貴族の道楽
「何をしていますの?」
「地震魚の肉質変化の研究だな。やはり高温に触れることで食感に変化が起こるようだ」
翔宅から異世界に戻り、翌朝にフィッシュバーガーを食べた『夢幻泡影』。
この時の地震魚のフライが、まるでトンカツのような食感になっている事に、昨日の自分たちの予想を確信。
――あの、異世界的にはトンカツではなくオークカツなのだがそこは割愛。
ゆえに、何度以上から肉質が変化するのかという研究をラベンドラが行っていた。
「お湯が沸騰する程度の温度では変化は無かった。そこをある程度越えた温度で肉質が変化するようだ」
「意外と低いのですわね」
「うむ。この結果で色々と面白い事が出来る」
「ほぅ?」
「ソテーなどにする時にあらかじめ身の半分だけを高温の油で素揚げしておけば、一つの切り身で食感の違うソテーが出来る」
「そうするメリットがありまして?」
「普通に食う分には無い。だが、手間暇を加えている、と演出するのには一役買うぞ」
そう言って怪しく笑うラベンドラ。
その意図を、ガブロは理解したようで……。
「貴族からの依頼を受けるんか?」
「うむ。正直金は要らんが、奴らの集めた珍しい食材というのは気になる所だ」
「全然気乗りしていなかったのに、どういう感情の変化ですの?」
「安易に受ければ依頼がなだれ込むと考えていた。だが、そもそものハードルを高くすればいいと気が付いただけだ」
「……?」
実のところ、『夢幻泡影』を名指しで指名する依頼というのが、貴族からギルドに発注されていた。
その内容は当然護衛……というような冒険者としての依頼ではなく。
『調理士』のラベンドラとその取り巻きとして、食事の提供を行わせるもの。
バカバカしいと一蹴し、無視しても。
貴族側は報酬を吊り上げ、様々な特典を足し、ギルドに圧力をかけ。
あの手この手でラベンドラに自分たちの食事を用意させようとしていたり。
そして、オズワルドから、
「もう適当に受けて適当に作って適当にぶちぎれて金輪際の依頼を断ってくれねぇか?」
と、かなり疲れた声での連絡を受けていたりする。
なお、その連絡が来たのはミカラデ国の第一回大会より前なのは秘密の話。
「とはいえ、どこの貴族の依頼を受けるかは慎重に決めねばならん」
「爵位が低い所を受けてぶちぎれても、より爵位の高い所からの依頼が止むとは思えませんものね」
「最上爵位からの依頼を受けるのが自然じゃが、そうすると文句の付けどころがあるかどうか……」
「無いなら無いで構わない。報酬の食材から、一番高価なのを一つ貰うだけだからな」
「それを用意出来るのが最低ライン、と」
「あるいはワインだ。バハムートの血入りのワインがそろそろ出回っているはずだ。見つけ次第軒並み回収してやれば……」
「私たちの喉が潤いますわね!」
そんな事を話しながら、ラベンドラは地震魚の切り身を塩漬けに。
時間跳躍を駆使して一瞬でそれを完成させた後。
「燻製用の枝を狩りに行くぞ」
「ついでに果実がなっていませんかしら」
「昨日のクリームが入ったパンの再現はまだか?」
「そういえばじゃが、『酒一滴』に新たなカクテルが出てきたらしいんじゃよ」
「あそこはほぼ毎日新しいカクテルが出て来てるだろうが」
「結果忘れられたカクテルも多い。じゃが、今回のカクテルは美味過ぎてずっと残っているらしいんじゃ」
「後で寄ろう。興味がある」
燻製用にとトレント種の枝を狩りに出かけた『夢幻泡影』は、バッカスの経営するバー『酒一滴』に顔を出し。
話題の新作カクテルを楽しんだ。
なお、バッカスの考案した新作のカクテルというのは、現代で言う所の『ロングアイランドアイスティー』であり。
紅茶を一滴も使っていないのに、見た目も味も紅茶に似せられたそのカクテルは。
使っているお酒がどれもこれも度数が高く、そのくせ飲みやすいという事で、『レディーキラーカクテル』の一つに数えられていたりする。
ただし、
「もっと飲めますわね」
『夢幻泡影』のメンバーに居るレディーを倒すことは出来ないようだった。
*
「うぅむ……」
トマト、キノコ、白身魚……。
これらで何作ろう……。
真っ先に思いついたのはトマト鍋。
でもなぁ、チーズ水の時にやったんだよなぁ……。
魚が増えた事でソテーとか、ムニエルとかもいいかもと思ったんだけど、ソースが代わり映えしなくない? という思いが……。
いやまぁ、そんな事思ってたらメニュー考えるの大変になるから無視でもいいんだけれども。
レシピが思いつくなら、なるべく同じ料理にしたくないんだよなぁ……。
「……そういや、名前だけ知ってるな、この料理」
で、何かいい料理は無いかと色々と調べていたら。
ふと気になる料理が目についた。
その料理はコンフィ。
「結構時間掛かるのか……」
ただ、レシピを調べてみると、肉とか魚に塩と香辛料をまぶして半日放置。
その後低温の油で数時間煮込むとか書いてあって、流石に個人宅でやる料理じゃないなって事で。
そうだね、ラベンドラさんに作って持って来てもらうようお願いしようね。
「じゃあ、やっぱりトマト鍋かなぁ……」
というわけでメニュー決めは振出しに戻り、結局トマト鍋に決まりましたとさ。




