たまには現代無双
「めっちゃふわふわ! めっちゃふわふわ!!」
「分かったっての。うるせぇ」
ふと思うんだけど、日本で売られてるロールケーキって、どれもふわふわじゃない?
スーパーとかに売ってる、五個とかに切られてるロールケーキですら普通に柔らかいもん。
コンビニスイーツとして売られてる奴は、それ以上にふわふわだし。
「~~~! フワフワの生地ながらしっとりとしていて、甘すぎないクリームがまた最高ですの!」
「丁寧に漉された芋が、これまた丁寧に生クリームに混ぜられている。芋由来の自然な甘さが、しっかり生地にもマッチしているな」
「甘さも感じるが香ばしさも感じるぞい。かなり香りがいい芋を使っとるんじゃろうな」
「角切りの芋もいい。食感があるってだけで、食ってる満足感が爆上がりする」
めっちゃ褒めるじゃん。
俺も食べよ。
「美味しい」
「こんな風に風情感じれる味わいなら、俺ももう少し甘いもン食えるンだけどな」
「無茶を言う。甘ければ甘いほどいい、なんて考えの連中が消えないと無理」
なんて会話を聞きつつ、ロールケーキをパクリ。
ん~~。
思った以上にしっとりしてるけど、生地とクリームが軽いおかげですんなり吞み込めるね。
芋餡が混ざってふんわり、そしてややしっとりとしたクリームと、元からしっとりの生地の組み合わせはもちろんいい。
クリームも、芋自体の甘さだけで、砂糖とか入って無いんじゃないかな? くらいの味わい。
鼻に抜ける芋の香りを楽しんで、滑らかに溶けていくクリームを味わい、しっとりした生地を噛み締めて。
クリームに混ぜられた角切りのお芋に出会う頃には、クリームと生地はほとんど喉の奥。
その残った芋がまた美味い。
芋特有の食感を噛めば、先程まで感じていた芋の香りが強く広がり。
飲み込んだ後の喪失感をいくらか緩和してくれるな。
「紅茶が合う……」
「コーヒーも合うぞい」
「だな」
とかなんとか言ってますけど?
知らんのか? さつまいもに合う飲み物は断トツで緑茶だぞ?
「……ふぅ」
「心が鎮まるな」
その表現があってるかは分かんないけど、落ち着くよね。
口の中に残る芋の香り。
そこに、ほろ苦くもスッキリした緑茶を流し込んで、飲み込む。
口の中に残ったクリームの油分や、芋の甘さを纏めて洗い流してくれる。
それでいて鼻に抜ける香りで、先程までの感覚をリセットしてくれるおかげで、次の一口も新たな気持ちで臨めるってもんよ。
「紅茶の香りと滋味が、クリームと合う」
「コーヒーの苦さがクリームの甘さを吹き飛ばしてくれるんじゃわい」
……他の飲み物も美味そうだ。
「……どうした? アメノサ。まじまじと生地を見て」
「何をどうしたらここまでふわふわになる?」
「粉と混ぜ方、寝かせ方、伸ばし方。あとは手際の良さだな」
「……本当に?」
「そう言えば、最初の頃はドッシリと固いケーキばかりでしたのに、最近ラベンドラが作るケーキはふわふわしたものですわね」
「最初に朝食として出て来たふわふわのケーキを食べた時は感動したものだ」
「研究の賜物だ」
ほへー。
ラベンドラさん、日本風のフワフワケーキ作れるようになってたんだ。
いけるものなのかな? 日本で作る場合、ベーキングパウダーとか入ってるだろうに。
異世界でもそれに該当する物を見つけた、って事なのかな?
「作ってと言われて作れる?」
「時間と材料があれば、な」
「今度うちで開く大会の開催式典。そこに手土産として持って来るのはどう?」
「お招きいただきありがとうございます、という事か?」
……大会?
異世界組が話す大会って聞くと、料理大会しか思い浮かばないんだけど。
やるのかな? テーマは何だろ?
「そう」
「……いきなり他国から特別審査員として出て行けば、余計な感情を与えてしまうか?」
「でも、私たちは呼ばれた賓客扱いなのではなくて?」
「表向きはそうでも、裏で貴族たちがどう思うか分からん、っちゅーことじゃろ」
「ま、恥ずかしながらその通りだわな」
「そこで手土産、か。ふむ、悪く無い」
「そうか? ぶっちゃけ、作らなくても構わないと思うが……」
「大会の盛り上がり次第だろうが、我々の腕を示しておくことで、商人たちと繋がれる可能性がある」
「……素材や食材、珍しいもんは手に入れたい所じゃ」
「流石に私達でも、商人から取り上げるのは無理」
「だから、向こうから接触させるための撒き餌になり得る」
……ロールケーキ美味しい。
……んで、話を聞いてた僕はふと思いました。
商人とのやり取り、異世界……この流れ、スパイスで大儲けするやつですよね?
「話を聞いてて思ったんですけど」
「どうした?」
「商人たちが、ラベンドラさん達に接触したくなるような情報を流しておけばいいんじゃないです?」
「そうしておけば確かにすぐだろうが、そう簡単に商人たちが欲しがる情報というのは無いものだぞ?」
「国で一番情報に敏感なのが商人。その鋭さは侮れない」
「こういったスパイスを持っていると噂を流しても?」
取り出したるは、スーパーでよく見る小瓶に入ったスパイスたち。
クミンシードにブラックペッパー、ナツメグにシナモン、コリアンダーもいかが?
「っ!!?」
ガタッ!! と、お手本のような慌て方で跳びあがり、俺が取り出したスパイスに寄ってくる異世界組。
……ピンチ! 唯一寄って来てないマジャリスさんが、他の人のロールケーキを狙っている!!
「……くれるのか?」
「構いませんよ? もちろん、アメノサさん達にも」
「神?」
人です。
「もちろん、今日すぐにとは言えませんけど、明日には用意出来ていると思いますし」
「その間に私達が持ち帰り、『夢幻泡影』からの手土産の一部だと国王に報告」
「絶対に漏らすバカが居るから、そこ経由で商人にも情報が行く、か」
やはりスパイスの威力ったら無いな。
そういや、ラベンドラさん達も来たばっかりの頃は驚いてたしなぁ。
「カケルのおかげで円滑に進みそうだ」
「そろそろ席に戻らないとマジャリスにバリアが突破されてしまいますわ」
……マジャリスさん、必死にケーキにフォークを刺そうとしてるのに、空中で阻まれてやんの。
読まれてるし。
リリウムさんが一枚上手でしたね。




