忘れてないよね?
「ヒソヒソ」
「ヒソヒソ」
……ん?
ラベンドラさんとリリウムさんが何やら内緒話をしてるな?
内緒話をする時は耳の先端が内側に巻き込まれるような形になるんだな。
こう……ガードレールの袖ビームみたいに。
「どうかしました?」
「いや……ちょっと相談をだな……」
「折角しゃぶしゃぶしているんですし、私達も食材を、と思いまして」
ほうほう、殊勝な心掛けですこと。
……でも、それなら内緒話をする必要はなくない?
さては裏があるな?
「鍋に鍋をぶつける形になってしまうため、カケルが機嫌を損ねないかと……」
「俺、どんな人間だと思われてるんですか?」
心外な。
俺が作った料理をわざとマズく味変して食べたりしない限り、機嫌を損ねることは無いと思うよ?
まぁ、もしそんな事をしやがった日には翌日以降の食事は水道水になるけど。
固形物すら与えて貰えると思うな。
「というか、鍋って……?」
「食べてて恋しくなってな。それに、ワインを飲んでいるとな」
そう言って取り出されるは、何やら容器に入った水。
無色透明、まごう事無き水。
――見た目だけなら。
「もしかして、チーズ水です?」
「そうだ。しゃぶしゃぶした後にチーズフォンデュにする。どうだ?」
「面白いです! やりましょう!!」
まさかここでチーズ水が出てくるなんて。
なんのこっちゃな姉貴は興味津々で覗き込んできてるけど、『無頼』アメノサ組はそこまでな反応だな。
もしかしてチーズ水を知らないとか?
「それか……」
「まぁ、美味いだろうけどよ……」
ははーん?
さてはこのチーズ水を使ったチーズフォンデュの味を知らんな?
……材料にワインとか使うし、異世界じゃあやって無いだろうなぁ。
コーンスターチとかも無いだろうし……。
「チーズ水、白ワイン、牛乳、コーンスターチ……と」
「火は極弱火で固定しておきますわね」
ラベンドラさんの取り出した木のお鍋。
そこに材料を入れて火でコトコト。
火はリリウムさんが出した魔法の炎。
見た感じ、対象指定してそれ以外には影響がないみたい。
……聞いた事無いんだけど、火の近くに手を持って行っても熱くないし……。
多分合ってる。
「ほっほーい! 一番乗りじゃわい!!」
で、チーズフォンデュの準備をした俺らを差し置いて、真っ先にチーズにリボーンフィンチ肉を突っ込んだのはガブロさん。
教育がなってないよ教育が。
お宅のドワーフはどういった教育をされているのかしら?
「むほほほほほ!!」
いやほんと、どういう教育したらドワーフがムホ声をあげるようになるんです?
え? 産まれつき? あ、そう。
「チーズの油分がスパークリング日本酒と相性バッチしじゃわい!」
「すご! 見た目水なのにチーズみたいに伸びた!!」
「異世界の水でさ、チーズ味だしチーズの特徴があるのよ」
「何その不思議水! これぞ異世界って感じがしていいわね!!」
分かる。
こういう意味不明な性質を持った食材とか、心躍っちゃうよね。
一言で言うならば浪漫の塊。
「もも肉のしっとりした食感と溢れる肉汁に、チーズの塩味とコクが加わって……」
「華やかな香りと鋭い酸味のワインと極上のマリアージュですわぁ!!」
「一度出汁でしゃぶしゃぶしたおかげで、魚介のニュアンスも含まれる。そしてそれが、なおの事ワインに合う要因になっているな」
というか今更だけどさ。
この人ら、鶏しゃぶに白ワインを合わせてたんだよな。
いやまぁ、鶏肉も魚介類も白ワインに合うけどさ。
ガッツリ和食のしゃぶしゃぶに合わせるとは、この翔の目を持ってしても見抜けなかったわ。
「美味しぃ!」
「変なアクセントになってますわよ?」
姉貴、初めてのチーズ水。
まぁ不味いわけ無いんですけどね、初見さん。
というか、間違っても不味いとか言わせんし。
仏の顔は三度かもしれんが、翔の顔は一度である。
ただし相手が姉貴に限る。
「翔、レバーをしゃぶしゃぶしてチーズフォンデュにしてみ!」
「うん?」
なんか姉貴のテンションが妙に高い。
いやまぁ、やるけど。
「うま」
なにこれうま。
いやまぁとりなんですけど。
しゃぶしゃぶでシャキッとした歯ごたえのリボーンフィンチレバーは、チーズが絡むとより旨味が濃厚に。
あと、食感とチーズの相性が最高だわ。
米が進む進む。
「鉄分の感じが無くなるし、これならハツとかも美味しそう」
「美味いだろうね。試す試す」
姉貴の言う通り、香りは弱いとはいえやはり内蔵。
鉄分っぽいニュアンスはどうしても感じてた。
でも、チーズを纏わせることによってそこの部分が綺麗に包まれてさ。
マジでこのレバーのチーズフォンデュは、食べられない要素がゼロ。
鶏肉さえ食べれるなら、何の不満もなく食べられる。そんなレベル。
「ハツも美味しい」
「プリッとした食感がまたチーズと合うわぁ」
そうかぁ……。
リボーンフィンチの内臓系は、チーズ水と合わせるためにあったんだぁ……。
「ワインで伸ばすのは必須?」
「必須だ」
アメノサさんがチーズフォンデュの作り方を聞いてるな。
余程美味しかったと思える。
「カケルが入れていた白い粉、何?」
「ヤバい粉だ」
いや言い方ぁっ!!
確かにこっちの世界じゃなければコーンスターチなんて製法不明のヤバい粉認定されても不思議じゃないけど、それにしても言い方よ。
「なるほど。だからヤバい位美味しい……」
「納得しないで貰えます?」
一応教えるけどさ、コーンスターチの詳細を。
調べて出て来た作り方も、一応は教えるけどさ……。
「……無理では?」
「でしょうねぇ」
粉砕して分離させて取り出すなんて、異世界じゃ無理だと思うよ。うん。




