第27話・何でも過剰は良くない
あっさりし過ぎな感じもしますが…『封神具』のお披露目回と思ってください。
「ん、あれ?」
しかし、弾は発射されなかった。
その代わりと言って良いのだろうか…弾倉部分の魔法陣が先ほどとは打って変わって高速で回転している。
その回転と合わせて魔導エンジンの音がどんどん高くなっていっている。
う~ん、もしかしてトリガをが引くと魔力を溜めて放すと撃つタイプなのかもしれない。
俺は右手に持ったパニッシャーを再びスロゥスに向けトリガーを放す。
すると、銃口から直径1mぐらいの光弾が解き放たれた。
「ちょっまぁあああああああ!?」
今までの過程を驚愕し若干焦りながらも詠唱を止めなかったスロゥスだったが、流石に光弾が自分に向かって来た事には止めざる得なかったようだ。
ギリギリ回避する事に成功したスロゥスの背後で、光弾は壁を破壊…いや、消滅させたと言った方が適切だろう。
”ゴッ…ゴゴン…ゴッ…”
背後の壁を消滅させた後も光弾は威力を失う事なく城の外壁をも貫通させていった。
「「…………」」
「ぶほ…」
すげぇ…。
あまりにも凄い威力だったので、俺とスロゥスはお互い言葉を発する事が出来なかった。
スロゥスに至っては貫通して空いた穴を見ながら青ざめていた。
とはいえ、当たらないのでは意味がない。
俺は無意識に左手に持ったもう一丁のパニッシャーをスロゥスに向けトリガーを引いていた。
「えっちょ!?」
魔導エンジンの音が高鳴りだす。
流石にそれを見て何もしないスロゥスではない。
焦った表情で何やら詠唱し出す。
魔導エンジンの音が安定したところで俺はトリガーを放す。
それと、スロゥスは詠唱を終了させた後に手を地面に着くと同時に分厚い岩の壁がスロゥスの前に隆起する。
しかし、放たれた光弾は難なく岩の壁を貫通…消滅させ背後にいたスロゥスの右腕と共に背後へ消えていった。
「がぁあっ」
スロゥスは吹き飛んだ右腕のあった場所を左手で押さえ蹲る。
とんでもない威力だ。
構造物の内壁が貫通するのはまぁ分らないでもない。
外部からの攻撃を防ぐ為に厚く作られている筈の外壁や魔法で作り出し防御に特化した岩の壁すら撃ち抜いた。
「ぐっ…き、貴様……セ…セレスティアか…?」
スロゥスは、この『封神具』の事を知っているのだろうか。
側近というぐらいだから知っている可能性は否定出来ないな。
「ん~どうだろ?」
「ふざけるなっ!!それならやり方を変えさせて貰う」
いや、ふざけてないし…。
それに口調変わっていないですか?
スロゥスは屈んだ状態で何やら力を溜めだす。
すると、彼の肩甲骨辺りが盛り上がり魔術師のローブを突き破って悪魔のような漆黒の翼が出現する。
それと同時に失った右腕が急速に再生していった。
これが恐らく血族スキル”覚醒”だろう。
グレゴリは元々自然治癒能力が他種族よりも高く設定されている。
それに上乗せするかのように”覚醒”によって大幅に向上する訳だ。
能力の概要的にビースト(獣人)の”獣化”に似た感じと思って良いだろう。
”バサァ”
当然、翼には飛行能力が備わっている。
然程大きくはない闘技場ギリギリの高さまで上昇する。
俺はホバリングするスロゥスに向けて二丁のパニッシャーをトリガーを引いた状態で向ける。
上空から魔術でも使ってくるのかと思ったが、スロゥスは急降下&急接近による不意打ちを行う。
俺はそれに反応できずまともに頭部へ食らってしまい吹っ飛ぶ。
「どうした?貴様は飛ばないのか?」
飛べたら飛んでいるっての。
『義体』の解除も『覚醒』もスロゥスを倒した報酬なのだ。
「ふむ、出来ない理由があるのか…。まぁ、良い。
なら嬲り殺してやろう。その武器を撃たせる時間なぞ与えん」
スロゥスは天井ギリギリの高度を保ったまま飛び回る。
時折、俺に対して奇襲と言う名の近接攻撃を交えつつ詠唱時間の短い魔術を放ってくる。
俺はそれを回避しつつスロゥスを撃ち落すタイミングを計る。
クエスト内容には、パニッシャーを【限定解除】して戦えとは書いてあるが、パニッシャーで止めをさせとは書かれていない。
つまり、夜月で倒しても構わない訳だ。
スロゥス自身もパニッシャーにしか警戒していないように思える。
適当に撃って油断した所を夜月で迎え撃つ事にしよう。
「…アイスコメット!!」
スロゥスがいつの間にか上位魔術の詠唱を終わらせ発動させていた。
油断をしていた訳ではないが、高速で飛び回っていたので聞き取りづらかった…と思って欲しい。
これはマズイかも…。
闘技場中央上空に巨大な氷塊が現れる。
しかも、周囲の空気に含まれる水分を凍結させ吸収しさらに大きくなってきている。
確か、アイスコメットは水属性最上位魔術だ。
防げる防げない回避する回避できないという次元ではない。
この闘技場全てを巻き込む事が出来る程の範囲魔術だ。
実際、闘技場の地面には闘技場より大きな魔法陣が見えている訳でスロゥス自身も巻き込みかねない大きさだ。
それにこれが落下しようものなら闘技場全体が凍結し…って、ベルフェゴールも巻き込まないか?
「くくく、凍って死ね」
「…ぶほ…」
「くはははははははは…」
巨大な氷塊は周囲の空気を凍結させつつゆっくりした速度で落下していく。
流石にこれは避ける事も防ぐ事も出来ない。
なら、破壊すれば良い…な。
俺はパニッシャーを上空へ向け、トリガーを放した。
パニッシャーから放たれた2つの光弾は、氷塊の中心を難なく穿ち貫く。
それでも威力は落ちる事なく闘技場の天井を貫通し消えていった。
中心を貫かれた氷塊は形を保つ事が出来なくなり俺に到達する前に霧散し粉雪のように消えていく。
「ぶほ!?」
「んなっ!?ば…かな…」
相殺してくれたら良いな…的な淡い期待は予想以上の成果に俺も驚愕した。
むしろ、ゲームシステム的にそういう事が出来るとは驚きだ。
色々未完成な所(五感とか)がある様に思えて変な所に拘りがある。
おっと、驚いてばかりでは駄目だな。
俺は再びトリガーを引く。
魔導エンジンが高鳴る音を聞いて唖然としていたスロゥスも正気を取り戻し戦闘態勢に入る。
「やってくれる…」
スロゥスは再び高速で縦横無尽に飛び回りながらあらゆる属性の魔法を織り交ぜつつ仕掛けてくる。
元々照準は出鱈目のようで難なく避ける事が出来る。
しかし、先ほどの『アイスコメット』の時と同様でそれが全てブラフだという事が分る。
とは言え、どのタイミングで…そしてどの属性で仕掛けてくるのかが分らないので対処のしようがない。
奴が近接攻撃をしてくれると楽で良いのだけど…。
もうすでに数十発という魔法弾が降り注いできているが、本命の上位魔術はまだ来ていない。
ずっとトリガーを放さないでおくと流石のスロゥスも俺がカウンター狙いだとバレるので適当に撃つ。
が、やはり当たらない。
空かさずトリガーを引きまた放つ。
それを十数回繰り返していると闘技場の天井は穴凹だらけとなっている。
魔法の降ってくる量が減ってきた、その時一瞬だがスロゥスの右手に複雑な魔法陣が浮かんでいるのが見えた。
大きいのが来る…。
何が来るのか待ち構えていると、俺の足元に直径5mほどの魔法陣が現れる。
アイスコメットよりも狭い範囲だが、それでも十分な広さだ。
俺が右に避けようと身体を向けると的確に魔法弾が飛んで来て行動を妨げる。
恐らく罠だが仕方なく俺は上にジャンプする。
上位の魔法を喰らうよりは多分マシだろう…。
「ウォーターボール」
”バシャッ”
案の定、ジャンプの勢いがなくなる頂点付近に奴の水属性の魔術が飛んで来て直撃を受ける。
水と言えど圧縮された塊、まるでコンクリートに叩き付けられたかのように硬く俺はそのまま吹き飛び壁に激突する。
「ぐっ…」
俺の身体が壁に減り込んでいる所にスロゥスは高速で接近し俺の首を掴むと反対側に投げる。
地面に叩き付けられ、その勢いのまま壁に激突し止まる。
地面に叩き付けられた時にHPゲージがイエローゾーンに突入していた。
『封神具』のチュートリアルだから、もう少し楽に勝てるかと思ったが流石魔王の側近だ。
これはもしかしないでも負ける可能性がある。
しかし、壁に激突した態勢からまだ立て直していなかったのを見てスロゥスは油断をしたのだろうか。
位置的には端と端なのだが、スロゥスは俺の真正面になる位置でホバリングし次なる魔術の詠唱を始めている。
飛び回っていないので、詠唱文がよく聞き取れる。
「我が心は怒り、我が与えるは永遠なる痛み…」
スロゥスの右手の魔法陣に雷が集中し出す。
しばらくすると、その雷は剣の様に形成されて行く。
まだ、パニッシャーのトリガーを引いていない俺を見て勝ちを確信しているのだろう。
俺はゆっくり立ち上がり、パニッシャーのトリガーを引く”フリ”をする。
「遅いっ!!ライトニングブレード」
スロゥスは全長2mほどになる雷の剣を振りかぶり俺目掛けて突撃を仕掛けてくる。
俺までの距離が5mとなった時、両手に持ったパニッシャーを手放し、腰に差してある夜月に手を添える。
先手を打たれたが魔術師の攻撃なら後手だとしても問題なく対処できる。
「なっ!?…くぅっ!!」
俺の意図に気付いたスロゥスは急停止しようと翼を逆に羽ばたかせるが勢いの付いた身体は俺一直線に向かっていった。
《縮地法》
『壱式抜刀術・凪』
俺は《縮地法》で勢いを付けて弾丸の様に跳躍しスロゥスを迎え撃つ。
”バシュッ”と良い感じの手応えと共にスロゥスの上半身と下半身は分断され別々の所に落下する。
グレゴリと言えど魔術師の防御力は戦士系の防御力に比べれば遥かに劣る。
それにまともな防御態勢でもないので、壱式だろうと直撃を受ければ両断など容易い…という事だな。
まぁ、俺より防御力があるのは間違いないけどな。
「ば…か……な…」
流石、『覚醒』状態のグレゴリだ。
上半身だけとなり仰向けになりながら、まだ意識がある。
いや、すでに再生し始めている。
翼も切断されている為、スロゥスは飛ぶ事も出来ない。
が、時間の問題だろう。
このチャンスを逃せば、スロゥスが油断しなくなる。
俺は夜月を鞘へ納め、落としたパニッシャーを取りスロゥスへ向けトリガーを引く。
とは言え、無抵抗の相手に対して攻撃するのは躊躇ってしまう。
「ぶほほほ?止めは刺さないのかの?」
「ま、まて…」
「ぶほほ……」
スロゥスが何か言った様だが、肉で隠れているがベルフェゴールの厭らしい笑い方に少々イラッっと来た俺は無意識の内にトリガーを放していた。
光弾は、スロゥスの上半身を消滅させた後、階下の天井と床を消滅させつつ見えなくなってしまう。
”ピコン”
無機質な電子音と共にクエストが更新された事によってスロゥスの死亡は確定した。
◆◆◆
「ぶほほ、見事見事…よもやスロゥスが負けるとはの」
そう仕向けたのはあんただろう…と口に出し言わない。
胸の肉が邪魔してまともに拍手が出来ないようで…辛うじて届く指先と指先で拍手をしていた。
「さて、ワシの番だの…ちょっと待っておれ…。ぐっ…ぐぐ…んぐぅ~!!ぶほ?」
ベルフェゴールサイズに作られている筈の椅子から尻の肉が詰まって抜けなくなっているようだ。
椅子が地面に固定されているせいで、ベルフェゴールの身体が全くビクともしない様子を見るにまだまだ時間が掛かりそうだ。
「チャンス!」とは思ったけど、この状態で戦闘をしてもクエストが完了しないような気がしたので奴が抜け出すまでクエストの確認でもしよう。
★オラクルクエスト『力の発現Ⅱ』
【内容】
『魔王側近の討伐Ⅱ』『力の発現Ⅰ』のクリアおめでとうございます。
それでは、『力の発現Ⅰ』の報酬で開放されたスキルの説明とチュートリアルを開始します。
『義体』…義体プレイ中に『義体』を使いますと、本来の姿『ネフィリム』に変化します。
『封神具召喚』…これは封神具をいつでもアクセス出来るインベントリに格納したり出したり出来るスキルです。
『神術』…法術の上位互換魔法。魔術と法術の両特性の魔法を取得出来る。開放時に全神術取得。
『アームズ適性++』…そのままアームズの適性です。これは義体にも適用されます。
『結界重膜』…結界を何重にも重ねあらゆる攻撃を防ぐスキルで、本来の姿になった際自動的に発動します。
『覚醒』…セーブしていた本来の力を解放させるスキルです。自然治癒能力が飛躍的に上がります。
また、本来の姿の時は、『封神具』も本来の性能を引き出す事が出来ます。
引き出し方は以下の方法です。
『封神具・パニッシャー最終申請』
システム音声にて『承認』と返ってきた場合、次のように返して下さい。
『封神具形態変化解除、第三から第四を解除』
システム音声にて『承認』と返ってきた場合、次のように返して下さい。
『パニッシャー性能更新・第三から第四を更新』
システム音声にて『許可』と返ってきたら全てが完了します。
また、この最終形態を『ディバイン・パニッシャー』と言います。
これには砲撃モードがあり、二丁のパニッシャーを連結する事でより強力な攻撃が出来ます。
それでは、これらのスキルを駆使しベルフェゴールを討伐して下さい。
あれだ…これって公式チートと言う奴じゃないか?
特に『結界重膜』と『封神具』の最終形態がヤバイな。
『結界重膜』は恐らくGMが無敵と言われている所以のスキルだ。
『封神具』の最終形態についてもそうだ。
パニッシャーでも十分過ぎる性能なのに、あれ以上強くなるなんて想像すら出来ない。
まぁ、撃って見れば分るか…。
よし、手順は覚えたし後はベルフェゴールと一連の決着を着けるだけ…。
「ぶほぉぉぉぉぉぉぉ!!抜けぬっ…ぐぐぐっ……ぐ…はぁはぁ…」
ベルフェゴールは、顔を真っ赤にしながら尻を必死に抜こうと奮闘していた。
イラッ…この状態のまま砲撃モードで消してやろうかな…。
『覚醒』
・見た目変化(背中に翼、飛行可能)
・身体能力大幅向上、特に腕力・魔力が向上
・自然治癒能力大幅向上
・【短縮詠唱】【二重詠唱】一時習得
《Name》神銃・ディバイン・パニッシャー
《User》アキラ=ツキモリ
《Rank》Myth
《Level》封神具修練
《Base》アームズ
《Effect》結界貫通、弾無制限、光・炎属性付与エフェクトダメージ有り(武器攻撃力30%分)、砲撃モード…魔力放射型、無敵設定無効、魔法攻撃力+600%、狙撃Lv+30、援護Lv+30、クールタイム+300%
メインクエスト及びオラクルクエスト限定
《Detail》封神具・パニッシャーの最終形態で砲撃モードにする事が出来る。
砲撃モード時、光弾から放射型に変更されるだけでなく、無敵設定がされているオブジェクトさえ破壊せしめる。
魔法攻撃力も大幅に向上するが、砲撃後のクールタイムも増加する。
別名・神罰モードまたは垢バンモードと呼ばれる形態でゲームシステムから逸脱した違反者に対して本来の姿を晒してまでGMが使う最終手段である。
また、これにより死亡したキャラのアカウントデータは抹消される。
『義体』
《⇒義体》
・身体能力・スキルの封印(能力は義体遵守)
・『限定解除』開放
《義体⇒》
・見た目変化(キャラクリ時の姿へ変化、背中に見た目はセレスティア同様で漆黒の翼が生える)
・『封神具召喚』『結界重膜』『覚醒』の開放
・身体能力大幅向上、特に神力が向上
『覚醒』
・身体能力大幅向上、特に腕力と魔力
・見た目変化(もう1対の翼出現・グレゴリの翼と同じ)
・自然治癒能力大幅向上
・【短縮詠唱】【二重詠唱】一時習得




