季語ではあるんだ……
「香りは……果実と、やや糖のような香りがするな」
「色も濃くて綺麗」
「花の香りのようなニュアンスもあるぞ」
と、定番の香りを嗅ぎーの。
ゆっくりと一口。
「かなり膨らみのある柔らかい酸味に、果実感はしっかりと凝縮されたような味わえるな」
「その果実味もまろやかで、しっかりと深みもありますわ」
「渋味と深みのバランスもよく、何より飲み込んだ後の余韻がかなり長く感じられる」
「これでそこまで熟成してねぇって言うンだろ? カケルのとこのワインは化け物かよ」
飲み物だと思います。
あるいは嗜好品。
「早速カツと合わせてみるか」
「ですわね」
というわけでカツにフォークを突き立ててザクリ。
そのお味は……?
「まずカツが美味しいですわね」
「高温にさらされて肉のように変化した身質、衣の食感と下味の塩コショウ、そして上からかけられたソースの全てが調和しているな」
「このソース、美味し過ぎるんだけど?」
「トマトの旨味と酸味が感じられるが、他は何だ? すっげぇコクがあンだけどよ」
「これは米に合う味じゃな。……いや、パンにも合うのう」
「……ワインとももちろん合うな」
ふぅ。
ハヤシソースはね、パンにもご飯にも合うのよ。
「ワイン自体の酸味がそこまで強く無いから、ソースの酸味と喧嘩せぬな」
「ワインのコクとソースのコクはむしろしっかりと手を繋いでる印象ですわね」
「カツから溢れる肉汁とワインの相性が完璧すぎるンだが?」
「やっぱりここに住もうかな……」
「次は落とすんじゃなくて吸い上げて貰いますね」
「冗談」
なんて言いながらワインとカツをカパカパと。
ペースが速い。
「我ながらソースの出来がいいですね」
とか言いながらルーを使ったので、俺の手柄は一割って所だと思うけれども。
「正直な話、このソースのレシピを公開して使用料だけで生活出来るレベルだと思うぞ?」
「……ルーが無いと無理ですけど」
「何とかしてルーの作り方をだな……」
そもそもハヤシライスって、本来はどう作るんだろ?
ビーフシチューにたっぷりトマトを入れたような代物って認識で間違いないんだろうか?
あー、でも、某クッキングダディでドミグラスソースを使って作っていたような……。
てことはそこまで遠くないのか、ビーフシチューと。
「ドミグラスソースとトマトを組み合わせれば恐らくは……」
「……なるほど」
滅茶苦茶熱心に羽ペンを走らせてるけど、大丈夫? ラベンドラさん。
ハイエルフとエルフがワインとカツを狙ってますよ?
「やらん」
あ、大丈夫ですね。
一言の威圧で引っ込んだみたいですし。
「それにしても……本当にワインが美味しいですわ」
「だな。確か、このワインはその年のブドウの出来を見るためのワインという話だったな?」
「ですです」
「ここまで美味いのだから、この年のワインはどれもクオリティが高くなるのだろうな」
「……なるほど?」
確かに、言われてみたらそうか。
ボジョレーが美味しい! 凄い! ってだけじゃなく、ボジョレーで美味しさを確認したからこの年のワインはどれも美味しいぞ、に繋がるのか。
あ、そう考えるとボジョレーって結構大事なんだな。
なんか納得したわ。
今思えば、作られた年で値段が上下するなんてワインじゃ当たり前だし、その指標の一つになってるのか。
「カツとパン、カツとワインで、カツとパン」
季語無し。
いや、もしかしたらワインが季語に見なされる可能性がワンチャン……?
「カツカツワイン、パンワインカツ」
下の句を読まなくてよろしい。
これで季語が要らなくなった、じゃないんよ。
この辺は翻訳魔法さんの仕業だな、全く。
「ふぅ……大満足ですわ」
「ワインが美味けりゃ料理もうめぇ。これで不満なんて漏らしたら刺されちまうわ」
「その辺のナイフなら通さない腹筋してるくせに」
「何度か試しやがった本人が言うと説得力がちげぇわな」
……アメノサさん、『無頼』さんを刺したことあるの?
……え? あれ? 関係性どうなってるんだろ?
もしかして、アメノサさん……ヘラ系彼女とかだったりするの?
「寝ている所に無音で忍び寄るのが悪い」
「あの時は緊急を要する報告だって説明しただろうが」
なんかいちゃつき始めたし。
はいはい、ご馳走さまご馳走さま。
なお、会話の中身はナイフで腹筋を刺そうとして歯が立たなかったというものなもよう。
「カケル、デザート――」
「もう少しワインの余韻に浸りなさいな」
「むぅ……」
マジャリスさん、撃沈。
と言いつつもしっかりワイングラスは持って堪能してるんですけれどね。
「今日のだとどれが一番だった?」
「最後に飲んだワインが一番でしたわ。バランスもそうですけれど、何より味わいの深さが群を抜いていましたわ」
「白ワインが好みだったな。冷やしてゴクゴクと飲みたい。マリネなんかとの相性も良かった」
「ロゼ。癖の無さ、飲みやすさ、味わい、全部完璧」
「どれもっちゅーとこいつらが怒るから言わんが、一つ上げるならば間違いなく今のじゃろ。他のとは一線を画す美味さがあるぞい」
「どれもうめぇよ」
「同じく今の。ワインから若さを感じなかった。どっしりとして、味はまろやか。ガブロの言う通り、他とは違う」
まぁ、値段の違いがあるからなぁ、と。
もちろん安いから美味しく無いわけじゃないけど、値段が高いのには高い理由があるんだねって印象だった。
姉貴に感謝だよ。
俺だったら手が出ないようなワインを買ってくれたんだから。




