閑話8・クラン戦実況Ⅱ
まずは、クロイツ選手、ローランド選手と交戦。
流れる様な連打でローランド選手は、攻撃に転ずる事が出来ず防戦一方です。
援護するかの様にマキシム選手から横槍が入ろうとしています。
しかし、それを読んでいたかの様にクロイツ選手は、ショットガンで牽制。
これは迂闊に近づけないですね。
エミリア選手の方は、ミレニア選手とイゴール選手を同時に相手をしている様です。
これはすごいですね。
二本の剣を巧みに使い2人を相手にしても引けを取っていません。
おおっと、ミレニア選手は後退する様です。
見た限り間合いに入る事さえ出来ず已む無くといった感じでしょうか。
逆にイゴール選手、湾曲刀の刀捌きが素晴らしいの一言に尽きます。
エミリア選手と互角以上に戦っています。
『……っ』
ん、アヤカ選手の視線が変わりました。
これは……ラファエル選手が妙な動きをしていますね。
ミレニア選手が後退したので代りに援護しようとしているのでしょうか。
しかし、アヤカ選手よく気付きましたね。
弓に矢を番え弦を引き狙いを定めます。
あ、ラファエル選手が射線を遮るように木の陰に隠れました。
やはり、【気配察知】のスキルレベルが非常に高いと思われます。
彼は【第六感】持ちの可能性があるので、狙う動作を省略できる可能性があります。
しかし、狙う前には射線を遮らない場所へ移動しないといけない。
アヤカ選手は未だ狙いをラファエル選手から外しておりません。
ここまで警戒されると流石に迂闊な動きが出来ないですね。
『ん?』
ローランド選手がいつの間にか後退していますね。
負傷したのでしょうか……。
いえ、魔導電話が掛かってきた様です。
話の内容は流石にさっぱり分りませんが、ディフェンスチームに何かがあったのは間違いないようです。
慌ててラファエル選手の所まで走って行きました。
これは……『黒犬』アタッカーチーム後退する様です。
マキシム選手とイゴール選手は殿としてその場に残っている様ですが、他の選手は自陣側へ駆け出しています。
アキラ選手が何かを仕掛けたのは間違いないですね。
『何があったのかしら……?
チャンスね。このまま一気に攻めるわよ』
おおと、ここでラッシュだ!
苦戦気味のエミリア選手にヘンリック選手からの支援魔法が掛かりましたね。
何の効果なのかはこちらから把握する事は出来ませんが、これで互角以上になるのは間違いないでしょう。
やや優勢のクロイツ選手にはアヤカ選手の援護射撃が入りました。
アヤカ選手は、マキシム選手の動きを封じるかの様に的確な援護です。
これはマキシム選手にとってかなり厳しい状況ですね。
ああ、クロイツ選手による脚払いからの急所攻撃が入りました。
これは痛い。
イゴール選手、エミリア選手のと戦闘を中断しマキシム選手の救援に向かいます。
『速い……』
流石に横移動かつ脚の速い相手には狙いを定められないか。
イゴール選手、手に持っていた湾曲刀をクロイツ選手に向けて投げました。
『まずい。クロイツくん下がって!!』
これは……適当に投げた訳ではなさそうですよ。
先ほどまでクロイツ選手がいた場所に湾曲刀が刺さりました。
1秒でも遅れていたら直撃でしたね。
イゴール選手、マキシム選手を起こし退かせます。
しかし、後ろから追いかけていたエミリア選手も合流しました。
ただ1人残ったイゴール選手、誰がどう見ても絶体絶命のピンチですね。
っと、これは……魔導電話の音ですね。
『ん、なに?ちょっと忙しいんだけど……』
『………』
『え、ほんと?』
『………………』
『はぁ、ドラゴンって正気なの!? アキラ』
『………』
『え、ちょ』
電話の相手は……、恐らくアキラ選手ですね。
ドラゴンという単語が出てきましたが、何かを仕掛けるのでしょうか。
っと、いつの間にかイゴール選手がいません。
『すまない。アヤカ。
逃げられた……』
魔導電話の音と話の内容が気になったのでしょうか。
イゴール選手は、視線が外れた一瞬で逃げ果せた様ですね。
『そんな事はもうどうでも良いわ。
アキラがフラッグを奪ったみたい……』
『本当ですか!?』
『ええ。
って、そういう場合じゃなかった。
皆、急いで自陣まで戻るわよ』
アヤカ選手、木の枝から降り急いで自陣へ向かいます。
『巻き込まれたくないなら急いで!』
『何にですか!?』
『ドラゴンよ。
アキラがドラゴンに接触するみたいな事を話していたわ』
『はぁ!?』
アヤカ選手に従う様に他のメンバーも急いで自陣へ向かいます。
これは、何か面白い展開になりそうですね。
それではカメラを切り替えましょう。
誰が良いですかね……。
アキラ選手……いえ、ラファエル選手にしましょうか。
◆◆◆
『早く探せ!
このまま持ち帰られたら俺達の負けが確定するぞ』
なるほど。
アキラ選手は、見事フラッグを奪いすでに森林フィールドに入っている様ですね。
『ラファエルさん、あそこ!!』
ミレニア選手が指差した先に……アキラ選手のシルエットが見えます。
これは結構遠いですね。
急がないと『黒犬』の敗退が確定します。
『くそっ。遠い……。
いや、俺達にまだ気付いていない筈だ。
絶対に取り逃がすな!』
ラファエル選手に指示通り、アキラ選手を取り囲む様に包囲網が縮まっていきます。
さぁ、アキラ選手どうするのでしょうか。
それはさておき、『黒犬』の面々はフラッグ奪還に気を取られて肝心な事を忘れている様ですね。
アキラ選手の先にドラゴンがいる事を……。
『まだだ、まだ早い……。
今だ。取り押さ……』
アキラ選手、後ろに下がり、陸上選手の様にスタートを切って飛び出しました。
流石に取り囲まれている事を気付いていない訳がないですね。
『ちぃ。
このまま行かせるな!』
本当に気付いていないのでしょうかね。
『黒犬』アタッカーチーム、ドラゴンのいる広場に出ます。
《ゴオアアアアアアアアァァァァァァ》
『なっ、……ドラゴン……だと!?』
嗚呼、いきなりアキラ選手に起こされ怒り心頭してますねぇ。
大きく翼を羽ばたかせ辺りに突風を吹き荒れています。
まともに動く事が出来ない『黒犬』アタッカーチーム、アキラ選手との距離がより離れていきます。
『に、逃げましょう……。
ラファエルさん』
『何を言っている!?
フラッグを取り返す以外に選択肢はない』
ラファエル選手にアキラ選手を追いかけます。
そして、他の選手もラファエル選手に続く様に駆け出します。
あと……ドラゴンも……。
ただ、ドラゴンの標的が『黒犬』ではなくアキラ選手だというのがせめてもの救いでしょうか。
『くそっ。奴は何であんなに早く走れるんだ……』
『黒犬』アタッカーチームとアキラ選手の差は開く一方です。
そして、後ろからは逆鱗に触れた状態のフォレストオースドラゴンが迫ってきています。
『黒犬』にとって罰ゲーム以外の何ものでもないですね。
《ゴアアアアアアアアア》
『ひぃ。ラファエ……』
手当たり次第に吐いていたドラゴンブレスが、ミレニア選手を巻き込み戦闘不能にさせます。
『振り向くな!
立ち止まるな!
走りきれ!』
ラファエル選手の叱咤激励が飛び交います。
立ち止まりかけた他の選手は、もう前しか見ていません。
流石、クランマスターだけの事はありますね。
《ゴオアアアアアアアァァァァァァ》
『ぎゃっ!?』
しかし、現実は厳しい。
またもや、適当に降り注いだドラゴンブレスでローランド選手が戦闘不能です。
『黒犬』アタッカーチーム残り3人、ドラゴンはほぼ真上の状態です。
『くっ…、このままでは……。
イゴール、お前が一番速い。
俺達に合わせる必要はないから、先に行ってくれ!』
『その方が良いみたいですな。では……』
イゴール選手、走行スピードを上げて先行します。
これはなかなか速いですね。
もう、ラファエル選手の視界外になりました。
それとほぼ同時に残った2人の上をドラゴンが通り過ぎる。
ラファエル選手とマキシム選手、スピードを落とし立ち止まります。
後はイゴール選手が追いつくか追いつかないかで全てが決まるでしょう。
それでは、視点を変更しましょう。
アキラ選手かアレキサンダー選手のどちらにしましょうか。
まだ、一度もな……。
あああっと、『黒犬』のリスポーンポイントがまた減りました。
誰が殺られたのでしょうか。
全体カメラに視点を変更しましょう。
◆◆◆
……イゴール選手の様ですね。
またもや、適当ドラゴンブレスの犠牲になったようです。
そして、今アキラ選手が自陣フラッグの場所まで辿り着いてしまいました。
これで『深緑の傭兵団』の勝利が確定です。
おめでとうございます。
この試合は、アキラ=ツキモリ選手が勝利の鍵と言っても過言ではないでしょう。
『深緑の傭兵団』の作戦勝ちですね
『黒犬傭兵団』にとっては遺恨の残る試合でしたね。
これにめげる事無く次回クラン戦にも出場して頂けると幸いです。
第一回クラン戦第二会場は、OS社広報課アラン=ビーチャムで実況をお送りしました。
それでは、第二試合でまたお会いしましょう。
『黒犬傭兵団』が終始翻弄された感じです。




