第39話・むさ苦しい二人
蛇足になりそうだったので、1国分の旅を省略しました
※2/20…語句修正:ホビット⇒ハーフリング、加筆修正
「すみません。泉と花っていう酒場どこにあるか分りますか?」
「あぁん!?」
大通りから少し路地に入った所で蹲っているプレイヤーに声を掛けると少し切れ気味で振り返った。
「ちょっと待ってな。今、アイテム整理してっからよ」
すぐに顔を元に戻し、大き目の背嚢の中身を弄り出した。
俺の持っている背嚢よりも2回りから3回りの大きい。
恐らく、商人か職人プレイヤーだと思われる。
「ま、こんなもんだろ」
納得できる整理が出来たようで独り言を呟く。
「で、何だって?」
背嚢を背負い立ち上がり振り向く。
彼が背嚢を背負って気付いたのだが、背嚢の大きさが彼の体の3分の2ほどあった。
背嚢も勿論大きいのだが、それ以上に彼がハーフリング族のプレイヤーだと分る。
ハーフリング族の特徴として、少しだけ耳が尖がっている以外はほとんどヒューマと同じだ。
ただし、成長は15・6歳程度で止まってしまう。
彼の見た目も例に漏れず15歳前後なのだが、喋り方から結構な年なのかが分る。
どういうロールプレイなのかが分らないので確信はないが…。
「…あ、えーと、泉と花っていう酒場の場所、分りませんか?」
「ああ、分るぜ。お前さん達、この街は初めてか?」
「ええ、まぁ」
「そりゃ、仕方ねぇな」
俺とクロイツは、ブリトニアを出発しノースアルカディア王国を経由して今日サウスアルカディア王国の王都アルケードに着いた。
アルケードに到着した最初の第一印象は”なんだこりゃ”だ。
俺達が入った巨大な門から何となくそういう雰囲気が漂っていたのだが、入った瞬間に他の街とは大きく違っていた。
言うならば、西洋文化と近未来文化の融合だ。
ノースアルカディア王国は『魔科学』が発展した国家なのだが、正にアルケードは『魔科学』の結晶と言った感じだろうか。
大通り周辺は西洋文化の方が多い気がするが、王城や遠目に見える大きな建物はビルと言っても差し支えがない程近未来的デザインだ。
ログインする前に絢華に連絡を取り、いつも集まっている場所を聞くと絢華の答えが「大きな建物が目印」とか言っていた。
それじゃ分りやすいな…なんて思ったのだが大きな建物ばかりでさっぱりという状態だった。
仕方なく暇そうな彼に聞いたのだが、アイテム整理中だったとは…。
「ま、俺っちもそこに用事あるし連れて行ってやんよ」
「あ、ほんとですか?有難うございます」
「でだ。一軒寄るとこあんだけど良いか?」
「全然大丈夫です」
連れて行ってくれるだけでも有り難い。
「おっと、名乗ってなかったな。俺っちは、アレキサンダー=アームストロングだ」
見た目に反して名前がゴツかった。
と言うより、長い!
絶対に周りからは名前が略されて呼ばれているだろうな。
「あ、すいません。声を掛けたのはボク達が先なのに…」
「構わねぇよ」
「ボクの名前は、アキラ=ツキモリです」
「クロイツ=フェアフィールドだ」
「おう、宜しくな。お二人さん…。ん?…まぁ良いか」
何かに気付いた様だが大した事ではなかったらしく、そのまま何事もなく目的地へ向かって行った。
◆◆◆
その後、大通りを左に曲がり職人プレイヤー達の工房があると思われる区画に入っていく。
工房には統一感はなく大きさも形も疎らなので、NPCの工房とは違うと思う。
「ちょっち、この工房に用があるんだが…お前さん達も来るかい?」
指差した工房は、表がこじんまりとした良い感じに小奇麗なのだが、その後ろの作業場と思われる建物は黒光りした厳つい感じだ。
「良いのですか?」
「問題ねぇよ」
引き戸と思われる扉を豪快に開け中へ入る。
「失礼するぜ」
「お邪魔します」
「…」
中に入るとそこはアームズの製造を行っている店舗兼工房だった。
と言っても入った所は、店の様な感じでカウンターやらアームズが入ったショーケースなどあった。
そして、カウンターの中には美人なお姉さんが立っている。
「いらっしゃいませ。今日はどういったご用件でしょうか?」
「ブランドの奴はいるか?」
「………」
カウンターの中にいるお姉さんは、NPCの様で定型文での会話しか反応しない。
こういう売買や事務などを代行するNPCには単純なAIしかなく、ベルフェゴールの城にいたヴェル達の様な反応は返ってこない。
なので、こういう場合は「ブランドを呼び出す」と言わなければならない。
もうちょっと感情的にしても良いだろうとは思うが、OS社ならやってくれると期待している。
「あ~、めんどくせぇ。お~い、ブランドいるか?いるだろ?いるよなぁ?」
まぁ、こういう風に直接大声で呼びかける方が手っ取り早い。
「だぁー!うるせぇ!作業に集中できねぇだろうが!!」
奥の工房から出てきたのは、声のイメージ通りドワーフ族のプレイヤーだった。
背丈はアレキサンダーさんとほぼ同じぐらい。
上半身は裸で下半身はジーパンの様なズボンを履き、細身の槌を担いでいた。
細身の槌と言っても、十分武器としても使える大きさだ。
「まぁ、そんな事はどうでも良いからよ。頼んでいたもん出来たか?」
「どうでも良くないわ!…って、例のやつか…まだだな。後2日は掛かる」
ブランドと呼ばれたプレイヤーは、アレキサンダーさんと会話しながらも視線はこちらに向いていた。
「ところで、この2人は?」
「ああ、この「もしかして、客を連れて来てくれたのか?」…ちげぇよ。
泉と花に用があるらしくてな。案内しているところだ」
「なんだ…違うのか…」
むさ苦しいおっさんがショボンとするが、決して全くこれっぽちも可愛くはない。
そして、顔を伏せた彼の視線がクロイツの銃に向けられている事に俺は気付く。
彼の口元がニヤリとしたのは気のせいだろうか。
「おい、あんた。銃使いか?」
ブランドさんは、クロイツの両肩をがっしりを掴み、むさ苦しい顔をこれでもかと近付ける。
「え、ああ、まぁ、そうだ」
クロイツは、若干引き攣った表情になる。
「どうだい?俺様のアームズは?欲しくならねぇか?」
「あ、いや、特に…」
そう言えば、クロイツはノースアルカディアの王都カディニアでショットガンを新調し金がなかった筈だ。
新調と言っても正味、俺には同じソードオフショットガンにしか見えないが…。
「だああ。アームズと言ったら銃の頂点だろうがよ。
安くしとくからよ。買ってみねぇか?」
アームズは、他の銃と少し違うのだが用途は同じ武器だ。
違う言い方をすれば『魔導銃』といった感じだろうか…。
そもそも、サウスアルカディア王国で『魔科学』が進んでいるのは、古代遺跡からアームズが結構な頻度で発見されているからという設定だ。
銃は金属の弾を射出するが、アームズは魔法の弾を射出する武器で見た目がグレネードランチャーっぽく1発撃ってリロードという感じだ。
第二形態以降のパニッシャーもアームズのカテゴリーに入る。
まぁ、あれはリロードを必要としないが…。
ブランドさんが言う様に世間一般的にアームズは銃の頂点と言われている。
E/Oでは戦争がまだ実装されていないが、前作のUO2では戦争の時アームズが戦況をひっくり返す事が時々あった。
アームズ自体、非常に高価で中々入手出来なかったのであまりない事例ではあるが…。
ただ、E/Oではアームズが比較的簡単に入手出来る様だし、今度はアームズありきで戦術を考えないといけないだろうな。
「ああ、いや、ちょっと「その辺でやめとけって」」
恐らく「金がないので…」と言おうとした所でアレキサンダーさんが横槍を入れる。
「ブランドは、こうむさ苦しい顔してるだろ。その上、押しも強いんで客がいつも逃げちまう」
「はぁ」
「むさ苦しいとは何だ!」
「だから、販売代行のNPCを雇えとか助言したり、俺っち自身が代行してやったりしてんだよ」
「へぇ」
口は悪いが面倒見の良い人みたいだ。
「要するに、いらねぇ時はいらねぇって言えよ。こいつ、しつこいからよ」
「いらないと言うか、金がないんですよ」
「なんだ。そっちか」
「金がねぇんなら仕方ねぇな。出来たらまた来いよ」
だっはっは、と笑いながらクロイツの背中をバンバン叩いている。
背中の痛みに耐えている姿を見て俺は同情した。
パニッシャーを異次元の方へ放り込んどいて良かった。
もし、ホルスターなどを買って装備していたら俺にもこの矛先が来ていただろう。
「それとアームズにも興味ないので…」
「ぬわぁにぃ!?」




