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絵を描く黒猫  作者: よろず
一部
31/56

火曜 5

 朝起きてブレザー確認したらまだ湿っぽかったから、二人してカーディガンにマフラーで学校行く事にした。

 ワイシャツ取りに行った時にオレも持ってるキャメルのを見つけたから、お揃い。マフラーも色違いだけど柄が似たやつ。

 ペアルック。それだけでうきうきして華と手を繋いで歩いた。


「祐介!おはよ。昨日、色々ありがと。」


 校門入ったら祐介見つけて呼び止める。オレの声に振り向いて、その場で止まって待っててくれる。


「おっはよー。気にすんな。それより東さん、もう大丈夫?」


 華が、祐介をチラ見してからこくんて頷いた。


「問題ない。」


 なら良かったって祐介が笑って、三人で教室入った。


「これやる。」


 机に鞄置いて、鞄からラップにくるんだ食べ物を祐介に渡した。

 バナナのパウンドケーキ。今朝のうちの朝飯。


「サンキュー!」


 祐介は一切れを二口で食い切った。


「オレの煩悩の味、うまいか?」

「は?なんだそれ?」

「昨夜、オレが戦いながら作ったんだ。」

「何それ、怖ぇんだけど!弱った女の子襲ったらいかんだろ。」

「あぁ。だから戦う為に焼いた。」


 バンバン肩叩かれながら爆笑された。

 夕飯の後、膝の上の華に触れたくなって、作り方検索して突発的に焼いてみた。簡単に出来ちゃったけど、気が紛れたし朝飯になるし一石二鳥。


「なんか秋、どんどん女子力アップしてんな。」

「まぁな。華への愛だ。」


 はいはいって呟いた祐介置いて、華の席に行った。なんか今朝は、クラスのやつらが遠巻きに華を見てる。昨日の事があったし、仕方ねぇかって、オレはいつも通りに絵を描く華を眺めた。

 ホームルームが終わって、華が担任に呼ばれた。多分昨日の事だって思ってオレも一緒に行く。


「寺田は、別に呼んでないぞ。」

「気にせず、どうぞ話して下さい。」


 追い払おうとしてきた担任の前に仁王立ちして、動かないアピール。時間無くなるし、折れた担任が口を開いた。


「東、昨日の事なんだがな…あの絵本、評価は満点で付けるから…絵がダメになった事は内緒にして欲しいんだ。」

「それって、華がやられた事揉み消すって事っすか?」

「まぁ、結果的にそうなるな。やった奴らには、校長達がお灸を据えたし、今後手出ししないよう約束もさせたから、それで納得してくれないか?」


 オレは教師の顔をじっと観察してて、気付いた。なんか怯えてる?

 華を見る目が生徒に対するってよりも、得体の知れない物を見るみたいな、そんな感じがする。


「学校って何にビビってんですか?華の父親?それともその会社?……マスコミとか?」


 教師の反応見ながら言ったら最後にぴくって反応した。マスコミか。学校はマスコミにビビってる。


「華の絵って、そんな大事(おおごと)なんすか?」

「………大事(おおごと)だ。美術の授業でも、評価したらすぐに返却しないと窃盗を疑われる可能性があるし、授業の課題でも、"東華(あずまはな)"が描いた絵が悪意で破損したなんて公になったら、最悪、やった奴らの人生が終わる。」


 なるほど、そりゃ大事だ。

 オレは隣の華の様子を伺ってみた。無表情。華が返す答えはわかってるから、手を伸ばして抱き寄せる。


「華は華なのにな。」


 おでこと瞼にキスを落としたら、華がくすぐったそうに少し笑った。


「おい、寺田。教師の前で堂々とイチャつくな。」


 呆れた顔してきた担任に、口の端上げて笑い掛ける。


「羨ましいんでしょ?」


 担任、独身で彼女いないって言ってたもんな。

 目の前で堂々とキスしてやろうか、なんて悪戯心が湧き上がる。でもやめた。キスした後の可愛い華の顔は、オレだけのもの。


「まぁ、なんだ、そういうことだから。東、それで良いか?」


 オレの腕の中に閉じ込められてる華に担任が確認して、華はこくんて頷いた。

 担任はあからさまにほっとした顔してる。


「なんか…鈴やん大変だな。がんばー。」


 華抱き締めたまま、他人事感丸出しで言うオレに、担任は溜息吐いた。


「本当だよ。今は、寺田の存在が救いだ。」

「ふーん。そりゃ良かったっすね。」


 腕の中の華にキスの雨を降らせ始めたら、出席簿で殴られた。妬みかって笑って言ったらもう一発殴られて、疲れた顔した担任は教室から出て行った。



 いつも通りに授業して、休み時間は華を眺めて、たまに笑い合う。

 んで、昼休み。

 華の席に行ったら華が立ち上がって待ってる。なんだろって思いながら近付いたら、手を引かれて華の椅子に座らされた。膝の上に、華がちょこんて座る。


「やばい!かっわいい!!」


 膝の上の華をぎゅうってしてるオレの前には祐介が座ってパン囓り始めた。椅子の背凭れに肘付いて、なんか言いたそうな顔でこっち見てる。

 まぁだいだい何言いたいかはわかるから、そのまま華の弁当開けて華に食わせる。


「なんか最近、秋のデレ顔標準装備だな。」

「メロメロ過ぎるからな!」


 自信満々に宣言してやる。

 飯食わせながら、華のつむじにキスを落とす。

 華の分が終わったら、華が横座りに体制変えてオレに食わせてくれる。オレの腕は華の背凭れ代わり、両手で華の腰を囲って支える。


「なんか、どんどんバカップル度が増してんな。」


 祐介の呟きに、クラスの連中まで声揃えて同意してきた。

 だから、手出しと邪魔しなければタダで見せてやるよって宣言しとく。


「オレ、アイドルなんだろ?なら生でドラマ観てるみたいな感じじゃねぇの。」


 満場一致で納得された。


「好きなだけ見て、騒げ。でもオレの華になんかしたら、報復する。オレと華に迷惑掛けないんだったら、勝手にファンでもなんでもやってろ。」


 昼休みの教室での宣言。

 あとで祐介から聞いた話によると、ファンクラブの間で伝達されてルールが出来たらしい。他のクラスでも噂になって、オレと華が校内歩いてるとあからさまに観察されるようになった。

 まぁ、好きなだけ見てろって、オレは堂々と華にメロメロの顔晒してる。

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