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E/O  作者: たま。
oβ・フレンド
38/94

第33話・雪原の追跡者

「はい、承りました」


アドランテ滞在2日目、俺はログインし宿屋を後にして傭兵ギルドへ向かった。

アドランテの傭兵ギルドは、ゴルディアとは違い支店ではなく出張所となっていて規模は大分小さい。

店舗は露店並の規模で金銭のやり取りはされず、クエスト受領と報告のみで金銭の受け渡しは支店でのみ行われる。

報酬の受け渡しは国家を問わず支店ならどこでも良いが、依頼人が国家や騎士などが関わる依頼に関しては受領した国家のみとなる。

という事もあり、俺はサウスアルカディア王国までの道中で傭兵ギルドからクエストを受け次の街で報告するを繰り返している。


今回受けたクエストは、スノーウルフの討伐だ。

スノーウルフは、ロードグリアード連邦領内ではどこでも見かけるMobで10匹程狩れば良い。

強さに個体差はあるが、大体は初心者プレイヤーに適したMobと言える。

特別な能力がない代わりに、体毛が真っ白なので国土の8割が雪に覆われているロードグリアードでは迷彩色となっており発見が難しくなっている。

街道沿いは然程襲われる心配はないが、時折街道沿いで商隊を襲うなどして被害が出ている事で知られている。

また、森林などはスノーウルフの棲家である為、採取クエストでも危険が伴っている。

逆に言えば討伐クエストで狩る対象に困らない上に、スノーウルフは年中討伐依頼が出ている反復クエストだ。

ちなみに、スノーウルフの体毛で作られた毛皮のローブはロードグリアード連邦での特産品の一つとして知られている。

耐寒効果は抜群で書く言う俺も雑貨店で一枚購入している。

というか、ロードグリアード連邦やカルディア王国で旅をするなら必需品と言っても過言ではない。

まぁ、五感が実装された事による弊害と言っても良いと思う。

アドランテの街は、寒さ対策にあちこちで魔導ストーブが設置されている為、寒さを感じないが一度外に出ようものなら持続ダメージで凍死出来る寒さだ。

それに、スノーウルフの毛皮は移動に制限が少し掛かる代わりに防御力の増加値は結構高いので防具としても悪くはない。


「討伐の証拠としてスノーウルフの尾を持ち帰って下さい。

また、痛んでいない毛皮なら1枚50Gで買取もしています」

「痛んでいない毛皮って、どういったものなのですか?」

「毛並みの綺麗なものですね。汚れは気にしなくても良いですよ」

「分りました。有難うございます」


俺が受付もとい出張所を立ち去るタイミングとほぼ同時にプレイヤーらしき傭兵とすれ違う。

ゴリアテ王国のゴルディアで魔王討伐感謝祭が行われてるのでロードグリアードからゴリアテに向けての人の行き来が結構頻繁にある。

逆にゴリアテからロードグリアードに向かうプレイヤーはあまりいない。

俺がいるのはロードグリアード側の出張所なので、プレイヤーとすれ違うとは思わなかった。

見た目だけならNPCと見分けが付かないが、プレイヤーの装備はNPCと比べてレア度の高い装備や組み合わせが特殊なので結構分ったりする。

先ほどすれ違った傭兵は、銃身を切り詰めたショットガンの2丁持ちだったので間違いないと思う。

クエスト掲示板を眺めている傭兵はNPCだと思う。

何故なら、長剣と盾というオーソドックスな組み合わせな上にノーマル品の構成だからだ。

まぁ、プレイヤーでも長剣と盾の組み合わせがいない事もないが、どちらか一方はレア度の高い装備か低い装備という事が多い。

つまり、装備品のレア度が統一していないのはほぼ間違いなくプレイヤーだ。

NPCは、レア度が統一している上に装備の見た目も纏まっている。

だからと言って、全てのNPCに当てはまる訳でもないが…むしろ、E/OではプレイヤーとNPCを分けて考えなくても良い感じだ。

何故なら、NPCにも生活サイクルがあって、NPCの傭兵ならプレイヤーの傭兵と同じようにクエストを受けて仕事を請け負っている。

たまたま受けたクエストの同伴者がNPCだったというのは、よくE/Oスレで話題に出る。

「愛想があまりないと思ったらNPCだった件」という感じで…。

それ以外にも「告白したらNPCだった件」「副団長殿がNPCだった件」などレスもあったな。

重要な役割のないNPCでも、ぼっちプレイヤー以上の仕草がある為勘違いする事があるようだ。

まぁ、俺はハイア達を見ているのでプレイヤーとNPCを区別するような事はしない。

と言うより、見分けがほぼ付かない言った方が正解に近いな。


アドランテの街の構造はメインストリートを直進すれば国境線の入り口である関所に辿りつくようになっている。

その為、少し外れるだけでプレイヤーの人数はガラっと少なくなる。

逆に言えばメインストリートに行けば、かなり混雑した状況と言える。

俺は傭兵ギルドの出張所からメインストリートへ向かった訳だが、ゴルディアには遠く及ばないとは言え人の多さに驚いた。

ゴルディアへ向かう人々をターゲットとした露店がちらほら見受けられるが、俺の興味を引く程の品揃えでもなかった。

確かに安いのだが、どう見ても売れ残りだなと思うアイテムばかりだった。


アドランテの街から見える外の様子は正に別世界で真っ白なフィールドが見えている。

流石にアドランテ周辺の地面は暖気で雪が解けている為、茶色い地面が見えているが、50mも歩けば雪化粧で真っ白だ。

俺は背嚢からスノーウルフのローブを取り出し身体に纏わせる。

暖かい…と言うより暑い!

耐寒効果は抜群の様なので俺はアドランテの街を後にする。



★★★



アドランテの街を後にし、数分歩くと右には海岸線左には森林と何とも退屈な景色が続いている。

勿論、海岸線と言っても海面は氷で厚い覆われている。

クエストのスノーウルフの討伐は10匹狩れば達成なので、態々森に入ってまで探す必要はないと思う。

次の街であるカフカスクまでは、結構な距離があるので、道沿いを歩いているだけでも達成出来そうな気がする。

着いた時、もし討伐数が足らなければ近くの森へ入れば良いだろう。

と言うよりも2、3日程度では着かないぐらいの距離なのでその間に出会わないなんて事はない筈だ。


俺が今歩いている街道は、次の行き先であるカフカスクまでほぼ一本道だ。

平坦な土地な事もあり、道は石畳で綺麗に舗装されている。

そして、等間隔に街灯がある為、夜であろうと比較的安全に旅が出来るようになっている。

道を行く人は疎らだが、逆方向のゴルディア行きと思われる荷馬車が数台擦れ違っている。

ちなみに、荷馬車を引いているのは、ロードグリアード連邦で最もポピュラーなスノウホースと呼ばれている馬系の騎乗生物だ。

鬣が非常に長く毛皮を着ているかの様な姿をしている。

馬力はあるのだが少々鈍重で、身体が大きくどっしりとした威厳がある。

鈍重ではあるが、人の徒歩に比べれば遥かに速い。


「はぁ、乗り合い馬車に乗れば良かった…」


彼是3時間、ずっと雪景色が続いており変わり映えのしない景色に俺は飽きてきていた。

当たり前とはいえ、人と擦れ違ったところで挨拶はしないし、スノーウルフどころかMob一匹すら出現しない。

刺激が全くないのだ。

こうなるのなら、乗り合い馬車で次の野営地まで行き、そこから徒歩にすれば良かったと今更ながら思っている。

前述したがカフカスクまで2、3日程度の距離ではなく恐らくは4、5日は掛かる距離だ。

まだ、3時間ほどしか歩いていない現状、残りの時間が非常に面倒になってきた。


「そうだ。次の野営地まで走ろう。うん、そうしよう」


ちなみに、これは独り言だ。

あまりにも退屈過ぎて思わず声に出てしまう。

別に話相手が欲しいという事ではないので悪しからず…。


俺は全力ではなくそこそこの速度で走る。

ゴルディアに入った際に、スキルを数個新たに取得した。

その一つが『所持Lv1』だ。

れは限界所持量を超えた際のSPスタミナポイントの減少緩和とダッシュ時のSP減少緩和との事だ。

限界所持量が適用される際の1歩歩いて1SP減少という意味とダッシュ時の1歩走って1減少という2つの意味がある。

まぁ、Lv1の段階だとスキルがない状態と同じなのだが、使わないと成長しない。

2つ目が『野営Lv1』だ。

野営地でのテントを張る時間や野営地でログアウト出来るまでの時間などに影響する。

取得してから数回使用したが、流石にレベルは上がっていない。

後は『分析Lv2』『気配察知Lv2』やら『気配遮断Lv1』新たに取得しているが、今はあまり関係ないので後々説明する。


つまり、景色に飽きてきたし『所持Lv1』を鍛える為にも取り合えず走ろうという事だ。


E/O内のプレイヤー然り一般人でさえリアル地球人よりも身体能力が総じて高いという設定だ。

一般人の身体能力=リアル地球人のプロ格闘家や陸上選手と思って良いだろう。

何を良いたいかと言うと、ダッシュでの1歩が広いと言う事だ。

俺のSPの上限はそんなに高くはない。

精々百数十歩走っただけでガス欠になるのだが、その百数十歩も相当な距離を稼げている訳だ。

ガス欠になったからといって何も出来なくなる訳ではなく歩く事ぐらいは出来る。

流石に、所持限界を超えていた場合は歩く事が出来なくなるが、今はそういう状況でもない。

なので、普通に歩くよりは相当時間を短縮出来る。

もしかしたら、次の野営地に着く頃には『所持Lv2』になってるかもしれないしな。



さて、走ってはガス欠を2回ほど繰り返している訳なのだが、どうも俺と着かず離れずで着いてきている存在があるようだ。

『気配察知』スキルに反応しているのだが、俺のスキルレベル的に恐らくは同レベル帯か以下のレベル帯のMobと思える。

全部で3体、あまりにも正確に俺の速度に合わせて走っているので、プレイヤーではないと思う。

と言うより、PKが実装されていない現在、プレイヤーが俺をトレースするメリットがない。

まぁ、Mobと言っても盗賊NPCの確率もない訳ではない。

俺的にはスノーウルフだと喜ばしいな。

と言うか、SPが尽きる前に立ち止まろうと思う。

ついでに言うと、この速度からして立ち止まって振り返るタイミングとほぼ同時に後ろの追跡者の正体が分る筈だ。

そこから、次の行動を考えても遅いという事も恐らくないと思う。

まぁ、流石に悠長に事を構える程の時間はないが…。


『急制動』


俺はスキルで急停止したと同時に振り返り、腰に差した夜月に右手を添え抜刀術をいつでも出せる状態で待ち構える。

雪が降り注ぎ視界が悪いが、向こうの方から一定の息遣いと複数の足音がだんだんと近付いてくる。

そして、先頭のMobが見え、それがスノーウルフで間違いないと俺は確信する。

タイミングを計っていたが、俺はスノーウルフのローブを着込んでいる事に気付く。

ああ、誤解しないでも貰いたいのは、俺が同類と思われて追跡されていたという事ではない。

ローブを着たままだと抜刀術がし難いという事だ。

という事で俺は攻撃をする為にローブを仕方なく脱ぎ捨てる。


「さっぶ!?」


無茶苦茶寒い。

洒落にならない。

もう、襲って来るのを待つのが嫌になった。

俺はまず先頭にいるスノーウルフに狙いを定める。

結構大きな狼だ。

先頭を走っているという事からも後の2匹よりも強いのだろう。

スノーウルフは俺の手前3m付近で踏ん張って跳び襲い掛かって来る。

やはり、野生の存在だ。

この状態だと飛びつくまで他の行動は出来ないだろう。


『壱式抜刀術・凪』


俺は『縮地法』を使わず、その場で抜刀術を繰り出す。

大きく開けた口へ夜月が難なく斬り込んで行く。

そして、そのままスノーウルフの身体を横に一閃していく。

次は、戦闘態勢にも入っていない後ろの2匹に対してこちらから迎え出る。

都合の良い事に3頭のスノーウルフは綺麗な一列になって走ってきていた。


『縮地法』

『肆式抜刀術・旋風』


擦れ違い様に2頭目を一閃し、抜刀の勢いそのまま一回転し3頭目も一閃する。

縮地法を使用した事で2頭のスノーウルフは反応出来ず無抵抗のまま死亡する。


次は、スノーウルフの毛皮を剥ぐ作業だ。

と言っても、グロい事はしない。

死体に刃物を当てる事で剥ぐ作業は完了する。

しかも、綺麗な毛皮なのかそれ以外なのかは、剥ぐ作業に入った所で判定されるので戦闘結果には影響されない。

簡単に言えば、一刀両断だろうが首を切断だろうが採取で取れるアイテム同じだという事だ。

流石に18禁のゲームだからといって必要以上にグロ要素は必要ないし、そういう手間は面倒だ。

とは言え、取れるアイテムには結構なバラ付きがある。

例えば、今回採取した綺麗な毛皮だが、これには(大)(中)(小)の3種類が存在し、クエストによっては(大)だけ必要だったり買取だったりする。

今回は初心者から中級者用の反復クエストなのでサイズ不問だ。

で、計3頭から毛皮を剥ぎ取った訳だが(大)が2枚で(中)が1枚だった。

まずは、3匹…残り7匹だな。


一通りの作業が終わったので、俺は地面に投げた毛皮のローブを拾いに行った。

全然ストックが増えていません。

しばらく、鈍足投稿が続きます

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