ゴー君「出番じゃないの?」
……何か忘れてないか?
風呂上がり、歯を磨き終えて後は就寝するだけって状況で。
俺の中のもう一人の僕が語り掛けてくる。
おかしいな、千年パズルは完成させた記憶はないぞ?
なんて冗談はさておいて、ふと思いついたことが一つ。
コンフィ、作れるかも。
という事で、寝る前に下ごしらえ。
と言っても、やることは単純。
塩とハーブ系を異世界ナマズに擦り込むだけ。
――お風呂入ったのに……。
「うし」
擦り込んだらキッチンペーパーで包んでラップ。
こうすることで出てくるドリップで魚の身がぶよぶよになるのを防ぐ。
じゃ、コイツを冷蔵庫に入れましてっと。
「マンドラゴラ君、これをしっかり見守っててね」
こちらもお休み前モードだったマンドラゴラ君に異世界ナマズの見守りを依頼。
しっかり敬礼してやる気満々、いいねいいね。
じゃ、やる事やったので今度こそ寝る!
しっかり手を洗って寝る!!
*
おはようございます。
というわけでコンフィの続きを朝っぱらからやっていきましょう。
ちなみに当然お仕事なので、ちゃっちゃといきますよ。
まずは冷蔵庫で放置してた異世界ナマズの身を回収し、ラップを剥がし、キッチンペーパーを剥がし。
水分が抜けて、こじんまりとした異世界ナマズの肉をどか弁に入れ。
ここに約60℃に熱した油を入れれば、温度はそのままに保たれて、職場でご飯食べる時にはしっかり火が通ってるという寸法よ。
勝ったな、がはは。
(のう)
どうしました神様?
(いや、エルフのかけた魔法はその容器に入ったままの状態を維持する、じゃろ?)
ですよ?
だから入れた油の温度が下がらなくて調理出来るんじゃないですか。
(それ、『――』の身も火が通ってない状態を維持するんじゃないか?)
…………あれ?
確かにそうだな?
じゃないと、状態保存されてない事になっちゃうもんな?
…………スーッ。
今日のお昼は外食だな、うん。
(はぁ。まぁ、声をかけて正解じゃったわい)
いや、うん。
マジでそれな?
神様に声をかけて貰ってなかったら、ウッキウキで60℃の油に浸った生のナマズを食べる羽目になってたところだった。
いや、食わんけど。
そうなってたら。
(お礼はワインでいいぞい)
もうすぐ姉貴から送られてくるワインがあるからそれで我慢してもろて。
(しょうがないのぅ)
さて、じゃあ気を取り直して仕事に向かうとしますかね。
*
ただいま、という事でね。
買って来ましたよトマト鍋グッズ。
で、ふと思ったんだけど、俺が朝作りっぱなしにした異世界ナマズ君ね。
コンフィになれなかった彼だけど、実は昨日やった工程って結構パンチェッタの作り方に倣ってたりするのよ。
具材が豚肉じゃないとか、塩の分量が違うとか、そもそも放置してる時間が違うとか色々とあるけれども。
だったら、異世界組に時間跳躍をかまして貰えば、異世界ナマズのパンチェッタが作れるのでは?
と思ったわけです。
あ、ちなみに具材が豚肉ではなく魚を使った場合はパンチェッタと呼べるかは不明。
多分別の呼び方になるとは思う。
ただ、知らんので、呼び方を。
で、その異世界ナマズのパンチェッタも、トマト鍋にぶち込んだら美味しいんじゃない? と。
肉にも魚にも合うトマト鍋だからこそ出来る所業ですなぁ。
とはいえ他にも具材はしっかり入れるからね。
ナマズのパンチェッタが失敗しても問題ないのだよ、うん。
「そして……うん」
あと、俺が普段食べてるデザートを食べたいってリクエストに、ちゃんと応えて買っては来たよ。
うん。
これでいいのかは知らんけど。
えのきの山とバンブーの里、更にはこの時期に出てくるすぐ溶けるキスまで。
いやまぁ、不満は出ないでしょうよ、このラインナップなら。
ただ、
「えのきバンブー戦争が起こらないと良いけど」
何かと話題になりがちなこの二商品。
異世界組が喧嘩をしない事を祈るばかり。
ちなみに俺は逃げと思われるかもしれないけどどっちも好きだよ。
ただ、紅茶と合わせるならえのきがいいし、コーヒーと飲むならバンブーがいい。
合わせるものによって好みを変える主義。
さてさて、では、先に鍋の準備をしておきましょうかね。
*
「いやぁ、今日は何事にも代えがたい一日だった」
「満足いただけたようで何より」
「うむ。私の抱えるシェフたちも、食べる料理全てに目を丸くしておったわ」
「とはいえ一度舌に刻み付けたのです。近い内に再現なされるでしょう」
「さて、報酬の話であるが、金銭ではなく魔物の素材という話であったな」
「侯爵様ともなれば珍しいコレクションがあるのでは? と。あるいは、ワインでも構いませんが」
「うむ。遠慮はいらんよ。好きに持っていくがよい」
貴族からの依頼を受け、一日の食事とおやつを振舞ったラベンドラは。
大変満足したらしい貴族に促され、彼の所有するコレクション部屋へ。
ただ、一つ誤算だったのは、食材として素材が欲しいラベンドラと。
魔物の角や牙、毛皮などを多く収集する貴族とで、『素材』という認識に齟齬が出ていたこと。
結果、ラベンドラの思い描いていためぼしいものは何一つなく。
結局、貴族秘蔵のワインを二本ほど譲り受ける形で報酬とした。
その内の一本は、貴族が大枚をはたいて買ったバハムートの血入りのワインであり。
もう一本は、貴族の娘が生まれた年に作られたワインだったりしたのだが、それはラベンドラのあずかり知らぬところである。
――なお、同様のワインが共にまだ十本以上、貴族の蔵に眠っている事だけは追記させていただく。




