第53話・クラン戦前日
前話から大分時間が飛びました。
そして、いつもより長いです。
あのノイズ事件から大体2週間、クラン戦が翌日に迫っていた。
準備も着々と進み、後は最終確認と個々の準備のみとなっている。
「では、役割とポジションの最終確認を行います」
近況報告を織り交ぜた雑談が終了し、ヘンリックさんの一声でクラン戦に向けての話に入る。
「まず、フラッグ防衛はアイリスさんとエレナとエーツーさんにして貰おうと思います。
陽動は、私とエミリアさん、アヤカさん、クロイツくんです」
「あれ、ボクは?」
1週間ほど前に決めていた役割と違い、俺は困惑する。
確かあの時は、防衛にアヤカが入っており俺は奪取の役割だった筈だ。
ついでにいうと陽動という役割はなかった。
「あれから色々考えまして、アキラさんには1人で奪取して貰おうと思っています」
「1人で……ですか」
「ええ、ちゃんと理由はあります。
単純にアキラさんの機動力が突出しているからです。
皆に合わせるとアキラさんの持ち味を失ってしまいますからね」
そう言えば、ヘンリックさんの指示で途中から俺の訓練方法が変わっていたなと今更ながら思う。
みんなはフラッグ防衛の訓練とMob相手の戦闘訓練が中心だったが、俺だけは森林内での移動が中心だった。
とは言え、単純に移動という言葉は語弊があるかも知れない。
つまり、如何に早く森林地帯を抜けるかの訓練と言った方が良いだろう。
木の幹を縫う様な高速移動から始まり、木の枝を飛び移っての移動、さらには『縮地法』で助走し木の上を飛び越える事までやった。
まぁ、最後のは面倒になって試しにやってみただけなのだが、案外距離を短縮できた。
ただし、これをやってしまうと森林地帯に潜んでいるドラゴンや相手クランにも位置がばれてしまう。
使い所は難しい……というか、使わないに超した事はないだろう。
「別にアキラさん1人にフラッグ奪取を任せるという訳ではないですよ。
ただ、奪取までの工程が違うだけで、私達の方は相手クランを排除しつつフラッグ奪取に向かいます。
逆にアキラさんは、極力交戦は避け一直線でフラッグ奪取して貰います」
「ん、分った」
「相手クランの防衛戦力を見て臨機応変に対応して下さい。
決して無理をしてはダメですよ」
「ん」
「他のみんなは、十分に訓練を活かせば大丈夫の筈です」
「じゃ、みんな十分な休息とって明日頑張りましょう」
ヘンリックさんの確認が終わるとアヤカが締めくくり解散となった。
◆◆◆
明日の準備と言っても別段やる事はあまりない。
俺はアパートに戻り現状のチェックを兼ねたスキルと装備の確認をする。
まずは、スキルだ。
◆種族スキル⇒『ヒューマLv38』
◆血族スキル⇒『成長+』『限定解除』『封神具修練』『封神具召喚』『アームズ適性+』
◆才能スキル⇒『剣術の才能』
◆属性スキル⇒『無Lv1』『火Lv12』『水Lv1』『風Lv1』『雷Lv1』『地Lv1』『光Lv9』『闇Lv1』
◆流派スキル⇒『秋月夢想流居合剣術Lv25』《縮地法Lv4》《急制動Lv3》
⇒『アルカディア皇国剣術Lv8』《集中Lv3》《鎌鼬Lv3》
◆ノーマルスキル⇒『剣修練Lv34』『構え直しLv3』『回避Lv25』『受け流しLv16』『武器防御Lv8』
『気配察知Lv19』『気配遮断Lv6』『軽鎧修練Lv15』『サバイバルLv13』『神術』//『魔術Lv1』『格闘Lv29』
現状こうなっている。
魔法関連が全く育っていない。
最後に使ったのがサウスアルカディアに来るまでの道中なので仕方がないと言うべきか。
流派に関しては『アルカディア皇国剣術』が短い時間にも関わらず大分育った。
流派スキルは見て分るように『秋月夢想流居合剣術』の《縮地法》と《急制動》が全く育っていない事が分る。
『アルカディア皇国剣術』の《集中》と《鎌鼬》のスキルレベルに追い付かれている。
使っていない訳ではない。
むしろ、使いまくっている。
それでも育たないのはユニークスキル所以だからだろう。
まぁ、《縮地法》はLv1上がると1m移動距離が延びるので大分違ってくる。
クラン戦に向けて新たに『構え直し』と『気配遮断』を習得した。
『構え直し』は、武器の切り替え時間短縮の効果がある。
『気配遮断』は、その名の通り気配を遮断する効果がある。
どちらもレベルが低いのでスキルを習得したからと言って、劇的に変化したという事はない。
実用レベルにするには時間が足らなかったな。
次は武器だ。
名刀・夜月絶景……俺のメイン武器ではあるが、修練レベルが低い為キャラ育成に向かない。
耐久値は十分にある。
名刀・夜空…居合刀ではなく打刀の為、若干攻撃速度が遅いが刀剣修練的にマシなので夜月よりもこちらがメインになるだろう。
こちらも耐久値は十分ある。
銘銃・パニッシャー……素の状態で全く使っていない為、耐久値は全く問題ない。
ただし、銃修練を持っていない上に活かせる流派もないのでクラン戦には使えないだろう。
というか、弾が銃に装填されている分しかない。
風生剣……修練レベル・攻撃力共に一番高い為、相手クランとエンカウントした際の主武装になるだろう。
耐久値は、多少減っているものの余裕があり問題ない。
古刀・村雲……修練レベル・攻撃力共に低い為、実戦には向かないので問題外だ。
こんなところか…な。
どの武器も鍛冶屋で修理しなければいけないほど耐久値が減っている訳ではない。
メインを夜空、サブに風生剣にして後は異次元に格納させておこう。
封神具ではない、夜月はこの部屋に置いていこう。
準備をするとしたら明日の朝食だろう。
脚力ボーナスが入る料理はあるのだろうか。
一旦ログアウトして調べるか、この街の情報屋を頼るかどうしようかな。
ま、時間もあるし探しに行こう。
◆◆◆
大体、1つの街に情報屋は2~3人ほどいる。
アルケードの様に国の首都となると倍かそれ以上いてもおかしくない。
そして、大概の情報屋は人の集まる所によくおり、特に飯時だとやはり酒場や食堂に多く集まっている。
つまり、食事をしながら情報交換をしているという事だ。
とは言え、酒場「泉と花」には情報屋はいない。
何故かというと人通りが少なく店自体も小さめなので客自体ほとんどいない。
近所に住んでいるプレイヤーかNPCが大半という訳だ。
まぁ、こういう理由もあってアヤカ達の活動拠点ともなっている。
探すとすれば勿論大通りに面している酒場もしくは食堂という事になる。
俺が今借りているアパートを出て、まずは大通りに出る。
王都という事もあって相変わらず人通りが多く、噴水広場には茣蓙を敷いて売買しているプレイヤーが多くいる。
俺は噴水広場から北上し王城方面へと向かう。
確か、王城の近くに騎士御用達の食堂があった筈だ。
しばらく歩き王城まで後100mほどとなった時、目的の食堂が見えてきた。
他の店より2倍ほど大きな店舗で目立っており、店の看板には大きく”騎士様御用達”と書いてあった。
早速、中へ入るとやはりと言うべきか多くの騎士が食事をしている。
それに混じって数名の情報屋がカウンターで情報交換をしているのが見えた。
その中で目に付いた男女二人組みに話しかける。
「すみません。ちょっと良いですか?」
「ん、何だい?」
「貴方達って情報屋ですよね」
「ああ、そうだ」
「ええ」
何気に情報屋は重宝される為、結構稼いでいたりするが彼らの服装は豪華とは言い難い。
他の職業と比べると質素と言って良いだろう。
彼らの多くは、情報関連のスキルで固める為、着れる防具が非戦闘用の【普段着】だけなのだ。
【普段着】だけはスキルを必要とせず、防御力は全て0という見た目だけ装備だ。
なので、彼らは色彩や装飾と生地で個性を付けている。
この2人の服装は正に【普段着】なのだが、鮮やかな色を基調とした生地を使っており他の情報屋より目立っていた。
「料理関係の情報は持っていますか?
もしくは、そういった情報の詳しい方を紹介して貰いたいのですが……」
「ふふん。君もクラン戦出場者かな?」
やっぱりか…という自慢げな表情で男の方が聞き返してきた。
「え……っと、よく分りましたね」
「2日前ぐらいからかな。クラン戦に出場する傭兵や騎士がそういった情報を集めているよ」
「あ、そうなんですか…」
皆、考える事は同じなんだな。
「普段、私達は料理関連の情報を扱わないのだけど…。需要もあるし今はあるわよ。
どういった効果の料理を探しているの?」
「脚力が上がる料理を知っていますか?」
当然、脚力即ち移動速度が上がる料理だ。
料理には、脚力みたいに直接ステータスが上がるものから成長速度が上がるものまである。
それ以外にも腹持ちの良いものや一時的にスキルを取得出来るものまで様々ある。
勿論、スキルを一時的にとはいえ取得するにはスキル枠が空いていないといけない。
ステータス上昇系の料理で上がる値はそれほど大きくはないが、その僅かな差で決着が付く事がある。
この僅かな差で勝てるのなら、これほどお手軽なものはないだろう。
「脚力か…。う~ん、私は知らないかな」
なかなか、ないのは知っている。
特に魔王討伐で料理レシピが大幅に増えてからは探すのが苦労する様になった。
確かにそういった料理はたくさんあるが、その国にその街にあるとは限らない。
「……俺の方はある事はある。
けど、効果はあまり期待出来ない。
それでも良いなら5Gで教えるけど?」
「あ、お願いします」
俺は1G金貨を5枚取り出し情報屋♂に渡す。
情報屋♂は数える事もなく、そのまま懐に入れる。
「うむ、確かに。
料理名は、化けナメクジの姿焼きで一時的に敏捷・筋力・体力が5上がる上に被ダメージが5%下がる。
確か南門近くの露店で売っていた筈だ」
「ば、化け…ナメクジ……?」
耳を疑う名前の料理だ。
情報屋♀の方は、想像してしまったらしく顔を青くしている。
ナメクジ自体、俺は苦手ではないが食うとなると別の話だ。
「ああ、C級グルメとしてなかなかの評判だな。
サザエの様な歯ごたえがあって結構美味しいらしい。
まぁ、俺は食いたいとは思わないがな」
ゲームだし、実際に食べる訳ではない……ないが……。
俺も食べたいとは思わねぇ~よ!
同じE/Oの世界を舞台にした新作を同時に投稿しました。
まだ、プロローグと1話のみですが良かったら読んで下さい。




