第15話・仁義なき大人気ない戦い
活動報告でアキラの最強への道第二歩と予告しましたが…諸事情により延期します。ま、大それた事はなにもないですけどね。
俺は今、ハイアとヴェルに連れられて特別監獄区へ向かっている。
彼は、政治犯でも反逆者でもないが一般監獄区にも分類する事も出来ないようで特別にこちらは収監されているそうだ。
カリーネのいた牢屋よりもさらに奥へ向かい、いくつかの空室を抜けた先に目的の人物がいる牢屋に着く。
「ここだ」
鉄格子ではない入り口から見て特別扱いなのは想像出来る。
しかし、ハイアとヴェルが鍵を開けた素振りがない。
重々しい音と共に扉が開く。
中は真っ暗で灯りはなかった。
「本当にここ?」
「ああ。ヴェル」
「はいよ」
ヴェルは外から松明を持ち込み中を照らすと、奥の方に人影らしきものが見える。
どうも座って…胡坐をかいているようだ。
「囚人8号、起きているか?」
「………」
「おーい」
「………」
「…ハイア、この人の名前なんだっけ?」
「ん?ん~~。い…い…」
「い?」
「い~、いっ…しん。そう、イッシン=アキヅキだ」
「イッシンさ~ん、起き…生きてますか~?」
ヴェルは、イッシンと思しき人物の前まで行き、掌を眼前で振ったり耳元で囁いたりしているが反応が全くない。
どう見てもチンピラが絡んでいるようにしか見えない。
「ハイア。このおっさん死んでるぜ?」
「…バァッカモン。ワシは生きておるわ!」
「うぉお!?」
おっさんことイッシンは、目をカッと見開いて小さな牢屋内に響き渡る程の大声で叫ぶ。
ヴェルは驚いた拍子に尻餅を着き、キーンとなる耳を抑えていた。
自業自得である。
「イッシン殿。少しお時間宜しいですか?」
「む、ワシは忙しいのでな。後にしてくれまいか」
「後ってどのくらいだよ?」
「礼儀のない小僧よ。まぁ、1時間後か…1週間後か…もしかしたら1ヶ月後…いや1年後かのう」
「要するに俺らの為には時間は割けないと言う事だろ?」
「うむ、よく分ったの。礼儀はないが察しは良い」
「うるせぇよ」
「ま、まぁ、落ち着け。ヴェル」
今にもおっさん…じゃなくてイッシンさんに突っ掛かりそうなヴェルをハイアは背後から抑える。
「そこを何とかお願いできませんか?この娘に貴方の剣術を教えてやって欲しいのです」
ハイアは俺の背中を押し、おっさんお目の前に行かせる。
「ワシの剣術だと!?……ふん、御主はワシをおちょくっとるのか?
こんな成りで習得出来る筈がなかろう」
俺を一瞬見下げた後、フンッと鼻で笑う。
失礼なおっさんだ。
見た目で判断しやがったな。
鼻で笑うほどに俺って細腕か?
…………ま、まぁ…見た目はこんなんだけど脱いだら凄いんだぜ。
いや、脱がないけど…。
「先ほど言ったが、ワシは忙しいんじゃ。ほら、さっさと出て行け」
「ただ、座ってるだけじゃねぇか」
「ぐぬぬ。これはのう。瞑想っていう歴とした修行で己との戦いじゃ。
これを乗り越える事でワシの剣技はさらなる高みへ昇華するのじゃ」
「ふ~ん。座って寝てるだけで剣技が昇華するならお手軽だな」
「お、おて!?こ…こ…こ…ここに直れ!小僧!!すぐにでも斬り捨ててやるわ!!」
「おうおう、やってみろや!おっさん」
どんどんヒートアップしていくヴェルとおっ…イッシンさん。
イッシンのおっ…さんに関しては顔が真っ赤だ。
瞑想していた時の涼しい顔がどこへやら…。
それに2人の中央にいる俺なんぞ目に入らないのか2人分の唾が飛んでくる。
「二人とも、少し落ち着いてください」
ハイアが二人の間に割って入り、俺の肩に手を掛けて後ろへ引き自分の背後へ回らせてくれた。
流石、ハイア!ヴェルと違って頼りになる。
「「うるさいっ!!」」
「うわっ!?………ハハハ、すみません」
二人の息のあった言葉にハイアは素直に従う。
うわぁ~。頼りになるってのは訂正させて貰って良いですか?
「勝負だ!おっさん!」
「良いじゃろう。刀の錆にしてくれるわ!」
ヴェルは、牢屋前に立て掛けていたグレイブを持って来て、お…イッシンさんは、牢屋の片隅に立て掛けていた長刀を持って来る。
「ククク、後悔しても知らねぇぜ。おっさん」
「おっさん、おっさんと五月蝿い小僧じゃ!失礼なクソガキにはお仕置きが必要じゃな」
………ヒートアップしている所、悪いのですがこの牢屋でそれ振り回せますか?
ヴェルのグレイブは振りかぶりさえ出来なくないように見えるのだが…。
おっさんの長刀もかなり長く構え方から見て彼の剣術は居合いまたは抜刀術だろう。
刀を抜いてヴェルに当たる前に壁へ当たりそうなんだが?
それ以前に俺とハイアが回りにいる事忘れていないだろうか…。
「ハイア…」
「まぁ…気が済むまでやれば良いんじゃないかな?」
あ、匙を投げやがった。
「ささ、あっちへ行きましょう。巻き添えにはなりたくないですし…」
ハイアは、牢屋の外へ俺を促す。
まぁ、俺もこの牢屋の中で巻き添えを食って死にたくはないので素直に従う。
しばらく経って…と言っても1分経ったか経たないかだと思う。
睨みあっていた2人に動きがあった。
「キェエエエエエエイ!」
「死に晒せぇぇぇぇぇ!!」
おいおい、ヴェルさんや…看守が勝手に囚人殺しちゃマズイでしょ…。
”ギィィィィィィィン”
”ガッキィン”
一瞬、暗闇の中で何かが煌いたと思った瞬間、2つの凄まじい金属音が外に漏れてきた。
「ぬ”ぉお”お”お”お”お”」
「っな!?」
音からしてお互いの身体には当たっていないようだし、グレイブと刀が交差した訳でもないようだ。
ま、恐らく俺が危惧したように牢屋の天井や壁に当たったのだと思う。
俺とハイアが牢屋に入り込むと尻餅を着いたヴェルと手首を押さえて唸っているイッシンがいた。
そして、2人の得物はというと…グレイブは天井に深々と突き刺さり刀は壁に弾かれ後方へ跳んでいた。
「………」
ふっ、馬鹿だね。こいつら。
大の大人が何をやってんだか…。
「………ハハ、気が済みましたか?お二人とも」
恐らく、ハイアもこうなる事を予測していたのだろう。
普段のハイアなら慌てふためくだろう事態なのに妙な落ち着きがあった。
「はぁ~。凄いですね。この壁は脱獄出来ないように特殊な加工がしてあるのですが…」
どうも、天井とは違い壁面には簡単には破壊されないように何か特別な加工がしてあるようで、
その壁をイッシンの刀は数センチ斬りこんだようだった。
数センチだけなのにそこまで驚くと言う事は、これは凄い事をイッシンが成し遂げたのだと思われる。
ま、当の本人は今だに手首を押さえていて聞こえていないようだが…。
余程痛かったのだろうな。
「ん?」
はは、ヴェルが必死こいて天井からグレイブを抜こうとしているが、全く微動だにしない。
「ふ、ふん。命拾いしたのう。小僧」
未だに手首を押さえながらヴェルへ挑発するおっさん。
「それはこちらのセリフだぜ」
未だに抜けないグレイブをヴェルは全体重を掛けて抜こうとしている。
何と言うか2人とも格好悪い。
◆◆◆
漸く、お互いの得物が抜けた後、先ほどまでの2人と違い大分大人しくなり顔を赤らめながら下を向いていた。
そう…あれが賢者タイムというやつだろう。
「ぉぉぉぉぉおお、ワ、ワシのワシの刀がぁぁぁ」
イッシンは、己の刀に刃毀れはないか必死に探している。
Epic級だし大丈夫だと俺は思いますよ。
ま、流石にEpic級だったとしても刃毀れした後から折れるまでは早いと思いますけどね。
と、言葉にせずに哀れんだ目でイッシンを見つめる。
「す、すまん。ハイア」
ヴェルは自分の仕出かした事を猛省している最中で、ハイアは肩を叩いて励ましている。
「大事にならなくて本当に良かったな」
「…ああ」
で、取り合えず《修練》や《流派》の事はまた後日となった。
当の本人がそれ所ではない為だ。
その後、俺は自分の牢屋に戻りそのままログアウトした。




