感じだ。

戦闘復帰が12回分あったとは言え、あまり意味は無く復活した途端に戦闘不能となり相手フラッグに触れる事さえなく敗北した。

正に完敗だったと言える。

往生際が悪いかも知れないが、個人の能力では勝っていたと思う。


俺達に勝利したクランが今から始まろうとしている決勝戦に出場する片割れだ。

もう片方のクランもそのクランと同じで最大人数の20人で参加しているらしい。

結局は質より量なのだと今更ながら思い知らされた。


まぁ、第一回という事もあり記念に参加した節があるので敗退して残念な気持ちはあるが悔しい気持ちはあまりない。


『それでは、今から第一回クラン戦inサウスアルカディア王国決勝戦を始めます。

広報課を代表しまして、私アラン=ビーチャムが実況を担当いたします』


実況するのは俺達の第一回戦で実況担当していた人らしい。


『両クラン員が待機エリアに入場した様です。

どういった様子なのか覗いて見ましょう』


会場の上部にある4つの画面の内2つが大きくなり両クランが映し出される。


『もう、彼らについて今更ご紹介する必要はないでしょう。

まずは、王鍵傭兵団おうけんようへいだんです。

見た限り準備は万全の様ですね。皆様落ち着いておられます』


彼らこそ俺達を完敗させたクランだ。

出場している人数は、20人だがクラン員全体では40人近くにもなる大所帯だ。

その為、個人の能力はピンキリで出場している20人はその中でも高レベルのプレイヤーの様だ。

それでも俺達『深緑の傭兵団』と違い、かなりの能力にバラつきがある。

さらに言うと彼らはクランスキルのツリーを『ハンター』以外にも、いずれ実装されるだろう賞金稼ぎを考慮した『バウンティー』も習得している。

『深緑』は『ハンター』のみ上げていっているので、そこに差が生まれているのかも知れない。

と言うより、この『バウンティー』こそが個人の能力で勝っていた俺達を負かした要因の1つなのだろうな。


『一方、神言騎士団しんごんきしだんは、……出場メンバーを入れ替えてきたみたいですね』


神言騎士団は、カルディア王国を中心に活動するクランだ。

彼らも全体で40人を超える大所帯で個々の能力は、あまり高くないが全員がほぼ同程度の能力を持っている。

その為、弱点らしきものが見当たらず、試合毎にメンバーを入れ替えても問題はないのだろう。

それ以上に『コマンド』ツリーを重視したクランスキルが彼らの強みになっている。

『コマンド』は、戦争で最も効果を発揮する『陣形技』を習得出来る唯一のスキルツリーだ。

傭兵団の『バウンティー』との違いはそこにある。

『バウンティー』は、良くも悪くも対人に特化したスキルツリーなのだが、個人対個人の戦闘を前提としている。

逆に『コマンド』は、集団対集団または集団対個人を前提としている。


俺の予想では『神言騎士団』が勝ちそうな気がする。

20人同士のクラン戦は、この決勝が初めてなので根拠はあまりないが能力の穴がない『神言』が有利に思える。


『そろそろ、待機時間が終了します。

会場内の皆様そしてLIVEをご覧の皆様、心の準備は如何でしょうか?

それでは、カウントを始めます。

5・4・3・2・1・0!!』


実況に合わせて会場内の観客が一体となりカウントダウンを叫ぶ。

俺達も漏れなくカウントを数えたのは言うまでも無い。


『王鍵傭兵団、3人を残しそれ以外にメンバー全員が走り出しました。

これは思い切った事をしましたね。

そして、神言騎士団は何と全員がディフェンスチームです。

ここまで両極端なクラン戦は始めてではないでしょうか』


『神言』の全員ディフェンスは結構理に適った戦法だ。

『陣形技』は、参加人数が多ければ多いほど効果が高く、部隊を2つに分けるより効果的だと判断したのかも知れない。

単純に言えば『陣形技』とは全員で同じ行動を取る事によって、より強大な力に変化させる技と言っても良い。


この陣形は何と言う『陣形』なのかは分らないが、フラッグを囲むように全員が円陣を組んでいる。

外側には盾を構えた15人が配置され、残りの者が内側に配置されている。

そして、盾の隙間から武器を差込み接近されない様にしているのだろう。

内側に配置された他のメンバーは、見た感じ中距離・遠距離のレンジ系の者と思われる。

また、その内2人は法術師の様でクランマスターと思われるプレイヤーの両脇に立っている。

上空から見ると○型となっている。

イメージ的に『針のむしろ』みたいな陣形だ。

陣形の上部が隙だらけの様に思えるが、『陣形』が発動している間は見た目で判断すると痛い目に会う事となる。

「上ががら空きだぜ!ヒャッハー」と上から攻撃し様ものならカウンターが待ってました……なんて事も有り得るのだ。


『両者が交戦するのはまだ先の様ですし、その間ゆっくりとお寛ぎ下さい』


『王鍵』が敵陣に向かって走っていると言っても全員の歩調を合わせているのでそれほど速いスピードではない。

早くて10分遅くて15分ほど掛かりそうだ。

直線距離的に5分で行けなくもないが、森林フィールドがある事と中央付近にいるドラゴンに気付かれない様に行く為に慎重にならざる得ないのだ。

決勝戦で配置されているドラゴンは、クイーン級のドラゴンで無茶苦茶大きい。

設定によれば人語も話せるドラゴンで、それに比べるとフォレストオースドラゴンなんてカスみたいなものだ。

確か『災いの女王』なんていう異名を持つドラゴンで正式名称は、ファナティック・カラミティドラゴンだった筈だ。

大層な名称が付いているが、簡単に言えば凶悪なドラゴンで今の俺達では手も足もでないと思ってくれて良い。

と言うか、カラミティドラゴンという種類は、クイーン級の中でも群を抜いてヤバイ……。

UO2のトラウマだ。

20人フルメンバーのパーティを20組用意し、レイドを組んで挑み休みなしの数時間戦い続けても結局勝てなかった記憶がある。

よく考えて見て欲しい。

ゲーム内で400人ものプレイヤーを集め纏め上げる事の難しさを……。

まぁ…纏め上げたのは俺ではないけどな。

そして、その人数で挑んでも勝てなかったこのMobの強さを……。

それをクラン戦決勝限定とは言え配置させているのだ。

まだ、βの段階で両クラン合わせても40人しかいない現状では、少しでも触れれば両クラン全員戦闘不能で試合終了だ。

俺の時みたいにドラゴンをけしかけるなんて到底無理と言わざる得ない。


Fカラミティドラゴンは、フォレストオースドラゴンと違い寝ているなんて事はない。

森林上空を常にホバーリングしながら飛んで警戒状態だ。

とは言え、森林フィールドも結構広いので大胆に駆け抜けていたからと言って簡単に見付かってしまうという事はない。

飛び回っていないのがせめてもの救いだろう。

それでも『王鍵』メンバーは慎重に慎重を重ね、ゆっくりとした速度で森林フィールドを抜けている。

この分だと15分コースかも知れない。


◆◆◆


『やっと、王鍵傭兵団は森林フィールドを抜け荒野フィールド……神言騎士団側に姿を現しました』


神言騎士団クランマスターの視界に映像が切り替わり、騎士団の面々の緊張感が観客席にも伝わってきた。

武器を握りなおす者、喉を鳴らす者、深呼吸する者、緊張の糸は相当張り詰めているのだろう。


「いよいよね」

「だね」

「どっちが勝つやろか……」

「ふっ、楽しみだな」


一方、王鍵傭兵団は先頭の者が頂点に来る様に△に陣形を組んでいる。

ただ、『陣形』としては発動していないので、どのくらいの効果があるのかは分らない。

まぁ、やらないよりはマシ程度だろう。


先頭と前方に配置されたプレイヤー数人は騎槍や長槍・戦矛などを持ったプレイヤーが中心に編成されている。

剣などの近接武器を持ったプレイヤーは、陣形の中心に固まり後方には中距離・遠距離のレンジ系プレイヤーを配置している。

そして、陣形が崩れない程度の速さで走り、『神言』の陣形へ向けて進軍・突撃を敢行する。


その凄まじいぶつかり合いは遠く離れた観客席にも僅かであるが聞こえてきた。

それと同時に陣形が丁度ぶつかっている辺りに火花の様なものも見える。

『王鍵』の陣形が△から段々と台形の形に変わっていっているのに対し『神言』の陣形には全くのブレがない。

その光景を目の当たりして、俺達を含んだ観客席全体は最高に盛り上がっていた。


全く崩れない『神言』の陣形に痺れを切らした『王鍵』の剣士達が次々と前方のプレイヤーを土台にして『神言』の陣形へ飛び込んでいく。

正に俺が指摘した「上ががら空きだぜ!ヒャッハー」の状態だ。


『バカ野郎、前に出るな! 戻れ!!』


『王鍵』のチームリーダーいやクランマスターが、陣形の中心で前に出ようとプレイヤー達に止め様と叫んでいるのが、大きく映し出された映像を通して聞こえる。

恐らくは、俺と同じ様に『陣形技』の脅威が分っているのだろう。


案の定と言うべきだろうか……。

陣形の中心へ飛び込んだ者はレンジ系のプレイヤーに迎撃される。

飛び込む以前に盾の隙間から伸びた武器に突き刺さり何もする事なく崩れるプレイヤーもいた。

正に『神言』の思う壺状態で4人程か犠牲になった所でやっと冷静に戻る。

唯でさえアタッカー17人と人数が劣っていたのに先ほどの「ヒャッハー」でさらに人数が少なくなり13人となる。


『陣形切替!方円ノ陣から鶴翼ノ陣へ』


ここで『神言』が攻勢へと転ずる。

○型だった陣形がV型へと高速に切り替わっていく。

これは『陣形』または『陣形技』が発動している証拠で切り替わっている間はスーパーアーマー状態だ。

切り替わっている間のダメージを半分以下か全くのノーダメージにまで軽減する効果がある。

一糸乱れぬその動きは非常に統制が執れており綺麗に切り替わる。

そして、そこからは早かった。

見事『王鍵』を囲むとあらゆる方向から攻撃し反撃をさせる暇もなくあっという間に殲滅していく。

取り囲んでから数分しか経っていないのにも関わらず『王鍵』のプレイヤーは残り3人にまで減っていた。

体中は傷だらけで立っているのがやっとのプレイヤーばかりで反撃にも力が入っていない。

そして、1人が出血の状態異常が長く続いた事により倒れる。

残りの2人については、1人が頭部へのヘッドショットでもう1人が槍に串刺しにされ倒れた。

最後の1人が倒れた事により『神言』が勝利を手にする。


『神言騎士団の優勝が決まりましたぁぁぁぁぁ!!!

おめでとうございます!!』


「『陣形技』すげぇ~」


クロイツがボソリと呟く。

俺も同意見だが、これは『陣形技』の一部分でしかない。

どちらかと言うとこれは単なる『陣形』で本来の『陣形技』は、戦場全体に影響する程の必殺技に近い代物だ。

もしかしたら、『陣形技』を習得していなかったのか、条件が満たされていなかったのだろう。


まぁ、それはさておきこの後に表彰式がある筈だ。

俺達『深緑』以外にもクラン戦出場者だったと思われるプレイヤーが転送の魔法陣へ向かう。

ちなみに表彰式は、この決勝戦の試合会場内で行われる手筈になっている。

無論、試合会場からはドラゴンはいなくなっているだろう。

表彰式で襲われて死ぬなんて事にはなりたくないしな。


◆◆◆


クラン戦参加者全員が試合会場に転送され表彰台周りに整列する。

表彰台の横には開会式にいたお偉いさんと警護の騎士、そして実況を担当したOS社広報課の面々が並んでいる。


「あーあー、マイクテスト、マイクテスト……OK」


壇上に実況をしていた広報課の1人がマイクテストを行い音が出ているかチェックする。


「それでは大臣お願いします」


実況者は、壇上を下りマイクを大臣に渡して、また整列場所へ戻る。

大臣が壇上へ上がり今から閉会式を始めようとした。


「あー、それでは閉k」

《ザ…ザザ…ザザザ…ザァァァ……》


視界に僅かだがノイズが走り、大臣の声もノイズ音で掻き消される。

フォレストオーガ出現時と同じ様な嫌な予感を感じたのは、俺だけでなかったらしく会場全体に動揺が走った。

※レイドとは、複数のパーティで大多数のプレイヤーが1つの集団として行動している状態と思って下さい

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