第46話・懐かしの雰囲気
今話も少し短めです。
殺るか殺られるか、この雰囲気は嫌いではない。
まぁ、殺られても流派の習得が出来ないというだけ…。
右上のHPゲージを見ると、すでに3分の1しか残っていない。
相変わらず打たれ弱いな。
だけど、それは向こうも同じはずだ。
いや、出血状態でもある事だし下手したらもっと酷い状況だろう。
「はぁはぁ、この状況…芳しくありませんね」
彼はそう言いながら剣を逆手に持ち脇構えに似た構えを取る。
今まで出していない技と見て良いだろう。
そして、深呼吸しながら目を閉じる。
目を閉じたのは集中する為なのかは分らない。
しかし、全く隙が見当たらない。
この状態で前に出ようものなら返り討ちに合いそうな気がする。
とは言え、ずっとこの状態を維持するのはそう簡単なものではないだろう。
俺は夜月を鞘に納め攻撃のタイミングを計る。
少しでも隙が出来れば『縮地法』で一気に間合いを詰め終わらせよう。
◆◆◆
どのくらい時間が経っただろうか。
1分?いや10分ぐらいか…。
俺は右下の時間を確認する。
実際は2分…いや今3分経った。
今、この鍛錬場は凄く静かで空気がすごく重い。
相変わらずグリムは微動だ一つせず隙がない。
彼の向こうに見える若い近衛騎士2人は、この空気に飲まれてしまっている。
何をしたら良いの分らないのだろうか。
右を見ると真剣な表情で団長さんが俺達2人の動向を見ている。
流石というべきか…。
マリアさんは……頬杖を付きながら寝てる。
今回の事で寝ていなかったのかな?
マリアさんが連れてきた法術師は、定位置から微動だにしていない。
そして、やはり表情が見えない。
嗚呼、前に出たい…出たいけど出たら返り討ちに合うだろう、この空気…誰かどうにかしてくれ。
「…むにゃ……うわっ!」
そんな時、マリアさんが寝言の後、頬杖が顎から外れ大きく体勢を崩す。
その声でグリムにほんの少し隙が出来る。
俺はその隙を見逃さない。
『縮地法』で一気に間合いを詰め『弐式抜刀術・朧』を叩き込む。
しかし、俺が鞘から夜月を抜く寸前、彼が動いた。
脇構えしていた剣を前に持って行き、剣先を地面に突き刺す。
すると、彼を中心として螺旋を描くようにカマイアタチが複数放たれる。
複数放たれたカマイタチの内、俺に直撃する可能性のあるのは全部で3枚。
3枚の内避けられる可能性のあるカマイタチは…0枚…。
すでに俺は攻撃の体勢に入っているので引き下がる事は出来ない。
まず、前に出した右足の太ももに1枚目のカマイタチが直撃、激痛が走る。
2枚目は鞘から夜月を抜きかけた状態で直線状になってしまっている右肩から腰にかけて直撃し激痛が走る。
3枚目は左足首に直撃、激痛の後に感覚がなくなる。
HPゲージが見る見るなくなっていく。
恐らく、このゲージの減りは0まで一直線だろう。
だけど、0になるまでは動けるので俺の勢いは止まらない。
鞘から抜けた夜月は、グリムの上半身と頭部を一気に切り裂く。
その勢いを保ったまま俺は空中へ飛び上がり、ジャンプの頂点で次の技『漆式抜刀術・鳴神』を繰り出す。
頂点から一瞬にして地上へ向けて雷の様に夜月が走る。
これをグリムが受ければ俺の勝ちだ。
「そこまで!!!」
しかし、夜月がグリムを斬る直前、大きな声と共に団長が割り込み自身の剣で俺の攻撃を防いだ。
万全な状態で放たれた俺の攻撃をまともに防いだ事から勢いを完全に止められず、団長は片膝を着く。
俺のHPが0になる直前、グリムがその場で倒れるのを確認した。
◆◆◆
俺とグリムの戦いが終わって大体1時間ほど経ち、漸く俺は目を覚ます。
場所は…見渡した限り、まだ王城内だと思われる。
恐らく近衛騎士団の詰所だろう。
俺は寝かされていたベッドから身体を起こす。
「おお、漸く起きたか…」
傍で立っていた団長がベッド近くの椅子に腰を掛ける。
「具合はどうだ?」
「大丈夫です」
「すまねぇな。申し少し早めに止めるべきだった」
HPゲージは満タンでデスペナはなし。
倒れた後、即座に法術師が回復してくれたのだろう。
入り口の方に顔を向けるとグリムを含んだ近衛騎士全員とマリアさん、そして法術師がいた。
「ありがとうございます」
俺は法術師に向けて礼を言うと無言だったが、少し笑みを浮かべて軽く会釈をした。
相変わらず目元は見えない。
「私の負けです」
グリムが傍までやって来る。
「これなら彼らも納得するでしょう。
勿論、私もです」
後ろで微妙に納得出来ていなさそうな複雑な表情をした2人の騎士へと振り返り言った。
「お、俺は納得出来ねぇよ」
「私もです」
「ほう、それは私が手加減したとかワザと負けたという事ですか?」
2人の騎士は俺を睨むが、グリムの一言で下を向き目を逸らした。
「そ、そんな事はないですよ」
「そうです。そうです」
「勝敗は僅差だったかも知れませんが、私は納得していますよ。
アルカディア皇国剣術を扱うに足る人物なのは間違いないですね」
「「グリム副団長!」」
2人の若い騎士は、彼の発言に驚く。
恐らく、今まで秘匿していた流派の名前が副団長であるグリムの口から漏れたからだろう。
「そうか。お前がそこまで言うなら構わんだろう」
2人とは対称的に団長は、流派の名前が出ても落ち着いていた。
マリアさんもうんうんと頷いていたが、あんたは寝ていただろうと言いたい。
「正直、最後のあの一撃を防いだ瞬間、俺様は教えても良いと思った」
そして、良い一撃だったと団長に頭を撫でられた後、小一時間経ったら流派を教えてくれるという流れになった。
話の切り所が難しいです




