目黒に限る
「カケル、持ち帰りの料理についてだが……」
「コロッサル墨入りの醤油で……」
パエリア、全部食べちゃったし、渡せるものがこれ位しかないし……。
と思っていたら、
「いや、今回は料理そのものではなくレシピを知りたい」
「ほぅ」
と、申し出が。
ありがたいけどね?
元々貰った食材が多いから、悪くなる前に食べきってしまおうって考えで異世界組に渡してたわけだし。
今回限り、しかも、残った分も醤油に入れちゃったからコロッサル墨は無いし……と思ってたところなんよ。
「ちなみに何のレシピです?」
「米をメインにしないレシピがあると言っていたな? それを知りたい」
「なるほど。少々お待ちください」
なるほどな。
異世界で現状手に入る米を使って、何か料理を作りたいって事か。
んじゃあ、パエリア……はレシピを持ってるだろうからそれ以外だな。
となると一番メジャーなのはリゾットかな。
「リゾット系はいかがでしょう?」
海外だと野菜料理に分類されるリゾット。
その分類から分かる通り、米は主食としてではなくあくまで料理の材料というスタンス。
サフランを使えばミラノ風、野菜に魚介、チーズまで具材も多岐に渡る。
異世界で無理なく作る米料理として、割とピッタリなんじゃないか?
「良さそうだ」
リゾット、で検索して、一番上に出て来たレシピを見せてみる。
ぶっちゃけ、姉貴ならともかくラベンドラさんなら、ベースとなるレシピさえインプット出来れば、そこからオリジナルアレンジで派生させていくことは簡単だと思うんよね。
という事で一番オーソドックスなリゾットのレシピを共有成功。
「かなり拡張性があるレシピに思える」
「実際そうですよ? マジで色んな種類のリゾットを知ってますし」
食べた事ある、でないのがポイント。
知るだけならタダだし……。
「いくつか例を聞いてもいいか?」
「魚介をふんだんに使った物や、レモンを入れて爽やかにしたもの。野菜のみで前菜のように食べるものまでですね」
「なるほど……」
という事で持ち帰り談義終了。
これで異世界でリゾットブームとか起きて、コメの供給が爆発的に広がったら受けるな。
あ、そうなっても私は一切の責任を負いませんのであしからず。
「よし、では次の食材を――」
で、レシピをメモし終えたラベンドラさんがそう言い切る前に……。
「待った!!」
某法廷バトルゲームのような声が響き渡る。
……どしたん? 姉貴?
「明日は私が食べたい物があるから、それをカケルに作らせる」
「勝手に……」
「金なら出す」
「何でも作らせていただきやす」
「だから、食材を渡すのは明日でもいい?」
「私らは構わんが……」
「俺も大丈夫ですね」
金を出すなら文句は言わんよ。
「で? 何が食べたいの?」
「秋刀魚! なんか今年は豊作らしいし? 帰って来てこの季節ならやっぱり秋刀魚でしょ!」
「確かに。……七輪がどっかにあったはずだから、明日は庭で七輪使って秋刀魚焼いて食べるか」
「最&高かよ」
という、日本人にしか分からない盛り上がりを、異世界組に見せつけつつ。
「秋刀魚にはワインよりビールや日本酒だよね?」
姉貴に発破をかける。
「もち。その辺も出すから存分に買って来い」
「へへー」
ワインを楽しみにしてる組と、酒でありゃあ何でもいい飲兵衛組とで表情がはっきり分かれたけど。
スマンな。
日本人なら誰しも秋刀魚にはワインより日本酒やビールなんや。
……一番は白米だけども。
「まぁ、ワインは逃げませんし……」
「ワインよりも合う酒があるなら、そちらを優先するのもまぁ……」
一応は納得してくれてるみたいだし、大丈夫でしょ。
……あ、神様。
(なんじゃ?)
儀式用に使うワインを一本選んでください。
(おお、そうじゃったそうじゃった)
言い出しっぺが忘れるなっての。
さぁて、文字通り、どれにするのかな? 天の神様の言う通り。
(右から二番目の黒いラベルじゃな)
これか。
偉くシックなラベルだな。
……ほーん、スペイン産のワインなのか。
フレシネ コルドン ネグロ……あ、割と値段そこまで高くない。
(渡す時に、儀式のときまでしっかり冷しとくよう言うんじゃぞ)
? 儀式に温度が重要なんですか?
(いや、そのワインは冷やした方が美味い)
あ、はい。
「ラベンドラさん」
「どうした?」
異世界への帰り支度をしているラベンドラさんに、ワインと神様からの伝言を渡す。
「承知した」
「ちょっとくらい、いただいてもバチは当たらないんじゃありませんこと?」
「そうそう」
リリウムさんとアメノサさんがそんな事言ってるけど……。
「こちらでも用意出来るとは思いますんで、一旦このワインは儀式用に取って置いてください」
「別に手を出すのは止めやしねぇが、またここに来られなくなっても今度こそ知らねぇぜ?」
「うっ……」
「か、神様の物ですものね。手を出すのはやめておきますわ」
色々とフォローと脅しを受け、引き下がる二人。
(なんでわしの天罰よりお主の料理を食えぬ事の方が効果があるんじゃ?)
知りませんよ。
日頃の行いとかじゃないです?
(わし、結構頑張っとるんじゃがなぁ……)
黄昏始めた神様の事など露知らず、異世界組は紫の魔法陣を潜って異世界に戻っていく。
その腕に収めたワインを、大事そうに抱えつつ。




