アメノサ「しっかり働いてます」
お出汁はもちろん、イセカイカワブタ節とイセカイハモから取った、透き通るような極上異世界出汁。
そこに、香りづけ目的で醤油を少量入れ、完成。
もう匂いが美味そう。
「お腹減って来るわね」
「リリウムさん達みたいな事言うじゃん」
あの人らはお腹すいたどころか匂いで飯食おうとしてるけどな。
「そういや、レバーが美味しかったんだよね」
「美味かったね」
サッとしゃぶしゃぶした結果、シャッキリとした歯ごたえになったレバーは色んな意味で新鮮だった。
……ただまぁ、シメのカレーの事を考えると、内臓系はなぁ……。
それこそ、ペースト状にするとかして混ぜたら大丈夫だろうけど……。
そんなことする必要なく、しゃぶしゃぶで美味いからなぁ。
「鶏しゃぶなら、やげん軟骨とかはどうするの?」
「しゃぶしゃぶに合わない部位は唐揚げとかにするよ」
「いいじゃん」
やっぱりさ。
軟骨は唐揚げにしてなんぼだと思うのよぼかぁ。
油とかも、ラベンドラさんに頼めば用意してくれるし。
家庭で揚げ物をすると、ネックになるのは油の処理だと思うんだけど、異世界人と仲良くなっておけばそんな面倒事も一発解消。
みんなも異世界人と仲良くしよう!
――なお、出会える確率。
理論上ゼロじゃなければいつかは会えるから。
ただし寿命は考えないものとする。
「割と野菜があるわね」
「しゃぶしゃぶと言えど鍋ぞ? 鍋は野菜を食べる料理じゃろがい」
すき焼きとか、どうしても肉がメインになる鍋が多いけどさ。
ネギや春菊、白菜だったりが美味いのもすき焼き。
鍋は野菜を食え、野菜を。
姉貴が野菜を食ってる分、俺は肉を食べておくから。
「そういえばなんだけどさ」
「??」
今鶏しゃぶの野菜や肉を切ってる途中だぞ?
何を言い出すつもりだ?
「日本酒とかは買って来たの? 私が買って来たの、もう無いわよ?」
「……あ」
お酒の事……すっかり忘れてた……。
*
「温かいアイスだと!? 何故それを先に言わん!!」
「いや、思いついたのさっきだったからよ……」
「そのアイディアがあれば! 散々詰め寄ってくる貴族たちが多少は緩和されたかもしれなかったんだぞ!!」
「多少なのかよ」
異世界。
現代日本の翔宅に向かうために、とある場所に集合する『夢幻泡影』と『無頼』、アメノサのいつもの面子は。
出会うなり、『無頼』が思いついた温ロックの原理で温かいアイスが作れないか、という提案に、甘党エルフは黙りこくり、調理士エルフは憤慨。
何故なら、この集合場所に向かうその寸前まで、あらゆる貴族たちにアイスのフレーバーのレシピをせがまれていたからで。
いかに翔が渡したフレーバーに種類が多くとも、貴族全員に一つずつのフレーバーを割り当てる数には到底足りず。
かと言って途中で打ち切れば、『夢幻泡影』は一部貴族以外は眼中にない、などという根も葉もない噂を立てられかねない。
……実際は一部貴族どころか全ての貴族が眼中に無いとしてもである。
と言う訳でラベンドラは、自分の中で温めていたフレーバーや、その場で即興で思いついたフレーバーを何とか絞り出し、全員にレシピを行き渡らせた……のだが。
温かいアイスという新種が出た事で、冷たいアイスと分ければ単純にフレーバー数は二倍。
もっと楽になったのに、とやり場のない怒りを爆発させたわけである。
「それで? ……アメノサの姿が見えないようだが?」
「あぁ。最近外出の度に尾行されてるらしくてな。最近生きの良い若い奴が重役に取り上げられたンだが、そいつじゃねぇかって話でな」
「始末するんか?」
「そうさせる狙いってのもあるかもしれねぇ。ま、お話してたら貧血で倒れる流れだろうさ」
『無頼』、アメノサの国は一枚岩ではない。
むしろ、周辺国の中でも特に内部がバチバチしている国である。
もっとも、武の『無頼』、知のアメノサと言われるくらいには国の双璧である二人を有する現国王があまりにも強すぎ、NO2を争う形になる事がほとんどなのだが。
「お待たせ」
「早かったな」
「見た目に惑わされ過ぎて舐められてた」
合流したアメノサのご機嫌は斜め。
どうやら、自分を尾行してきた相手に舐められていたのが原因らしい。
「適当にカマかけたら自分で姿を現して、獲物のナイフをこれ見よがしに見せつけて刃を舐める。国内の創作物にこんなキャラ出したら『バカすぎる』と言って叩かれるレベル」
「事実は創作よりアホなりってやつだな」
「という事で謎の貧血じゃなく、刃を舐めた時に舌を切っての出血による気絶に脚本を変更」
「物凄く間抜けですわね」
「やられた側は当然馬鹿にしてると受け取る。そうなって頭に血が上れば、もっと扱いやすくなる」
服を叩き、汚れなどを落とし。
翔宅に行く準備を整え、いざ転移。
その瞬間を、全く別の間者が目撃し、情報を持ち帰られるのだが。
他国のSランクパーティである『夢幻泡影』との秘密の密会。
これを謀反の証拠として国王にどや顔で付きつけた副大臣は――。
「我が国の料理の発展のためにと報告が上がっているが?」
という国王の一言で真顔に戻る。
さらに、
「この際だから明かしておくが、最近新聞に掲載されている新しいレシピを公開している料理コラム。あれはその二人が書いているものだぞ?」
と、既に実績まで出している事を報告され。
「時に、一体君はこのような場所で何をするつもりだったのかな?」
藪蛇だった、と副大臣が後悔するほどに、国王からは、この後厳しい追及をされる事となるのだが。
既に異世界に移動した『無頼』とアメノサ両名は、知る由もない事である。




