助けて欲しいっす
「ふぅ……」
「綺麗に食べましたね……」
鶏飯も、唐揚げも、煮付けも棒棒鶏も、マジできれいに無くなった。
ついでにラベンドラさんお手製のタルタルソースも無くなった。
ちなみに異世界人に、遠慮の塊とか呼ばれる料理の最後の一個の譲り合いなんて起きない。
というか、逆に取り合いになる。
「唐揚げを食うと、白米を掻っ込みたい衝動に駆られる」
「でも、今日の鶏茶漬けも美味しかったですわよ?」
「そう。だから悩ましかった……」
「途中から鶏飯の具材が無くなっちゃって白米食べてたでしょうに……」
自由に食べていいって言ったし、白米と鶏飯を交互によそっても良かったのに。
具材乗せてスープかけなきゃいいだけだし。
「だが、あの旨味が凝縮されたようなスープに浸かった米は美味いんだぞ!?」
「知ってますけど……」
「ならば食べねば不作法と言うもの……」
そうか?
残しさえしなきゃ不作法ではないと思うよ。
そもそも、作法とか気にしてたら楽しく食べられないでしょ。
最低限、茶碗は持つ、箸は立てない、膝も立てない、残さない……くらいしてくれりゃあ俺はいいと思うけどな。
舐り箸とか寄せ箸とかはまぁ……あまりやらないし。
寄せ箸するくらいなら魔法で寄せるしなぁ、この人ら。
「ちなみにカケル、レシピは書けたか?」
「これでいいです?」
ラベンドラさんからリクエストされた、ばあちゃん直伝鶏もつ煮レシピ。
……まさかばあちゃんのレシピが、異世界に旅立つなんてなぁ。
「うむ、助かる」
「よし」
レシピを渡したらマジャリスさんから合図が掛かる。
何の合図かなんて、もはや言わずもがなでしょ。
「お持ちしますね」
デザート。
もちろんね。
「今日のは芋餡のロールケーキになります」
すっかり芋や栗の時期ですわよ。
という訳で季節限定とか言う日本人特効語句に惹かれて買ってまいりましたロールケーキ。
生クリームではなく芋餡が巻かれており、普段のロールケーキ生地よりもふんわり、かつしっとりした仕上げになっているそう。
芋餡は蒸かして漉しただけでなく、角切りのサツマイモも入っているとの事で、芋の味と食感も感じられるという作り。
こういうのでいいんだよこういうので。
「紅茶かコーヒー、あと、緑茶も合うと思います」
「コーヒー、ブラックで」
「俺も同じく」
「私は紅茶」
「同じく紅茶をお願いしますわ」
「俺にも紅茶だ。砂糖、ミルク、ありありで」
「私は緑茶を貰おう」
で、飲み物を聞いたら飲兵衛組がブラックコーヒー、ラベンドラさんが緑茶。
残りが紅茶、と。
「用意しますね」
ケトルで湯を沸かし、コーヒーはインスタントで。
紅茶はパックからだけど、数分置いて蒸らした方が上手いのは知ってる。
緑茶もそう。
なのでコーヒー組よりは時間が掛かりますわね。
「お先にコーヒーです」
「うむ」
「香りがいいンだよなぁ」
インスタントですけどね。
この人らを喫茶店に連れて行ったらどうなるだろう。
……まだ落ち着きある二人だから、酒の存在さえ匂わなければ、割と馴染みそうではある。
ピザトーストとか齧ってて欲しいな。
「切り分けは私でいいのか?」
「はい。先に俺の分だけ切っちゃいますんで、残りを等分にして貰えれば」
「心得た」
と言う訳でロールケーキ切り分けタイム。
丸っと一本なんて食べられないからね。
俺は、コンビニで売ってるロールケーキ位の厚ささえあれば満足よ。
「残りはお願いします」
で、切り終わったロールケーキをラベンドラさんに渡し、俺は飲み物の方へ。
紅茶からパックを取り出し、マジャリスさんのにはミルクとお砂糖。
俺はラベンドラさんと仲良く緑茶をすすりますわっと。
*
「アエロスさん! 問い合わせが殺到しています!!」
「ぜんっぜん捌けてねぇっす! 時間稼ぎしといて欲しいっす!!」
「限界があります!!」
「手の空いてる役人片っ端から引っ張ってきて欲しいっす! この国の事右も左もわからないから自分じゃ判断出来ねぇっす!!」
「人員要請の為に一人抜けるとこの状況じゃパンクしますよ!!?」
アメノサ、『無頼』、国王の三人の誤算は、まだ自国民の食に対する認識が浅い、と思っていたこと。
『夢幻泡影』の誤算は、度重なる無茶ぶりのせいで、アエロスの仕事の腕が予想を上回っていたこと。
アエロスの誤算は、今まで自分が広報だけをしていればよかったのは、ソクサルムがその他の仕事を賄ってくれていたと今知った事。
かくして、料理大会の開催を告知した数時間後から、大会運営本部として設立された場所に、ひっきりなしに確認の連絡が相次いだ。
参加条件は? 場所は? 制限は? 作る料理は? 予算は? 参加費用は?
ある程度の事は、事前に流した情報に記載されているにも拘らず、わざわざ本部に連絡を寄越して確認してくるのだ。
挙句の果てには、本部に直接赴いて長々と自分の意見を表明する者まで現れる始末。
結果、修羅場といい所な状態になったのだが……。
「こちらに応援に、と言われて来たのですが?」
そんな場所に、一人の役員が送り込まれる。
その人物は、先日アメノサの後を追い、国王に左遷させられた元副大臣であり。
今では、料理大会運営本部の代表という肩書きになっていたりする。
もちろん、そうなったのはつい先ほどの事ではあるが。
「誰だか分かんねぇっすけどとりあえず救援は助かるっす! こちとらゴブリンの手も借りてぇ所っす!!」
そんな事を知らないアエロスは、元副大臣をさっさと対応へと回すのだが……。
まさかそちらの方で、副大臣時代からの手腕を披露することになるとは、この時まだ誰も予想していなかったのである。




