第9話・リアルラックの結晶(仮)
「さて、それじゃあ。本題に入りましょうか」
カリーネは俺と向かい合わせに座り、ハイアが持ってきた水晶球を俺と彼女の丁度真ん中に置く。
じぃと見つめると水晶球の真ん中に淡い光が見えたような気がした。
「取り合えず、あなたの属性を調べるわね」
「はい」
「やり方として、まず水晶に両手を置いて頂戴。
置いたら目を閉じてね」
「わかりました」
俺は水晶に両手を置いて目を閉じる。
「では、始めるわよ…。
何でも良いから炎をイメージしてみなさい」
炎を言われても何も思い浮かべられなかったので、咄嗟にUO2内の魔術ファイアボールを思い浮かべる。
「OKよ、では、次に水か氷ををイメージしてみなさい」
今度は南極の氷が融けるイメージをする。
最近、数年前よりも温暖化が深刻化していて、氷が融けているニュースよく見ている。
ついでに水も海という事でイメージも出来ている事だし、どっちかには反応してくれる筈だ。
「ふーん。では、次。風をイメージしてみなさい」
風…風…台風で良いかな。
最近は、数年前から竜巻も多くなってきているらしいが、やはり日本と言えば台風だ。
と言うより、俺の住んでいる所には一度も竜巻が来ていないのでイメージし辛い。
「…OK。次は、雷をイメージしてみなさい」
まぁ、普通に雷で良いよな。
都市上空で雷が落ちているイメージをする。
「……んー。まぁ、良いかな。次は土または大地をイメージしなさい」
最近、砂漠化も酷いんだよな。
タクラマカン砂漠が、十数年前よりも大分広がっているっていう話だ。
ま、元々滅茶苦茶広いからどれだけ広がったのかはさっぱり分らないが…。
取り合えず、ドキュメンタリー番組の映像を思い出す。
と言うか、これってゲームなんだし実際イメージしなくても良いのではないだろうか…。
そこまでHMGが判別してくれるとは思えない。
けど、確証はないんだよな。
「………調子悪いのかしら………OKよ。次は光をイメージしてみなさい」
太陽で良いよな?
って、太陽は火かな…なら月にしよう。
俺は田舎で見た満月を思い浮かべる。
都会でも満月を見る事は出来るがスモッグのせいもあって綺麗に見る事が出来ない。
「………ハイア、これ本物?」
「はぁ…間違いないと思いますが…」
俺の知らないところで雲行きが怪しくなっているようだが大丈夫だろうか?
「おかしい。こんな事初めてだわ…」
「ヴェル…あなた悪戯とかしてないわよね?」
「め、滅相もない。それに子供じゃないんですから、そんな事はしませんって」
水晶に何か細工されたと思うような事が起きているという事か?
一体何が起こっているのだろうか…気になる。
「そうよね…。まぁ、良いわ。次。闇をイメージしてみなさい」
闇か……。
停電になった街をイメージする。
数年前、台風で電力を供給している電線が切れ、俺の住んでいる地区全体停電した事がある。
夜になっても復旧しなくて20過ぎの大人が恐怖を覚えたものだ。
「どうなってるの?!有り得ない…こんな事!!もう良いわ。目を開けなさい」
目を開けるとカリーネさんは閉じる前と正反対でご立腹だった。
まぁ、多少イラついているのはハイア達との会話で何となく予想は付いていたが怒っているとは思わなかった。
「えーと…」
「あなた…何者?」
「何者…言われても…」
何が言いたいのかが、さっぱり分らない。
むしろ、属性を調べるだけだった筈なのに…。
「はぁ~。えーとね。ある属性が得意なら相反する属性は苦手か使えないのが普通なの。
種族属性と人格属性が相反する属性だった場合は、種族属性が優先されるわ。
何が言いたいかと言うとね。相反する属性同士が同レベルって事は有り得ない訳…。
それともう1つ…ヒューマは光属性と闇属性が得意属性になる事も有り得ないわ」
「要するに?」
UO2よりも種族が増えた分、光と闇の属性を持つ種族は他にもありそうだが、
少なくとも光属性が得意なのはセレスティアのみで、闇属性が得意なのはグレゴリのみだった筈。
補足だが、純血の種族の場合は得意属性は2つある。
それが先ほどから出てきている種族属性と人格属性だ。
読んで字の如く種族属性というのは、その種族全員に設定されている属性でセレスティアの場合が光でグレゴリの場合が闇という事だ。
で、人格属性というのはそのキャラ特有の属性で、これに関しては固定される事はない。
そして、この種族属性と人格属性と相反する属性は必然的に不得意な属性となる。
種族属性の相反する属性は、ほぼ使えない属性と思って良い。
セレスティアが闇属性の魔法が使えないと考えれば簡単だろう。
「水晶による結果が正しいなら…あなたは全ての属性が同レベルで使える事と光属性と闇属性が得意属性になってるわ。
逆に言えば苦手属性がないと言う事よ」
あ、そうか。光属性と闇属性が得意なヒューマって変だよな。
それに初期属性レベルがオール1だったのは少しおかしいと思っていたんだよな。
不得意属性の初期レベルは0になる筈だったから…。
ネフィリム然りハーフ種族というのは、種族属性を2つ持っている。
種族として成り立っているハーフ種族は、2つの属性が相反していても相殺し合う事がない。
恐らくネフィリムが光と闇の2つの属性が得意属性なのはそういう事なのだろう。
ちなみに、種族として成り立っていない(固有名称を与えられていない)ハーフ種族は2つの属性が相反し合いどちらかが弱体化する。
という事を踏まえるとネフィリムの不自然な属性は、光と闇以外の属性がオール1だという事だ。
理由は分らないが、UO2とE/Oでの世界設定的に不自然なのは間違いがない。
「…………その身体…義体ね?
でも、闇属性が得意な時点でセレスティアという訳ではないわね。
…だからと言ってグレゴリでもない」
義体では、属性までは誤魔化しきれない。
まぁ、こういう感じで詳しく調べない限りどの属性が得意で不得意かなんて分らない。
余程不注意な行動をしない限りは…。
まぁ、言い訳というかカリーネさんを誤魔化せるとは思えないので正直に言うか。
「ボクみたいな人をネフィリムって言うそうですよ?」
「!?ネフィリム……聞いた事があるわ…。
確か、グレゴリの成り損ない…グレゴリとセレスティアの特徴を持つ者」
「それと、確かに今のボクは義体ですが……元には戻れない状態です。
恐らくは義体としての能力が低いせいだと思います」
「それは有り得るわね。
義体はセレスティアが地上で活動する為の代りの身体って呼ばれているわ。
そして、義体自身も列記とした生身の身体で間違いはない訳だから……ん、どうしたの?」
「やけにセレスティアの事詳しいですね」
「何を言っているのよ。グレゴリは元セレスティアよ。
確かに私自身は数世代後のグレゴリだから、私自身が元セレスティアって訳じゃないけど…。
書物はいくらでも残っているわ」
セレスティアとグレゴリは、他のゲームや神話とは似て非なる関係だ。
UO2とE/Oは世界観が共通している事から裏設定も同じと見てまず間違いがない。
その裏設定というのは、この世界が7千年後の地球だという設定だ。
ゲームにする上で惑星のサイズが3分の1ぐらいにはされているが、大陸の配置などは酷似している。
ちなみに、日本列島はユーラシア大陸と樺太と北海道と本州が合体して大きな半島となっている。
そして、ダンジョンは実際にある地球の地名が名付けられている事が多い。
チェルノブイリとかは巨大な地下ダンジョンとして存在している筈だ。
まぁ、これはUO2にあっただけでE/Oにも実装されているかは知らない。
と、前置きはこの辺で終えておいて…だ。
セレスティアは、核と隕石による汚染に耐え得る身体にする為、地球人の遺伝子操作をしまくった結果という設定だ。
遺伝子操作をしまくった弊害として、急速的な成長が死ぬまで止まらなくなる。
しかも、その死に至るまでの急速的な成長は、本当に短く大体1週間ほどという設定で、
その成長を止める為に成長を抑制するリミッターをセレスティアの頭部に埋め込むという感じでティアラ状の装置が付けられている。
それ以外にも色々な裏設定があった筈だが今回は置いておく。
全てのセレスティアは感情や欲求を抑制されているが、中には抑制されなかった感情や欲求を持つセレスティアが生まれる。
そして、上層部の命に従わないセレスティアも当然おり、そういう者達を処刑していくのだがその処刑方法がティアラの破棄という事だ。
これにより急速な成長に身体と精神が付いていけず死亡する。
本題はここからだ。
ティアラを破棄され後は死を待つという状態にも関わらず非常に低い確率で生き延びる者達がいる。
それがグレゴリだ。
グレゴリは、セレスティアとは全てにおいて相反する存在となる。
神術や天剣の使用が出来なくなる代わりに魔術と驚異的な身体能力を得る事になる。
捕捉だが、死の一週間を生き延びるがグレゴリに成らなかった存在がネフィリムの事なのだと思う。
UO2には、イベントNPCで黒天使と呼ばれているキャラがいたが多分同一だろう。
とまぁ、グレゴリである彼女が知っていても確かにおかしくはないが、そういう知識をゲーム内の1NPCがプレイヤーに語れるぐらい知っているとは思わなかった。
自分で言うのもあれだがネフィリムを作成出来る確率は恐らくゲーム内のあらゆる種族中最も低いと言っても過言ではない。
そんな出来るか出来ないかも分らないキャラにちゃんとチュートリアルが用意され質問されるかも分らない内容を答える事が出来るのだから驚きを通り越して驚愕だ。
「まぁ、良いわ。でも、この事はスロゥスやベルフェゴール様に言わない方が良いわね。
利用されるだけ利用されて使い物にならなくなったら棄てられるだけ…いえ、殺されるのが目に見えてるわ。ハイア、ヴェル良いわね?」
「は、はい」
「大丈夫ですよ。俺達がカリーネ様を裏切る訳ないですよ」
「だな。特にスロゥスには絶対言わない」
「宜しい。で、えーと…」
カリーネさんは俺の方を見て何やら考え込む。
「?」
「あなた、名前は?」
「28号ですよ。カリーネ様」
「ヴェル……あなたに聞いてないの。お分かり?」
「ひぃ」
カリーネが目を細めヴェルを睨んだ顔は傍目で見ていた俺でも鳥肌が立つほど恐ろしかった。
それを直視したヴェルは短い悲鳴と共にハイアの後ろに隠れる。
「で、名前は?」
「あ…アキラ=ツキモリです」
「そう…アキラちゃんと言うのね」
アキラちゃんという言葉に恐怖とは違う意味で鳥肌が立った感覚になる。
イメージ的にアキラは男でも女のどちらでも通じる名前だ。
”ちゃん”が付くだけで女の子っぽくなるので、小さい頃アヤカにからかわれる時によく言われた。
嫌いではないが今となっては言われる事が少なくなった為、不意を突いて言われると脊髄反射で鳥肌が立つ。
「?……アキラちゃん、あなたも他人に自分がネフィリムなんて気軽に言うのはやめておきなさい。特に魔王やその側近にはね…」
「…分りました」
「ただ、何れネフィリムの力を使う時があるわ。その時は対象を必ず殺しなさい」
「物騒ですね」
ヴェルがぽつりと呟く。
俺も同意見だ。話がオーバーな気がしないでもないが、作成出来る確率から見てE/Oの世界にネフィリムは俺ぐらいだろう。
他に居たとしても片手で数えられるぐらいだろう。
勿論、希少種族だからと彼女が忠告している訳では当然ないだろう。
グレゴリ・セレスティア、E/Oの中で1・2を争う強力な種族の2つの特性を持つ種族であり、義体を解除出来ないほどの低レベルのせいだろう。
低レベルのまま魔王に知られると捕まって飼い殺し…下手するとこのベルフェゴールの城から出る事が出来ないまま、このキャラの寿命が尽きるという最悪な事に成りかねない。
大方、彼女の言いたいのはそう言う事だと思う。
これでストックがなくなりました。
次回の投稿は遅くなると思います。
全種族中全属性が使えるのはネフィリムのみという事です。
余談ですが、セレスティアはグレゴリよりも身体能力が低いですが、
神術が使える事とセレスティア専用の超強力な武器があるのが特徴です。
グレゴリは神術と専用の武器が使えなくなる代わりにセレスティアよりも身体能力が高い上に自然治癒能力がずば抜けています。
そして、ネフィリムはその両特性を持っていると短命というデメリットも霞んで見えるチートぶりです。




