マンドラゴラ「住めば都」
あのね? 確かに現代の国名を翻訳するのは大変だと思うよ?
それを考えずに会話内で出した俺ら姉弟にも非はあると思う。
でもね? ちょっとこう……色々と物議をかもしそうな国名というか、国の呼び方は控えて欲しいかなーって。
(教科書とやらを参考にしたと言っておるが?)
うん、別に現代社会とかならいいんだよ?
何故に歴史の教科書を参考にしたし。
それだと日本は何になるんだよ……。
日出づる国にでもなるんか?
(秋津国らしいが?)
いやまぁ、確かに呼ばれていたけれども……。
ええと、今度から俺らも国名を出さないように頑張るから、翻訳魔法さんも隣国とか、離れた国とか、曖昧な言葉を使って貰えると嬉しいな。
(頷いとるぞい)
よし……。
さて……と。
「そう呼ばれてたのはかなり前で、今はまた別の呼ばれ方をしていますね」
「そうなのか」
「確か……冶金の国だったはずです」
スペインの国名の由来の一番有力とされている説だとそうらしい。
なんで今更俺は外国の由来なんて勉強してるんだろう……。
勉強といいつつ、片手にはスマホがしっかり握られているんですけどね。
「ふむ」
「名前が変わったって事は、その国は亡びたのか?」
「滅んでないと思いますけれどね」
単純に、当時よりも衰退したから呼ばれなくなっただけで。
というか、この手の話題は色々とヤバい。
主に俺の知識的な意味で。
「姉上が渡航して戻って来ている。これだけで、ある程度安全が保障された国という事は分かるだろう」
「スリとかひったくりとか、何度かあったけどね」
「言わんでいい」
というか、それはどこだって同じでしょうに。
日本はスマホ弄りながら歩いてても、ひったくられることは稀だけど、外国に行くと当たり前にひったくりやスリに会うって聞くし。
財布を尻ポケットに入れて歩けるのは日本くらいなんて言われてるみたいだし。
知り合いの海外旅行大好きなやつ曰く、本命の財布はジャケットの内側。
支払いとかで使う少額が入った財布をズボンのポケット、盗まれる用の空のダミー財布をカバンや上着のポケットに入れてるって言ってたな。
大げさだろ、とか笑ったけど、後日本命の財布だけになって帰国したそいつを見て笑えなくなったわ。
「どこの国にも不届き者はいる」
「カケルがそうでなくて良かったですわ」
「ははは……」
多分なんですけど、見知らぬ異世界人が家に侵入してて、出合頭に組み伏せられて、武器で威嚇されたらどんな狂暴な人でも大人しくなると思いますよ?
斧、剣、チャクラム、弓。
いやぁ……生きてて良かった。
「ふぅ、美味かった」
「今回限りというのが勿体ない位ですわね」
「さっき言ってた、『レンジでチン』とか言う魔法があればずっと手に入れられるんじゃない?」
「そもそもコロッサルと出会い、さらに不意をついて無いといかんからのぅ」
「あいつら、海中でも警戒が強いんだよな」
「警戒していても普通に漁師に仕留められるけどな」
「だから、あんな発光する墨を吹いて目くらましをする」
……あの色、意味あったのか。
てっきり、神様がサイコロ振ったら立っちゃったから、悪ノリで決めた色なのかとばかり。
(ゲホッゴホッ)
……嘘でしょ?
「そう言えばカケル」
「何でしょう?」
「コロッサル墨、少量だけ残ったのだが」
「はい」
「少し試したい事がある」
「?」
食事を終え、デザートタイムに移るまでの僅かな時間。
そこに、ラベンドラさんが差し込んできたのは……。
「魚介類と相性が良いコロッサル墨」
「相性とかの言葉で済ませていいかは疑問ですけれどね」
美味しいならいいんだよ。
クオリティが上がるってのは相性云々を飛び越えていないか? という話。
「では、同じく魚介類と相性が良い調味料に混ぜるとどうなる?」
「? ……まさか――醤油?」
「その通りだ」
なるほど?
その考えで行くと、付けるだけで刺身のクオリティを上げてしまう、とんでもない醤油が出来るって事になるな?
……でも、それを試せる食材は今の冷蔵庫の中には無いよ?
冷蔵庫の中には、一番奥でキャベツの葉を敷いて自分の空間を作ってる異世界山芋マンドラゴラが居るだけだし。
「とりあえずは解呪をしなければならないから」
「塩振って加熱ですね」
「うむ。その後で、私が持っている魚介を解呪して刺身にしよう」
「通常の醤油と食べ比べるわけですね」
黙って頷いたラベンドラさん。
という訳で、コロッサル墨を解呪しーの、お皿に醤油を垂らし―の。
醤油にコロッサル墨を垂らしてかき混ぜる。
――あの、色が黒のまんまなんですけど?
特にゲーミング発光する醤油が出来るわけではないんですね。
(言ったじゃろ。イカ墨を入れたら黒くなると)
……あれってマジだったんだ。
というか、黒の調味料を入れたら発光から何からしなくなるのちょっと怖い。
「カケル、これを解呪してくれ」
なんて神様と会話してたら、渡されたのは青魚。
スーパーで売ってる、刺身用のパックくらいのサイズ感。
青魚か、あまり刺身のイメージは無いなぁ。
鮮度が良くないとそもそもダメだし。
まぁ、炒り塩水に漬けて解呪すれば食べられる異世界の魚に、鮮度なんて関係ありませんけど。
「加熱すると臭みが出る魚でな。割と研究をしているのだが中々うまくいかない」
「ラベンドラさんでも苦戦するんですね」
「カケルと出会ってから試せる手数が増えた。それ以前は、やる事やってダメなら諦められていたんだが……」
「蒸したら? 漬けか? いや、加熱後に氷水に晒して……と、日々ブツブツ言いながら試行錯誤していますわよ?」
……うん。
選択肢が多いのも困りものですよね。
「よし、では食べ比べてみよう」
――という訳で、コロッサル墨の活用実験。
開始開始~。
元印刷屋的に、黒=墨()




