やれるわけない
「澄み切った濁り一つないライトグリーン……翔、あんたの手のひらを宝石と並べてサイズ感見せて!」
「はいはい」
言われた通りにビデオ通話に切り替え、宝石を見せてあげたら。
姉貴のやつ、終始テンション上がりっぱなし。
確実に海外だし、日本と時差があるはずなのにこのテンション……さては深夜テンションだな?
「デッカ……。え? これいくらになるの……」
「やっぱ高い宝石なの?」
分かりやすくスマホの向こう側で絶句してる姉貴に、とりあえず聞いてみる。
「高い……。うん、高い。まぁ、高いってより希少だから価値が上がってるって話なんだけど」
いいよ別に。
その辺の卵が先か鶏が先かみたいな話は。
「実物確認してないから分かんないけど、多分パライバトルマリンなのね?」
「ふむ」
トルマリンは知ってるな。
でも、パライバってのが頭に付いたやつは知らないかも。
「このパライバトルマリンってのが滅茶苦茶希少なのよ」
「ほへー」
「世界三大希少石の中でも筆頭レベルで高いわよ」
「マジ?」
「大マジ。ていうか、そんな成人男性の手のひらレベルの大きさとか、原石だけで家買えるレベルなんじゃないかしら」
「うわ……」
姉貴から衝撃的な言葉が次々と出てくるな。
宝石の世界って恐ろしい……。
「ちなみにラベンドラさん達のだから、姉貴の手には渡らないと思うよ?」
「すっごく残念だけど、そんな宝石渡されたら命がいくつあっても足りないわよ」
「そこまで……」
「でも、欠片とか欲しいのよね……。翔、ちょっと持ち上げて適当な角にぶつけてみない?」
「やらない」
なんて恐ろしい提案するんだ姉貴。
家買えるレベルの宝石の原石を傷物にしようとするなんて。
「ま、冗談よ。……でも、ゴー君の宝石合成でパライバトルマリンが作れるってなると、本当にクズ宝石集めて合成した方がいい気がするわね……」
「でも合成に一週間とか掛かるよ?」
「そうね……。よし、ちょっとリリウムさんと色々相談しといて」
「何を?」
「相談内容は文章で送っとく」
「うい」
「んじゃ!」
……切れた。
まぁ、凄い宝石って事は分かったな、うん。
にしても三大希少石なんてのもあるのか、ちょっと調べてみよう。
……あ、アレキサンドライトは何か聞いたことあるかも。
パパラチアサファイアってのは知らないなぁ。
ピンク色のサファイアなのか。
サファイアって、青だけじゃあないんだね。
「ん。ん~と……?」
で、姉貴から送られてきた文章には、ラベンドラさん達から姉貴に流れていた宝石を、一度俺の所へ流し。
ゴー君に合成して貰ってから、姉貴に送ってくれ、との相談。
つまり、『夢幻泡影』から姉貴に渡っていた宝石を、間にゴー君合成を差し込んでくれって相談ね。
……まぁ、リリウムさん達に損は無いし、引き受けてくれるんじゃない?
――問題は……。
「ゴー君」
「ンゴ?」
「宝石を合成する時、例えば、同じ宝石をサイズを小さくして複数生成とか出来る?」
「ンゴ!!」
出来るんだ。
問題クリア。
姉貴からの依頼に、今回みたいな希少宝石を手のひらサイズとかで作られたら、確実にどこで手に入れたかとかを根掘り葉掘り聞かれる。
そこで、異世界産バレを防ぐために、現代の常識的な範囲の大きさまで小さくしてほしいって話らしい。
ちなみにゴー君的には『楽勝!』との事。
いやぁ、立派に育ったねぇ……。
「ちなみに、小さくたくさん作る場合でも日数に変化はない?」
「ンゴ」
「了解。ずいぶん助かるみたいだよ、ありがとう」
出力結果を変えようとも、合成期間に変化はなし、か。
後は、異世界組的にこのパライバトルマリンとやらがどれほどの価値になるかって感じか。
現代で希少だからと言って、異世界で希少とは限らないもんな。
意外にガッカリされたりして。
――でも、ダイヤモンドは異世界でも人気とか言ってたような……。
まぁ、来れば分かるか。
「じゃあスープ作り、再開しますかね」
買い出しから帰宅した直後、思わぬイベントに出くわしちゃったけれども。
それはそれとして、晩御飯の準備、進めますわぞ~。
*
「まさか周辺国も巻き込んで調合ギルドが結束するとは……」
「それほどまでに人材不足が深刻だったのでしょうけれど……」
ミカラデ国の王城へ続く道。
その途中にある噴水広場。
料理大会が数日後に迫り、周囲は本番に向けて様々な設営に忙しく動いている。
……なお、その噴水広場の確保に成功した、ニルラス国、並びにミカラデ国、更にはニルラス国と同盟を結ぶ周囲の国の調合ギルドが、周囲の数倍の慌ただしさで準備をしていたりするのだが。
「失敗しても大きな音が鳴る程度に抑えろ!」
「サー! イエッサー!」
「ここで恐怖を覚えられては末来の職員は期待出来ない、心せよ」
「サー! イエッサー!!」
「視覚、聴覚、嗅覚、あらゆる五感に訴えかけることを念頭に」
「イエスマム!!」
「メインターゲットは子供だ。無垢な魂に調合の楽しさを刻み込ませろ!」
「イエス! ユア! ハイネス!!」
その様子は、異様という言葉以外では、説明のしようが無いのだった。




