第21話・順調過ぎて逆に恐い
秋月夢想流Ⅱが19話になっていたのを修正しました
『炎獄より来たりし、烈しく燃え盛れ………』
どうしよう…。
この人、試合開始と同時に詠唱しているよ…。
俺の今ままでの戦闘を看守に聞いていないのだろうか?
これでは俺に殺してくれと言わんばかりに隙だらけだ。
せめて、間合いを詰められないように横へ移動なり普通はするものだ。
なのに、この人は立ち止まって詠唱している。
確かに、今の俺は対魔防御なんてないと言っても過言ではない。
しかし、素直に詠唱が終わるまで待つ俺でもない。
本当にこの人はランク6の囚人なのだろうか。
余程運が良い人なのだろう。
いや、それともそういう戦い方でも勝てる相手を今まで選んでいたのだろうか。
相手が戦いに不慣れな低ランクの囚人だろうと10回連続で勝てばランクアップが出来るしな。
今回は俺が彼を指名したので、そうも行かなくなったようだが…。
『…炎の槍・フレイムスp…』
あ、詠唱が終わってしまう。
《縮地法》――『壱式抜刀術・凪』
俺は詠唱が完了する本の一瞬で間合いを詰めそのまま抜刀術で斬り裂いた。
手ごたえは十分…いや、過ぎる程完全に相手の身体を斬り裂く。
「…ィア!?」
彼は何が起こったのか分らないという驚愕の表情で俺の顔を見ながら上半身が滑り落ちた。
下半身から大量の血飛沫を上げながら上半身とは別の方向へ倒れる。
あまりにも呆気ない…。
というか、秋月夢想流を習得してから自分でも恐ろしくなる程順調に進んでいた。
今まで早く感じていた他の囚人の攻撃が遅く感じるようになったのは大きいと思う。
あれから何戦かして完全に《縮地法》からの抜刀術に慣れた。
俺にとってイッシン師匠や俺自身のスピードが普通になってしまったのが原因なのだろうな。
◆◆◆
ランク4・ランク5の試合も先ほどと同じように早期決着で終わってしまっている。
とはいえ、ランク3の頃よりレベル的にはあまり変わっていない。
というより、試合があまりにも早く終わってしまうのでスキルレベルが上がり辛くなってしまった。
流派1つでここまで劇的に変化するとは思っても見なかった。
ちなみに、今はこんな感じだ。
◆種族スキル⇒『ヒューマLv26』
◆血族スキル⇒『成長+』
◆才能スキル⇒
◆属性スキル⇒『無Lv1』『火Lv2』『水Lv1』『風Lv1』『雷Lv1』『地Lv1』『光Lv1』『闇Lv1』
◆流派スキル⇒『秋月夢想流居合剣術Lv5』《縮地法Lv1》《急制動Lv1》
◆ノーマルスキル⇒『格闘Lv29』『刀剣修練Lv12』『回避Lv8』『受け流しLv3』
『気配察知Lv10』『軽鎧修練Lv11』『サバイバルLv8』//『魔術Lv1』『武器防御Lv7』
以前と比べて変化しているのは、流派スキルだろう。
『我流』がなくなった代わりに『秋月夢想流居合剣術』が入っている。
初期スキルである『我流』は、新たな流派スキルを習得すると消える仕様になっている。
そして、流派自体のレベルは上がっているのだが、流派スキルは全く成長していない。
恐らくレアのスキルだからだと思う。
アイテムと同じくスキルにもレア度というランク分けがされているみたいで、レア度の高いスキルほど覚えにくいし成長し難い。
『毒耐性』は、あまり必要がないと判断しあっさり捨てた。
『矛槍修練』は結構育っていたのだが、『秋月夢想流居合剣術』でやっていく上で必要ないと判断した。
その代わりに『受け流し』を入れている。
『受け流し』は、イスカ刀のように武器防御に向かない武器には必須と言えるスキルだ。
だったら、『武器防御』を捨てれば良いと思うかもしれないが、『毒耐性』よりは使い道がありそうだったので残した。
ちなみに『格闘』は、もしかしたら必要な場面があるかも知れないと思い残している。
まぁ、何れは捨てるだろうと思う。
『剣修練』を見れば分ると思うが、イッシンに貰った夜月絶景はまだ装備出来ない。
現役でサムライソードが奮闘している。
というより、先ほども言ったが、あっさりと試合が終わってしまっている為、当然武器の耐久値もあまり減っていない。
ああ、そうそう上記のスキル一覧だけでは分り難いであろうステータスについて少し触れよう。
初期ステータスは、それなりに違いはあるのだが種族自体の上がり方は全種族共通だ。
そこに、種族スキル以外のスキルからの影響が反映されて、ステータス補正と上昇値が変化する仕組みになっている。
ちなみに、アキラの成長係数を☆、現在能力を★に見立ててざっくり五段階評価するとこんな感じになる。
腕力★★★
脚力★★★★☆
体力★☆☆
敏捷★★★★☆
器用★★★★☆
魔法★☆☆☆
幸運☆
注意点として、ヒューマ義体での能力となる。
まだ、血族スキルに『義体』の項目が現れていないのでネフィリムとしての能力がさっぱり分らない状態だ。
んで、見て分るように脚力と敏捷と器用がとても高いし、よく伸びる。
単に『秋月夢想流居合剣術』のお陰だろうな。
魔法は使っていないだけで使えばよく伸びる。
体力は、『重鎧修練』を習得しているとよく伸びるらしい。
修練がなくても重い装備をし続ければ伸びるらしいが、布しか装備していない俺には体力は無縁だな。
逆に『軽鎧修練』は敏捷に影響を与えているようだ。
そして…幸運だ…。
もう、お察しレベルのなさだし、伸びる可能性も低い。
というより、幸運なんてものは俺にはないらしい。
リアルラックだけでなくゲーム内ラックもないとなると…いや、考えない方が良いだろう。
これらは俺の中だけの話なので他のプレイヤーと比較するとまた違ってくるかもしれない。
さて、一眠りしよう。
俺はログアウトせずに牢屋の中で横になる。
ゲーム内で半日寝ようがリアルでは1時間とちょっとしか時間が経過しないので、俺はゲーム内で寝る事にした。
ちなみに、E/Oには目覚ましシステムなる機能が標準で備わっている。
ここ2週間あまりで何度かお世話になった機能だが、ゲーム内で眠るなんていう体験は奇妙である。
俺はゲーム内時間・明日の正午に設定し眠りに付いた。
◆◆◆
スムージング機能付きの目覚ましは少しずつ音量を上げていき俺を起床させる。
目を覚ますといつもの光景が目に広がる。
そう、昼なのか夜なのかさえ分らない薄暗い牢獄の中だ。
唯一の明かりである松明は少ししかない。
薄暗い奥から1人の影がこちらへやってくる。
まぁ、近付くまでもない、この人影はハイアだ。
流石に何度も見ていると影だけで誰か判断出来るようになった。
「起きていたか…」
「うん、おはよう」
「おはよう。で、今日はどうする?」
「やるよ。取り合えず現状で行けるとこまで行くつもり」
「そうか。では、手配してくるからヴェルが来たら一緒に闘技場まで行ってくれ」
「分った」
ハイアとヴェルはあれでも一応上司と部下の関係だ。
ハイアは、主に囚人の管理や闘技場出場の手続きなどが主な仕事でよく牢獄内を行ったり来たりしている。
で、ヴェルは俺を含めた囚人達の世話や闘技場へ行くまでの監視が仕事だ。
だから、今ここにヴェルがいないという事は、他の囚人の世話か闘技場の方にいるという事だ。
闘技場の方からヴェルがやってくる。
後ろには別の囚人…こいつは囚人26号…傭兵のあの男だ。
奴は、俺に敗北した後あっさりとスロゥスに見限られハイアとヴェルの監視下に落ち着いた。
元鞘というヤツだな。
帰ってきた囚人26号は全身が血で染まっていたが傷らしきものは見当たらないところを見ると返り血だろう。
スロゥスに見限られたとはいえ、あの強さは健在である。
俺に敗れた後の2試合は連勝しており、今日も勝ったとなると同じランク7になっているだろう。
囚人には1日1試合という制限が付いているから、また奴と対戦する事は俺が次負けない限りはないと思う。
「ぉ、アキラ起きていたか。少し待ってろ。すぐ、行くからよ」
ヴェル達が通り過ぎる時、奴にすごい剣幕で睨まれたが俺はスルーした。
サムライソード残り耐久値67
刀剣修練Lv20まで残り8レベル




