安心しちゃってた?
「続いては胸肉」
「さっとしゃぶしゃぶする程度でいいのよね?」
「うむ」
気を取り直して鶏しゃぶを再開。
胸肉……唐揚げにしたい部位一位の座を、もも肉と分かち合う部位。
「ん~! しっとり柔らかでパサつきはなし。肉汁は溢れて最高」
「味わいとしてはたんぱくの部類だけど、だからこそポン酢とかが合うね」
しゃぶしゃぶにしてもその美味しさは健在。
ていうかマジで美味いな。
「一応ぼんじりもしゃぶしゃぶする?」
「楽しそうだししてみる」
と言う訳で味見の最後はぼんじりでフィニッシュ。
脂が凄い……包丁の色が変わっちゃうぜ。
「しゃぶしゃぶした瞬間脂が溶けだすわね」
「これスープも美味いだろうなぁ」
入れた瞬間にしゃぶしゃぶのスープに広がるぼんじりの脂花火。
そのまま数秒しゃぶしゃぶして引き上げれば、付けたポン酢にも脂が広がる。
「あ、美味い」
「これいいかも」
で、そんな大量の脂は口に含んだ瞬間にこちらでも広がって。
口一杯に甘さと旨味を届けてくれる。
……ただ、他の部位と比べても多すぎる脂は、あまり多く食べられ無さそう。
ポン酢やもみじおろしと食べてるからある程度軽減されてはいるものの、どうしても重さはあるわね。
「ふぅ……」
「確かに一般的な鶏肉と食べた感じは一緒だったわね」
「うま味だったり、脂のノリはスーパーで売られてるそれらとは違ったけどね」
一通り食べた感想だけど、まず当たり前に美味い。
その上で、肉汁のコクや甘さだったり、上品さだったりが、普段食べてる鶏肉たちとは大きく差があるなって感じ。
今回は味見って事でしゃぶしゃぶで頂いたけど、焼き鳥から唐揚げ、お鍋とどんな料理でも活躍できるポテンシャルがある。
後は……骨の出汁を取りたかったなぁ。
「……余ったスープどうするの?」
「使うよ?」
「何に?」
「明日の朝ご飯」
と言う訳で、食器を片付け。
少量とは言えしゃぶしゃぶに使ったスープは……とろろ汁を作るために使いましょう。
イセカイカワブタ節とイセカイハモに加えて、リボーンフィンチの脂も溶けてるからね。
絶対に美味しいでしょ。
「と言う訳で出番だよ~山芋マンドラゴラちゃん」
さっきの勝手丼の時には使われなかったから、油断してるんとちゃう?
再生までに時間がかかるからね。今日は元々朝ご飯用のとろろ汁の方に使う予定だったという事にしておこう。
……冷蔵庫の中に赤福が入ってる時に確認して思い出したよね。
ただ、もう山芋を買って来てたから、異世界組にこっちの山芋をお出ししただけで……。
――年なのかなぁ、記憶力低下してるの。
最近真っ先に口を割って出てくる言葉が、
「アレ」
なのも年を感じる。
会社でアレ取って、みたいに、咄嗟に物の名前が出てこないのよ。
思考の瞬発力戻ってきてクレメンス。
「そうそう。大人しく切られてくれれば一回で済むからね」
「発言がサイコパスのソレなんだけど?」
「無限回使える意思のある食材だぞ? そらこんな反応にもなるよ」
ちなみに山芋マンドラゴラちゃん、姉貴の事を、
(もしや救世主なのでは?)
みたいな顔で目を輝かせて見てるけれど。
多分その期待は裏切られることになるぞ。
とりあえず切り落とした山芋マンドラゴラを解呪して、すりおろし……。
しゃぶしゃぶのスープと合わせながらとろろ汁に。
「刻み海苔、ワサビ、マグロ切り落とし。これらをとろろ汁と一緒にご飯にかけて明日の朝食べてね」
「うい」
「具材は全部冷蔵庫。ご飯は炊飯器を保温にしとくから、食べる分よそったら保温を切っといて」
「あい」
明日の朝ご飯の共有を姉貴と済ませ、とろろ汁を冷蔵庫に。
そしてこっそり確保していたイセカイマグロの中落ちを今の内にスライスして……。
一緒に冷蔵庫に入れて、朝ご飯準備完了!
朝からまぐろトロロ丼を食べられるなんて、本当に異世界組に出会えて良かった……。
*
「無理無理無理無理ぜってぇむりっす!!」
「やってみなければわからないだろう?」
「分かるっす。というか明白っす。ありありと結果が浮かぶっす!」
「最初の資金や経営が乗るまでの資金は我々で提供する。だから宣伝だけでいいんだぞ?」
「それでも無理っす! 飲み放題有りの店とか、ドワーフが三日で潰すっすよ!?」
居酒屋、という店について翔から聞いた『夢幻泡影』は、異世界に戻るとすぐにアエロスを捕まえて交渉を開始。
酒を楽しむ店として宣伝を、と言われ、また何か新しい事を始めるのか、と聞いていたアエロスは。
飲み放題の話を聞いた辺りで顔面蒼白になり。
先のように、全力で拒否を開始。
理由は単純、ドワーフ達から、
「宣伝された店に行ったのに飲み放題が無いどころか店が潰れていた」
というクレームを受けない為である。
そもそも、飲み放題というシステム自体、あまりお酒を飲めない日本人だからこそ成り立っているシステムであり。
海外でやれば一月で店が潰れるとは、飲み放題を知った外国人が口を揃えて言う言葉。
それを水よりも、空気よりも酒を飲むと言われるドワーフを相手にすればどうなるかはアエロスの言う通り明白であり。
「そもそも、酒の確保もどうするんすか」
店を開くための、酒の備蓄すら資金を大きく圧迫する。
そんな店、実現は不可能。
アエロスはそう判断した。
――だが、
「今すぐではない。だが、一つ、当たりをつけた酒があってな。それが軌道に乗れば実現は可能なはずだ」
何故だか『夢幻泡影』は自信満々であり。
この後、
「すべて形になったらまた話を聞くっす」
と切り上げたアエロスの後で、四人はとある場所を訪問する。
それは、稲について重点的に研究と品種改良を行っている農業ギルドであり……。
「すみませんが、資金を援助するから研究と栽培について拡大をお願いしたいのですけれど……」
札束で殴り、ほぼ『夢幻泡影』専用の、日本酒、並びに米焼酎用の稲の開発と栽培をする部門が新設。
醸造ギルド、蒸留ギルドも併設され、異世界で本格的に『SAKE』が製造されることになるのだった。




