第七幕 『なんだかあの二人が面白いことになっている気がする』
更新がだいぶ遅れました。申し訳ねえ。
「では、この世界の一日は24時間ということですね。時間や重量などの単位ほとんどが私の世界と一致しているのですが、この理由を知っていますか?」
「1000年前に皇帝府が単位の基準を統一する詔勅を公布しました。それまで、我がセシアーヌでは単位は今のように厳格に定められていなかったそうです。もしかしたら、その基準の策定にあたって先代のエルフ様が関わっていたのかもしれません」
「なるほど……」
先代のエルフ様、ねぇ。そいつも俺と同じようにいきなり連れてこられたに違いない。長さや重さの単位が日本と同じだから、たぶん日本人だったんだろう。
さっきまで妖精(神)がとまっていた肩にチラと視線を送ってみる。案の定、アイツはまだ戻ってきてない。地球とセシアーヌの両方を管理していると言ってたから、もしかしたら今頃は地球に戻ってるのかもしれない。戻ってきたら先代エルフのことも問い質してみよう。とりあえず今はその件は保留だな。
単位が元の世界と同じだというのは素直に嬉しく思う。こちらの世界での生活がしやすくなるからだ。ウハウハセレブライフだって、「この時間にこの量のご馳走を持って来い!」と命令しても、原住民と時間や量の基準が一致してないと支障をきたしまくりなのだ。些細なことだと思いがちだが、この世界で好き勝手にするためにはけっこう重要なことだ。下地を作ってくれた先代エルフ様には感謝だね。直接会ってお礼の一つでも言いたいよ。
「では、次はこの世界の種族や魔法についてなのですが、」
「はい。何なりとお尋ね下さい。魔族については資料が少ないのであまり存じませんが……」
「構いません。あなたの知る限りのことを全て教えて下さい」
さっきから驚いてるのは、カークの知識量が半端じゃないってことだ。平民出身だとかで馬鹿にされてたみたいだけど、ぶっちゃけ貴族の騎士よりもよっぽど優秀そうだ。打てば響くようにポンポンと答えが返ってくるから、こっちとしても辞書代わりになって便利で助かる。腕も立つし頭も良いとは、これは予想以上の当たりを引いたかもしれないな。俺ってば運がいい。
「この世界には数多くの種族がいます。主な種族は人間で、全体の5割ほどを占めます。残り半分が、オーク、ハイゴブリン、トロール、リザードマン、ワーウルフ、ケット・シーなどなどの多種に渡る亜人族です。最大勢力は人間ですが、我々は魔法を使えません」
「魔法を使えるのは亜人類だけなのですね。先ほどあなたが言っていた“魔族”という括りとは何が違うのですか?」
「魔力の生成は亜人類の血によってしか為せません。知り合いの魔術師に言わせれば、魔力とは精神の波の飛沫のようなものだそうで、その飛沫を力として体外に変換することが出来るのは精神面に重きを置いた生物である亜人類だけです。我々人間には逆立ちしたって出来ません。その知り合いに言わせれば、人間は、その、バランスに優れた種族なのだとか……」
「脳筋、と言われたのではないですか?」
「……仰る通りです」
やっぱりな。嘘つくとすぐに顔に出るタイプだ。目を泳がせるから分かりやすすぎ。
「話をお戻ししますが、先ほど申し上げましたように、魔力とは精神の波です。その波は、時として外部の影響を強く受けることがあります。邪悪な思念という強風が吹けば、簡単に荒れてしまいます」
「よくわかりました。その強風に吹かれた結果、亜人類は理性を失って魔族に堕ちてしまうのですね」
「はい。一度そうなってしまえば、理性を取り戻すことは不可能といって良いでしょう。大昔に皇家付きの医療魔術師が魔族の回復に取り組んだことがあるそうですが、逆にその魔術師も魔族に取り込まれてしまったそうです。精神の波は容易に伝播します」
なるへそー。亜人類は魔法を使えるが、邪悪な思念に触れれば理性を失って魔族になる。人間はそれがないから一番でかい文明を築けた、ってわけか。人間が勇者に選ばれるのも納得だな。亜人族の勇者を送り込んでも強い魔族が一匹増えるだけだし。その大昔の医療魔術師とやらも、ずいぶん馬鹿なことをしたもんだ。ムチャシヤガッテ。
「恐ろしいことに、魔王はその波を自在に操り、自らの配下とした魔族に己の魔力を分け与えて強くすることが出来るのだそうです。まるで御身の御業をそのまま負の面に反転させたような―――跳びます、お気をつけを」
「ひゃわわっ」
ふぎゃあああああ!!またガクンってなったあああああ!!
突然の浮遊感に不意打ちされて、腰の辺りがサアっと冷たくなる。恐怖の余り思わず目の前の背中に抱きついてしまった。近道するっていうからすぐに馬から降りられると思ったのに、道路がガタガタで色んなものが置かれてるからメチャクチャ揺れる。馬なんて小学生の頃にポニーに乗った以来なのに、レベルアップしすぎだ!
やっぱり馬車に乗ればよかったかなあ。「それは持ち主に返しておきなさい(キリッ」とかカッコつけたのが失敗だった。決めた、旅に行くなら馬には絶対に乗らない。カークにおんぶさせるか子連れ狼みたいに荷車を押させよう。うん、それがいい。絶対にそれがいい。
「エルフ様、もう少し速度を落としましょうか?お顔色が優れぬようですが……」
「い、いえ。私は平気です。乗馬にはもう慣れました。もっと凄い乗り物にだって乗ったこともあるのです。これくらい、怖くも何ともありません」
こちとらジェットコースターにだって乗ったことあるんじゃい!馬なんかとはレベルが違うんだよ!……子ども用の低速ジェットコースターだけど。
文明人として弱みを見せてはならんと深呼吸をして息を整える。ふひゅー、はー。ふひゅー、はー。よし、オッケー。怖くない怖くない―――ひいい、今度は急に遅くなった!?ディスったの気付かれたのか!?馬さんゴメンナサイ!!
……あ、カークが気を使って速度を落としたのか。気が利くじゃないか。なんだか心を見透かされてるようでムカツクけど。
(くすっ)
……おい。今こいつ笑わなかったか?エルフの聴覚なめんなよ!?
「……怖がる私を見るのはそんなに面白いですか」
「め、滅相もございません」
ここでナメられてしまっては今後の主導権を握れなくなってしまう。今のうちに上下関係というものをハッキリと教えてやらねばなるまい。思いっきり殺意を込めて睨んでやる!どうだ、ビビったか!?……え、なんでそんなうっとりした目で見返すの?
「御身があまりに見目麗しいので、つい―――あ、」
んなァっ!?こ、こいつ真顔でなんつーことを!?
「……あなたがそんな遊び人だとは知りませんでした」
「ご、誤解です!婦女子を靡かせるために甘言を弄したことなどありません!先の発言は、ただ御身の美質に当てられてしまっただけで、だからその……とにかく、私は遊び人ではありません」
「でしょうね。とても似合わない発言でした」
く、くそぉ。まさか不意打ちを食らうとは思わなんだ……。照れて顔が赤くなってるのが自分でもわかる。顔を上げれないじゃないか。
硬派な男っぽいからと油断してたが、やっぱり見た目通りリア充だった。こっちが居たたまれなくなるようなこっ恥ずかしい台詞をさらっと吐きやがって。死ねばいいのに。こちとら容姿のことを褒められたことなんて一度もないっつーのに。上から目線で褒められても嫌味ったらしくてまったく嬉しくないぞ!
「……初めて、です。……私の容貌を褒めたのは、貴方が初めてです」
「まさか!」
「本当です。これまで私に、み、見目麗しいなどと言ってくる者は、いませんでした」
悪かったな!俺は中の中の中ってくらい平均そのものの顔だったんだよ!せめてマッチョになればモテるかもしれないと筋トレしても痩せるばかりで筋肉はつかないし……。うう、努力の日々を思い出したら泣けてくる。今さら顔を褒められたって女の子にモテるわけもないというのに。
「御身の世界の人間は皆見る目がありません」
だから嫌味かっつーの!見下されながら言われたって、こっちは何の慰めにもならないんだよ!
「わ、私の容貌など可もなく不可もないといったところです。私には貴方の方がよほど美男子に思えます」
「私が、ですか?」
キョトンと目を丸くして不思議がる。よくよく考えれば、こっちの世界の人間はまだ数えるほどしか見ていない。人間以外の種族だっているらしいし、もしかしたら元の世界とは美的感覚とかがズレてるんだろうか?
改めてカークの顔を観察してみる。線の細い輪郭に、はっきりとした目鼻立ち。浅黒い肌も、よく見ればきめ細やかで触り心地がよさそうだ。大きめの目はクリっとしてて、何となく人懐っこい大型犬を連想させる。うん、立派なイケメンだな。爆発しろ。
「過分なお言葉、恐れ入ります。しかしそうであるのなら、大隊長閣下を拝見されれば私などを勇者に任命したことを後悔されるやもしれません。閣下は見目好さだけは天下一品ですから」
“見た目良さだけは”と強調する辺り、かなりの役立たずなんだろうな。カークが妬んで嘘をついている可能性は無いとは言い切れないが、この見るからに馬鹿正直な騎士がそんなことをするとはどうしても思えない。本当のことなんだろう。
「私は顔の良し悪しで勇者を選んだりはしません」
「はい、存じております」
苦笑するくらいなら分かりきったこと言うなっつーの。ウハウハセレブライフに役立たなけりゃ、格好良かろうが悪かろうが一緒なんだからな。妖精も事あるごとに言ってたけど、“1000年の怠惰”ってのは勇者候補筆頭でさえ腐らせるものなんだろう。そういう奴は、勇者失格だとはっきり告げても素直に聞き入れやしないに決まってる。ギャーギャー騒ぎ出したら直ぐ様ぶっ飛ばしてやろう。しょせん金と名声と権力しか持ってないような奴に用なんか―――……いや待て、魔王を倒した後のセレブライフにはそれって超重要じゃない?やっぱりなるべく穏便に接して気に入られておこうかなぁ。
あ、向こうに城が見えてきた。まるで絵本に出てくるような洋風の城だ。夜中でも外壁の白さと大きさがよくわかる。隣にはこれまた大きい邸宅が建っているが、こっちは壁が真っ黒に塗りたくられてて輪郭がよくわからない。形状から判断するに、あの城の方に皇帝とやらがいるんだろうな。セレブライフ実現の暁にはそいつを追い出してここをマイハウスにしてやろう。あの一番大っきい塔をリビングにして、隣の黒い屋敷は全部和室にでも改装して―――って、いつの間にか馬が止まってるんだが。目の前の背中を触ってみると、緊張でガッチガチに固くなっていた。どうしたんだカーク。
「どうしました?馬が止まっています」
「あ……」
知らぬ間に俯いて黙りこくってたカークがハッと顔を上げる。どうやら自分でも気付いてなかったらしい。手綱を握り締める手が小さく震えてる。握りしめすぎて血の気もない。
なんだ、悩み事か?
「カーク……?」
「な、なんでもありません。さあ、皇宮へ急ぎましょう」
だ~か~ら~、嘘つけない人間だってことを自覚しろよ。どうせ、すぐにバレるんだから。顔が自信無さげに引き攣ってるし、手綱を引く手がおずおずとしてて凄くぎこちない。って、手の平に爪が食い込んでるじゃん!めっちゃ痛そう!
何となく、こいつが何を悩んでるのか察しがついたぞ。勇者のプレッシャーに押し潰されそうになってるんだ。横顔に「俺なんかが勇者でいいのかなあ。他にもっと相応しい奴がいるんじゃないのかなあ。考えたら気が滅入ってきた。もうだめだ、おしまいだぁ」と書いてある。生真面目なのも考えものだな。
「―――いいえ、ダメです」
「えっ?」
こいつ以上に勇者らしい奴はなかなかいないだろうから、失うのは正直惜しい。仕方ない、面倒くさいけど元気づけてやるか。とりあえず、自己紹介をして仲良くなってやろう。これからヒーヒー言うまでこき使ってやるんだし、何時までも余所余所しいのはよくない。
「××××」
「は?な、何と仰ったのです?」
うーむ。セシアーヌの人間には日本語の発音は難しすぎるらしい。ほとんど聞き取れないみたいだ。まあ、外人さんからしてみても日本語はかなり難しいらしいし、それが異世界の人間ともなればもはや意味不明なんだろう。
「案の定、私の名前もこちらの世界では聞き取ることが難しいようですね」
「お、御身の御尊名ですか!?」
「ええ。まさか、私の名前が“エルフ”などと思っていたのですか?」
「えっ?いえ、その……」
「思っていたのですね。エルフとは種族の名称で、私にもちゃんと名前があります」
そう言うと、カークが冷や汗をかき始めた。エルフ様エルフ様って言ってたのは、“エルフ”が名前だと思ってたからか。前のエルフとやらが来たのが1000年も昔だからそいつの名前も覚えられていないんだろうな。先代エルフはどうやって自己紹介したんだろうか。もしかしたら、こっちの人間が聞き取りやすい名前を名乗ったのかもしれない。俺もそうしてみるか。
自己紹介をするのなら馬の上で抱きついてるよりもちゃんと面と向かっての方がいいだろう。どの道、おっかない馬の上じゃ落ち着いて考えることも出来ないし。
よっこらしょと馬から滑り降りる。するとカークも慌てて降りてきて跪こうとするから、腕を掴んで引っ張りあげる。傅かれるのは嫌いじゃないけど、これからもずっと恭しく接されるのかと想像するとちょっと息苦しい。セシアーヌでは俺は一人ぼっちなわけだし、誰か一人くらいは友だちみたいに腹を割って話せる相手が欲しい。
「跪くのはやめなさい。真に勇者であろうとする気概があるのなら、私に跪いてはいけません」
こいつの手、なんだか凄くヌルヌルするんだけど。あ、そういえばこいつ手を怪我してたっけか。自業自得だけど、まあ治しておいてやろう。悩みの原因は俺なんだし。
力を流し込むようなイメージを思い浮かべながら胸にぎゅっと抱いてみる。カークの手がじんわりと火照ってきてるから、たぶんこれでいいと思う。
「え、エルフ様!?」
ええい、さっきからエルフ様エルフ様とうるさい奴め。「ネコちゃん」と呼ばれる野良猫の気分だ。えーと、何かカッコイイ呼び名はないかなあ。二代目エルフということで―――おお、良いのを思いついた!私にいい考えがある!
「いいえ。私のことは、これから“トゥ”と呼んで下さい」
「……“トゥ”?」
「私の世界で“二番”を示す言葉です。前のエルフと区別を付けた方が紛らわしくなくて良いでしょう。今度から、私のことはそのように呼んでください」
ファンタジーっぽいし、これはアリだな。RPGの主人公とかにいそうだ。やっぱり主人公らしい名前じゃないとね!
って、自分の秀逸なネーミングセンスに心の中で拍手喝采してたら、カークが「承知致しました、トゥ様」と言ってまた跪き始めた。こいつの必要以上の騎士らしさはどうにかならないものか。礼儀正しいのは良いことだけど、受け答えをする度に肩肘張った調子でいられると肩が凝ってしまう。もっとフランクになって貰わないと、何時まで経っても打ち解けられないじゃないか。
「跪いては駄目だと言ったでしょう。それと、その畏まった物言いも辞めて下さい。トゥだけで結構です。どうか、普段通りの貴方の口調で話して下さい」
「そ、そんな非礼なことは……」
目を合わせるのも躊躇われると言わんばかりに俺から目を逸らす。腰も引けていて、手を離せば今すぐにでも跪きそうだ。カークからしてみれば、エルフを見下しているというのは相当にストレスが溜まるものらしい。過去に何があったのかは知らないけど、よっぽど自分の器に自信が持てないんだろうなぁ。「え?敬語使わなくていいんスか?あざーっす!」くらいのノリでいいのに。―――いや、そこまでぶっちゃけられるとさすがにぶん殴りそうだけど。
俺がじっと見つめている間も、大型犬みたいな人懐っこい目がしょんぼりと消沈していく。なんだか見てるこっちが申し訳無くなってくる。まったく、世話のやける奴だ。他人を励ますのなんて慣れてないっつーのに。
「誇りなさい、カーク」
ハッとして顔を上げたカークの目を強く見つめる。
「この私が、貴方を、私と運命を共にする者だと認めたのです。それ以上の証しが必要ですか?」
「―――いいえ」
「ならば誇りなさい、私の勇者。貴方はこの世でただ一人の私の半身です。片方の翼が片方より遜って、どうして空を真っ直ぐに飛べるでしょう?
自信を持ちなさい、勇者カーク。そして堂々と私の隣に立ち、肩を並べなさい。貴方にはその資格があり、責任がある」
男って生き物は、総じて誰かから認められるのを好むのだ。俺もついこの間まで男だったからよくわかる。自分以外の誰かから生き様を肯定され、背を押されれば、胸を張って前に進める単純で不思議な生き物なのだ。その証拠に、目の前のカークもシャキッと胸を張って「わかったよ、トゥ」と俺を呼び捨てにする。うん、やっぱり一人くらいはこういう親しい関係の奴がいた方が気楽でいい。ちょっと声が震えているのは、まあご愛嬌で許してやろう。
思い通りに事が進んでホっと満足していると、カークが突然俺の手を強く握った。な、なんだなんだ?
「これから先、俺と君は生きるも死ぬも一緒だ。だけど、君が死ぬことは絶対にない。俺が必ず、君を護る」
―――だ、だからこいつは、またこっ恥ずかしい台詞を大声で言いおってからに……!!
「と、当然のことです。わかればいいのです」
暑苦しい手を振り払って突き放す。こいつはくせえッ――!女たらしのニオイがプンプンするぜッ―――ッ!って感じだ。21世紀の文明人には、野蛮人の仰々しい台詞回しはむず痒くて仕方がない。また顔が赤くなってる気がする。耳も先っぽまで熱い。ヒクヒクと震えてしまう。
励ますとか、慣れないことなんてするんじゃなかった。変に調子づかせるだけだったかもしれない。力づけてやるんじゃなくて、「しっかりせんかこの軟弱者!」と横っ面をはたいて活を入れてやるべきだったかも。
「ありがとう、トゥ」
唐突に笑顔を向けられた。手の平を見ながら礼を言ったことからして、ケガを治してやったことへの感謝だろう。チラと見てみれば、確かにカサブタも残さずにキレイに治っていた。治癒の仕方はあれで正解だったらしい。今思えば、治癒せずに傷口に塩を塗りこんでおくべきだった。
「……討伐の旅の前にケガをされては、困りますから」
子どものような満面の笑みを直視できなくて、ぷいっとそっぽを向く。リア充族っていう凶悪な部族は、こうやって素知らぬ様子で相手の油断を突いてから、誰彼かまわずちくちくとダメージを与えていくものなのだ。無意識に攻撃を仕掛けてくるとか、なんて恐ろしい……!
ふと、視界の隅でカークが再びくすりと微笑んだ。嫌な予感がする。
「―――君は、優しいんだな」
「~~~~!!」
ほら来たぁ!!油断突いてきた!!あぁあもうダメだ!!歯が浮く!!歯がロケット花火みたいに飛んでいきそうだ!!
「……やっぱり、貴方は女たらしです」
「ええっ!?」
「女たらしったら女たらしなのです!いったい何十人の幼気な婦女子をその毒牙にかけてきたのか……」
「だから、誤解だ!何十人どころか、俺には一人だって経験も―――」
「え?」
「あっ」
一人だって経験も……なんだって?
思いがけない台詞にさっと振り返る。見上げてみると、カークの顔面が真っ赤に紅潮していた。夜中だというのに、まるでヤカンみたいに真っ赤に光ってるように見える。「ぁ、ぅ、」と小さな呻き声まで漏らし始めた。おいおい、カークさんよ。もしかしてもしかすると―――
「カーク。もしかして、あなたは童貞なのですか?」
「どうっ!?ちょっ、と、トゥ!?」
ははぁん。さては図星だな。あわあわと手を振り乱してキョドってやがる。バカ真面目で剣の腕も立つけど、その代償に男の勲章を捧げたらしい。そう考えると、なんだか親近感が湧いてきた。
我知らずニンマリと口端が釣り上がる。リア充だと思い込んでいたが、実は同士だったらしい。
「仕方ないだろ、色々あってそれどころじゃなかったんだから!それに君だってどうせ、き、き、生娘なんだろう!?お互い様じゃないか!!」
「なっ!?」
どどど、童貞ちゃうわ!!
―――なにこの不毛な会話。ああ、なんか悲しくなってきた。
この二人はこれからずっとこんな調子になる予定です。ファンタジーっぽさを出せるように、なおかつラブコメな感じの会話を作れるように、頑張ります!!




