ラベンドラ「ある意味才能だな」
……俺はエルフの魔法を舐めていたのかもしれない。
スキレットでは厚焼き玉子は焼けない、そう思っていた時期が俺にもありました。
でも、このエルフ印の魔法が付与されたスキレットならとても簡単。
オムレツを作る要領で、スキレットを持ち上げ、持ち上げた手首をトントンと叩いてやると……。
徐々に回転し、そして、端の部分が折り畳まれて見事な四角形に……。
いや、そうはならんやろ。
しかも、折れ曲がっている部分は他と厚みが合うように、計ったかのように一緒だし。
これ、使い手がどんな料理を作ろうとしているかをスキレット側が理解して、最適な動きを創り出してるレベルなんだけど……。
これは流石に科学でも勝てまい……。
「これなら姉貴でも厚焼き玉子が焼けるかもしれない」
「もしそうなったらノーベル賞ものでしょ」
……あり得るんだよなぁ。
想像して振るだけで、望んだ焼き物が出来るスキレットとか、ぶっちゃけノーベル賞どころの騒ぎじゃないと思うんだけど。
しかも焦げないし、洗うの楽だし。
これ一本で、トロトロのオムレツからカッチリしたオムライスまで、なんでもござれだからなぁ。
貰って良かった木製スキレット。
「ん、来るわよ」
「ほいほい」
姉貴からの来報予告を受け取り、待機。
厚焼き玉子、焼けたは焼けたけど、これだけじゃあ足りないし。
まだまだ焼かなきゃだね。
……で、姉貴は大根おろしを作る気ある?
全然増えてないんだけど? さっきから。
「邪魔するぞ」
なんて観察してたら紫の魔法陣が登場。
そして魔法陣から『夢幻泡影』と『無頼』アメノサ組が登場。
……土の匂いがするな。
畑仕事でもしてきたのか?
「すっごい泥だらけじゃん」
「む、すまない」
姉貴がみんなの足元を見て言うと、ラベンドラさんが謝って。
魔法により、脛当てに付いていた泥が排除される。
今まで、俺の家に上がる前に泥とかを落としていたっぽいのに、今日はそれすらもする余裕が無かった?
あるいは消耗していた?
「久しぶりにスタンピードの対処に追われていましたの」
「愚弟、説明」
「知らんがな」
へい神様? スタンピードって何?
(特定の魔物がダンジョン内で爆発的に増えることじゃな。増えた魔物は餌を求めてダンジョンを飛び出したり、同じダンジョンに居る魔物を食いつくしたりする。ダンジョン内の生態系が変化するどころか、周囲の村や町に危険が及ぶ出来事じゃぞい)
ほーん。
……それも神様のせいなの?
(聞き捨てならんな。そもそもスタンピードは一要因では発生しえん。様々な要因が絡み合った結果の物じゃから、一概にわしのせいだけではないわい)
なるほどね。
「異常発生みたいなものみたいよ? 蝗害みたいな」
「うわぁ……大変そう……」
現実で該当しそうな現象を脳内辞書から引っ張り出してきたけど、多分合ってるよな?
そりゃあ、そんなのに対処しようとなったら疲れもするか。
「ちなみにどんな魔物が大量発生したんです?」
「マイコニドという魔物だ。ただ、種類が多くてな。マイコニド種の大行進だった」
えーっとマイコニドマイコニド……。
……キノコの魔物か。
カイルイフシギキノコの時のやつだな。
多分。
……あの時も確か名前が分かって無かったような……。
まぁ、いいや。
キノコをマイコニドと間違えて呼ぶことはないでしょ、多分。
「ちなみに珍しい見た目の奴らばっかりだったぞ」
「ほへー」
キノコねぇ……。
ぶっちゃけ、今は時期だし、貰えるなら貰いたいんだけど……。
素人が手を出していい食材じゃないからな、キノコって。
もちろん、リリウムさんやらが鑑定をして、毒無しなのは確認済みなんだろうけれども。
ま、貰えるなら貰っときますわ、くらい。
「それで……今日の食事はこちらの魚を焼くのだったな」
「です。ただ、魚を焼くだけじゃあ寂しいので、厚焼き玉子とみそ汁を付けようと」
「ふむ。私にやる事は?」
「あ、大根おろして」
……姉貴? それは俺が姉貴に頼んだ仕事のはずだよね?
それをラベンドラさんに任すんじゃないよ。
そうやって出来上がった大根おろしだけ掠め取っていくような中抜きは、弟、絶対に許しませんからね。
「お安い御用だ」
なお、ラベンドラさんはあっさり受ける模様。
そして、姉貴の五十倍くらいの速度で大根おろしが出来上がっていく……。
やっぱり魔法って凄い。
「他には?」
「じゃあ、厚焼き玉子を焼いて貰えます? あと、マンドラゴラもすりおろして貰って……」
で、結局すぐに終わったので、俺の厚焼き玉子も手伝って貰う事に。
味噌汁はあと味噌を溶かすだけだし、厚焼き玉子が焼けたら庭に移動して秋刀魚を焼こう。
ちなみに七輪は三つ。
なんで一家庭に三つもあったかは分からない。
「ちなみにマイコニドから茶色い宝石が手に入ってな」
「え、見る見る」
なお、大根おろしをラベンドラさんに押し付けた姉貴は、宝石の話にホイホイと釣られてガブロさんの所へ。
いや、仕事だからいいんだけれどもさ。
「上手く使いこなしているようだな」
「いやぁ、これは下手に使う方が無理だと思いますよ?」
で、ラベンドラさんと並んで厚焼き玉子を作っていたら、そう声を掛けられた。
――そうだ。
姉貴から送られてきたオムレツ作ってる動画を見せてみよう。
「ラベンドラさん、これ……」
「ん? ――ブッ!」
姉貴がスキレットからオムレツを射出したところで、ラベンドラさんが噴き出してしまった。
やっぱ、そういう反応になるよなぁ。




