第10話・カリーネの魔術講座
「やっと、来たわね。待ちくたびれたわよ」
さぁ、私の胸に飛び込んできなさいと言わんばかりにカリーネは両手を広げている。
俺がカリーネの牢屋の中に入り、彼女に1歩近付く毎に彼女の手つきがいやらしく動く。
彼女は平静を装っているが、指の動き「ワキワキ」により全てを台無しにしている。
「はい、捕まえた」
捕まえたもクソもないだろうに…。
「では、カリーネ様。1時間後に彼女を迎えに来ますので…」
ハイアとヴェルはそう言い牢屋の鍵を閉め立ち去る。
いつも牢屋で目覚めると牢屋の入り口に立っているので俺の監視が役目だと思っていたが、
彼らは一応看守としての仕事をしている事に今更気付いた。
今回は、俺とは別の囚人を闘技場へ送り出す予定ようだ。
ちなみに、闘技場では俺が一番下のランクだったみたいで、今回のランクアップで一番下から脱出をしたみたいだ。
で、俺と同ランクの囚人は4名らしい。
多分、次回俺が戦う相手はその内の1人だろう。
「この娘は私に任せて早く行きなさいな」
カリーネはシッシッと彼らを追い払う。
一瞬、立ち去るハイアと目が合うと彼が僅かに口を動かした。
”が・ん・ば・れ”
何を頑張れなのだろうか…。
「昨日は属性の調査だったけど、今日は魔術に関連するスキルと実際に魔術を教えるわね」
「はい」
「と言っても、今日アキラちゃんに教えるのは初級魔術だから簡単よ。
でも、ちゃんと報酬はきっちり貰うから覚悟していなさいな」
一瞬、カリーネの目がキラリと光ったような感じがした。
「取り合えず、魔術の習得方法から教えるわね。
要は簡単、1度詠唱文を全文詠唱してから発動させるだけ…。
なんだけど、習得した後は全文読まなくても良いという訳でもないから気を付ける事。
魔術自体、ワンスペル発動が可能よ。だけど、極端に弱い上に効果もないに等しいわ。
そこで詠唱文が必要になる訳。魔法力の充電や増強、そして自身の自己暗示が詠唱文って事ね」
つまり、習得するのに最も重要なのは、全文詠唱して”発動”させる事という事だな。
魔術の素養がない種族や不得意属性だった場合は、全文詠唱したところで発動出来ないから習得出来ないという事だ。
まぁ、不得意属性でも度合いがあるし、少し不得意程度なら恐らく発動も出来習得する事も可能だろう。
「次は詠唱に関連するスキルについて説明するわね。
詠唱文に関するスキルは3つ『短縮詠唱』『詠唱破棄』『予約詠唱』。
まずは、『短縮詠唱』。
そのままね。詠唱を短縮させるスキルよ。
未熟だと短縮した分だけ効果や威力は下がるけど、熟練者は効果や威力を下げる事なく短縮させる事が出来るわ。
ちなみにマスターした者はワンワードワンスペルで発動させる事が出来る。
そして、『詠唱破棄』。これは『短縮詠唱』の上位スキルって感じね。
ただ、習得出来るのは魔術が得意な種族かつ『短縮詠唱』をマスターした者のみよ。
アキラちゃんは問題ない筈だから安心して。
『予約詠唱』は、予め事前に詠唱を済ませておいて任意のタイミングで発動させるスキルよ。
そして、任意と言っても1日前に詠唱したものを発動させる事は無理よ。
それに、予約詠唱した後に別の魔術を詠唱したらキャンセルされるし、予約出来るのは1つだけね」
『詠唱破棄』については話していなかったけど、『短縮詠唱』の上位スキルかつ『短縮詠唱』のマスターが習得条件と言う事を踏まえると、
恐らくはノーワードワンスペル発動即ち詠唱文なしのワンスペル発動が出来るという事だろう。
これは、魔術を習得する上で重要なスキルだろうし、魔術だけでなく他の詠唱文が必要な魔法全てに適用される筈だ。
『予約詠唱』は、特殊な状況下では役に立ちそうだ。
彼女の言葉から普通に考えてスキルのレベルアップで強化されるのは詠唱してから発動するまでの時間の延長だろう。
「次は魔術発動に関するスキルで『二重詠唱』『多重詠唱』『共鳴詠唱』の3つがあるわ。
『二重詠唱』は、2つの詠唱文を交互織り交ぜて詠唱する高等スキルよ。
未熟な内は短い詠唱文の魔法しか『二重詠唱』出来ないけど、熟練者は上位魔法も『二重詠唱』出来るわ。
でも、はっきり言って長すぎるから現実的ではないわね。
普通は『短縮詠唱』や『詠唱破棄』を同時に使うわ。
そして、『多重詠唱』は『二重詠唱』と『詠唱破棄』をマスターしている事が前提条件よ。
スキルレベルが上がる毎に同時に詠唱出来る数が増えるわね。
ま、習得も成長も生半可ではないから今は気にする必要はないわね
最後は『共鳴詠唱』なんだけど、少し毛色が違うわ。
これは2人以上の詠唱者が必要よ。
同じ魔法を同時に詠唱する事で魔法性能を強化するスキルよ。
メインとなる人は習得していなくても良いけど、共鳴させる人は習得必須。
『短縮詠唱』『詠唱破棄』『予約詠唱』『二重詠唱』『多重詠唱』の効果とは重複できないわ。
全文詠唱する事が必須条件なのよ」
『二重詠唱』と『多重詠唱』は低レベルの内は無縁のスキルのようだ。
それよりも『共鳴詠唱』だ。
統制の執れた騎士団のような集団では、かなり有効なスキルのように感じる。
それに、魔術レベルの低い者でも複数人入れば格上相手でも対等に戦える可能性がある。
対ボス戦に打ってつけだろう。
「スキルはこんなものね。
じゃ、実際に魔術を教えるわね。
ただし、この牢屋の中では魔力が遮断されているから発動させる事は出来ないわ。
詠唱文だけここで暗記して実践で習得するしか方法がないわ。
本来なら全属性を教えても良いのだけど、ベルフェゴール様やスロゥスに感付かれるのは厄介だから…
火属性だけを教えるわね。
で数ある属性の内、なぜ火属性なのかというと…アキラちゃんの人格属性が火だからよ。
昨日、種族属性だけで手一杯で人格属性どころじゃなかったから伝えるの忘れていたの」
確かに、全属性が使えると知れたら俺がヒューマでないと思われても仕方がない。
仮に全ての初級魔術を教えて貰った上で火しか使うなと言われて素直に火だけ使う自信はない。
取り合えず、ここから出る事を最優先にしよう。
「分りました」
「よし、言うわよ。簡単だからすぐに暗記出来るから安心して良いわ。
『炎の妖精よ。フェアリーボール』……はい、これだけ。簡単でしょ?」
想像していたよりも遥かに短い詠唱文でびっくりした。
「ククク、これだけ!?って思ったでしょ?」
「え?あ…まぁ…」
「喜べ。上位の魔術となれば詠唱するのも嫌になるほど長いわ。
とまぁ、冗談はここまでよ。今、教えた以外にも魔法に関するスキルは多種多様よ。
本格的に魔術を学びたいのならばちゃんと教えを請うと良いわ。
で、他の属性魔術は魔術書店で魔術書や羊皮紙を購入した後、先ほど言ったようにすれば習得が出来るわ。
初級魔術のフェアリーシリーズに関しては魔術書店でタダで教えてもらえるわよ。
分った?」
「はい、大丈夫です」
確か、習得した後魔術書は消えないけど羊皮紙に書かれた魔術は習得した後消える(燃え尽きる)らしい。
ちなみに、魔術書は魔術が複数書き込まれていて云わば教科書みたいなもの。
羊皮紙に書かれているのは1つだけでピンポイントで習得する際に用いられる。
で、羊皮紙については別の使い道…というか、そちらの方がメインの使われ方っぽい。
羊皮紙を手に持っていると詠唱文を唱えなくても魔法が通常通り発動させる事が出来る。
まぁ、簡単に言えばインスタントマジックってところか…。
生産スキルの「書写」で作る事が出来るらしい。
「よし。これにて魔術講座は終了……という事で次は報酬を貰いましょう」
「へ?」
「今回は男共の視線もない事だし…お姉さんに全てを委ねなさいな」
身の危険を感じた俺は咄嗟に逃げようと後ずさろうとしたが、彼女の右手が左肩を掴み右手が身体に巻きつき両足が俺を挟むように絡みついてきて完全に動けなくなってしまった。
「う~ん。良い匂い。若いって良いわよね」
カリーネさん、あなたも十分若いですよ。
俺の首筋を嗅ぎながら彼女の手は体中を這い回る。
触られている感覚はないが変な気分である。
「ああ、良いわ。この肌の感触最高よ」
カリーネは俺を押し倒し行為はエスカレートしていく。
「それでは頂きま~す」
彼女の唇が俺の唇へ近付いてくる。
まぁ、言わなくても分ると思うが今からキスをしようとしているという事だ。
正直、やりすぎだ。
「……カリーネ様、何をやってるのです?」
「チッ…」
え、舌打ちですか?
「おぃ~、ハイア空気読めよ」
良い所だったんだから…とヴェルは不満を漏らす。
おい、看守。何煽ってんの?止めろよ。
「……カリーネ様、これは終わったと見て良いのですよね?」
「まぁ……そうね。でも、報酬を貰っている最中よ。邪魔しないで貰える?」
「ふむ……そうでしたか。では、5分待ちますので終わらせて下さい」
「え?」
止めないの?継続!?
カリーネは美少女好き
ベルフェゴールは美女・美男好き
スロゥスはベルフェゴール一筋
ハイアは、妻・娘一筋
ヴェルは……




