何か忘れられてるような……
「……はぁ。体に染み渡る出汁の旨味……」
「しっとりとした鶏肉のトッピングも、プリップリのアサリも相性抜群ですわね」
「海藻もしっかりスープを纏っていて美味い」
「俺らが大会で食ったラメーンとはほぼ別もンだな」
「これ、美味しい」
「ずぞぞぞっ! ぞっ! ぞぞっ!」
みんなスープを飲んだり、トッピング食べたり、麺を啜って感想を言ったりしてるのに、ガブロさんだけ一心不乱に麺を啜ってるの、面白いな。
あと、異世界産のラメーンを俺は聞いた事しか無いからアレだけど、まぁ、日本のラーメンと比べちゃったらね。
日本に伝わる前の、元になった中国ですら、日本のラーメンはもう独立してる料理みたいな感じだし。
唯一原型を残しているとすれば、メニューに『中華そば』って記載してある所じゃない?
それ以外はもう……。
福岡とか、『ラーメン』としか書かれてなくて、注文したら当たり前に豚骨ラーメンが出てくるからね。
むしろ逆に、『醤油ラーメン』とか、『味噌ラーメン』とか、豚骨以外の味にわざわざ記載してあるレベル。
……旅行行ってた時の記憶だけども。
そもそも豚骨ラーメン以外のラーメン屋を探す方が大変だった記憶。
「出汁はゴーレムが作った魚節か?」
「です。二種類を掛け合わせて仕上げに塩ですね」
「ふむ。出汁を取った後に野菜を煮込んでいるのか」
「甘みやうま味が欲しかったので」
ラベンドラさんからのドキドキレシピ解剖タイム。
これが料理人とか、料理を生業にしている人だったら緊張するんだろうけれども。
あくまで俺は趣味の一環なので特に緊張とかは無いかな。
「ぷはっ! 美味過ぎじゃわい」
「もう食べたのか!?」
「味わって食べればいいのに」
「こんな美味いもん、食うのを止めることなんて無理じゃ」
嬉しい事言ってくれるなぁ。
うん、嬉しいよ? 嬉しい事なんだよ?
でもさ……。
「カケル、替え玉じゃ!」
買って来た麺、足りるかなぁ……。
「麺のゆで加減で固さが変わる。自分で調整してはどうだ?」
「む、面白いかもしれん」
そして、俺が食べる時間を確保してくれるラベンドラさんのナイス采配。
――ん? 今ガブロさん替え玉って言ったか?
……翻訳魔法さんだな、間違いない。
「やや固めに調整して……」
自分の分の替え玉を茹で始めたガブロさんを尻目に、俺もボンゴレラーメンを食べましょう。
まずはスープから。
「いや、うん。美味い」
味見してるから知ってたけど、やっぱ美味いわ。
透き通るようなイセカイカワブタ節とイセカイハモ節の旨味。
そこに追加された塩が、物足りなさをキッチリとカバー。
口に入れて時間が経つと広がってくる野菜の旨味と甘味も、それまでの旨味や塩味と合わさって味のコントラストになってて……。
とにかく美味い塩ラーメンのスープって感じ。
「サラダチキンもいい感じだね」
チャーシューの代わりにと入れたサラダチキンも、本体のしっとりさがスープによく合う。
肉自体に味も付いているし、塩ラーメンという言葉のイメージとは裏腹に、かなり下の根っこに届く味に仕上がってる。
「ワカメも美味い」
浮かべたワカメも、海産系の出汁って事で相性は言わずもがな。
纏ったスープを一緒に食べるから、口の中が海岸とかのイメージになっちゃう。
「麺も最高だね」
ゆで加減普通、ちぢれ卵麺は、スープが絡んで言う事なし。
ふわりと香る卵の香りが、それまでの海のイメージから離してくれるおかげで、麺を啜るごとに気持ちが若干リフレッシュされる。
そして、肉、ワカメ、麺と柔らかいものが続いた後に食べるメンマがまたいいのよ。
コリコリとした食感がある事で、僅かの飽きすらも感じさせない至高のラーメン。
――このラーメンを作ったのは誰だぁっ!!
俺か。
ちなみにタバコは吸わない。
「自画自賛ですけど、めっちゃ美味しく出来ましたね」
「普通に過去最高の一杯」
「これで料理は趣味とか言うンだろ? 俺の国の料理人が泣くぞ?」
「俺らの所の料理人もだな」
褒められて悪い気はしないわな。
だから、そんな『これだけ褒めたなら替え玉もカケルがしてくれるだろう』みたいな目で見てもダメ。
ガブロさんと同じく、自分でゆで加減調整しながら替え玉を作りなさい。
当店、替え玉はセルフサービスとなっております。
「カケル」
「なんでしょう?」
「もし何かトッピングを足すとしたら、なんだ?」
「トッピングを足す……」
ラベンドラさんから難しい事を言われた。
結構完成された一杯だと思うんだけどなぁ……。
でもまぁ、しいて言うなら――、
「ボイルして皮を剥いたトマト、とかですかねぇ」
「トマト、か」
「そうすると、冷やしラーメンとかにしてもいいですね。冷たくて清涼感のある、さっぱりしたラーメンになりますよ」
「なるほど」
どうやらお眼鏡にかなったらしい。
実際、トマトが入った塩ラーメンはお店で食べた事があるんよな。
ブラックペッパーの効いたバジル風味の塩ラーメンでさ。
トマトバジルの感じで塩ラーメンになってて、あれはあれで美味しかった。
……三年ぐらいで潰れちゃったけど。
世知辛いね。
「カケル、置いてあった麺は全部使ってしまいましたわよ?」
「はい。――はい?」
「もうそれしかなかったんですもの」
……あれ?
俺、持ち帰り用の麺を別に置いていた記憶が無いな……。
あ、食べられちゃってますね、麺。
せめて……せめて事後報告じゃなく、事前確認して欲しかった……。




