第49話・追跡と気配察知
討伐クエストもといクラン戦に向けての訓練地は、王都アルケードから南下した所にある。
徒歩でも5分ほどで着く為そう遠くはない。
森林地帯を突っ切る街道周辺以外は、人の手があまり入っておらず見通しも悪い為に迷いやすい。
多様なMobが棲息している為、討伐クエストをやる分には立地的な意味で非常に便利な場所と言える。
アヤカが受けたクエストは2つで、ゴブリンの討伐とテイルウルフの討伐だ。
ゴブリンは世間一般的に知られているMobそのものなので、脅威でも何でもないのだが討伐対象は個体ではなく群れなのが面倒なところだ。
懸念すべき所は、国家地域によって微妙に装備・スキル・戦闘スタイルが違うらしいという所だ。
テイルウルフは、尾の固く鋭い毛が特徴的で一度、尾の攻撃を受けると肌に深く突き刺さる。
また、刺さった毛は中々抜ける事がなく持続的なダメージを負う事になる。
そして、他のウルフ系と同じで素早い動きが特徴的だ。
ぶっちゃけ、ゴブリンはともかくとしてテイルウルフは事前情報だけでは対処の仕様がないな。
想像だけで言えば、ゴブリンは集団戦の練習、テイルウルフは素早い敵に対する練習になるだろう…と思いたい。
「気配察知では、ゴブリンもテイルウルフも反応なしと…。
さて、どっちに行こっか?」
どっちというのは、俺達のいる街道から見て左右どっちの森に足を踏み入れるかという事だろう。
「じゃあ…エレナさん、追跡スキルお願いしても良いかしら?」
「……良いけど、まだスキルレベル低い…」
「なら、俺がやりましょうか?」
基本的に追跡スキルは、足元の足跡や周辺の匂いから追跡するスキルなのでレベルが低いと探索範囲が限られ追跡できない可能性がある。
そこで俺と会うまではほとんどソロで活動していた為、追跡スキルが結構育っているクロイツが名乗りを上げた。
以前、クロイツが廃鉱で追跡スキルを使用した際、結構な距離を追跡していた為、期待出来るだろう。
「お願いして良いかしら?」
「おまかせを」
クロイツは、その場でしゃがみ手を地面に付ける。
一呼吸しからスキルを使用し何かを嗅ぎ取ったらしく周辺を見回す。
そして、2・3回見回した後、一点を集中的に見た。
「あっちに何かがあるな。
ちょっと、遠いので何なのかは分らないですけど…」
クロイツは、左の森を指差してから言った。
「分ったわ。みんな行きましょう」
◆◆◆
「これは…ゴブリンの足跡か。
匂いも微かにあるけど、ほとんど消えかけだな」
クロイツは、足跡を辿るように視線を動かして行きある一点で止まる。
そして、消えた辺りに向けて歩いていく。
ちなみに、クロイツ曰く、スキルを使用すると視界が白黒となり、足跡は蛍光色のハイライトで匂いはカラフルな靄で見えているらしい。
「この辺で匂いは完全にが消えているな…」
消えた足跡周辺でもう一度追跡スキルを使い、再び同じ様に周辺を見回す。
「足跡は……、あの川を抜けたのか」
クロイツは指差した川は、そんなに深くはないが足跡を消すには十分で川上と川下どちらに行ったら良いか分らなくなった。。
「すみません。これ以上は…」
「十分よ。少なくともこちら側にゴブリンがいるのが分ったわ」
「丁度良いですし、この川を中心にみんなで手分けして探索しましょう。
発見しても決して一人で突っ込まない様にお願いしますよ?」
ヘンリックの提案に俺を含め全員が頷き、散り散り分かれて行動する。
俺が向かった方向は、王都から見れば全くの反対方向なのでどんどん森が深くなっている。
奥にもなると木々の背が大分高くなっており、日の光りがほとんど差し込まない。
その為、辺りは薄暗く地面も湿っておりジメジメとした空気が漂っていた。
流石に汗などは再現していないが、何となく掻いている様な感じがする。
まぁ、つまり嫌な予感がするという事だ。
その時、木の上の方からキャキャキャという動物…Mobの鳴き声が聞こえて来た。
姿は見えないが、意思疎通をしているかの様に辺り一面から聞こえて来る。
俺の歩みに合わせて素早い動きで枝と枝の間を移動している様な気配もあった。
「これは…まずいかも…」
俺は歩みを止め、気配察知のスキルを使い頭上を探ると見事に囲まれていた。
頭上には、輪郭が赤くハイライトされたMobが複数確認できた。
ちなみに、ハイライトの色でどういった相手なのかが何となく分る様になっている。
赤が敵対、黄色が中立、青が友好かフレンド、緑がパーティメンバーかギルドメンバーとなる。
で、現在パーティメンバーで一番近いのがアヤカの様で俺から300mほど北にいる。
草木で視界が遮られていなかったなら、姿を確認できるだろうが今は全く見る事が出来ない。
大声で叫んだとしても聞こえるかどうかも分らない上に頭上のMobを刺激する可能性がある。
残念ながら頭上のMobに関しては情報を持ち合わせていない。
まぁ、少なくともゴブリンでもテイルウルフでもないのは確かだ。
俺は脳内思考で流派を秋月夢想流へ切り替え戦闘態勢にする。
アルカディア皇国剣術を鍛えたいのは山々だが、流石に未知のMobに対して戦える自信はない。
取り合えず、俺の前にある木の上にいるであろう1体のMobを排除する事にしよう。
木の根の所に足を掛けると同時に『縮地法』を利用し、木の幹を一瞬で駆け上る。
未知のMobは、驚いた様な声を上げるが身体の方は反応出来ておらず、前に突き出した夜月が見事身体に突き刺さった。
突き刺さって尚…というか、流石に垂直移動で『急制動』は出来ないので『縮地法』の勢いのまま木の頂を通り越し空中へ飛び上がる。
上空へ出て、やっとMobの正体が分った。
全身毛に覆われたオランウータンの様なMobで、右手には木の棒を持っており先端には拳大の石に伸びている紐が括り付けられていた。
とは言え、Mob名までは分らない。
『陸式抜刀術・神去』
夜月が深く突き刺さっている状態だったので、Mobを鞘に見立てて俺は思いっきり横へ薙ぐ。
派手に血を撒き散らした後、Mobは力なく落下していく。
「キキャー!!」
奇声が背後から聞こえた為、空中で身体を捻り後ろを振り返ると3体のMobが木の上まで飛び上がっていた。
すでに身体は落下し出している。
倒せても1体が限界だろう。
『壱式抜刀術・凪』
取り合えず、一番手前のMobを斬り捨てる。
斬り捨てられた仲間を気にする様子もなく、その後ろにいた2体のMobが覆いかぶさる様に俺の頭上まで迫る。
その時、ビュビュンっと風を斬るかの様に俺の頭上を何かが通り過ぎる。
「「ギャッ!?」」
それとほぼ同時に俺へと迫っていた2体のMobの頭部に1本ずつ矢が突き刺さっていた。
「矢!?」
飛んできた方向を咄嗟に振り返ると比較的視界の広がった場所が北の方角にあり、アヤカが弓を構えていたのが小さく見えた。
クラン戦まで新キャラを掘り下げて行こうと思います




