第３２話・2ndプロローグ

ゴリアテ王国王都ゴルディアを出て早２週間…リアルで言えば約２日経過しようとしていた。

―――さて、俺は今どこにいるのでしょう…。

答えは、まだゴリアテ王国でした。

はは、Ｅ／Ｏの世界はデカイ！！

リアル地球の３分の１の面積だったか…。

Ｅ／Ｏの人間はリアルよりも身体能力が高いとは言え、流石に２週間では抜け出せないという事だな。

それにリアル時間１日ほど間が空いているし、一睡もせずＭｏｂ狩りやクエストも無視していればとっくにゴリアテ王国は抜け出せていただろう。

まぁ、同じゴリアテ王国とは言え国境の街にいるので、もうすぐ隣国に入れるのは間違いない。

国境の街アドランテは、ゴリアテ王国とロードグリアード連邦に跨っている街である。

街の中心に国境線があるという事だ。

結構大きな町で、王都に負けないほどに施設が充実している。

特徴的なのは、ゴリアテ王国の文化とロードグリアード連邦の文化が混ざっているところで、ＮＰＣの着ている服から建物の様式まで多種多様に渡っている。

また、他の街と違い領土争いによる戦争には無縁の街で中立都市として栄え大きな発展を遂げている。

今夜はアドランテで１泊した後に国境を渡るつもりだ。

傭兵は、関所をフリーパスで通過する事が出来る。

とは言え、全ての国という訳ではなく、傭兵ギルドのある国に限られる。

ＵＯ２時代は、傭兵ギルドのない国があったがＥ／Ｏになってからはどうなっているかは知らない。

まぁ、恐らくだが魔王の支配領域になっている所は一時的に通れなくなっていると思う。

態々、クエストを通してでないと入れないぐらいだしな。

そう言えば、アドランテに着いてしばらくした後、次の魔王が討伐されたというアナウンスがあった。

討伐されたのは『暴食の魔王ベルゼバブ』だ。

アグノス王国にて討伐されたらしい。

それによって、『睡眠システム』『空腹システム』『料理レシピの大幅追加』『マニュアル調理』が解禁された。

解禁されたシステムが結構厄介で、睡眠や食事を取らないとキャラの体調が悪くなる。

今までは睡眠や食事を取らなくても別に大した弊害はなかった。

強いて言えば、料理による成長ボーナスが得られない程度で大した事はなかった。

まず、最低でも３日に１回は睡眠を取らないとステータスやスキルが最悪半減する。

１日に１回睡眠を取っていると逆にステータスやスキルにボーナスが付く。

まぁ、簡単に言えば体調が良いと悪いの違いと言えば良い。

数値的には大した差はない…が、あまりにも睡眠を取っていない状態だと前述した通り半減してしまう。

もう、睡眠＝ログアウトや時間経過だけではなくなったという訳だ。

空腹システムは、逆に言えば満腹システムでもあるのだが、一番影響するのは自然治癒能力だ。

基本的にＨＰ・ＳＰ・ＭＰはしばらく何もしていないと自然に回復するようになっている。

それが空腹の状態が続いていると回復し難くなり、最悪回復しなくなる。

それだけではない。

スキルの成長にも影響する。

空腹ゲージが３分の２以上だと、成長にボーナスが付く。

３分の２以下だとボーナスはなく、０だと成長しない。

これにより食事が意味をなす行為だと言う事になった。

料理レシピの大幅追加も凄い事になっている。

何が凄いかってのは、つまり国家毎地域毎に料理が追加されているところだ。

その代表が郷土料理だ。

今まで何となく地域分けされているかな？って思える程の微妙な差しかなかったのが明確化された訳だな。

マニュアル調理ってのは、簡単に言えばレシピのない料理って事だ。

つまり、漢の料理や海の漢の料理っていう大雑把な料理を作れるようになった。

マニュアル調理の良い所は、『料理』スキルがなくても作れる所だろう。

これで作られた料理のボーナスは完全にランダム化されているという話だ。

つまり、マニュアル調理で作られた料理は、同じ手順同じ分量同じ材料で作られたとしても毎回効果が違う。

当然、ランダムなのでマイナス効果が付く可能性もある。

一種の賭けだな。

でだ。

俺は今、宿屋で食事と睡眠を取る為に１泊という事で案内された部屋にいる。

そう言えば、アイさんと別れた翌日に装備を新調した。

アイさんから貰った装備とはまた違う装備で、ユーゴ＝アップルという服飾師プレイヤーから購入した。

ちょっと、デザインがファンタジーっぽくないのだが性能は間違いなく良い。

ぱっと見て布製の装備なのだが、ミスリル銀製の細い糸が織り交ぜてあってチェインメイルの様な用途で使用出来る。

勿論、そのままチェインメイルの様には使用する事は出来ない。

基本、布なので過信は出来ないからだ。

それと予備武装も購入した。

プレイヤーの行商人から購入した武器なのだが、これが結構良くてレア級の打刀だ。

遺跡で発見されたトレジャーアイテムらしく、レア級の割には特殊効果が悪くはない性能だ。

名称は、名刀夜空で属性が闇かつ振るうと刀身が見え辛くなる特殊効果が付いている。

まぁ、普通と言えば普通の性能なのだが、洒落ていて俺は好きだ。

パニッシャーは予備武装としては心許ないので、『封神具召喚』の亜空間に放り込んである。

むしろ、銃スキルに必須とされる才能スキル『第六感』はないし、銃関連のスキルを取る余裕がないのが現状だ。

以前からあったシステムで、魔法・技のカスタマイズってのがある。

スキルと同じで魔法や技にも熟練度があって、それが一定値に到達するとカスタマイズ（成長）が出来る仕組みになっている。

魔法は取り合えず横に置いておいて、技のカスタマイズなのだが俺がよく使う凪や朧が対象となっている。

これは流派のカスタマイズにも大きく関わっていて、掛け合わせた流派の技特性を現在流派に反映できる。

とは言え、現在は掛け合わせた流派はない為、基本的なカスタマイズのみとなる。

基本的と言うのは、簡単に言うと…長所を伸ばす・短所を改善させる・コストパフォーマンスの向上ぐらいだ。

で、これを凪や朧に当てはめるとどうなるか…。

秋月夢想流の中での基本技みたいなもので別に長所も短所もある訳ではないので、俺はどちらもコストパフォーマンスの向上に割り振った。

まぁ、コストパフォーマンスと言ったものの、簡単に言えば消費ＳＰを減らすって事だな。

ちなみに、全部で３段回カスタマイズが出来、今は１段回目だ。

このカスタマイズと流派の掛け合わせを繰り返す事で自分唯一の流派を作り出す事が出来るのが、Ｅ／Ｏの特徴と言って良いだろう。

ちなみに、掛け合わされる流派は限界までカスタマイズしておくと、１度だけ流派の掛け合わせが出来るようになる。

掛け合わせた流派は限界まで極めてようが手付かずだろうが良いのだが掛け合わせると消えてしまうので注意が必要だ。

そして、掛け合わせると掛け合わせた流派が消える代わりに自流派へ昇華するという事だ。

出来上がった自流派は、そのキャラ唯一のものになる。

なので、世代交代すると、その自流派にまた他流派を掛け合わせが出来るようになる訳だ。

勿論、どちらも限界までカスタマイズしなくてはならない。

これを何度も何度も繰り返す事で何世代か後のキャラが使う自流派はとんでも流派に仕上がる仕組みだ。

その為には、短命種族を使い続ける必要がある訳だ。

これが短命種族に拘る理由の１つだ。

ちなみに、もう１つの理由はＥ／Ｏの根幹システムである”血の記憶システム”なのだが、これはまた機会があれば話そう。

余談だが、他流派を掛け合わせた流派のカスタマイズ項目には例えばだが…

武器を振ると真空波が出るとか斬鉄効果を与えるとか追撃要素が加わるとか色々ある。

モーションさえ変化して全く別の技になる…って事もありえる。

事例は少ないがＵＯ２時代に何件か報告されている事だ。

まぁ、少なくとも悪い方向へ変化する事はほぼないと想う。

ああ、それとだ。

Ｅ／Ｏ総合スレを見ていたらアイさんの書き込みがあったのだが、俺とは全く逆の方向へ向かったっぽい。

リアルで例えると俺が南アメリカ大陸へ向かっていて、アイさんはヨーロッパの方へ向かっている。

恐らくは当分…いや、オープンβ中会う事はないかもしれない。

そして、アヤカについてだが、絶賛魔王討伐の為にメインクエストを攻略中らしい。

以前、見たＥ／Ｏ総合スレの『噂だけど、メルディオ王国の『魔王城への侵入』へ入っているＰＴがあるらしい』という

書き込みはアヤカ達の事ではないかと俺は予想している。

確証はないのだけど、攻略中なのは間違いない。

さて、寝る前にメシを食いに行くとしよう。

実装以前はほぼ牢屋くらしと見るからにマズイメシだったので食事はほぼしていなかったが、

味覚と空腹システムが実装された事で実は結構楽しみになっていたりする。

基本的にリアル地球にある食べ物とほぼ同じなので、リアルマネーを消費する事なく世界中の名物料理を食えるという訳だ。

ちなみに、ゴリアテ王国は、モンゴルの料理に近くてロードグリアード連邦はロシアの料理に似ている。

そして、二つの文化が入り混じっているアドランテでは両国の料理を楽しめるという訳だ。

と、言う事で行って来るとしよう。