雨の日の子犬のような目
「こっちの商品もチョコか?」
「ですね」
えのきバンブー戦争を一旦停戦。
次なる標的はすぐ溶けるキスへ。
「チョコとイチゴと抹茶か」
「チョコと言えばな定番フレーバー三種ですね。ちなみにこのチョコ達は寒い時期限定商品になってます」
「ほぅ? それはなぜ?」
すぐ溶けるキス、冬限定商品なのは知ってるけど、何故か? というのは考えた事無かったな。
……そういうもんだから、じゃダメ?
「口の中で雪のように溶ける、がコンセプトのチョコなので、寒い時期じゃないと外の温度で溶けちゃうんですよ」
「なるほど!!」
なお、でまかせのもよう。
でも、それっぽい理由じゃない?
知らんけど。
「ほう」
「ラベンドラの作るチョコはどれだけ放置しても溶けないから気になるな」
……ん?
俺としてはどれだけ放置しても溶けないチョコの方が気になるけど?
もしかしてあれ? 異世界って平均気温が極端に低いとかなのかな?
「色々と魔法的な処理をしているからな」
ですよね。
「見た目はキューブ状の普通のチョコだけど?」
「とりあえず食べてもろて」
百聞は一見に如かず、百見は一行に如かず。
食べればわかる。
「っ!!?」
「なるほどな」
ほらね。
困ったら口に含んでみればいいんですよ。
……傷んでたり、悪くなってしまっている食べ物を除く。
「チョコ自体がかなり柔らかく、すんなりと歯が入る」
「ラベンドラの作るチョコと確実に違うな!」
「噛まずに口の中で溶かすのも最高ですわ! 本当に口の中に入れるとすぐに溶けますのね!!」
「チョコ自体の香りもいいぜ」
「苺フレーバーのほんの僅かな酸味があった方がわしは好みじゃな」
「抹茶の香りもかなり合う。かなり美味いチョコだ」
評判いいじゃん、すぐ溶けるキス。
まぁ、美味しいからね。
「どうやってここまで柔らかくしているんだ?」
「分かりません」
知らんのか?
一般人は売られてるチョコをどうやったら作れるかなんて気にしてないんだ。
「生クリーム多めとかじゃないんですかね」
なのでこうして適当な答えになっちゃうわけですね。
「試してみるか」
「ふっ。試食役は俺が受けよう」
「食べたいだけだろ」
「間違いない」
ウッキウキで名乗りを上げるマジャリスさんだけど、全員の認識で食べたいだけだよねってなってて笑う。
どうせその通りだろうし。
「何故バレたんだ?」
「逆に、何故バレないと思った?」
「これをガブロが言ってたのならこうはならないんですけれどね」
「わしは別に進んで試食をしようなどとは思わんからなぁ。酒以外」
自己分析がバッチリできるドワーフのようで。
「だって無くなったんだもん」
「はやっ!?」
「急いで食べるからじゃろ……」
なんか妙にがっつくなと思ってたら、もうとっくにすぐ溶けるキスを食べきってたのか。
あまりにも早すぎるだろ。
俺以外も見逃してたね。
「あのチョコが美味しいのが悪い」
「悪いんです?」
「いや、まったく悪くは無いのだが……」
チョコが悪いんなら次から買って来ないだけだが?
滅多なことは言うもんじゃないぞ?
俺のデザートストックが減るだろ。
「ガブロ、手の進みが遅いな! 貰ってやろうか!?」
「せびるな」
「はい」
勢いを一瞬で失ってシュン……ってなるエルフからしか得られない栄養素が確実にある。
今まさに摂取してる。
「美味かった」
「外のパウダーも美味しかった」
「あれも香りに一役買っているみたいでしたものね」
「いい研究の材料になる」
あぁ……珈琲がうめぇ。
俺ならくれるだろうと期待の眼差しを向けているエルフを無視しながら傾ける珈琲が格別にうめぇ……。
「まぁ、戻った後でラベンドラチョコを貰うか」
「あのチョコの再現でいくつか作るからな、それで我慢しろ」
なんて会話で一気に顔が輝くマジャリスさん。
あまりにも分かりやすすぎる……。
あと、ラベンドラさんがあまりにもお兄ちゃんムーヴ過ぎる。
「よし、では持ち帰りを作るか」
「ですね」
珈琲を飲み切り、ラベンドラさんと共にキッチンへ。
と言ってもやることはそこまで多くは無い。
「鍋のスープをベースに、マンドラゴラとマイコニドを追加して煮詰め、ソースにします」
「それをくり抜いたパンに入れ、チーズで蓋、だな」
「です。具材でこいつを入れると食べ応えとしても十分かと」
「うむ。早速作っていこう」
という事で調理開始開始。
ちなみにこいつというのは異世界ナマズの事ね。
それじゃあまずは、マンドラゴラ達を熱湯に潜らせて皮を剥きましてっと。
鍋のスープに入れ、潰しながら煮詰め煮詰め。
程よく水分が飛んだら、ラベンドラさんがくり貫いた食パン一斤にソースを入れ。
「それくらいでいい」
「え!? だいぶ少ないですけど……」
ほとんどソースを入れていない状態でストップがかかる。
そこにチーズを入れたラベンドラさんが、くり貫いたパンの一部を被せ……。
「またソースを頼む」
「なるほど。何層にもするんですね」
「そういう事だ」
意図が分かって納得。
パン、ソース、チーズという層を、いくつも作るつもりらしい。
……ボリューム大変なことになりそう。
そもそもパン一斤使ってる時点でかなり凄いんだけど。
「最後にチーズをかけて……」
「パセリも振りましょう」
そうして出来た、パングラタン。
……これを人数分か。
作ってるだけでお腹一杯になってくるな……。




