服に付いたら大変
一旦冷静になり、たこの墨の役割について考えてみよう。
よく言われるのは、イカ墨と違い、タコ墨は煙幕目的で吐き出されるって話ね。
イカの墨は自分の分身みたいな感じで、ある程度の時間はその場に残る。
タコ墨はブワッと広がって流れていく……。
そもそもゲーミング発光する墨を吐いて目くらましになるのかという疑問が……。
目くらましというか、目潰しの方が効果ありそうなんだけど……。
「とりあえず食べてみるか……」
フライパンを火にかけて、塩を一つまみ。
そのまま加熱していくと……。
「確かにとろみは付いた」
神様の言う通り、シャバシャバだったコロッサル墨が、片栗粉を加えたみたいなとろみが付いてる。
――色は相変わらずだけど……。
「よし、いただきます」
特に何にも付けず、そのままコロッサル墨を味わってみる。
これ大丈夫だよね? 食べたら身体の一部が発光とかしないよね?
「…………うっま」
なお、美味い模様。
なんでだよ。
なんであんなふざけたようなゴテゴテした色から、こんな繊細な味わいがするんだよ……。
まず真っ先に思い浮かぶのはやっぱりイカ墨。
数えるほどしか食べた事無いけど、海鮮の匂いというか、岩海苔みたいな風味と味だったような覚えがあるのね?
確かにコロッサル墨にもそのニュアンスはある。
ただ、臭いとか、そんな臭いのきつさじゃなく、どっちかというと白身魚みたいな風味がするのよ。
しかも高級なやつ。
鯛とかかな、近いのは。
で、ほんのりとした甘さも魚っぽいんだけど、そんなイメージする魚たちより圧倒的にうま味ってのが強い。
このうま味の例えが難しいんだけど、マヨネーズやソースとかでも打ち消せないようなうま味。
あご出汁のうま味に似てるかもしれない。
ふんわり広がるようなうま味ではなく、鋭く、シャープなうま味。
これ、スープとして飲んでも間違いなく美味しいだろうね。
沖縄で飲めるイカのすみ汁みたいな。
「これをパエリアか……」
(出来るじゃろ?)
「まぁ、やりはしますけれど……」
正直な話、失敗する気はしない。
だって素材の時点で十二分に美味しいからね。
それに、バターやワイン、オリーブオイルとも絶対に相性が良い。
失敗する要素はほぼゼロと言ってもいい。
――ただ、
「色だけどうにかしたいんですけど……」
流石に1680万色に発光するパエリアってのは食欲がさぁ……。
せめてどれか一色に固定できない?
(イカ墨を混ぜれば黒一色になるぞい?)
……そうじゃないんだよなぁ。
確かに色の強さとして、黒は最強だよ? 何混ぜても黒以外にならないから。
……白を除くけれど。
でもさ、黒に塗り潰すためにイカ墨を入れますじゃあ風情が無いじゃん。
分かる? 神様?
(うぅむ……)
まぁ、いいや。
海外に目を向ければ、カラフルライスみたいなノリで色のついた米なんて存在するわけだし。
きっとあの人らにも色付きライスは受け入れられるだろ、多分。
俺だけだな、ちょっともやもやしながらパエリア食べる事になるの。
*
「あー……やったわ」
日本の空港に降り立ち、手荷物受け取りを済ませた早苗は、弟の翔に連絡をしようとして頭を抱える。
ワインはしっかり買って来た。
異世界組から熱望されていると知っていたし、何より頭の片隅どころか半分くらいに残っていたから。
……ただ、お菓子の方を忘れてしまっていた。
そもそも早苗自身が、海外であまり甘い物を食べたりしない。
食べると言ってもケーキやスコーンくらいなものだ。
で、当然それらを持ち帰る事は出来ない。
というか、持ち帰るならその金額で日本のケーキを買った方がいいと考える。
ゆえに、何かしらのお菓子を買って帰ろうと考えていたのだが、先の通り早苗があまり海外のお菓子を買わない為、何を買えばいいのかがピンと来ず。
だったら、空港の土産物屋で売られているようなものを買って帰ろうと思っていたのだが……。
「すっかり忘れてたんだよねぇ……」
飛行機の出発時刻が迫る中、割とギリギリに空港に到着してしまった為、ゆっくりと土産物屋を見て回る事など叶わず。
どころか、ほとんど何も出来ずに搭乗したようなもの。
「買って帰らなかったらどやされるよね?」
正直、弟の翔に何を言われてもどこ吹く風ではあるのだが、異世界組からの心証が悪くなると面白くない。
そもそも帰国の目的は、今を逃したら二度と拝めないであろうバカデカパライバトルマリンである。
その所有権が異世界組にある以上、機嫌を損ねると見せて貰えない可能性すらあるわけで……。
「今までのデザートとかから考えて、翔は大体近場で買い物してる」
そうならないために、早苗は時差ボケしている頭をフル回転させ、希望の光を探す。
「赤福買った時も喜ばれたし、何も土産を外国の物に絞らなくてもいいんじゃない?」
幸いにも、日本の空港には多くのお土産を取り扱う店が出店しているわけで……。
「ここで買えるものと、後は通販で取り寄せられるもので何とか凌ぐか……」
そう言いながら、早苗はその後、空港内のお土産を取り扱うショップに足を運び……。
「東京バナナ、シュガーバターサンドの木……」
翔が異世界組に振る舞っていないであろうお土産のお菓子を、次々に籠へと放り込んでいく。
「ひよこ饅頭っと」
…………発祥は福岡だが、東京にも会社を構える、戦争の火種となり得るお土産も籠に放り込まれ。
その他、多数のお土産を買いこんだ早苗は。
鼻歌交じりに翔の家を目指すのであった。




