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閑話 誤解だ

「お前ら!! ちょっと来い!!」


 早朝。リリウム達が支度をし、ダンジョンへと向かおうとしていると。

 その姿を見つけたオズワルドが声を掛けてきた。

 心なしか怒っているようにも見えるオズワルドは、ラベンドラの肩を乱暴に掴むと。


「お前ら! ――暗殺を企てているというのは本当なのか!?」

「……は?」


 四人にとって、まるで思い当たる節のない事を言いだして。

 

「隠しても無駄だ! 既に何人もの商人から、お前たちに毒になりうる素材を売ったとの証言が取れている!!」


 そう言うオズワルドに。


「ああ、確かに買ったな」


 ポン、と手を打って。

 ラベンドラは納得した表情を浮かべた。


「わざわざギルドにまで報告が来るほどだ。相当量を買っているんだろう? ……それで? 実際の所誰を暗殺する気だ?」

「いや、別に暗殺とかせんでもいくらでも邪魔な連中を消す手立て位、ワシらにあるぞい?」

「黙ってろガブロ。オズワルド、全くの誤解だ」


 余計な事を口走ったガブロを黙らせ、弁明を始めたラベンドラは、


「買った毒物は全て調理に使用するものだ」


 と口にして。

 さらに、


「リリウム、マジャリスと共に毒性だけを消す魔法や薬草などと共に調理し、食べても毒に侵されないような調理を目指している」


 そう説明すると。


「何のために? わざわざ毒になるもん使って調理する意味が俺には分からねぇが?」


 至極真っ当な疑問をオズワルドが抱く。

 オズワルドは知らない。辛さにも、いくつか種類があることを。

 オズワルドは知らない。見ても、食べても、おおよそ毒だとしか思えなかったのに、食べた後にはまた食べたいと思えてしまう、麻婆豆腐という料理を。

 オズワルドは知らない。こちらの世界の食材で、痺れる辛さを再現するには、どうしても毒物に手を出すしかない事を。


「そうでなければ再現出来ないのだ。あの料理人の作る料理が」


 物凄く悔しそうに。恐らく、調理士としてのプライドが、毒物を用いた料理というのを受け入れがたいのだろう。

 それでも、ラベンドラはそのプライドを押し殺し、麻婆豆腐の再現に踏み切った。

 全ては、口内を痺れさせ、汗を噴き出させるあの辛さの為。

 一度食べてしまったせいで、病みつきになったあの味の為に。


「そ、そんなに美味かったのか?」


 ゴクリと唾をのみ、未だ知らない味に思いを馳せるオズワルドがそう聞いた瞬間。


「あれはとても衝撃でしたわ。毒としか思えない刺激や痺れ。その後から確かに来る、これまでとは違ったうま味や風味」

「あの料理人が準備する主食と相性が良く、一緒に食べるとそれだけで最高だった……」

「汗が噴き出すほどの辛みと鼻を突き抜ける香辛料の香り。それらの調和が完璧で、あれほどの料理があったとはこの歳になるまで知らなかったな」

「最初は毒だとか言っておったのに、一口食べたら誰も手を止めんかったぞい」


 四人が、記憶の中の麻婆豆腐を食べながら当時の事を食レポ。

 当然、オズワルドにダイレクトアタックなのだが。


「そ、それで? その料理は再現出来そうか……?」

「残念だが、先程も言った通り毒物を用いねば再現は難しいだろう。そして、その毒物が圧倒的に足りない」


 そもそも毒とは、少量で体に異常をきたすものである。

 それ以外は、毒となる量以内であれば調味料として用いられるし、普通にそこら辺でも売っている。

 だからこそ、量が手に入らない。量があったところで、効果は変わらないからだ。


「種類も量も。商人を何件も巡ってはみたが、未だ必要だと思われる量には届いていない」


 残念そうにそう言って頭を垂れたラベンドラに。

 オズワルドは……。


「じゃあ、毒さえ確保できれば再現できると?」

「時間はかかるだろう。だが、確実に再現して見せる」

「――罪人から徴収した毒がいくつか保管されている。もちろんタダではやれんが、相応の値段を払うなら譲ってやってもいい」

「本当か!?」

「助かるわい!!」

「ただし!! 絶対に料理以外に使わないと誓え!」


 ギルドに厳重保管されている、毒物を譲ることを決断。

 全ては食事の為なのだが、生憎とそれを止められる存在はここには居ない。


「誓う。私の産まれた故郷、レイヴェの森と共に」

「森の名と共の誓い。ハイエルフがリリウムが保証します」


 そうして、オズワルドから提示された条件を、エルフにとって一番重い誓いとする森の名と共に受けたことで。

 誰にも止められぬまま、多種多量の毒物が、ラベンドラの手に渡る事となった。


「それで? 今日の飯は何を持って来たんだ?」

「む? 今日は持って来たのは飯ではないな」


 国が行えば、それこそ暗殺を依頼したとしか思えない取引を終えた直後。

 腹をさすりながらそう聞いたオズワルドだったが。

 希望した答えは帰って来ず。


「貰って来たのはこれだ」


 差し出されたビーフジャーキーを見て、ひどく落胆。


「何だ、干し肉かよ」

「そう思うだろう? だが、ただの干し肉ならわざわざ俺らが貰ってくると思うか?」


 そう言ってマジャリスがオズワルドにビーフジャーキーを差し出して。

 半信半疑で受け取り、齧る。


「宿屋に行こう。パンとスープとこれさえあればご機嫌な朝食だ」

「ですわね。……それで? このお肉のレシピも確立したんでしょう?」

「したはしたが、やはり素材が厳しいぞ? そうホイホイと作れるものでもない」

「じゃったらレシピを流出させたらどうじゃ? どこでも買えるようになれば、それこそ得しかないんじゃありゃせんか?」


 なんて言う四人の後ろをついて行きながら。


「これうめぇな……」


 ただひたすら、無言で。

 オズワルドは、ビーフジャーキーを楽しむのであった。

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― 新着の感想 ―
「いや、別に暗殺とかせんでもいくらでも邪魔な連中を消す手立て位、ワシらにあるぞい?」 ワシらと言うか魔王様の顔が真っ先に浮かぶw 気に入らない奴が自宅でゆったりしてる時に転移魔法で飛んで腰の入った良…
俺やっぱオズワルドさんが一番かわいいと思うんだ
>「――罪人から徴収した毒がいくつか保管されている。もちろんタダではやれんが、相応の値段を払うなら譲ってやってもいい」 >「本当か!?」 >「助かるわい!!」 >「ただし!! 絶対に料理以外に使わない…
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