第19話・秋月夢想流Ⅰ
「やっと、起きたか…。よく寝るよな。アキラは…」
以前にも書いたがゲーム内の時間進行は現実の10分の1だ。
ログインしていない間もゲーム内は時間が進行している。
半日ログインしていないとNPCにとっては5日ほど眠っているように見える訳だ。
現実なら5日も寝続けたら異常ではあるが、そこはゲームだ…よく眠るで済んでしまう。
「牢屋にいる事が仕事だから…」
「仕事ね。ご苦労様ですってか?」
しばらく、ヴェルと喋っていると闘技場の方からハイアがやって来る。
「ん、アキラ。起きたか…」
「おはよ」
「ああ、おはよう。ヴェル、アキラを連れて闘技場へ向かってくれ」
「了解」
「俺は、イッシン殿を呼びに行って来る」
「?」
「一昨日辺りからアキラはまだか…と五月蝿くてな」
ハイアが苦笑交じりでそう言うと闘技場へ小走りで向かって行く。
そう言えば、本格的に流派を学べるのだったな。
「じゃ、俺達も行くとするか…」
「ん」
◆◆◆
俺はイッシンが来るまでの間、愛刀であるサムライソードの状態を確かめておく。
サムライソードは刀と剣の性能を中途半端に両立している為、脆い構造をしているのは最大耐久値を見れば一目瞭然だった。
それを先日の戦いで大剣の斬撃を無理やり逸らしたりしていた為、残り耐久値が気になったのだ。
確認した結果、耐久値は半分以下で最大180に対して80しか残っていなかった。
見た目刃毀れなどはないが、長く保ちそうにない。
まぁ、取り合えず目先の事が優先だ。
武器の事は後で考えれば良い。
「いつになったら来るのかと思っていたら、5日も待たせよってからに…」
ハイアはイッシンを連れ立ってこちらへ歩み寄ってくる。
で、イッシンの第一声があれだ。
リアル1日=ゲーム10日…ゲームをしている間は良いがリアルからゲームに入ると時間が進み過ぎているのは問題だな。
まぁ、これはオンラインゲーム所以だろう。
廃人が生まれる訳だな…と、元廃人が言ってみる。
「ほれ、受けとれぃ」
「これは?」
と言ってものの、これはどう見てもイスカ刀だ。
「試練に合格した祝いと本格的にワシの流派を学ぶのだ。あんな中途半端な刀では心許ないわい」
まぁ、確かにサムライソードでは抜刀術の能力を100%使いこなせない。
本来、イスカ刀は抜刀術を使った場合、攻撃速度に+100%のボーナスが付く。
しかし、サムライソードは半分の+50%しかボーナスが付かないのだ。
ついでに言うと、抜刀術自体にも攻撃速度+100%のボーナスが付いていたりする。
その2つのボーナスが付くと本来の3倍ほどの攻撃速度となる仕様だ。
これは秋月夢想流だけでなく全ての居合(抜刀術)に付いている。
で、受け取ったこのイスカ刀の性能はこんな感じだ。
《Name》名刀・夜月絶景
《User》アキラ=ツキモリ
《Rank》Unique
《Level》刀剣修練Lv20
《Base》居合刀
《Effect》抜刀術攻撃速度+150%、光属性付与エフェクト有り
《Detail》
青白く淡い光を放つ非常に美しい居合刀。
振るう毎に光が漏れるその刀身は周囲の心を奪う。
光属性が付与されているがそれ以外は目立った性能はない。
装飾刀や儀式刀にも利用される事が多い。
ユニーク級か…。
E/OやUO2ではユニーク以上の等級は、世界に1本しか存在しない仕様になっている。
と言うより《刀剣修練Lv20》とか俺使えないんじゃね?
まぁ、サムライソードを無駄にしなくて済みそうだ。
それと、捕捉しておく事がある。
それはイスカ刀の中でも居合刀に分類されていると抜刀術時の攻撃速度がさらに+50%されている。
抜刀術が漢の浪漫なんて言われている所以はそこにある…と言っても過言ではない。
ちなみに、攻撃速度にボーナスが付いている武器はイスカ刀だけではないと言っておこう。
と言うよりそれぞれの武器には流派などとの組み合わせによって何かしらボーナスが付いている事が多い。
例として2つ取り上げるとしよう。
レイピア…E/O一般的に細剣や突剣などと呼ばれている武器は、対応した流派を組合わせると貫通力とクリティカルが+50%される。
鎖鎌…あのハーフエルフの囚人が使っていた武器だが、対応した流派を組合わせると射程距離…鎖が最長+100%される。
思ったより伸びるのはこういうゲーム補正が掛かっているという訳だ。
勿論、付いていないのも存在する。
「ん、どうしたのじゃ?」
「いえ、ありがとうございます」
「うむ、では今からお主に技を全て伝授しよう」
「全部ですか?」
「そうじゃ、まぁ安心せぃ。お主のSPではどうせほとんど使いこなせぬわ」
それは安心して良いのだろうか…。
「手順としてワシが技を見せるからそれを模倣してみせよ。
巧くいけば習得する筈じゃ」
流派に属する技の習得は《刀剣修練》よりも簡単に出来る仕組みになっている。
まぁ、実際にやろうとすれば現実の人間では不可能な技が多いからだ。
要は、出始めさえ同じならば…抜刀術の場合は抜刀してからのワンアクションさえ同じならば、その後は自動でアクションが発生するという仕組みだ。
それは実際に技を使用する場合も同じだ。
そして、抜刀術のように出始めがほぼ同じ技の場合の区別の為に実際技名を叫ぶ必要がある。
恥ずかしがり屋の為に心の中で叫んでも発動するようになっているが、雑念が多いと発動しない場合がある。
まぁ、慣れれば心の中で叫んだ方が効率が良いので最終的にほとんどのプレイヤーは叫ばないだろう。
目立ちたがり屋以外は…。
「分りました。お願いします」
「うむ。ではよく見よ」
イッシンは、自身のイスカ刀を腰に差し手を柄に添え腰を捻る。
彼の刀は俺が貰い受けた居合刀をよりも随分長い野太刀で普通に考えたらこれで抜刀術は不可能だろう。
まぁ、そこはゲーム補正で出来てしまうだろうが…。
『参式抜刀術・顎門』
彼がそう叫ぶと同時に鞘から刀を抜き右へ一閃した…ように見えた。
が、何か前方に衝撃波のようなモノが飛んだようでイッシンの前方にあった埃やらタイルの欠片が一斉に勢いよく散らばった。
実際、”ボワッ”という野太い音が聞こえたので間違いはないだろう。
「どうじゃ?」
「んー、何となくは分ったのですが、何をしたのですか?」
「うむ。では、ゆっくりとしてみようかの」
彼はまた刀を鞘に納め構えなおす。
そして、先ほどの技をゆっくりと実演する。
まずは、刀をやや斜め方向に横薙ぎをする。
その後、手首を捻り左斜めに斬り上げる。
そして、やや腕を下ろして左から右へ横薙ぎ、腕をやや上に上げ右から左下へ斬り血振りをした後鞘へ納める。
この一連の動きを一瞬でやったと言う事だ。
最初の横薙ぎ以外は抜刀術じゃなくね?等と思うかもしれないがそこはゲーム補正という訳だ。
抜刀術からの派生する技も含めて抜刀術の技として登録されているという事だ。
ゲームなんだからそこまで厳密にしなくて良いだろうという事だな。
「これで相手を切り刻むのも良し、魔法や銃弾を弾くにも使える便利な技じゃ。
お主のSPでも十分を使える筈じゃぞ?やってみよ」
俺は、夜月絶景をヴェルに預けサムライソードを腰に差す。
「む、夜月は使わんのか?」
「いえ、剣修練が足らないのです」
「ふむ、…そうか。ならば仕方あるまい」
俺は柄に手を添え腰を捻り抜くタイミングを計る。
《縮地法》を使わなくて良いので簡単だが、初めて使用する技は緊張する。
『参式抜刀術・顎門』
俺は鞘から刀を抜き横へ薙ぐと自分が無意識でやってのけるような不思議な感覚で一連のアクションが発動する。
イッシンが行ったように俺の前方へ衝撃波のようなものが出る。
目視は出来なかったが、舞った埃などの範囲から直径約2mぐらい球体状の衝撃波という事が分った。
「見事じゃ。ワシの目に狂いはなかった」
「えっ?」
「えっ?」
初対面の時、何か酷い言われようだった気がするのだが気のせいだろうか?
「ごほん。では、次の技じゃが…」
彼は咳払いをした後、再び構え直した。
中々、話が進みませんね。すみません。
どこを端折って書くか悩んでいます。
恐らくは、闘技場ランク3戦からランク7戦辺りまでを簡単に纏めて話しを進めようと思います。




