またしても何も知らない……
「……料理大会?」
「そう。大会と言っても堅苦しい奴じゃなく、各々が出店を開いて、それを食べた全員に評価して貰う」
「『あっちの国』じゃあ大反響なのは知ってンだろ?」
かつて、戦争国家であった『無頼』、アメノサが住む国、『ミカラデ』。
現在の国王になってからは、すっかりとなりを潜めたものの、国全体に血気盛んな者たちは多く。
体が闘争を求める彼らにとって、今の『ミカラデ』は少々退屈。
それでも、様々なダンジョンに遠征したり、自分らなりに退屈を紛らわそうとしてはいるようなのだが……。
それにも限界がある。
何より、国の中枢を担う大臣クラスにもこういった連中が居てしまうのだ。
アメノサの牽制、『無頼』からの闇討ち、そして、クニノサの権力の前に今のところ大きな動きを見せてはいないが、それでも水面下で何かしら動いているのだろうとは三人の共通認識。
という事で、それらの問題をどうしようか? という議題もとい話題の雑談をしていたところ、アメノサが提案したのはニルラス国で度々開催されている料理大会。
ラーメン……ラメーン大会の時から国賓として迎え入れられていたクニノサも、その熱気については知っていたが。
果たしてそれが、問題解決にどう結びつくのかというのは分からなかった。
「それで? 開いたとして、どういった成果が手に入る?」
「まず資金の流通。ニルラスがやってるように、他国からも参加する料理人を募る。もちろん、投票者兼お客も他国の出入りを自由にして確保」
「コソコソ活動してンのも、暇で仕事が無くて手が空くから考えちまうンだよ。だったら、忙しくしてそれどころじゃなくしちまおうって話」
「ふむ」
「私達もそうだったけど、まだまだこの国の住人は食事という楽しみについて理解が浅い」
「酒だけは多少深ぇが、それでもニルラスと比べりゃあまりにも稚拙だ」
「早い話、新たな娯楽の提供にも期待が出来る、と?」
「そう。もっと言えば、冒険者を引退した後の道として、料理人や酒造への就職という道が出来る」
「長生きしたって楽しみがねぇ。だったら、戦場で潔く散りてぇ、ってのが戦争を求める要因の一つでもあるしな」
話をしていくうちに、クニノサは理解を深めていく。
資金の循環、国の要職に居る面々への牽制、そして何より、市民への説得力。
ただ戦争をしません、これから平和になりましょう、では誰も納得しない。
戦争に代わる何かを与えてやらなければ、いつかは爆発する。
アメノサは、その代わりに食事が当てはまる、と言っているのだ。
「なるほど。分かった」
「どう?」
「それで? いきなり大会開催と言っても、こちらには何もノウハウがない。成功させられるかな?」
「無いならノウハウがあるやつを呼ぶ。『夢幻泡影』に紹介させればすぐ」
「手伝ってくれるかい? 他国の『Sランク』の冒険者パーティなんだろう?」
「無論あいつらもタダじゃ動かねぇよ。けど、この大会の最終審査員の権限でも与えときゃ、動いてくれるだろ」
「貴族たちが反対しそうだけれど……」
「ニルラスの料理大会の初回から審査員を務めてる食のマエストロがダメなら、多分誰でもダメだと思う」
「……ふむ? その肩書があれば黙らせられるか」
そうして『夢幻泡影』の知らないところで、勝手に参加するであろうという予想のもと、計画とも呼べぬ構想が三人の中で話し合われていく。
……なお、この事を『夢幻泡影』に連絡すると、驚くほどあっさりと了承された上に、
「一人絶対に必要な役割を持つ奴がいる。そいつを寄越す」
と、何やら追加で送り込まれてくるそうで。
特使として送られたその存在は、ミカラデにおいて厚遇対応されるのだが……。
「じ、自分は何をすればいいでありますか!?」
送られてきた特使は、初めての外国、初めての厚遇対応に目を白黒させて驚いており。
そんな憐れなカウダトゥス・アエロスに対し、アメノサは一言、
「宣伝」
と告げるのだった。
*
「楽しみですわね、ミカラデの大会」
「特に料理のテーマを決めずに開催する所はあまり共感は出来ないが」
「ええんじゃないか? そっちの方がお祭り感出るじゃろ」
「こっちの国でやる大会はスカウト目的、向こうでやる大会はこんな美味い料理出来たぜ! くらいのカジュアルさで差別化した方が上手くいく」
アメノサから話を受けた『夢幻泡影』は、即座にソクサルムに話をつけてアエロスを拉致。
ミカラデに送り込んだうえで、自分らもゆっくりと支度をしていた。
「そうだ、どうせなら向こうの特産を買って、カケルに調理して貰わないか?」
「いいですわね、それ」
「海鮮が有名だったか?」
「そうだな。特に貝類はどこよりも美味いと何度か密輸した事がある」
「おい」
「あら、バレなきゃ犯罪じゃないんですのよ?」
「お前の手引きか……」
おおよそ、ろくでもない事を話しながら。
……一方その頃、現代では――、
「やっばい寝過ごした! 遅刻遅刻!!」
どたどたと、翔宅を慌てて後にする早苗の姿があったのだが。
その姿を知るのは、呆れながらに見下ろしていた神様と、
「ンゴ……」
翔と早苗が姉弟であることが、未だに納得できないゴーレムだけである。




