第36話・押し売りフレンド
せっかくだから、新しく出来てしまった道を使ってカフカスク=グリタニスク街道へ向かおう。
「おいおいおいおい、何だ?さっきのは…」
街道の方がプレイヤーらしき人が辺りの状況に困惑しながらこちらへやってくる。
見られたかな?
「なんだこれ!?」
『ディバイン・パニッシャー』で大きく地面を抉れている所やスノーウルフの死骸が一部しか残っていない惨状を見て驚きを隠せないでいた。
まぁ、俺でもこんな惨状を見たら驚くと思う。
「って、あれ、ゴーレムは?」
そして、ゴーレムだけが見当たらない事に彼は疑問を持ったようだ。
「えーと…」
「君が…倒したのか?」
「…まぁ」
「な訳ないか…。確か俺を助けてくれたのはセレスティアっぽいしな」
やっぱり、助けた傭兵のプレイヤーか…。
てっきり、逃げたものと思っていた。
気配察知で遠くの方にいたプレイヤーの反応は彼だったのか。
射線上にいない事だけしか確認していなかったので待っているとは思っていなかった。
このまま気付かないでいてくれると後々面倒にならなくて良い。
「……」
傭兵の男は俺の顔をじっと見て何やら考えている。
もしかして、気付かれた!?
「すみません。先を急いでいるもので…」
「ん?あ、ちょっと待ってくれ。君ってもしかして俺を助けてくれたセレスティアの人?」
「え、あ、いえ」
「違わないよな?確かに目の色とか髪の色は違うけど。それ以外はそっくりだ」
「……」
「あ、いや、だからと言って君をどうこうするつもりはないから警戒しないでくれ」
「そうですか。なら、これで失礼します」
セレスティア…いやネフィリムと言う事で、物珍しさだけでフレンドになりませんか?なんて事になると付き合いが面倒だし、トラブルに巻き込まれるかも知れないなので傭兵の男がその先を言う前に立ち去ろうと思う。
実際、利害でフレンドになってもそれは表向きだけで要するに利用されるという事だからな。
「…って、あれ?」
傭兵は、その場を立ち去っていた俺を慌てて追いかけ立ち塞がる。
「何か?」
俺は少し苛立ちを見せながら用件を問う。
「先ほども言ったけど、君がセレスティアだったからとどうこうするつもりはないよ」
彼の言葉を無視して街道方面へ向かう。
「って、ちょ、ちょとだけ聞いてくれ。
…颯爽と空から舞い降りゴーレムに追われている所を助けてくれた君は俺にとってヒーローだ。
あ、ごめん。ヒロインだ」
「だから?」
こいつ、何を言っているんだ?
「一目惚れ…」
「はぁ?」
「一目惚れなんだ。リアルでもE/Oでもここまで心を惹かれたのは初めてだ。
という事で、結婚を前提に俺とフレンドになってくれませんか?」
「………」
えーと、つまり、要するに…簡潔に言うと求婚された?
ゲーム内とは言え…アバターが女キャラとは言え、男と思しきプレイヤーから初対面なのに?
はは、まさかな。
「…あ、ごめん。もう一度言って?」
「俺とフレンドになってくれませんか?」
「もう少し前…」
「結婚を前提に」
やっぱり、聞き間違いでも幻聴でもなかった。
ちなみに結婚とは、勿論ゲーム内での話だ。
すでに承知の事だと思うが、E/OはUO2のシステムを踏破したゲームだ。
だから間違いなくE/Oにも結婚システムが存在する。
結婚システムは、世代交代や血の記憶システムに大きく関わっている。
次の世代でプレイする為には前段階の結婚が必要なのは分るだろう。
だからと言って、唯単に次のキャラを作る為だけではない。
次キャラ即ち現キャラの子供キャラは、両親キャラの才能を引き継ぐ。
初期ステータスは、両親のステータスのどちらか数値の高い方を割合で引き継ぐ。
まぁ、能力の特徴を受継ぐと思って貰って良い。
最初のキャラは、全プレイヤーで差異はないが次キャラはプレイヤーによって差異が生じる。
両親キャラを2人分合わせてスキルレベルの高いスキルの因子を引き継ぐ。
大体、半分以上…即ち最大スキルレベルが100ならLv50以上の全スキルの因子を引き継ぐ事になる。
世代を重ねる度に因子が蓄積されていくという訳だ。
因子と言うのは次キャラが生まれ持った才能の開花率と思って貰って良い。
『○○の才能』や『○○の適性』などがそうだ。
また、それらのスキルに関連した特殊スキルの習得にも関わっている。
例えば、『第六感』『魔法剣』『心眼』『両利き』などがそれに当たる。
そして、先祖返りもそれらに含まれている。
俺で言うネフィリムとしての能力だ。
恐らく、今後ネフィリムでプレイする事は皆無だろう。
しかし、アキラで習得したスキルの因子は今後のキャラ全てに受継ぐ。
確率的に極僅かだったとしても受継ぐのだ。
9割9分ヒューマの血だったとしても確実に因子は含まれている。
これが血の記憶というシステムだ。
なので唯単に次キャラの為に結婚するのではなくて、優れた血を残す為の結婚となる。
余談だが、キャラの見た目も両親の特徴を引き継ぐ。
が、このプレイヤーがどういう人物でどういったプレイスタイルなのかが分らない以上結婚なんて有り得ない訳なのだが…。
それに、自分が言うのもなんだが俺の因子は結構レアだと思う。
それを踏まえて簡単に結婚なんて出来る訳がない。
「なんで?初対面だし、名前も知らないし…」
「あ、ごめん。名乗ってなかったな。
俺の名前は、クロイツ=フェアフィールド。
見ての通りヒューマで傭兵をやっている。
でだ。確かに俺は君の名前は知らないし名乗っていなかったけど、一目惚れに理由なんているのか?」
「……」
多分、一目惚れに理由はいらないだろう。
した事もされた事もないけど…。
大学では彼女がいたけれど一目惚れとかではなかった。
まぁ、それは取り合えず置いておいて…だ。
「だからと言って、いきなり結婚と言われても困る」
「それはそうだ。だから、俺とフレンドになってくれませんか?」
クロイツは、笑顔で右手を差し延ばす。
「……えーと、名前を教えてくれない?」
「………アキラ=ツキモリ」
「アキラちゃんか。良い名前だね」
「そう?」
E/Oでのフレンド登録は、左右どちらかの手をお互い差し伸ばし握手をして「フレンド申請」と言えば行う事が出来る。
そして、お互い「よろしく」と言えば完了だ。
実は肯定的な返事なら何でも完了したりするのだが、日本語に翻訳される場合「よろしく」がデフォルトのようだ。
どうしようかな…。
断っても諦めてくれるような雰囲気ではないし、ストーカーとかになられても困る。
ネットの世界も現実と同じでストーカーなどのハラスメント行為は悪質なのは今も昔も変わらない。
特にリアルが分らない同士なのでやりたい放題だ。
昔と違いGIDによる紐付けのお陰でリアルの特定が簡単に行える事やE/Oのプレイヤーは全員18歳以上という事を差し引いてもだ。
MMOでのハラスメント行為はログインする気が失わせる。
そう言うのは真っ平御免だ。
まぁ、クロイツがそういう輩とは限らないが…。
俺は諦めて右手を差し伸ばす。
「フレンド申請」
クロイツが言ったほぼ同じタイミングで画面中央に【フレンド申請:クロイツ=フェアフィールド⇒アキラ=ツキモリ】と表示される。
「「よろしく」」
ピコンという電子音と共に【クロイツ=フェアフィールドがフレンドに追加されました】と表示され、しばらくして消えていく。
「よっしゃ!それと…パーティ申請」
クロイツは、握手していない方の手でガッツポーズを取る。
喜び過ぎだろ…。
握手しっ放しで、次は【パーティ申請:クロイツ=フェアフィールド⇒アキラ=ツキモリ】と表示される。
「俺の事をよく知って貰う為に一緒に冒険をしよう?」
※作者の力量上、本作の恋愛要素はほぼ皆無です。
これ以降ラブコメに発展する事はありません。




