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聖女めざして修行中ですが、踏んだり蹴ったりには定評があります!  作者: 有沢真尋
第二章

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断絶と憎しみ

 アンゼルマの部屋を辞し、出てきたばかりのドアを振り返る。

 閉ざされた戸板に手をついて、ナディアはがっくりとうなだれた。

 心の奥底からの、大きな溜息。


(昼間の……、サンドラ姉さまにはめられかけた件。聖女候補者同士が足を引っ張り合っているように見られたくなくて、自分なりにフォローしたつもりだった。結果的にこれまでサンドラ姉さまがカバーしきれていなかった「癒やし」の領域で出し抜くような形になって……)


 気持ちの上ではやりすぎた(オーバーキル)感が強い。


 サンドラは、自分自身が「癒やし」の領域では大きく力を発揮することがなかったので、いつしか支持者から期待されることもなくなり、そこに需要があることを正確に把握していなかったに違いない。

 そして、ナディアの力を侮っていた。

 サンドラが衆人環視の前で「ナディアが、顔に切り傷をつけた」と訴えたのを、当のナディアが癒やしの魔力で有耶無耶にした流れ。さらには、「癒やしの魔力があるのであれば」と押し寄せたいくつもの悩み相談を次々と受け、その願いを叶えてしまった件。すべて、サンドラの想定外だったように見えた。


(悪意を機転で乗り切り、自分の実力を示して評判を上げ、サンドラ姉さまの支持者を取り込んだ……。おそらく「聖女候補者」としては最良の動きをした。すべてはサンドラ姉さまの「侮り」が発端であり、私が後ろめたく思うようなことではない。むしろ出遅れていた分を取り返すためには、私は今後も同じようなことがあれば、今日のように乗り切るべきなんだ。わかってる)


 ナディアは、目の前で閉じたままのドアを、じっと見つめた。

 アンゼルマと話したことで、いくぶん気持ちは落ち着いていた。だが、うまくやりすぎた自分の手際に妙な割り切れなさを感じている。

 後味が悪い。


(やられたから、遠慮なくやり返した。落ち度は私の能力を見誤っていたサンドラ姉さまにある。だけど、聖女になるために、本当にこんなことを続けていくの……? 隙を見せたら「義理姉妹」で容赦なく潰し合うような)


 ――お前は今よりも血を流し、骨を折れ。傷だらけになってでもこの戦いから逃げるな


 ゆっくりと、目を瞑った。

 アンゼルマの前ではできる限り平静を装っていたが、向けられた言葉を思えば、心は見透かされていたとしか思えない。

 傷つけられたときよりも、傷を負わせる方がより心が痛む。覚悟を要する。


 自分が攻撃された場合は、気持ちが折り合えば「許す」ことができる。

 反対に、自分が攻撃をした場合は、相手は謝っても「許してくれない」かもしれない。当然だ。そもそも謝って許してもらおうなどと考えるなら、はじめから攻撃などしなければ良い。

 傷つけるならば、そこにはもはや自分の気持ひとつでは如何ようにもできない断絶の覚悟を必要とする。

 その断絶の先にあるのは、おそらく「絶対に許さない」という相手からの憎しみ。そして、「あれほど自分を憎んでいる人間を生かしておけば、いつか殺されるかもしれない。その前に」という、歯止めを失った殺意。互いに。


「戦わない方法は本当に無いのでしょうか。このままだと、私は姉さまたちと本気で殺し合うことになる。……いずれあなたとも」


 ドアの向こうには聞こえないように、ごく小さな声で呟く。

 すでにセレーネからは敵意を向けられ、サンドラの憎しみを買った。この上、アンゼルマとの衝突も避けられないとすれば。

 心も体も血を流し、骨を折り、激しく苦しむのは想像に難くない。


(選ばれるのは一人だけ。候補者たちはその座をめぐって争っている。力が劣っている私は、「もっとも優れた人間の座」だと信じ、それは自分では無いと身を引いていた。今、争いの真っ只中に飛び込んでみればわかる。これはただの人間の戦い。綺麗な部分なんてどこにもない。相手の落ち度があれば容赦なく引きずり下ろす。他人をおとすことで、結果的に自分を良く見せる。そういう戦い……、本当に?)


 いつまでもぐずぐずしていられないと、ナディアは廊下を歩き出した。

 心の中が暗いせいか、視界もくすんでいる。自分は何かを見誤っているという気持ちが消えない。

 それでも、話し合いの最後にアンゼルマから出された課題を思い浮かべ、気持ちを切り替えようと決める。


 ――課題ですか?


 なんだろう、と聞き返したナディアに、アンゼルマはにっこりと笑って爽やかに言ってのけたのだ。


 ――たまには義理姉妹四人でお茶会でもしてみないか? なかなか全員で顔を合わせる機会も無いからな。お互いのことを知る、楽しい会話ができると期待している。セッティングに関しては私に任せるように。


(アンゼルマ姉さま……、「課題」になっている時点でそのお茶会は絶対に、ただ単に楽しいものではないと暴露してしまっているように思うのですが……!)



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