命名『神の義眼』
「何それ? 絵具?」
「食欲失せるような事言わない」
コロッサル墨を投入する所を見た姉貴が、心の片隅にはあったけどあえて言わなかった単語を口にしやがった。
いいのか? 今からその絵の具を使った料理を食べるんだぞ?
「コロッサルって言う、タコの魔物の墨なんだってさ」
「タコ墨か~……食べられるの?」
「味見したけど美味しかったよ?」
「食べたんだ……」
実の弟にドン引くなよ……。
第一、味が分からないとどう調理すればいいか分からないだろ。
「そしたらお湯と白ワインを入れて、魚介類を戻し、香草を入れて弱火で加熱ですね」
「白ワインは姉上が買って来たものか?」
「いえいえ。そっちは食事と一緒に楽しむ用なので、調理用のワインを買って来てます」
料理酒と一緒で、わざわざ料理用と記載されていれば、この人達は手を出さないからね。
逆に言うと、それ以外のお酒やワインは飲みたがる。
――いやまぁ、ガブロさんだけは料理用だろうが何だろうが飲みたがるけども。
「後は米に火が通るまで待てばいい、か」
「ですね。最後に少しだけ強火にして焦げを作るとまた美味しくなります」
味ご飯然り、炊き込みご飯然り。
焦げが美味いからね。
パエリアでももちろんその法則は適用される。
「うへぇ……マジでパライバトルマリンだ……」
で、姉貴は帰国した最大の理由をどうやら果たせたらしい。
にしてもうへぇ……って。
おおよそ宝石を見た時の感想ではないな。
「これでいくら……いや、そもそもどこも価値とか付けられないんじゃ……」
「実際その通りじゃぞ? わしらの国の国王に献上しようとしたら、ソクサルムから、『突然こんなサイズの希少宝石を送られるのは裏があるとしか考えられない』とか言って保留を喰らっとるからな」
「国王すら見せたらドン引きしてたからな」
「私たち以外に触ろうと手を伸ばす者すらいませんでしたもの」
「……残当」
「いっそ適当な大きさに砕いて同盟国に配るとかすりゃあいいンだよ」
『無頼』さんがそんな事を言い出して、俺としてはいい案なんじゃないかと思う。
だって、現状のままだとどうしようもないんだったら、価値を下げてでもどうにか出来た方がいいと思ったから。
――でも、
「私のパライバトルマリンを傷つけるとか論外」
姉貴が反対。
いつからあんたのになったんだよ。
あと、ちょっとぶつけてみろとか過去言ってたろ。
俺は忘れてねぇぞ。
「複数国家の同盟の象徴として、持ち回りで管理させるのはどう?」
「一定期間ごとに受け渡し式等を行って移動させるという訳ですの?」
「そう。同盟の象徴だから、宝石に傷が付いたりすれば同盟から脱退からの同盟国から総出で袋叩き。嫌でも厳重な警備を敷く必要が出てくる」
「受け渡し式が定期的に行われるなら、国交として活用出来るな」
「見届け役として他の同盟国からも首脳陣を徴集すれば、その場で会議も執り行える」
政治の話は分からんぷん。
というか、シレっと名前が出されたソクサルムさんって人が、恐らくはリリウムさんたちの国の政治の重要な立ち位置の人なんだろうけど……。
本人不在で話がどんどん進んでいってるけど、大丈夫そ?
「カケルにもお願いがある」
「俺にですか?」
と、そんな話をしていた異世界組から唐突に話を振られ。
ほんのちょっぴり嫌な予感がしたが、一応は聞く。
「同盟国所有予定のパライバトルマリン。これに、神様の加護か祝福が欲しい」
「俺から神様に頼めって事ですね?」
良かった、そんな事か。
てっきり、同盟国の会議の時に皆に振る舞う料理を教えろとか言われるものだと……。
そんな事……?
神様に直接加護や祝福をちょーだいって言う行為は、よくよく考えたらそんな事ではないな?
(そうじゃぞ、全く)
申し訳ありません。
……で、実際お願いすれば加護や祝福って与えて貰えるんですか?
(まぁ、してやらんことは無いが)
無いが?
(そうじゃな。その受け渡し式とやらの時に、渡す側の国にその年一番の出来のワインを供えさせよ)
あぁ……またワイン……。
(で、受け取る側の国がそのワインにバハムートの血を一滴垂らす)
……ふむ。
(次の受け渡し式の時に、そのバハムートの血が入ったワインを代表者でグラス一杯飲み、残りをわしに捧げるのじゃな)
……工程多くない?
まんま儀式みたいになってるんだけど……。
(そりゃあ儀式じゃもの。宝石と、それに関わる国に対する祝福。これならばしてやっても良い)
分かりました。じゃあ、そのまま伝えますね。
(あ、ちなみに一番最初は用意されたワインが無いからの。お主の国のワインで代用させて貰うぞ?)
……異世界にワイン持ち込もうとすると、これまでは空になっていたはずですけど?
(ちゃんと儀式用にと弁えるわい)
はぁ……。
という訳で、今までの神様との脳内会話を異世界組に伝えると……。
「宝石に対する祝福で良かったのに、それに関わる国の祝福まで……」
「カケルって本当に神の遣いだったンだな」
「絶対に私達の国に足を踏み入れてはならんぞ? 教会が発狂して身柄を確保してくるのが目に見える」
「教会に限らんじゃろ。ギルド、盗賊、貴族。全員で血眼になってカケルを探すわい」
「行く予定無いんで大丈夫です」
……ところで、静かになった姉貴は何をしているのかな?
「………………」
めっちゃ真剣にパライバトルマリンの写真や映像を撮りまくってたわ。
もうすぐご飯出来ちゃうぞー?




