なぜ止めない
「!? 中からトロリと……」
「スッキリした酸味のペーストが流れてきますわ!!」
「クッキーとチョコは変わらずサクパキ、そして木苺の酸味がチョコやバターのコクとよく合う」
「これ美味いぞ!!」
さっきのヘーゼルナッツのペーストも好評だったけど、この木苺のやつはさっきと声のトーンが違うな。
そんなに美味しかったのか?
……どれどれ。
「ん! 美味い!!」
はい、美味しいです。
言ってた通り、ヘーゼルナッツの時と同様、チョコとクッキーの食感が当たり前にいいのね。
サクッと、パキッと。
で、そこから木苺のペーストがとろーりと口の中に流れてくる。
甘酸っぱくて、香りもいい。
そして、その木苺のペーストの酸味が、味全体のバランスを纏めて一段上の味わいに押し上げてるわ。
……そしてコーヒーと合う。
「紅茶の味わいも、このクッキーサンドを美味しく食べるための助力になってる」
「マジでうめぇなこれ。向こうでも食いてぇ」
甘い物はそこまで得意じゃない『無頼』さんが、一口じゃなく二口で味わって食べてる所を見るに、マジで気に入ったんだろうな。
あと、向こうでも食いたい発言に、異世界組が漏れなく無言で頷いてるのなんかおもろい。
仲いいですね。
「想像以上に美味しいわね」
「海外にこういうお菓子系って無いの?」
姉貴もご満悦。
でも、それこそこういう焼き菓子チック派生みたいなのは海外の方がありそうだけども……。
「あるにはあるけど、高いわよ? あと、こうやって気軽に買って帰れない場所にあるわね」
「……というと?」
「ホテルのレストランとか」
あー……格式っていうか、そういうお高い所に行かないと買えないのか。
やっぱり手軽に買えるって最強なんだな。
「これとさっきのだけでも売ってる店があれば、私の国を侵略可能」
「あら? こちらの国も容易に侵略可能ですわよ?」
勧めるな勧めるな。
お菓子で侵略することを勧めるな。
あと、俺がもし仮に異世界に侵攻するとして、何を武器にってなったら迷わずカレーにすると思うよ。
ワンチャンラーメンでもいいけど、カレーに比べてラーメンはスープ作りに時間が掛かる印象だし。
まぁ、カレーもカレールー使える前提なので、それを言ったら粉末スープ使えよってなりそうだけれども。
(歓迎するぞい)
するな、止めろ。
仮にも世界を跨いで侵略してきてる存在だぞ。
神様がそんなのでいいのか?
(お主の事じゃしワインの一本や二本を持参してくるじゃろ?)
悲報、異世界、神様にワイン数本で売られる。
……まぁ、侵略したとて何をするって目標があるわけでもないんですけれどもね。
「そういや、異世界に喫茶店って無いの?」
クッキーサンドをパクつきつつそんな話をしていると、姉貴が疑問を提示。
それに対する答えは……。
「喫茶店とは?」
である。
なさそうですね。
「コーヒーや紅茶を楽しみながら、軽食を食べる所?」
「不安そうに俺を見ながら言うな。あと、コーヒーとか紅茶に限らず飲み物と軽食を楽しむところを喫茶店って言うの」
「そうなんだ……」
定年退職したら静かな喫茶店でも経営したいな、みたいな事を思ってた時期があるからね。
ちょっと調べた事があるんだ。
……あくまでちょっとだけど。
「無いな」
「普通に食事処以外はありませんものね」
「そもそもコーヒーがこの場所に来て初めて知ったものだからな……」
「私たちの国にも、まだ浸透しきってない」
「一部の貴族たちはハマってるみてぇだがな」
まぁ、異世界ではそもそもコーヒーの発見が最近だからね。
コーヒー文化はそこまで栄えてないか。
……でも紅茶があるならアフタヌーンティーみたいなのは無かったのだろうか?
「ちなみにアフタヌーンティーとかって?」
「なんじゃそりゃ?」
無いのか。
ちょっと画像見せてみるか。
「こうやって、紅茶と一緒に軽食やスイーツを楽しむ事を言うんですけれど……」
「あぁ……上流の貴族達の間で何度かそういう事をしたと聞いた事があるが……」
「いい話を聞きませんわよね。まぁ、出されるお菓子も軽食も、クオリティはお察しでしょうし」
「ぶっちゃけこういうのは飲み食いする事が目的じゃなく、それらをしながら話し合う事を目的としてる」
ふむ。
そういう物か。
昔の日本で言う茶室的な。
数人しか入れない密室空間で、色々な話をする。って感じで。
「……じゃあ、もし今ラベンドラさんがアフタヌーンティーを振る舞うってなったら?」
「まずわしらの国の国王が出張って来るじゃろうな。自分にまず振舞うべきだと」
「むしろ国王主催という事にして、貴族たちを招いたアフタヌーンティーパーティでも開催させませんこと?」
「その心は?」
「真似する貴族が現れて、市場にお金が流れますわ」
「……名目は?」
「複数回開催された料理大会の運営慰安とでも言っておけば、適当に釣れるのではなくて?」
政治の話が始まってしまった。
……よくよく考えたら、俺の家も戦国時代の茶室的立ち位置になってないか?
盗聴の危険が無く、身の安全も確保されて、周囲の目も気にしなくて済むプライベート空間。
……考えすぎじゃあないよなぁ。
「コーヒーお代わり」
「はいはい」
「あと一個お土産食べたいんだけど、あの人たちの話長い?」
「長くなりそうだけど、強制的に切り上げさせる魔法の言葉があるよ?」
「それよろしく」
クッキーサンドは当然美味しかったけど、それだけじゃあ満足が出来ていないらしい姉貴。
という事で、次のデザートに行くために一肌脱ぎますか。
「次のデザート行きまーす」
ピタッと。
うん、嘘のようにピタッとそれまでの議論が終わった。
ほらね?
ちなみにこんなのhttps://book1.adouzi.eu.org/n6386le/作っちゃってました←




