ラベンドラ「自信作だ」
「……」
「弁明は?」
「悪かったように思う」
ちゃんと正直にワインが無いって事を伝えたら、それはもう射殺すような視線を向けられました。
……全員に。
「いや、今日の料理はどれも和食なので、ワインよりは日本酒だなと思った次第で……」
「でも、ワインにも合いますわよね? 和食」
「その通りでございます」
いぐざくとりー。
「あ、明日には用意しますから……」
「必ず、ですわよ?」
「はひ」
何だろうね、こう……ドスの利いた声とかじゃないのに凄味がある。
もっと言うなら、心臓を鷲掴みにされているような……。
「それで? 今日の食事は?」
「あ、はい。かき揚げと酒蒸し、バター焼きと炊き込みご飯です」
ラベンドラさんナイス。
しれっとご飯の話にスライドすることで、リリウムさんから意識を外させてくれる。
そこに痺れる憧れる。
「バター焼きはワインと合うのではなくて?」
外せませんでした。
無視しましょ。
「炊き込みご飯はもうじき炊けるので、ラベンドラさんにはかき揚げをお願いしたく」
「うむ、任せろ」
という事で料理開始。
リリウムさん? 頬っぺた膨らませながらも着席したよ。
料理を始めたら邪魔するなとでも、ラベンドラさんから言われてるんじゃないかな。
躾が行き届いてて偉い。
「天ぷらの具材は?」
「アサリと、玉ねぎ。あと、エノキですかね」
個人的に、エノキが入ってるかき揚げは美味い。
「ふむ」
「てんぷら粉はこちらになります」
取り出したるは初心者でも美味しく出来るてんぷら粉。
初心者じゃなくてもこれには重宝するのよ。
揚げるの俺じゃないんですけどね。
「酒蒸しに使う酒はわしらの口にも入るんじゃろうな?」
「料理用と食事の時に飲む用のお酒は分けてますよ?」
「……何故じゃ?」
「そりゃあ、飲む用と料理用とじゃ違うからですよ」
と、飲兵衛からの追求も躱しつつ、酒蒸しとバター焼きを同時並行。
どちらもフライパンに異世界アサリを並べまして、酒蒸しにはカップ清酒をぶち込んで、醤油を一回しの塩一つまみ。
ねぎを散らして蓋をして。
バター焼きはバターを落とし、チューブにんにくを一絞り。
同じくねぎを散らして、こちらは適時フライパンを動かして炒めていきまする。
「酒の匂いとバターの匂いが最高に食欲をそそるのぅ」
「分かる。この匂いで酒がいけるよな」
「白米欲しい」
「この匂いだけでも袋に詰めて持って帰りたいですわ」
匂いめっちゃ褒めるじゃん。
ちなみに匂いだけでお腹がすくのは同意。
作りながら口の中めっちゃよだれ出てくる。
それだけ匂いが美味しそうすぎるんだよね。
「もうじき揚がるが?」
「こっちはいつでもいけますですよ」
匂いで空腹を刺激しつつ、ラベンドラさんがかき揚げを揚げ終わるタイミングでこちらも火を止めて。
「お待たせしました、異世界アサリ堪能御膳になります」
作っておいた味噌汁を温めて、ご飯と共によそえば完成。
かき揚げ、バター焼き、酒蒸しと、揚げ、焼き、蒸しの料理工程を押さえた由緒正しき御膳なり。
――なお、本来は煮るという工程の料理が、揚げる料理の枠に入るもよう。
げ、現代版という事で。
「ん~、炊き込みごはんからもいい匂いがしてますわ~」
「マジで早く食おうぜ。腹が減って仕方がねぇよ」
「ではでは皆さま、手を合わせてください」
並べてる間に待ちきれないのか、ソワソワしている『無頼』さんを尻目に、皆さん合唱。
「「いただきます!」」
それでは見せて貰おうか、料理された異世界アサリの美味しさとやらを。
*
「食材の調達と運搬は各商人たちに依頼済みです」
「あ、どもっす」
「応募してきた料理人と出す予定の料理のリスト、並びにどこに出店して大会に臨むかもまとめておきました」
「感謝の限りっす」
「……他にやる事は?」
自身の持つコネと知識。
それらをフル投入して大会運営の溜まっていた仕事を何とか片付けた元副大臣は、次なる仕事の指示をアエロスに仰ぐ。
なお、
(自分が持っているリソースを吐いてなお、仕事が残るとは……)
などと思っていたりするのだが、おおよそ普通の者ではあの仕事量を捌くことはかなわず、今も対応に追われていたであろうことを考えると、元副大臣も非常に優秀な部類ではある。
ちなみにソクサルムは普通の者には該当しない。当然だが。
彼が担当すると下手すると一人で仕事を終えてしまえるので、そこはエルフと他種族のリソース差でもあるが。
「じゃあ、『夢幻泡影』が送り付けて来やがったレシピの記事を、効率よく配布して欲しいっすが……」
「このタイミングで? レシピが万が一にも被った調理士が居れば、クレームとして挙がってきますよ?」
「あ、それはねぇっす。当たり前に何食ったらそんな発想できるんだって料理なんで」
と言って渡されたレシピに目を通した副大臣は。
「うわぁ……」
思わずドン引きした。
そのレシピは……。
「下茹でして香草で臭みを消して味を染み込ませるために数日煮込む? たかだかスノーボアの肉を食べるために?」
「しかも提供主が『夢幻泡影』っすからね。もっと美味い食材食べれるだろうって言うツッコミも入るっす」
「……でも、これは確かに……」
「?」
アエロスは知らない。
いや、知ってしまっている。
『夢幻泡影』が作る料理の全てが、極上に美味いという事を。
という事は、このレシピも美味いのだろうと簡単に予測が出来てしまう。
ただ、ミカラデの国民にとって、このレシピは、わざわざそこまで美味しくないスノーボアの肉に手間暇をかけた物、という奇怪なものとして写り。
その味を、美味しいのか? と疑いの目を向けてしまう。
そして、
(どこかで食べることが出来るならば、一度試してみたいものです)
スノーボアの肉という、圧倒的に手に入りやすい肉。
その肉が、どれほどまでに化けるのか。
その期待は、次第に食欲に変化していく。
料理を楽しむうえで欠かせない、食べる前に必要な感情。
それは、大きな期待であることを、ミカラデ国の国民たちは身を持って知っていくことになるのだった。




