第20話・秋月夢想流Ⅱ
何とか、小説のデータはサルベージ出来ました
「次は、参式と比べれば簡単じゃ」
イッシンはそう言うと柄に手を添える。
『肆式抜刀術・旋風』
一瞬過ぎて、ただの横薙ぎの抜刀術のようにしか見えなかったが、恐らく名称からして回転斬りだろうと思われる。
それと、一瞬だが彼の姿がぼやけた事からも間違いないと思う。
「回転斬り…ですか?」
「うむ、そうじゃ」
これなら先ほどと参式と違って何とか出来そうだ。
俺はサムライソードの柄に手を添え構える。
『肆式抜刀術・旋風』
斬撃の軌道自体は、壱式と全く同じなので問題なく発動したが、一瞬とは言え視界が360度一回転した事で酔ってしまう。
立ち眩みというべきだろうか…少し足元がふらつく。
「ふむ…。何れ慣れるわい。
でじゃ、肆式はの他の技の起点として使うと良いぞ」
「起点?」
「そうじゃ、例えばの。お主の目の前に5・6人の集団が居るとする。
《縮地法》+壱式でまず目の前の1人を倒すという方法も…ありではあるのじゃが。
《縮地法》でまず集団の中心に移動してから肆式で複数人丸ごと葬った方が都合が良いな。
そう思わぬか?」
「…確かにそうですね」
「まぁ…参式で集団を散り散りしてから1人ずつ片付ける方法もあるがの…」
《縮地法》ありきの戦法ではあるが、状況によるという事だな。
「では、次じゃ」
再び構え《縮地法》で前方に移動する。
『伍式抜刀術・飯綱』
彼は鞘から刀を抜き…納めた。
俺の目が確かなら彼は刀を最後まで抜いていないように見えた。
刀身が半ばまで見えた辺りで刀を納めている。
「???」
刀を抜いたのだろうか。
さっぱり、分らない。
「ふむ、分らぬか?
まぁ、仕方なかろうな。これは正式な抜刀術ではないからの」
「どういう事ですか?」
「簡単に言えばの、柄頭での打撃技じゃ。
そうじゃの…、寸勁や発勁と言えば分るかの?」
「あ、それなら分ります」
「ふむ、そういう事じゃ」
つまり、《縮地法》⇒腰の捻り+抜刀速度⇒柄頭による一点集中の打撃で硬い防御を打ち破り内部は破壊する技という事だな。
「コツとしては刀を完全に抜かない事じゃ。打撃点で止めると衝撃が一層強くなるからの。
では、やってみせい」
やり方は何となく分った。
だが、今までの抜刀術とは軌道が違う上に完全には抜かないようにしなければならない。
俺は抜刀するまでのイメージを頭の中で何回も繰り返す。
最後、目に焼きついていたイッシンが刀を途中で止めている姿を思い出す。
そして、通しでイメージを膨らませていく。
多分、出来るはず。
「よしっ!」
《縮地法》
『伍式抜刀術・飯綱』
適当に前へ移動しイメージ通りの動作を行う。
抜刀術としての勢いをそのままに抜かない…イメージは完璧だった。
しかし、勢いを止められず刀を完全に抜いてしまう。
だが、一応技は発動した。
「ふむ。やはり難しいかの」
「でも、技は発動した…?」
「そうじゃな。《縮地法》なしでも刀を抜いてしまっても技は発動するようにはなっておる。
しかしじゃ、それだと威力は半減しよっての、その状態だと半分成功半分失敗という感じじゃ。
《縮地法》はやってもやらなくても良いが刀は完全に抜かない方が良いじゃろう」
「《縮地法》は何故やらなくても良いのですか?」
「抜刀術の弱点は知っておるか?」
「弱点?」
「そうじゃ…。まぁ、抜刀術に限った事ではないがの。
刀や剣を鞘から抜く時、身体が密着しておると抜くのは難しいじゃろう?
この技は、そういった状況で生まれた技じゃ。
身体が密着していればしている程、効果が大きい」
ふむ、要練習だな。
技は一応習得できたし、彼が言ったように今はそれで良いかな。
「さて、残り2つはお主でも恐らく扱えよう。
それ以上となるとSPが持たぬだろう。
今はしかと目に焼きつけよ。
残りの技は秘伝書に書き留める故、折を見て覚えるとよかろう。
では、次じゃ」
彼は再び構える。
『陸式抜刀術・神去』
《縮地法》で前方へ移動し刀を抜く。
しっかりと見えなかったが抜刀術ではないように見える。
恐らくはただの突きだ。
突きの態勢から体を反転させ横薙ぎする。
もしかしたら違うかも知れないが、突き刺した相手の体を鞘に見立てて抜刀術をする技なのだろうか?
エアエネミーなので多分としか言えないけども…。
すぐさま、刀を鞘へ納め次の技へと移行する。
『漆式抜刀術・鳴神』
彼は腰から鞘を抜き、利き手ではない方…左手で鞘を持つ。
そして、少し前に走った後、大きくジャンプし軌道の頂点で腰を捻る。
その際、左手に持った鞘を肩ぐらいの高さまで持っていき右手で柄を掴む。
ここからが早かった。
鞘から刀が抜かれた瞬間、丸で雷の様に彼の身体は地面に急降下する。
云わば、上空で抜刀術が発動したという事だ。
ゲームでなければまず不可能な技だろう。
「ふぅ。こんなものかの。
どうじゃ?やってみせい」
俺は頷いてから構えた。
◆◆◆
「ほれ、こいつが秘伝書じゃ」
一通り闘技場での伝授が終了し、今はイッシンの牢屋の中で秘伝書が書きあがるのを待っていた。
渡された秘伝書には、SP的にキツイだろうと習得まではしなかった技以外に習得した技も書き込まれていた。
「ワシの技には数字が付いとるし、途中から書くと不自然かと思っての。
全部書いてやったわい」
ご丁寧に図解やコツまで書いてある。
だから、こんなにも時間が掛かった訳か…。
「さて、ワシの役目は終りじゃ。失礼する」
彼はそういうと牢屋を出て行こうとする。
「おい、おっさん。どこ行くんだ?」
「ふむ。初めは乗り気じゃなかったがの。
弟子を作るというのも悪くはないの。
修行しながら新たな弟子でも作るかのう」
「そうですか…。お身体には気を付けて下さい」
元々はここにいなくても良いイッシンだったので、牢屋を出るのは本人の自由だ。
ヴェルはどうか知らないが、ハイアは快くイッシンを見送る。
「ふん。元気でな。おっさん」
「うむ。お主等も達者でな」
ヴェルとイッシンはお互い顔を合わせる事なかったが、どちらも何か嬉しそうだった。
お互いどこか認め合っていたのかも知れない。
俺は秘伝書を懐へ仕舞う。
「では、戻ろうか?」
「うん」
「おう」
全ての技を紹介してしまうと、長くなる上で後々の展開で面白みがなくなると思いまして途中までにして飛ばしました。
それに、同じような話の進め方では飽きられてしまう可能性があったのでこういう流れにしました。申し訳ないです。




