第29話・テッテッテレ~♪四j(自主規制
俺は吹き飛ばされた勢いを止める為に翼を大きく羽ばたかせ身体を翻し態勢を整える。
俺達2人の下では半分崩落した城と城を囲うように高い城壁が見える。
よく見ると多くの人が城から避難している光景が目に映る。
「ぶほ、城で何かあったかの?」
ん、城の崩落とは関係がない?
目を凝らしてもう一度よく見ると所々で戦っているような気がする。
「ぶほほほほほ、そういう事か…」
ベルフェゴールは1人納得しているようだが、俺にはサッパリ分らない。
気配察知のスキルがほとんど育っていないせいで全く探知出来ない。
高ければ、何と何が戦っているのか大まかに分るのだけど…。
一度会っていれば名前も分ったりする。
大方、攻略組のプレイヤーでも来たのだろう。
それにしても空を飛ぶと言うのは感慨深いものがあるな。
3DMMOの世界で空を飛んだとしても”移動が楽”程度だったものが、バーチャルだとそれ以上の何かを感じる。
下に見える城や城壁はまるでジオラマだ。
3DMMO時代の様に低空を飛んでいる訳ではない。
いつもは頭の上を飛び回る鳥でさえ、俺よりも下を飛んでいる。
恐らく風も地上よりは強く吹いているだろう。
五感があればそういう感覚を肌で感じる事が出来るのだろうな。
空を飛んで風を感じてみたい…。
それはベルフェゴールを倒せば実現かも知れない。
俺は再びパニッシャーを構えた。
ベルフェゴールは、大きく羽ばたき上昇した後、急降下突撃を繰り出す。
単調で直線的な攻撃だが、スピードは闘技場内の時と比べ段違いに速い。
ただの演出かも知れないが、初速ですでに音速の壁を突破しソニックブームが発生する。
それだけ速いにも関わらず俺の目はしっかりとベルフェゴールを捉え回避行動に移る。
ベルフェゴールの攻撃を紙一重で避け、2丁のパニッシャーは彼の背中に照準を合わせ撃つ。
しかし、ベルフェゴールに当たる事はなく旋回運動だけで避けられる。
流石、音速を超えてしまっているだけあって急旋回は出来ないらしく、地面すれすれになりながら旋回をしている。
ソニックブームで城壁の一部が吹き飛んでいるとかリアル過ぎる演出である。
ただベルフェゴールが旋回を終えて来るのを待つだけでは不利過ぎると判断し俺は相対する様に逆の方へ飛ぶ。
ベルフェゴールの高度に合わせる様に旋回し照準をベルフェゴールに合わせながら撃つタイミングを計る。
先ほどの様に撃てばまた旋回で避けられる可能性があるのでギリギリまで待つ。
《結界重膜》があるので一度ぐらいまともに攻撃が当たっても大丈夫だろう…。
ベルフェゴールはゆっくりと錐揉みしながら左右の戦斧を構え、俺が間合いに入ると同時に攻撃が来る。
流石に攻撃態勢に入れば回避行動は無理だろう。
俺はまず右に持ったパニッシャーを放つ。
ベルフェゴールは無理やり攻撃を軌道を変え、パニッシャーの砲撃を弾く。
弾かれるとは予想外だったけど、1発目はブラフをつもりだったので問題ない。
俺は弾かれたと同時に左のパニッシャーを放つ。
普通に考えてこの攻撃を避けるのは不可能な筈だ。
今度は自身の体勢を無理やり左腕を犠牲にし直撃を回避した。
左腕が消し飛んだと同時に翼の一部も当たった様でベルフェゴールはバランスを崩す。
そして、相対していた事をすっかり頭の隅に追いやっていた俺はバランスを崩したベルフェゴールとまともに衝突し2人まとめて地面に落下していく。
ベルフェゴールをバランスを崩しながらも速度調整をしていた様だが、衝突による衝撃で一瞬気を失った俺は落下速度を調整しないまま落下して行く。
一瞬と言えど落下速度はほぼ音速である。
俺は受身も出来ず地面に落下した。
当然、《結界重膜》が作用していたのでダメージはない。
落下した衝撃で俺は気絶から回復する。
俺とベルフェゴールの位置は丁度、城を挟んだ正反対の位置になる。
空での衝突位置から考えるとベルフェゴールは城の正面辺りで俺は城の背後だ。
俺に関しては受身が取れなかったので城壁を突き破り勢いそのままに森へ突入している。
ベルフェゴールはどうなったかは分らない。
まだ、空へ上がっていないところを見ると左腕のダメージを回復させているところだろう。
一応、万全に期する為に俺は見える範囲で身体の異常個所がないか調べる。
気絶したのでパニッシャーを落としたかと思ったが、左右1丁ずつしっかりと握られていた。
「うん、問題ない…」
ないにはないが…問題があるとすれば…。
「大丈夫か?アキラ」
起き上がろうとした時、よく知っている声がした。
ヴェルだ…。
ハイアとカリーネさんもいる。
俺が落下するのを発見したのだろう。
「大丈夫?」
カリーネさんから手が差し伸べられ俺は手を掴み立ち上がる。
「大丈夫です」
「無茶す…って、何で何も着てないんだ!?」
ハイアは慌てて後ろを向く。
何も着ていない事もない。
ちゃんと下着は着ている。
まぁ、脱ぐ事も出来ないがな。
「ヴェル、あなたもあっち向いておきなさい!」
「は、はい」
カリーネさんがマントで俺の身体を隠す。
「ハイア。住人や騎士達への誘導はどうなっているの?
ヴェル。囚人はちゃんと退避した?」
「問題ないですよ。滞りなく進んでいます。
住人に関しては我等が誘導する前に退避していた様ですし…。
ただ、スロゥスの息が掛かった騎士については残念ながら…」
「囚人に関しても大丈夫だぜ。路銀と装備を与えたしな」
「そう…なら、あなた達も退避しなさい」
「カリーネ様は?」
「少しアキラちゃんと話してから行くわ」
「「了解」」
「アキラ、負けるなよ」
「んじゃ、俺達は先に行かせて貰うぜ」
ハイアとヴェルは俺に軽く挨拶し城下の方へ戻っていった。
と言うより、ハイア達の会話がいまいち理解出来ない。
「どういう事?」
「そう言えば言ってなかったわね。何もかもアキラちゃんのお陰だし簡単に説明してあげる。
私達…スロゥスの息が掛かった騎士達やベルフェゴール様の腰巾着以外のグレゴリは侵略を望んでいなかったわ。
望んでいないグレゴリの最大勢力のトップが私だった訳ね。
ここに来る前は何とかスロゥスの暴走を抑えていたのだけど、時勢がそういう方向に行ってしまって抑えきれなくなったの。
そして、反乱を起こして失敗…投獄の身になった訳…。
私が投獄されてからは、スロゥスが益々暴走…そして、ゴリアテ王国への侵略…支配。後はなし崩しね」
「へぇ…」
グレゴリの世界も一枚岩ではないんだな。
UO2の時はグレゴリ=悪という設定だったのに大分変わっている。
と言うか、そこまで設定されている事に驚きだ。
まぁ、それ以前にAI高度過ぎるだろ…。
もう、NPCとプレイヤーの違いが分らない程だ。
カリーネさんが実はプレイヤーでしたと言われても驚かない自信がある。
「アキラちゃんがスロゥスを殺してくれたお陰で再び反乱する事が出来たの。
スロゥス直属の騎士以外は無事本国へ戻れそうだし本当に感謝しているわ。
それと…ベルフェゴール様は遠慮なく倒しちゃって良いわよ。
そろそろグレゴリの世界も世代交代が必要だしね」
「ん、まぁ、初めからそのつもりだけど…」
じゃないと、クエストが完了しないしな。
と言うか、本国ってどこなんだろう。
確か、公開されているE/Oの世界地図にはグレゴリの国がなかった筈だ。
……あっ、もしかして、あそこかな。
むしろ、残っている土地はあそこしかないな。
「さて、私も行くわね」
「ん」
「もう会う事もないでしょうし、最後にアドバイスしてあげる。
あなたの腰に差してあるものも使いなさい。
手に持っている銃だけで勝てる程ベルフェゴール様は弱くないわよ
それとアキラちゃんには私達と同じ血が混ざっているという事を思い出しなさい。
じゃ、頑張りなさい」
カリーネさんは俺の頭をポンと軽く叩くと身体を翻し城下の方へ去っていった。
上を見上げるとまだベルフェゴールはいなかった。
とは言え、時間の問題だろう。
「これで戦えか…」
俺は夜月を左手で触れる。
戦うにしてもパニッシャーはどうしようかな…。
ここに置いておいて使う時になったら取りに行く……とか実用的じゃないしな。
う~む、どうしたものか…。
あ、そう言えばスキルにそういうのあったようななかったような。
スキル確認…。
◆種族スキル⇒『ネフィリム』
◆血族スキル⇒『義体』『封神具召喚』『封神具修練』『結界重膜』『アームズ適性+』『覚醒』
◆才能スキル⇒『剣術の才能』
◆属性スキル⇒『無Lv1』『火Lv12』『水Lv1』『風Lv1』『雷Lv1』『地Lv1』『光Lv12』『闇Lv1』
◆流派スキル⇒『秋月夢想流居合剣術Lv15』《縮地法Lv2》《急制動Lv2》
◆ノーマルスキル⇒『格闘Lv30』『刀剣修練Lv23』『回避Lv17』『受け流しLv9』
『気配察知Lv11』『軽鎧修練Lv12』『サバイバルLv8』『神術』『狙撃Lv30』『援護Lv30』//『魔術Lv1』『武器防御Lv7』
あれ…種族スキルのネフィリムにレベルが書いてないな。
それに、血族スキルに『覚醒』以外のグレゴリスキルがない。
っと、そんな事より目的のスキルは…っと。
あったあった。
『封神具召喚』だ。
”封神具をいつでもアクセス出来るインベントリに格納したり出したり出来るスキル”
簡単に言えば、四○元ポケットだ。
これにパニッシャーを格納して絶好のチャンスの時に使えば良いという事だな。
パニッシャーのどの状態で出し入れ出来るかは分らないが、背に腹は変えられないだろう。
取り合えず、パニッシャーを格納してカリーネさんのアドバイス通りグレゴリの血を使ってみよう。
――覚醒。
まだ、ベルフェゴール戦続きます。
予定としては後3話の予定で内1話は閑話にするつもりです。
前話で言っていたクエストの解説忘れていたのでどこかで補間します。




