第13話・3度目の正直
ハーフエルフ戦3回目
「さて…これで最後っすね」
俺は無言で頷き、手に持ったハルバートを強く握り締める。
「君ってしつこいっすよね。
2回で終わる筈が余計な時間を食ったっす」
「それは…こっちのセリフ…」
「ハハハ、そうっすか。じゃ、殺り合いましょう」
俺とハーフエルフは武器を構え、開始の合図を待つ。
数秒後ぐらいに開始の鐘が鳴り、それと同時に俺は片手でハルバートを長く持ち直し彼へ向かって走り出す。
ハーフエルフの方は右手に持った鎌を手放し、鎖部分へ持ち直し反動を付けた後、頭上で回転させる。
長く持ったせいでハルバートの先端は地面と接触し火花を散らす。
元々、刃毀れが酷い為地面と接触しようが気にならない。
ハーフエルフは2回の戦闘ですでに俺の間合いを把握しているようでハルバートの先が届く直前に彼の手から鎌が放たれる。
俺は放たれた鎌が直線的だと読んでいたが、予想に反して鎌は横薙ぎのように襲い掛かって来た。
だが、ここで脚を止めてしまうと彼の思う壷、次の鎌が襲い掛かってくるだろう。
俺は手に持ったハルバートを前に持って行き、リングのタイルの隙間に先端を引っ掛け、走った勢いを利用し高飛びの容量で上へ跳ぶ。
無論、ハルバートは手放さずに跳ぶ。
流石にこれは予想していなかったようで彼の顔は驚きを隠せていない。
彼の手から放たれた鎌は俺のいなくなった場所の空を切る。
この隙を利用しない手はない。
ジャンプの一番上で俺はハルバートを両手に持ち直す。
落下の力を利用し俺は彼へ向かって渾身の一撃を放つ。
彼は鎌を戻すのを諦め俺の攻撃を鎖の部分で防御しようと試みる。
”ガキン”
と鈍い音共にハルバートの直撃を受けた鎖鎌の鎖部分が砕け散る。
しかし、鎖の犠牲によりハーフエルフにはハルバートの刃は届かなかった。
防いだ鎖とその破片が微妙にハルバートの軌道を変えたようだった。
”ゴッ”
しかも、渾身の力を込めたハルバートは地面に直撃した為、刃と柄の境目で真っ二つに折れる。
彼の長い間合いを封印した代償は非常に大きく俺は武器を失うという結果になってしまった。
「ッ……ハハ、死ぬかと思ったっすよ。
でもっ!」
左手に残ったもう一振りの鎌は俺の首下へ容赦なく斬りつけられる。
ハルバートを失ったショックが残っていたが彼の殺気により辛うじて持ち直し転げるように刃から逃れる。
転げた先で俺の足元に何かが当たる感触があった。
そこには彼の右手から放たれ鎖が切れた事によって手元には戻らなかった鎌の片方落ちていた。
俺は咄嗟にその鎌を拾い右手で構える。
「無駄っすよ。心得のない人が持っても鎌なんて武器にはならないっす。
精々、農具止まりっすね」
「ッ」
「で、その農具でどうするつもりっすか?
言っておくっすけど、僕は鎌の扱いにも慣れているし流派もあるっす。
簡単に言えば、鎖鎌でなくなっても鎌であるなら僕は負けないって事っす」
要するに彼は物心付いた頃よりこの牢獄にいた訳ではなく、少なく見ても人格が形成された後且つ戦う手段を得られた後にここへ投獄されたという事だ。
確かに現段階での強さ(レベル)は拮抗しているが、まともなスキル構成と流派を持っており俺とは地盤が違い過ぎるという事だ。
これは非常に危うい…俺はてっきり彼も幼少期からこの牢獄にいるものと思っていた。
そうだ。よく考えてたら分る事なのだ。
こんな牢獄しかもグレゴリが支配している場所で鎖鎌なんていう特殊な武器がある訳がない。
確か、元々農民が国王の圧制から身を守る為の手段として鎌は農具から武器へと進化させたという設定がある。
武器に進化させたと同じように流派も同時に確立されたのだ。
そもそも、王政かどうかも怪しいグレゴリの社会と年中暗闇に包まれたこの場所で農業が発達したとは思えない。
「理解したみたいっすね。
で、どうするっすか?降参しても良いすよ」
だからと言って、降参するつもりなんて毛頭ない。
俺は再び鎌を構えなおす。
『我流』を舐めてもらっては困る。
初期流派よろしく流派スキルがなく全ての技が他流派の初期習得技で奥義がない。
しかし、『我流』以外の流派にはないものが1つだけある。
それは全ての武器に対応している事だ。
と言っても鎌に適用できそうな技はそう多くない。
矛・鎌技の『草刈り』、大剣・斧技の『丸太斬り』、槍・棒技の『撓り打ち』の3つだ。
む、思ったより多かった…が、恐らく『撓り打ち』は使えないだろう。
この技は槍の柄や戦闘用の長棒による撓りを利用した打撃技なのだが、この鎌は撓るほど柄が長くない。
『丸太斬り』も微妙なところだ。
本来、『丸太斬り』は重い刀身を利用した単純且つ渾身の一撃を放つ技だ。
この鎌は、彼が言ったようにそれ単体で見ればただの農具で重い刀身なんて持っていない。
死神の鎌とかなら重い刀身なので使う意味があっただろうけど…。
と言う事は必然的にこの鎌で使えて技として成立するのは『草刈り』だけという事になる。
これでは使えないように思えるかも知れないが、要は使い所だ。
彼は今、俺が鎌を使えないと思っている。
…まぁ、使えないようなものだが、技として成立する以上基本的な技だとしても奇襲をする意味では大いに期待を持てる。
「ふーん。まぁ、別に良いっすけどね」
ハーフエルフは、鎌を右手に持ち直し地を這う蛇のようにフェイントを交えながら俺に向かって走り出す。
3戦目にして彼は初めて近接戦闘に入った。
気付けばすでに俺の間合い内に入り込まれており、鎌が俺の首に迫っていた。
俺は咄嗟に後ろへバックステップをし避ける。
しかし、それを読んでいたかのように前転宙返りというアクロバットな動き織り交ぜ追撃してくる。
その正確な動きはまるで誘導ミサイルかのようだ。
俺の脳天に突き刺そうとする鎌を右手で持つ鎌で弾き返し、振りぬいた腕を切り返し逆に攻撃へ転ずる。
しかし、俺の反撃を察知したかのように彼はバク転で避け一旦俺の間合いから外れる。
そして、前転した後跳ね上がり俺の頭上を飛び越え着地寸前に俺の背中を斬りつける。
一瞬視界が赤く染まる。
しかし、HPゲージの10分の1ぐらいしか減っておらず掠り傷のようだ。
俺は振り向きながら鎌を振るうが当たらず空を斬る。
振り向いた先に彼はいなかった。
そして、また視界が一瞬赤く染まりHPゲージの5分の1が減る。
どうも、彼は俺の動きに合わせ常に背中へと回り込んでいるようだ。
完全に俺は翻弄された状態という事だ。
「苦しそうっすね。今、楽にしてあげるっすよ」
その後数回それが繰り返しHPがイエローゾーンを切りレッドゾーンになろうかとしていた。
彼の余裕が見て取れた為、俺はバックステップと同時振り返る。
目の前にはニヤニヤと厭らしい表情の彼が立っていた。
鎌の柄に繋がった鎖を持ち振り子のように揺らしている。
隙が大きい…これなら何とかなるかもしれない。
E/Oには一発逆転的な要素が多分に含まれている。
それは、過去の戦いでも数度あったと思うが急所への攻撃だ。
俺はそれで何度も死んでいる。
急所への攻撃…E/Oの場合は、首から上と心臓への攻撃がそれに相当する。
クリティカルは、約2倍のダメージになるが急所への攻撃はほぼ一撃必殺だ。
まぁ、その辺のダメージ換算はFPSやTPSと同じと思って貰って構わない。
ヘッドショットとハートショットというべきかな。
無論、防具などで軽減出来るのだが俺も彼も装備している防具は防御力0の布だ。
裸と変わらない。
頭部と心臓以外に部位ダメージ等もあるが今回は省こうと思う。
彼はバク転しある程度俺との距離を離した後、また蛇のような特殊機動で俺へ迫る。
「本当は鎌が2振り必要なんすけど…『デスゲイル』」
1振りで十分だと言う事か…。
彼は蛇行しながら黒い靄のようなものが身体に纏わり付いていく。
彼が走った後と思われるタイルが、カマイタチで切り裂かれた様にいくつもの傷を付いている。
これを勢いづけるのはまずい。
『炎の妖精よ…』
俺は手を前に突き出し詠唱すると、小さな炎の塊が掌に現れる。
『フェアリーボール!!』
俺がスペルを叫ぶと同時に掌に集まった炎の塊は彼へ向かい飛んで行く。
これで彼を倒す事はまず不可能だろう。
黒い靄が集まり黒く禍々しい姿となった彼にフェアリーボールは直撃し爆発する。
「なっ…!?にぃ…」
爆発は小規模なものだったが、爆発した勢いで彼に纏わり付いてた黒い風は掻き消えバランスを崩す。
大きな隙が生まれた彼へ目掛けて俺は攻撃を仕掛ける。
『草刈り』
バランスを崩しふらついている彼の足元へ向かって技を繰り出す。
この技は本来バランスを崩す為の技でバランスを崩した相手に使うものではないが、相乗効果で転倒させる事が出来る筈だ。
案の定、彼は完全にバランスを崩し尻餅をつく。
「へっ!?」
何が起こったのか分らない様子の彼は呆然としている。
それはそうだ。
完全に勝ちが確定しほぼ回避不可能な技で止めを刺そうとしていた筈なのだ。
魔法で風が吹き飛び、技がないと思っていた相手に自身の十八番である鎌の技で転倒させられた。
しかも、最初に習得し1対1の戦いでは、ほぼ使い道にならないと言われている技でである。
『草刈り』は実戦で使えない事もない。
集団戦では非常に有効な技だ。ただし、追い討ちしてくれる味方が必要ではあるが…。
個人戦では余程隙を見せないか状態異常とかでない限り当たる事はない。
俺は彼の首へ鎌を押し当てる。
「ああ、そっか…。僕は隙を見せちゃったんっすね」
彼はそう言い残し目を閉じると同時に俺は鎌を引き斬る。
鮮血と共に彼の首は地面に落下し身体が崩れ落ちた。
”ワアアアアァァァァァァ”
大歓声が闘技場全体に響き渡る。
膝を着き彼の血により赤く染まっていた俺は大歓声に導かれるかのように立ち上がる。
すると、大歓声のボリュームがさらに上がる。
◆◆◆
「よぉーく、やった!」
「やるじゃねぇか。正直負けると思ったぜ」
リングのほぼ中央で立っていた俺にハイアとヴェルが寄って来る。
ハイアに関しては俺を子供をあやすかのように身体を抱き上げる。
「へっ!?ちょ…」
抱き上げられ無抵抗な俺にヴェルは思いっきり背中を叩く。
よく見ると1ドットずつHPゲージが削れて行っている。
ちょ…おま…やめ…これ以上叩くのは…あ…HPゲージがレッドゾーンに到達した。
「やるじゃねぇか…やるじゃねぇか!」
尚、背中を叩くのを止めないヴェルにいい加減俺もキレてきた。
「やぁるじゃねぇか!…やるjゴフォあぁ!?」
俺はヴェルの顔目掛けて後ろへ蹴りを入れる。
「はぁはぁはぁ…う、うるさいし…背中、痛い」
「いつつ…すまん。興奮し…ぶっ!」
顎を摩りながら俺の方へ見上げているヴェルの視線はある一点を見つめていた。
そして、俺と目が合うと目を逸らす。
「…なにを見ていた?」
「な、何も見てない!見たけど…見ていない!」
「……」
「…ああ、すまん。下ろすよ」
俺とヴェルの険悪な空気を読んだのかハイアは謝って抱き上げていた俺を下ろす。
「あー、…よ、よくやった。アキラ」
「むぅ…まぁ、ありがとう」
【ハーフエルフの武器】
《Name》双頭鎖鎌
《User》???
《Rank》Normal
《Level》鎌修練Lv25
《Base》鎖鎌
《Detail》
戦闘用の鎌が鎖の両端に付いた武器。
鎖は見た目以上に長く最大で10mほど伸びる。
非常に間合いが長く、鎌としても十分使える為オールレンジで戦う事
が出来る。
鎖鎌は鎌の中でも特殊な部類の為、扱いが非常に難しく修練レベルも高めに設定されている。




