終盤~瓜二つ~
—リンスレット—
「……これが魔法スキルをレベル9に上げる条件よ」
「はぁ~、そんな条件があったんだ。通りで水魔法が8で止まってる訳だ」
今、私は北にある転移陣へとノゾムとサキの3人で向かっている道中で、ノゾムに魔法スキルの講義をしている最中だ。
「ちょっと~! あたし1人に露払いさせるなんて、酷くない!?」
まぁ、サキに道中の先頭を任せているけど。
「そう言うけど、私だってちゃんと働いているわよ?」
道を切り開くのはサキに任せているけど、側面からの魔物はほぼ私が処理している。ノゾムは、少しでも魔力の回復させるために、なるべく手を出させないようにしている。
「そうだけどさ。けど、そろそろ転移陣が近いのか、魔物の数が…ね」
「それなら、僕も前に出ようか? 魔力さえ使わなければ問題ない訳だし」
サキの泣き言にノゾムが助け船を出す。
確かに、そろそろサキ1人に先頭を任せるのは厳しくなってきたところだった。もちろん実力がではなく、効率の問題としてだ。
「…そうね。これ以上時間をかけると日が沈むしね。だけどノゾム。く れ ぐ れ も魔力は使っちゃダメよ!」
「りょ、了解」
私はノゾムの提案を許可するのと一緒に釘もしっかり刺しておく。
「リン、ここから15㎞ほど先に、魔物以外の反応が幾つかある。多分そこが転移陣の場所だよ」
ノゾムを先頭に加えたことによって移動速度が上がり、なんとか日が沈みきる前に転移陣のある場所らしき所まで来ることができた。
「じゃあ、さっさと行って終わらせましょう?」
「さんせ~い! どうせこの魔物たちのせいで、あたしたちの場所は割れてるだろうし、小細工をするだけ無駄だよね」
私の言葉に、サキが魔物を斬り伏せながら同意する。
「ん~、確かにサキの言う通りだし、このまま行こうか」
「ええ!」
「うん!」
「おやおや、よくここまで辿り着けましたね」
私たちが転移陣の元へと辿り着くと、3人の魔族が出迎えてくれた。
「おかげさまで、クタクタですよ」
私たちを代表してノゾムが前に出て受け答えをする。
「それは、そうでしょうね。ここは、他とは魔物の強さが違います」
「竜種ばかりでしたからね。大半がリザードマンとは言え、ワイバーンや中級のドラゴンがあれほどいるとは思わなかったですよ」
「そうでしょうね。主も集めるのには苦労していましたから」
「そうでもないでしょ? ここにいる魔物はほとんどダンジョン産なんですから」
「っ!? 気が付いたのですか!」
ノゾムの一言に3人の魔族はみな驚きの表情を浮かべる。
「むしろ、そこに行き着かない方がおかしい。大陸中の魔物を集めたってこの島を埋め尽くすのは不可能。となれば、どこからこの大量の魔物を集めたのか? それ答えは、世界中のダンジョンとなる」
「…正解です。流石でs」
「ねぇ、フィーリーがどこにいるか知らない? あいつに呼ばれてるんだけど?」
魔族が、魔物の出所を言い当てたノゾムに賞賛の言葉を送ろうとするの遮って質問をするサキ。
「…まさか、『忌み子』か!?」
「その『忌み子』だけど、なに? それより、早く教えてくれない?」
魔族は確信しながらもサキに確認をとる。
サキの方は、『忌み子』と言われても、気にする様子もなく、おざなりに受け流している。
「チッ! あいつなら、ここから東に行けば、会える」
サキの催促に魔族は素直に応じ、フィーリーとか言うヤツの居場所を教える。
…なんで、素直に教えるのかしら? 考えられるとしたら、フィーリーとか言うのが、目の魔族たちより役職が上と言う事ぐらいかしら?
「ノゾム君、もうここには用がないから、さっさと終わらせちゃお?」
「あ、あぁ」
サキにとって必要な情報は聞き出たらしく、もう心がここにない。その証拠に、声に感情が籠もってない。ノゾムもそんなサキにちょっと戸惑っている
。
「『忌み子』が調子に乗るなよ!」
「『忌み子』が俺たちに勝てると思っているのかぁ! ア゛ァ!?」
サキの物言いは、彼らの神経を逆なでするには十分だったらしい。
向こうが今にも飛びかかってきそうなので、私たちも臨戦態勢をとる。
そこで初めて私を視界に収めた魔族たちが一瞬、驚きの表情になり、そして、勝ち誇った顔になる。
…どうゆうこと? 私はサキ以外の魔族の知り合いなんていないのに。
その答えはすぐに彼らから提示された。
「『忌み子』~。魔法の使えないお前が俺たちに勝つつもりらしいが、残念なお知らせだ。俺たちの主と同格の御方がこの場にいる」
「俺たちが何人束になっても、勝つのが難しい主だ。その主と同格っていうんだ、元々無かった勝機なんてものが、完全に消え去った訳だ」
この場にそんな強者がいるの!? 私の魔力察知に反応はないんだけど!! もしかして、そういうのもかい潜れるほどの実力者?
チラリとノゾムとサキの様子を見るけど、2人とも私と同じみたいで、第三者の存在を把握できてないみたいだ。
「さぁ、この『忌み子』らをやって下さい! 『グラトニー』様!!」
彼らは、私を見てそう言ったのだ。
「「「は?」」」
私、ノゾム、サキの3人は揃って開いた口が塞がらない状態になった。
グラトニーって何? 私、この魔族たちと会うの初めてなんだけど? 何で向こうは私の事知っている風なの?
私の中で様々な疑問が渦巻く。
とりあえず、相手が何を考えているのか知る為に、目の包帯を外す。
…どういうこと? 向こうは私の事を完全にグラトニーとか言うヤツと勘違いしているわね。
「私はグラトニーとか言うのとは、違うわよ? 誰と間違えているの?」
「何を言っているんですか、グラトニー様? この期に及んで、我々と敵対する演技を続ける必要はないのですよ?」
「演技も何も、私はあんたたちの事を知らないし、ここに来たのだって、そこの転移陣を破壊する為よ」
「グラトニー様、ご冗談が過ぎませんか?」
「………………」
「…まさか、本当に別人?」
「さっきから、そう言ってるじゃない」
「有り得ない。グラトニー様に瓜二つだなんて!!」
「え?」
今、なんて言ったの? 私に瓜二つ? それは、絶対に有り得ないわ。私と瓜二つの姿をしていたあの子は10年前に死んだのだから。
なのにあいつは私と瓜二つと言った。つまり、あいつは私と瓜二つの人物に会った事があると言う事だ。
「ノゾム、サキ。悪いけど、ここは私1人に任せてもらえないかしら?」
「急に、どうしたの?」
突然の私の提案に、ノゾムが心配そうな表情になる。
「彼らに聞きたい事が出来たの。尋問などしないといけないから時間がかかるかもしれないのよ。だから、先に行ってほしいの」
「分かった。くれぐれも無茶だけはしないでね」
「ありがとう」
「リンさん。先に行って待ってるから」
「えぇ。終わったら追いかけるから、待ってて」
ノゾムは特に追及してくるわけでもなく了承してくれる。サキも同じだ。そして、2人はそのままこの場から去っていく。
「逃がすか!」
「追わせないわ!! 『エアシールド』!」
「くっ!?」
足止めの魔法により、魔族の男たちはノゾムたちを追おうとしていた出鼻を挫かれてしまう。その隙にノゾムたちは、振り返ることなくこの場から遠のいていく。その後姿を見つめながら私は有難いと思った。
何が有難いか。それは、何も聞かずにこの場を任せてくれた事。ノゾムたちだって、色々とあいつらを問いただしたかったはずだ。それを私に任せてくれた。その事実がとても嬉しい。
「さて、アンタたちには知っている事全て吐いてもらうわよ?」
私は、ノゾムたちの信頼に応える為。そして、自分の知りたい事の為に、1人で魔族たちへと敵対する。
ありがとうございます。




