第43話・手入れを怠ってはダメ
中央の大通りまで出て、そこから王城まで真っ直ぐなので10分程の時間で目的地に着いた。
しかし、ここからが問題だ。
流派を習得する場所がどこなのかが分らない。
エミリアさんの話から察すると騎士の寄宿舎などがある区画だと思うのだが、王城の敷地が広い所為もあり中々見付からない。
丁度、前から騎士らしき人が歩いてきたので声を掛けてみよう。
「すみません」
「ん、何だい?」
「剣術を教えてくれる場所を探しているのですが…」
「教えてくれる所?
……ああ、訓練所の事だね。僕の後ろにある入り口から王城に入って、まっすぐ行くと通り抜けられるからその先が訓練所だよ」
「なるほど。ありがとうございます。行ってみます」
一礼し騎士が教えてくれた入り口へ向かう。
騎士とすれ違った後、後ろで「あ」と何か思い出した様な声をあげる。
「行くのは良いけど、今そこで入団テストしているから時間掛かるかもよー」
親切に教えてくれた騎士へ俺は振り返り軽く会釈をする。
「がんばってねー」
王城の中へ入ると他の国家の建物との違いに俺は気付いた。
照明が松明や蝋燭ではなく、魔導具と言えば良いのかガラス球の中に火属性か光属性と思われる魔法力を閉じ込め照明器具としていた。
魔法力は常に細いパイプから供給されているらしく、いつでも照らす事が出来る様に工夫されている。
ゲームながら細かい演出だ。
王城の中を5分ほど歩き続けると騎士が言っていた様に外へ通じていると思われる外の光が見えてきた。
光の中を通り抜けると騎士寄宿舎と思われる巨大な建物によって三方を囲まれた巨大な運動場に出る。
そこには数十名の騎士と教官と思われる3名の騎士が練習に励んでいた。
そして、その横では木剣を使用した実戦方式の訓練が行われており、その脇には数名の人が並んだ列が出来ていた。
これが騎士の言っていた入団テストなのだろう。
「すみません」
列の近くにいた騎士に話しかける。
「はい、入団希望者ですか?」
「いえ、入団ではなく剣術を教えてくれると聞いて来たのですが?」
「ええ、こちらで出来ますよ」
「それと2つ流派があると聞いたのですが?」
「アルカディア王国剣術とエルスパーダ流剣術の2つがありますね」
「どういった剣術なのですか?」
「すまないね。剣術経験者は選べないんだよ」
教官騎士と思われる騎士が話に割り込んできた。
「つまり?」
「ここでテストしているのは素人達なんだよ。
で、君は剣術経験者だね?」
「はい」
「君の戦い方を見てから、こちらでどちらを教えるか決める事にしている。
2つは全く性質が違う流派だからね。そこの所を了承して貰えないだろうか?」
「…分りました」
「では、始めるか。
マルス、こちらのお嬢さんの相手をしてやれ」
数十名の訓練をしている騎士達の方に、教官が呼びかけると前列中央付近にいる騎士が訓練を止めこちらへ歩いてくる。
「教官お呼びでしょうか?」
「ああ、こちらのお嬢さんが剣術の教えを請いたいそうだ。お前が実力を見極めてやれ」
「はっ。私は構いませんが…」
マルスと呼ばれた騎士は、品定めするかの様に俺の見る。
まぁ、俺が言うのも何だが…分らんでもない。
それ以上に、相当腕に自信があるのだろう。
「ほんとに大丈夫ですか?」
「問題あるか?」
「いえ、問題なんてありません!」
「こっちも良いですよ」
教官騎士が後ろの方を見ると良いタイミングで模擬戦が終わった様だ。
他の騎士に合図をし、俺達を優先させてくれる事になった。
「君の得物は刀か…。
マルス、木刀の予備はあったな?」
「確か2本ぐらいどこかにあったと思いますけど…。
ちょっと待ってくださいね」
マルスは、騎士達の脇に置かれていた木箱の中を探り始める。
恐らくはあの中に木剣や木刀が入っているのだろう。
◆◆◆
「はぁはぁはぁ。あ、ありました…」
マルスが戻って来たのは探し始めて5分以上経ってからだった。
木箱の底にでもあったのだろう。
彼が持ってきたのは埃が被った木刀で使われた形跡が微塵もなかった。
俺はマルスから渡された木刀の埃を払い2・3度振ってみる。
軽すぎて違和感を感じるが、多分問題ないだろう。
夜月を騎士に預け、マルス共に中央へ向かう。
「ルールは簡単で、どこでも良いから先に当てた方が勝ちだ。
言っておくが、マルスはこれでも白騎士団の副団長をしている。
油断しない事だ」
騎士には色によってランク訳がされている。
白騎士は、中堅の上位辺りだろう。
副団長と言う事は、少なく見積もっても1ランク上の平団員程度の実力は備えている。
俺が剣術経験者という事もあって、彼が選抜されたと見て良いのだろうか。
木刀に鞘がない事もあり、抜刀術時の攻撃速度補正が+30%しかない。
速さが大分劣るが、補正が効かない木剣よりは幾分かマシだろう。
しかも、よく見ると模擬戦をするには問題のある項目に気付いてしまった。
だけど、もう今更換えてとも言える雰囲気ではない。
「構えて!」
俺は仕方なく木刀を左腰に持っていき、右手を添える様に構える。
マルスは、木剣を手首を中心に2回ほど振り回した後、剣先を後ろに持って行き左肩が前に来る様に構える。
彼の構えから盾を使用しない速さに重点を置いた攻撃的な流派だと予測する。
「はじめ!」
マルスが持っていた木剣から揺れが止まる。
そして、俺との間合いを詰めながら突きの構えに変化させていく。
彼の視線を辿ると剣先は俺の体の中心、丁度心臓辺りへ向けて突きをする様だった。
急所とはいえ当たり難い頭部を狙うより当たる可能性が高い。
しかも、抜刀術を除けば突きは最速の攻撃だ。
そう…抜刀術を除けば…。
速さに慣れた俺にはその突きさえもゆっくりと向かって来ている様に感じる。
俺は身体を半歩ずらし最小限の動きで突きを回避し一歩踏み出し右肩が当たる様にタックルする。
マルスは、突きの途中で体勢が崩れた為よろめき無防備となる。
(壱式抜刀術・凪)
俺の抜刀術をまともに脇腹へ喰らう。
しかも、斬撃ではなく打撃であった為、速度に乗った攻撃はマルスを後方へと吹き飛ばした。
そして、吹き飛ばした瞬間、木刀は砕け散る。
「それまで!」
《Name》腐りかけの木刀
《User》
《Rank》Junk
《Level》刀修練Lv1
《Base》打刀
《Effect》抜刀術攻撃速度+30%、与ダメージ分耐久値が減少
《Detail》手入れが全くされていない訓練用の木刀
過去に雨ざらしされていた形跡があり一部腐りかけている。




