仕事はつらいよ
「そう言えばなんですけど、アメノサさん、無事でした?」
「……」
鍋に具材をぶち込んで、後は煮るだけ。
余裕も出てきたし、と一旦部屋を見渡した時、そう言えば普通にアメノサさんが来てるなと気付きまして。
前回やらかした時……俺の血を抜こうとした時は数日こっちに渡れなくなってたみたいだけど、返りたくないと駄々こねた分はそこまでお咎めが無かったのだろうか?
「たっぷり二キロは真っ暗闇を落下して気を失った。気が付いたらベッドに寝ていた」
「あ、ベッドに寝かせたのは俺な? 詳しくは言わねぇがまぁ情けない姿で部屋に崩れてたからよ」
倒れてた、ではなく崩れてた、なのが何というか、酷さを物語ってる気がする。
詳しく言わないのも、言いたくないってよりは言わない方がいい、って判断したって事だろうし。
アメノサさんの為にも、この場の雰囲気の為にも。
「……だから服が違った?」
「まぁ、色々と察しろよ」
うん。
深く聞かない方がいいなこれ。
これから食事するわけだし。
「つーことで、これからはちゃンと大人しく帰るンだぞ? 次は部屋に放置するからな」
「大丈夫。二度とあの感覚味わいたくないから」
まぁ、アメノサさんも反省してるのか、こう言ってるし。
神様に始末書も書かせちゃったし。
俺もしばらくは強制退去はさせないかな。
……えぇっと、やる場合は先に八百万にも報連相をすればいいんだっけ。
あ、今回迷惑かけたお詫びにお供え物した方がいいな。
明日買って来よう。
「もうじき出来るぞ」
「じゃあバゲット焼きますね」
という事で、鍋の完成に合わせてバゲットをトースターにIN。
当然全員分を一気には焼けないので、俺の分はとりあえず後回しにして……。
後は焼きたてを随時補充していくスタイル。
どうせ俺はそこまで食べないしね。
「今日は米ではなくバゲットなのか」
「味付けをコンソメ寄りにしたので、ご飯よりはバゲットの方が合うかなーと思いまして」
「となるともちろん飲み物には?」
「麦茶が用意されてます」
「……ワイン」
無いです。
姉貴にボージョレの確認をしたら現在配送中だってさ。
明日には来るんじゃない?
(首を長ーーーーーーーーーくして待っとるぞい)
嫌だよ神様がろくろ首みたいになってるの想像したら。
ほぼ邪神だろ、それ。
(失礼な)
言動が悪い。
「ちなみに普通のバターとガーリックバターとご用意したのでお好きな方で」
「うむ」
「まずは普通にだな」
ちなみに、俺が言うバターはマジでバター。
マーガリンではない。
なんというか、マーガリンを異世界人に食べさせるのを躊躇うの俺だけ?
別に問題ないんだろうけど、なんかね。
「パテとかがあれば最高でしたわね」
「あれ作るの面倒なんだぞ?」
パテね。
何度か挑戦したことがあるんだなこれが。
まぁ、面倒。
レバーのパテを作ったんだけど、臭み抜きを怠ると本当に酷い出来になる。
あと、材料もケチっちゃダメ。
しっかりとフードプロセッサーを使うとか、片付けも準備も下ごしらえをマジで大変。
そんな経験があるから、ホテルとかで食事した時に出てきたパテに感動したもん。
あ、これが本物のパテなんだって。
「焼き上がったようですわね」
「じゃな」
「じゃあ、食べましょうか」
焼き上がったバゲットを回収し、入れ替わりに新しいバゲットをIN。
トースター内部の温度は上がってるから、さっきよりも気持ち短めにセットして。
「ほら、カケル」
そうしてる間に俺の分のトマト鍋をよそってくれるラベンドラさんマジでイケメン。
というわけで皆さん、手を合わせてください。
「「いただきます!」」
*
「ピザ生地を先に購入して好みの具材を足していくスタイル……。何食ったらこんな発想になるんすかね……」
「分かりません。ただ、非常に面白い試みなのは間違いありませんよ」
「ピザ生地と具材以外の飲み物は国の予算で用意するって、規模分かってるんすかね……」
「分かっているからアメノサ丞相が直接私達に書類を持ち込んだのでしょうね」
第二回料理祭り。
それに関する情報を整理し、必要な手配を確認する大会実行委員会の面々。
またしても巻き込まれたアエロスと、もうこの地位に骨を埋める覚悟の元大臣は、『アメノサ』から直接受け取った祭りの概要書を確認しつつ話し合い。
どこまでの情報を公開し、どこまでの範囲に広めるか。
その判断一つで、言ってしまえば祭りの盛況と治安とに大きく関わる。
範囲を広げ過ぎれば無法が増え、情報を与えなさすぎれば参加者は減少する。
その匙加減を、祭りが開催される現地の箱の大きさを考え、来場者数を考え、どれだけの時間で人が回るかを考えて情報を広めなければならない。
アエロスの腕の見せ所である。
「ピザ窯は十基の設置っすよね?」
「です。一度に二枚入れることが可能で、焼き上がったら入れ口の逆側から受け取れるそうです」
「一度に二十人程度、普通にパンクするっすよね……」
「同じような催しを、やや規模を少なくして各地域に割り振れませんかね? 本会場とは別に、小会場を作って分散させるのは?」
「ピザ窯の設置期間次第っすね。『夢幻泡影』を働かせられるなら可能でしょうけど……」
「一応丞相に相談しておきます。各会場に実行委員を一人ずつ配置し、小まめに情報共有。……投票の集計はどうしましょう……?」
「駄賃を渡して孤児院とかに協力を要請出来ないっすかね? 駄賃プラス食事としてピザを付ければ、割かし動いてくれそうっすけど」
「孤児院の発想はいいですね。ただ、子供たちが集計中に、票へイタズラしないかが気がかりですが……」
「票の盗みは問題っすけど、変に知識のある大人の方がぶっちゃけ厄介っすよ?」
「孤児院にしっかり説明をしておきましょう。初日は特に投票に対して目を光らせるようにと実行委員にも言い聞かせます」
「……何だかんだ、振られた仕事をしっかりこなしちゃうから、自分ら、使われ続けるんっすよね……」
「しょうがありませんよ」
なお、この二人の会話は実行委員全員で会議を行い、様々な意見を出し終えた後の会話である。
会議で議題に上がらなかった、様々な部分の確認と。
今の段階で考えられる発生しそうな問題の事前対応。
もちろんこれは、翌日の会議でも取り上げられることになるのだが。
それはそれとして、二人は、しっかりと残業をしているのであった。




