買い物…物?
久々の5000文字突破。
文句を言いまくるアイラさんとルージュを命令で縛り、僕たちは家探しのためにギルドへと向かっていた。
「さて、今度の家はどうしようか?」
ギルドに着くまでに、みんなの希望をまとめる為にリンたちに訊いてみる。
「私は…お風呂があればいいかしら?」
「あたしは広い庭がいいかな?」
まず、真っ先に応えたのがリンとサキだ。
まぁ、リンのお風呂希望は予想通り。リンは以前の家でお風呂に入って以来、お風呂をいたく気に入っていたしな。
サキの庭も予想の範囲内だ。大方、稽古する場所が欲しかったんだと思う。
「私は、アイラ様の個室があれば、何も言う事はないわ。主様」
続いて、言葉を発したのはイリスさんだが、自分よりもアイラさん優先で、それ以外の望みはないようだ。
「セシリアは、何か希望ある?」
「私は、キッチン、がしっかりして…いれば、いいで、す」
こういった場ではあまり、自分の意見を言わないセシリアには、こちらから言えるように促してあげる。そうして出てきた希望は、台所関係だった。
ちなみに、セシリアは以前の家ではよく料理をしていた。なんでも、昔から興味だけはあったみたいだけど、やらせてもらえる事は一度もなかったらしい。そのせいなのか、僕の奴隷となり、満足に体を動かせるようになってからは、セシリアにしては珍しく、自らやってみたいと自己主張したほどだ。以来、セシリアの趣味は料理になった。スキルこそ発現していないが、それは時間の問題だと思う。
なお、セシリアを除く僕たちの料理は食べられるけど、お世辞にも美味しいとは言えない。全員が大味の男料理しか作れなかったりする。
閑話休題
宿に残してきた2人の希望は聞いていないけど、あまりにも特殊な希望があるとは思えないので、問題ないとしておく。
「僕としては、地下があると助かるかなぁ? それに、人数も増えたから前の家よりも大きくないと…」
自分の希望を口に出しながら、頭の中で、みんなの希望を纏める。
お風呂、庭付きで立派なキッチン。そして全員の個室に地下付き。
…これってどこの貴族の屋敷ってレベルのような気がするんだけど、貴族が貴族でいられないこの自由都市にそんな物件あるのかなぁ?
一抹の不安を抱えながらも、僕たちはギルドへと足を進めていった。
「ありますよ」
「あるんですかっ!?」
何故か、毎度ギルドの受付をしているアーシャさんに、家の件を相談したところ、希望に合う物件があると聞かされて、驚いてしまった。
「何故、そんなに驚くのか何となく分かります。そしてその答えですが、所詮、冒険者も貴族も同じ人間だと言う事です」
「…もしかして、お金を持った人間は、貴族であれ冒険者であれ、見栄を張りたがるって事ですか?」
「大体そのような感じです。それで、どうしますか?」
「せっかくですし、見に行きたいんですが?」
「分かりました。それでは、案内したします」
そう言ってアーシャさんは、誰に何を告げるでもなく、受付の仕事を放棄してギルドの出入り口へと歩いていく。その後姿を見ながら、ある予想が頭を過った。
もしかして、アーシャさんが毎回受付にいるのって、僕たちの相手をする為? だったりして…。
「ふわぁ~」
「大きいわね」
「前の倍はありそうだね」
「後は内装しだいね」
案内された家があったのは、自由都市で僕たちがあまり立ち寄らない住宅街の中でも、さらに奥にある豪勢な屋敷が並ぶ区画にある中の一軒だった。なお、案内された家…屋敷を見た感想がそれぞれ口から洩れてたけど、セシリア、リン、サキ、イリスさんの順だ。
「どうでしたか?」
屋敷の中の案内が終わった段階で、アーシャさんが質問してくる。内容は言わずもがな、この屋敷でいいですか? だ。僕は、質問に答える前に、皆に視線を向ける。そして、誰一人として首を横に振っていない事を確認してから、改めてアーシャさんに視線を戻し答えを伝える。
「問題ないので、ここにしようかと思います。で、今日からでも大丈夫ですか?」
「…いえ。ある程度、掃除などをしますので、2日ほど時間を下さい。その際、ある程度の家具も用意します」
そうなると、空いた時間は何に使おうかな? そこら辺は皆と要相談か。
その後、ギルドへと戻り、契約書にサインをして、支払いを済ませ、ギルドをあとにする。
「さて、あの屋敷に家具以外で何が必要だと思う?」
かるく20人ぐらいは住めそうな屋敷に、必要な物をこの2日間で揃えるためにも、皆に相談を持ちかける。
「主様。あの規模の屋敷を維持するのであれば、それ相応に人の手が必要ですよ?」
最初に口を開いたのは、イリスさんだった。
「人手か。確かに、ルージュだけじゃ、どう考えても無理だね。かと言って、安易に執事やメイドを雇うには、僕たちは秘密が多すぎる」
どうしたものかと、考えているとリンの口から意外な提案が出てきた。
「それなら、ルージュをメイドとして育てるついでに、奴隷を買ってその奴隷たちも執事、メイドとして一緒に育てたらいいんじゃないの?」
「へ? いいの?」
リンの口から奴隷を増やす提案が出て、つい間抜けな声が出てしまった。そして、ついつい聞き返す辺り、尻に敷かれている感がしなくもないんですが…
「現状、私たちの内情を考えると、それしか方法がないじゃない。私たちが、自分たちで管理するって手もあるけど、依頼なんかで長期間離れる事も考えると、私たちとは別に屋敷に誰かいた方がいいでしょ?」
確かに。仮に長期間、依頼に出るとして、皆が留守番するとは思えない、絶対について来るだろう。
「それじゃあ、奴隷を執事、メイドに育てる方向でいくとして、何人必要かな?」
「そこら辺は、奴隷商人に訊いた方がいいんじゃないかな? 向こうはそういう斡旋的な事もしてるんだし、適切な人数を教えてくれると思うよ?」
人数について聞くと、サキが奴隷商人に丸投げしようと提案してくれた。
「それも、そうか。じゃあ、早速奴隷商館へ行こう」
サキの提案をそのまま採用して、僕たちは奴隷商館へと歩き始める。
…そうだ! どうせ1から育てるんなら、ついでたし…。
奴隷商館へと向かっている途中で、ある事を思いつき、それが上手くいけばいいなぁと思いながら、奴隷商館に着くまでの間の時間を潰した。
「いらっしゃいませ。おぉ! これはこれは、ノゾム様ではありませんか。私、この商館を纏めております、エジルと申します。立ち話もなんですので、奥のお部屋にどうぞ」
目的の奴隷商館に入ると、身なりがいい30代後半ぐらいの商人が出迎えてくれた。そして、おかしな事に初めて来るお店なのに僕の名前が知られていた。ってか、社長がなんで入り口で待機しているんだよ!?
心の中でのツッコミをしながらも、エジルさんに店の奥へと案内される。
案内された部屋は、普通のお客さんが入る事はないと思えるほど豪華な作りだった。エジルさんは、部屋に入るなり、席に着くように勧めてするので、僕だけがソファーに座り、皆は僕の後ろで横一列で並んで立って待機している。
まぁ、対外的に僕は皆の主人だからしょうがないよね。皆もそれを分かっているので、何も言わない。
「えっと、初めましてですよね? 僕の事はご存じのようですが」
ソファーに座って一息ついたところで、エジルさんに質問してみた。
「はい。こうしてお会いするのは初めてでございます。ですが、新たなSSランク冒険者の方を知らないようでは、商人はやっていけませんので」
言われてみればその通りか。自由都市に来て1ヶ月、情報が命の商人が、いまだに僕のことを知らないなら、その商人は色々とダメだろう。例え、僕がSSランクの肩書きを使わないようにしているとはいえ。
「なるほど。では、エジルさんが店の入り口で待ち構えていたのは、偶然ですか?」
ある種の確信を抱きながらもエジルさんに質問する。
「いえ、偶然ではありませんよ。ただ誤解しないように言っておきますが、ここ2週間ほど、毎日ノゾム様を待っていました」
「やっぱり。ですが、何故ですか?」
予想通り、必然でしたか。
「それは、そろそろノゾム様が屋敷を購入されるだろうと予想しておりましたので。しかしノゾム様には家事をこなす奴隷がいない。なのでそういった方面の奴隷をお求めになると思ったからです」
「え? ちょっと待って下さい。どうして、僕の奴隷の中に家事が出来る奴隷がいないと知っていいるんですか? それに、僕が家を購入したとしても、屋敷ではないかもしれなかったかもしれないじゃないですか」
「一つずつお答えしましょうか。まずは、奴隷の件ですが、ノゾム様がこの自由都市に来た時の奴隷は4人。そして、この一ヶ月の間でノゾム様は全員の奴隷を連れて依頼を連れて行っている。これは全員が戦闘奴隷だと判断しました。さらに、ノゾム様は宿住い。なので、家事奴隷がいないものだと判断しました。
次に購入した家の規模の件です。ノゾム様は現在、奴隷を含め5人です。一般的な家でしたらも人数的にはもんだいないですが、ノゾム様はSSランク。来客がなども多くなると思います。なのに、一般的な規模の家では、相手に舐められてしまうでしょう。ですので、購入される家は、必然的に屋敷クラスの規模になります」
ほぼ正解です。家の規模が屋敷になったのは、アイラさんとルージュが加わったからなんだけどね。
「そう言う事でしたか。しかし、僕がこの店を選ばない可能性もあったはずです。その時はどうしていたのですか?」
「その時はその時です。私に運が無かったものだと諦めていました。と、雑談はこれぐらいにしまして、そろそろ本題に入りましょうか?」
「そうですね。実はエジルさんの予想通り屋敷を購入しました。しかし、この規模の屋敷を維持するには、何人ぐらい必要なのか判らないので、それも込みで相談にきました」
そろそろ本題に入ろうかなと思っていたところで、エジルさんの方から話をそちらに持っていってくれたので助かった。なので、用件を伝えて、購入した屋敷の見取り図を彼に渡す。
「ふむふむ…。そうですねぇ。この屋敷の規模でしたら、10人ほどでしょうか?」
エジルさんは見取り図を見て、あっという間に屋敷に必要な人数を割り出してくれた。
「でしたら、その人数を買いたいのですが、それはこちらで選んでもいいですか?」
「それは構いませんが…。こう言ってはなんですが、私の言葉を疑いもせず、即決するのですね」
「先ほどまでのやり取りで、商人としてのエジルさんを信じる事にしたんです。まぁ、騙されらたそれまで。僕の人を見る目が無かっただけですよ」
「そこまで言われてしまっては、商人の端くれとして、応えない訳にはいきませんな」
質問に対する僕の返しがお気に召したのか、エジルさんは笑顔を浮かべながらそう答える。
「少々お待ちいただけますかな? 今、条件にあいそうな奴隷を集めてまいりますので」
「それなんですが、ここにいる奴隷全てを見せてもらってもいいですか? 一応、五体満足で感染症、精神異常がなければ、こちらとしては問題ないので」
僕の提案にエジルさんは目が点になっている。
「理由を聞かせていただいても?」
「僕としては能力云々よりも、彼女たちと上手くやっていけるかの方が重要なんですよ。ですので、奴隷は彼女たちに選んでもらおうと思っています」
今度は後ろで驚く気配を感じた。リンたちには何も伝えていなかったからね。
「そういう事ですか。分かりました。では、少々お待ちください」
理由を聞いて納得したエジルさんは、早速部屋を出て奴隷を集めに行ったようだ。
「ご主人様ぁ? 手短に説明していただけますよね?」
こちらも早速、僕を問い詰めてきた。一応、周囲に気を使っているのか、僕の呼び方がご主人様となっている。ギルドではそんな事しなかったのにな、リンさんや。
僕は、リンたちに自分の計画を説明する為に彼女たちの方へ振り返る。
「僕を含めたここにいる5人で2人ずつ選び、その奴隷に戦闘訓練を施して、屋敷の防衛も担ってもらおうかと。けど、だからと言って、戦闘奴隷から選ぶ必要は無いから。家事などをしてもらう分、戦闘奴隷だと、家事にストレスを感じてしまうかもしれないからね。一番いいのは、どちらにも染まってない人かな? あと、エジルさんにも説明通り、皆と仲良くできそうな人がいいのは本当だから、そんな感じでよろしく」
「そう言う事ですか。分かりました。皆もいいわね?」
僕の説明に納得したリンは他の3人にも確認をする。そして彼女たちも、納得したようで、みな首を縦に振る。
そして、戻ってきたエジルさんに案内され、全員で奴隷を10人選びその場で契約をする。しかし、屋敷へ住めるようになるまで、あと2日ある。よって、それまではエジルさんの方で預かってもらう事にした。
こうして、買い物を終えた僕たちは、スキル習得に精を出しているであろう2人の待つ宿へと帰宅するのであった。
ありがとうございます。
さて、今回の最後で奴隷が増えましたが、メインで扱う訳ではないので、重要度はさして高くない予定です。まぁ、覚えていて損はないと思いますが…。
そんな新人さんたちの詳細は次回です!
ぶっちゃけ、これから地獄の名前決め行軍が始まります…。




